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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

33 予兆篇

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33-18 拘り

「この『ランス』には魔素変換器(エーテルコンバーター)魔力炉(マナドライバー)が使われているぞ」
 他のゴーレムはそうではなく、魔力貯蔵庫(マナタンク)系の技術だったことをみても、ランスは別格の構造であることがわかる。
「だからといって強いわけじゃないんだよな……」
 自分から攻撃できなかったこともあるが、格下の攻撃で壊されてしまったことからもわかる。
 戦闘力・防御力は、必ずしも構造や素材と一致するものではないのだ。
 仁がエルザにそう言いながらランスを修理していると、
「……ジン兄が作ったものは、別」
 というエルザの合いの手が入り、その横では礼子が大きく頷いていた。
「さて、構造は内骨格、先代の形式に似ている。が、ちょっと無駄が多いな」
「ジン兄、無駄って?」
 エルザの質問に、仁は指差して説明した。
「エルザならわかるだろう。人間の骨格に必要以上に似せているんだ。肋骨とかな」
「あ、ほんと」
 そう言った構造は、肺で呼吸をする人間には有効だが、自動人形(オートマタ)には強度を下げてしまうというデメリットが生じる。
「でも」
「でも?」
「このランスを作った製作者は、もしかしたら限りなく『人間』に近い自動人形(オートマタ)を作ろうとしたのかもしれないな、と思ったんだ」
「なんとなく、わかる」
 エルザも、仁のセリフに頷いた。
「だけどさ、人間って、必ずしも完成された生命体じゃないんだよな」
「どういうこと?」
「ほら、直立歩行したから手が器用に使えるようになったのはいい。そのため脳が発達したのもいいけど、腰痛や胃下垂、それに難産というようなデメリットも背負い込んだからさ」
「……なるほど。納得」
 どれも、四足歩行の哺乳類にはほとんど見られない症状である。

 脊柱が人間と同じ個数だけあったり、骨盤も同じ形をしているのを確認し、仁とエルザは製作者の拘りを感じた。
 現代日本にいた頃の仁は、模型に関しては『モーターライズ派』であり、船でも自動車でも戦車でも、動かして遊ぶ方が好きであった。
 が、その一方で、いかに精密に実物を再現するか、に拘る人々がいるのも事実。
 このランスを作った製作者は、そういった考えの人物だったのだろう、と仁は想像したのである。
「性能は二の次、で、出来上がりに拘ったんだろうな」
 そう考えると、尚のことどんな人物だったのか気になってくる仁であった。
「筋肉も人間とできるだけ同じになるように配置されているな」
 そして内臓も、ゴーレム以上に人間に似せて作られていた。
「拘るな……俺としてはそのために性能が落ちるというのは見過ごせない」
 仁としては感心はするものの、共感は出来ないようだ。
「それでも出来がいいのは認める。今まで見たどのゴーレム・自動人形(オートマタ)よりも完成度は高い」
「もちろん、お父さまを除いてですよね?」
「それって、エレナ、よりも?」
 礼子とエルザがほぼ同時に質問してきた。
「ああ。自分で言うのも何だけどな。エレナよりも、出来はいいな」
 外見は同じ位の出来かもしれないが、成人男性型と少女型の違いもあって、パワーはエレナよりもあるだろう、と仁は分析した。
「筋肉組織に『疑似竜(シャムドラゴン)』を使っているからな」
 その根拠である。
疑似竜(シャムドラゴン)』がいるとしたら、クリューガー山脈の北あたりか。そこまで行けるということ自体、並々ならぬ技術力の証拠である。
「とにかく、修理を終わらせてしまおう」
 もぎ取られた腕や曲がった脚などもどんどん直していく仁。
「しかし、『非晶質(アモルファス)』って変な感触だな」
 初めて扱う材質の、工学魔法上の感触について感想を述べる仁。
「そうなの?」
「ああ。粘っているというか、どろどろしているというか。……ちょっとだけやってみるか?」
「ん」
 興味を持ったらしいエルザに、曲がった脚の修正をさせてみることにした。
「『変形(フォーミング)』……ああ、わかる」
「だろう?」
 変形させにくいというか、変形する際に独特の『感触』があるのだ。
「俺は使う気はないけどな」
 そう言いながら、仁は残りの部品を全て修理してしまった。
「これでよしと」
「ジン兄、体内の魔導機(マギマシン)も変わっていたけど、全部理解できたの?」
「ああ、できた」
「さすが、お父さまです!」
 手放しで褒める礼子と、驚きをもって見つめるエルザ。
「肺は魔素変換器(エーテルコンバーター)。心臓は魔力炉(マナドライバー)。肝臓は非常用の魔力貯蔵庫(マナタンク)
「ん、それはわかる」
「胃と腸は、擬似的な食事をしてみせることが可能になっている」
 礼子をはじめとする、蓬莱島の自動人形(オートマタ)にも付いている機能だ。
「脾臓は『攻撃魔法』用の魔導具。腎臓は『治癒魔法』用の魔導具だな」
 さすがに全部を人間と同じ機能に割り当てることはできなかったのだろうが、これでも大したものである。
「じゃあ、制御核(コントロールコア)は頭部?」
「そうさ。俺としては、損傷しやすいと思うんだがなあ」
 その上、四肢に命令を伝達する際、距離の差が出てしまうという問題を抱える。
 腕と脚で微妙に信号の到達時間が変わってくるのだ。
 もっとも、極限まで上げた速度域でようやく問題になるような、微妙な話であるが。
「でも、視覚情報をいち早く取り込んで処理するにはいい、かも」
 エルザが意見を述べた。
「ああ、それはある。メリットデメリットがあって当然だからな」
 が、極限状況で、『目で見えているのに身体が動かない』といった話を聞くにつれ、仁は『バランス』を重視したくなるのであった。
『中庸を保ちつつ、最高の物を作る』が仁のモットーだからだ。
 当然、例外もある。そんな例外を認めないほど、仁は狭量ではないし、融通が利かない石頭でもない。
「さてと、これでよし」
 ほぼ以前の通りに修理が完了した。
 自作の、あるいはごく親しい者のゴーレムや自動人形(オートマタ)であれば、この機会に改良という名の強化をしてしまう仁であるが、今回は自重したようだ。
 というよりも、『ランス』と自分との関係を図りかねていたためと言えばいいか。
「『起動(ルヴェトワ)』」
『ランス』は目を開けた。
「おお、本当に直っている。しかも、前より少し調子もいいようだ。礼子嬢、貴女の言ったとおりであった」
 仁は、ランスが『礼子』とネイティブな発音をしたことに密かに驚いていた。
 つまり、頭脳に当たる『制御核(コントロールコア)』の性能はかなりいいと言うことだからだ。
「仁殿、感謝する」
 ランスは仁に向かって頭を下げた。
「いや、構わない。それで……いや、礼子、お前から聞いてみてくれ」
「はい、お父さま。……ランスさん、貴方が作られた場所へ、わたくしたちを案内してくれますか?」
「それが貴女の望みなら」
 やはり、ランスはあっさりと承諾したではないか。
「では、夜が明けたらお願いします」
「承知した」
 時刻はまだ現地時間で午前2時頃。
 仁はエルザに仮眠するよう勧めた。
「でも、エドガーを診てあげないと」
「そっちは俺がやっておくから。寝ないと体に悪いぞ」
 そうまで言われては、エルザも寝ないわけには行かなくなった。
「それじゃあ、そうする」
 そしてエルザは『コンロン3』の中で仮眠をとったのである。
 仁はその間に、エドガーの整備をしてやったのであった。
 いつもお読みいただきありがとうございます。
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