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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

33 予兆篇

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33-22 女皇帝への報告

 9月27日朝。
 食事を済ませたあと、エルザは一旦実家へ戻り、ミーネと共に荷物を持って戻ってくることになっている。
 そして仁は、ランスと面談をしていた。

「……やっぱりな。ランスには、代々の『ちょう』の知識が詰まっているんだな」
 口調や態度を見ていて、なんとなく尊大な感じがするのはそのためだろう。
 一方で、元々のランスとしての性格付けもあるので、かなり複雑な性格が出来上がっていることになる。
「そういうことになる。名前こそ『ランス』だが、これはこの身体が警備自動人形(オートマタ)系だったからというだけだ。本来なら教師系になるはずだったのだが、もうストックがなかったのだ」
「ふうん」
「その教師系の身体を新しく作ることはできなかったのですか?」
 礼子が不思議そうに尋ねた。
「そうなのだ、礼子嬢。必要な素材が足りなくなってしまってな」
「その素材とは?」
「皮膚用の素材だ。地底蜘蛛(グランドスパイダー)の糸なのだが、ストックが切れてしまった。それを探しに外の世界へ行った製作主(クリエイター)だったが、素材は見つからず、その代わりに伴侶を見つけてきたと聞いている」
 伴侶を見つけたと同時に、トラブルの種も背負い込んだわけですね、とは言わなかった礼子である。
地底蜘蛛(グランドスパイダー)の養殖はしていなかったのですか?」
「していたのだが、400年の間に絶滅したらしい」
 その点では蓬莱島とは事情が異なっているようだ、と仁は思った。
「なるほど、地底蜘蛛樹脂(GSP)で皮膚を構成しているわけか」
地底蜘蛛樹脂(GSP)? なかなかいい呼び名だな。これからはそう呼ぶことにしよう」
 ランスはにやりと笑った。

 教師系というのは、次代の研究者を育てるための教導を行う自動人形(オートマタ)のことだそうで、需要が少ないため、ボディのストックも少なかったのだそうだ。
「そういえば探していた『ソード』と、外見は一緒でしたね」
「そうなのだよ、礼子嬢。この身体の制御にかけては、純粋な警備用の制御核(コントロールコア)を持つソードの方が上だ。それに加えてこちらは向こうをできるだけ傷付けたくなかったから苦戦せざるを得なかった」
「あれは苦戦というものではなかった気がしますが」
「うっ、それを言ってくれるな。自覚はしている」
「ええと、それで、盗まれた部品や、その部品を盗んだ奴についてはどうするんだ?」
「おおよそのことはわかっている。部品の1つが魔力を発するのでな、方角だけは掴んでいた。セルロア王国の北西部、フランツ王国との国境付近にあるようだ」
 場所を変えて方角を調べた結果から割り出したそうだ。
 ちゃんと測量の基礎を押さえているあたり、さすがである。
「ええと……礼子、地図はあったかな?」
「はい、ございます」
 以前世界地図を配ったこともあるので、この屋敷にも1部置いてあるようだ。
「こちらです」
「おお、礼子嬢、これは素晴らしいですな」
 ランスは地図を見て感心したように声を上げた。
「ええと、ここがスホント山で、北へこう行って……このあたりだな」
 ランスが指差したそこには、小さな湖があり、その北側に何か古い建物があった。
「ここは、砦跡なのだ」
「ふうん……」
(もしかしたら、その犯人は統一党(ユニファイラー)の残党なのかもしれない)
 砦跡を利用する組織として、直観的に仁はそう思った。
 かつての統一党(ユニファイラー)は、かつてエレナが眠っていた場所、カシムノーレ遺跡を拠点とした。

 エレナによる洗脳に寄らず、世界征服という目的に乗じていた者もかなりの数に上り、統一党(ユニファイラー)壊滅後、捕縛を逃れた者の中には野心を抱いたままの者がいた。
 統一党(ユニファイラー)改め懐古党(ノスタルギア)は、そういった世界平和を乱すような者たちを追っていたが、捕まっていない者もいるのだろう。
 今回、一連の事件の発端となったその男もそういった1人ではないかと思えるのだ。

 その話をランスに聞かせると、
「ふうむ、興味深い話だ。そんな事件があったのか」
 と、何やら考え込む様子。
「知識としてしか知らないが、そういった砦や基地はまだまだあるはずだ。それらの一部は利用すれば役に立つのではないかな」
「いずれ、この騒動が終わったら教えて貰いたいな」
 仁がそう言うと、ランスは仁と礼子の顔を交互に見て、大きく頷いたのである。

「それからもう一つ。これは、今回の事件とは関係ないんだが、聞いておいてもらいたい」
「ふむ、何かな?」
「このアルスに接近中の天体がある。『長周期惑星』と呼んでいるんだが……」
 仁は、『長周期惑星』についてランスに説明した。
「ふうむ……それが真実だとしたら由々しきことだ」
「お父さまは嘘など吐いておりません!」
「お、おう」
 懐疑的なランスの言葉に噛み付く礼子。ランスはたじたじである。
「い、いや、礼子嬢がそう言うなら真実なのだろう。……だが、我々に何ができるのだ?」
 そんなランスに仁が説明する。
「それを考えて欲しいとは思っている。例えば、地上に何らかの被害が出ると仮定して、地下に避難すれば?」
「なるほど。あの施設は、おおよそ50名なら長期間、1ヵ月程度の短期間限定なら300名程度は収容できる」
「いざという時は心強いな」
「だが、そのためには転移門(ワープゲート)が必要となる。どこに設置すればいいのか、早く決めて欲しい」
 仁は頷いた。
「そのために今日、陛下に謁見するんだ」
「なるほど、よろしく頼む」

*   *   *

 午前9時、仁は礼子の操縦で『コンロン3』を宮城(きゅうじょう)へ向けた。エドガーはエルザと共に実家へ行っているからだ。もちろんランスも乗っている。

「ようこそ、『崑崙君』」
 いつもどおり、宰相ユング・フォウルス・フォン・ケブスラーが仁を出迎えた。
 仁は、ひとまずランスには『コンロン3』の中にいてもらうことにし、礼子と連れ立って女皇帝の執務室へ向かった。
「いらっしゃい、ジン君」
 相変わらずフランクな女皇帝である。宰相が密かに溜め息を吐いた。
「今日は何かしら?」
「実は……」
 仁は、盗賊団の話から始め、エルザの実家で起きた事件、そしてスホント山地下の施設のことまで一気に説明した。
 話が進むにつれ女皇帝の顔から笑みが消え、真面目な顔に。
 そして、
「興味深い……というよりも、欲しい人材ね」
 とはっきりと言った。
 400年前の技術を、衰退させることなく伝えている一族、その最後の1人であるギムナス。
 国のことを考えれば、是非とも欲しい人材であろう。
「『魔法工学師マギクラフト・マイスター』ジン君と、そのギムナス殿。それにランスという自動人形(オートマタ)。是非我が国で面倒見たいわね」
「わかりました。それでは、ランスをここへ連れてきていいでしょうか」
 それに肯定の意を示そうとした女皇帝を遮り、宰相が口を挟んだ。
「陛下、その儀はしばらく。まずは私が会いましょう」
「それもそうね。では宰相に任せます。……ジン君、よろしくね」
「はい、わかりました」
 こうして、ランスはまず宰相と顔合わせを行う手筈が付けられた。

*   *   *

 それからの話はとんとん拍子に進み、結論からいうと、『ランス』はショウロ皇国に所属することになった。
 彼との折衝は、ショウロ皇国魔法技術相、デガウズ・フルト・フォン・マニシュラスが行うこととなり、仁はこの問題から解放されたのである。
 犯人捜しは、ランスが『自分でやる、助けはいらない』と言い張った。
 気になる点は残ったものの、仁とエルザは自分たちの問題に掛かれるようになった。

 だが、神ならぬ身の仁には、この出会いが将来どんな結果をもたらすことになるか、知る由もなかったのである。
 いつもお読みいただきありがとうございます。
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