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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

33 予兆篇

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33-17 非晶質

 仁は、少し素直になったらしい盗賊の尋問はジュミとフリッツに任せ、残るランスの尋問を行うことにした。
「……貴公は何者だ?」
 ランスは、仁のことを観察していたらしく、驚いたような声で尋ねた。
「あれ程簡単に分解してしまうとは……」
「お父さまは『魔法工学師マギクラフト・マイスター』です」
 その質問には、礼子が代わって答えた。
「『魔法工学師マギクラフト・マイスター』?」
「聞いたことはありませんか?」
「ないな。……うん? お前は……貴女も自動人形(オートマタ)か」
「はい。わたくしは、お父さまとお母さまに作っていただいた自動人形(オートマタ)です」
「『お父さま』『お母さま』か。そう呼べるのだな」
『ランス』は、少しだけ寂しそうな声音でそう言った。
「貴方のお父さまは?」
「私を作った人は……もういない」
「え?」
「そこの盗賊どもに……命を奪われた」
「そうだったのですか」
 意外なことに、礼子とならすらすらと会話が成立している。
 自動人形(オートマタ)同士、何か波長が合ったということなのだろうか、と仁は思った。それでそのまま見守ることにする。
「盗賊は何者?」
「1人は、製作者の配偶者の弟の息子だといっていた」
 血の繋がらない甥、ということになるのかな? と仁は考えた。
「完成前の『ソード』『グラー』、そしてあと1体、呼び名もまだ付いていないゴーレムを盗み出したのだ」
「そうだったのですか」
『ランス』は、フリッツたちの今までの苦労が何だったのか、とばかりに、礼子には素直に打ち明けている。
「貴方が生まれた場所はどこなのですか?」
「ここから北東方向にある湖の南にある高い山の地下だ」
「その湖の名前は?」
「知らぬ。単に湖、と呼んでいた」

 話を聞いていた仁は、ショウロ皇国の地図を思い浮かべてみた。
 確かに、フランツ王国との国境付近に湖がある。そこから流れ出る川は北へ向かって流れていたはずだ。
 その南には、ショウロ皇国・フランツ王国・セルロア王国の3国を分ける高い山が聳えていた。
「そこに引き籠もって研究を続けていた一派があっても……まあ不思議じゃないかもな」
 もし魔導大戦前からであったらなら、究極の引き籠もりかもな、と仁は頭の中でだけ考えた。

「そこには今、誰が?」
「私を作った人の息子殿が1人と、世話をするゴーレムが数体いるだけだ」
「そうですか……」

 これでかなり背景がはっきりしてきた。
 犯人捜しと、奪われたゴーレムの奪還、そう言い替えればシンプルになる。
 あとは『製作者』の技術レベルがちょっと気になる仁であった。

「その場所に案内してもらえますか?」
「……それが貴女の希望なら」
「では、いずれお願いします。その前に、その身体を直さなければなりませんね」
 だが、その礼子の言葉に、『ランス』は首を振った。
「ふむ。……この国の技術者にできるとは思えないが」
「それはどうでしょう。直すには、わたくしを作って下さったお父さまにお任せしなくてはなりませんが、それでいいですか?」
 反対、もしくは拒絶の言葉が出るかと思いきや、『ランス』の口から出た言葉は、
「貴女がそう言うのなら従おう」
 という意外なものであった。

*   *   *

 仁は、『ランス』とその部品を『コンロン3』の中に運び込んだ。
『コンロン3』には、そこら辺の工房以上の工作設備が整っているのだ。
 因みにエルザは、実家で休んでいろと言ったのだが言うことを聞かず、仁の横で作業を見守っている。
「一旦停止させるための魔鍵語(キーワード)は?」
「……」
 礼子をちらと見るランス。
「教えて下さい」
「……『止まれ(アレ)』だ」
「起動は?」
「『起動(ルヴェトワ)』になる」
「わかった。……『止まれ(アレ)』」
 その言葉に嘘偽りはなく、ランスは停止した。
「態度はいろいろと問題があるが、礼子には素直だな」
 と独り言を呟きながら、ランスの診断をしていく。
「おや……」
「?」
 仁が思わず声を出したのも無理はない。
 先程解析したゴーレムとは全くといっていいほど構造が異なっていたのである。
「同じ製作者なら共通した箇所があると思っていたんだがな……」
「ない」
「ああ。どういうことだろう」
 会話をしながらも、仁の手は休みなく動いており、その目は細部まで見通すような光を湛えていた。
「だが、材質には共通点があるな。少なくとも同じ場所で作られたことは間違いなさそうだ」
 仁は興味深そうな顔をしているエルザに、骨格を指し示した。
「見かけ上はわかりにくいだろうが、結晶構造を調べてみるといい」
「ん。……『分析(アナライズ)』……なに、これ」
 普通の金属ならば、結晶格子というものがある。
 金属元素の種類に応じて、規則正しく原子が並んだものが結晶構造だ。

「結晶していない?」
「正解。これは多分『非晶質(アモルファス)』だ」
「あもるふぁす?」
「そう。結晶構造を持たない金属だ。作るのが難しいはずだが、魔法で何とかしたんだろうな」
 仁は自分ならどうやって作るだろうかと自問する。
「やっぱり『超冷却(アブソリュートゼロ)』か……」
 アモルファス合金は、溶融状態の金属を一気に冷やすことで作られる。
 結晶する時間を与えないことで金属組織が『非晶質(アモルファス)』になるのだ。
 強靱性、耐食性、軟磁性。製造コストが掛かるため、現代地球では大型のものはほとんど作られてはいないが、魔法技術を使ってならば、こうした使用法があるわけだ。
「おそらく金属原子の間に自由魔力素(エーテル)が加えられて更に強度を増しているんだろうな」
 だが、このような技術は、これまで見たことはなかったし、聞いたこともない。
「製作者のルーツに興味があるな」
 仁はぼそっと呟いた。が、気を取り直す。
「まずは修理だ。……筋肉組織は生体素材だな」
 折られた腕をばらしながら仁が呟いた。
「これは……『疑似竜(シャムドラゴン)』系の素材のようだな」
 疑似竜(シャムドラゴン)はドラゴンとしては最下位に当たる種だが、戦闘力・防御力は高めだ。その革は厚く弾力があり、羽の皮膜は薄く強靱。牙は衝撃に強く耐久性がある。
 一方肉は硬く、まずい。
 他の竜が魔素暴発で激減したのに対し、やや増えていたので、素材になっているのも頷ける。
 再生された礼子の、第一回目の強化時に、この羽膜で皮膚を作ったのである。つまり、かなり強力な素材ということだ。
「興味深いな。参考になる」
 独り言を漏らしつつ、仁は修理を進めていった。
 いつもお読みいただきありがとうございます。

 20160718 修正
(誤)だ、その礼子の言葉に、『ランス』は首を振った。
(正)だが、その礼子の言葉に、『ランス』は首を振った。
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