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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

33 予兆篇

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33-13 助勢

「『ソード』、私がわかるか?」
「……」
 赤い目のゴーレムと青い目のゴーレムが格闘している。
 いや、赤い目のゴーレム……『ソード』が一方的に攻撃し、青い目のゴーレムはそれを受け流している状況だ。
「ソード!」
 いくら呼びかけても反応はなく、返ってくるのは攻撃ばかりであった。
「何かされたのか……このままではまずいかもしれん」
 青い目のゴーレムは『ソード』を傷付けたくないと思っているのに対し、『ソード』の方は相手を傷付けるのを何とも思っていないからだ。
「うっ」
 そしてついに、青い目のゴーレムの右腕が肘関節を極められ、逆に曲がってしまう。
 痛覚のないゴーレムであるから、痛みで動きが鈍ることはないが、戦闘力の差が更に開いてしまうこととなる。
「ソード、やめろ!」
 だが『ソード』は止まらない。
 青い目のゴーレムの表情は変わらないが、ダメージが蓄積し、明らかに動きが鈍ってきていた。

*   *   *

「『火の弾丸(ファイアバレット)』!」
「この野郎、火事になったらどうするんだ! 『落雷(サンダーボルト)』!」
 フリッツと盗賊は魔法の応酬を繰り返していた。
 どちらも体術に優れているため、決め手に欠けている。
「となれば、接近戦でケリを付ける!」
 業を煮やしたフリッツは、一足飛びに距離を詰めた。盗賊は慌てて迎撃する。
「く、『火の玉(ファイアボール)』!」
 だがフリッツはその火の玉を剣で受け止めた。
 そしてそのまま盗賊に向かって斬り付ける。
「うわっ!」
火の玉(ファイアボール)』は、触れたものを燃やす働きがある。つまり、剣であろうと盾であろうと、最初に触れたものに付着し、そのまま燃え続けるのだ。
 それを知っているフリッツは、剣を犠牲にし、火の玉(ファイアボール)を受け止めたのだった。
 もちろん、何度も使える手ではない。
 が、乾坤一擲、フリッツはこのチャンスに賭けた。

 炎を上げる剣に面くらい、大きく避けた盗賊はバランスを崩す。
 そこへフリッツの追撃が迫った。
「くっ!」
 盗賊はそれを左腕で受けた。そこには金属製の『籠手こて』が嵌められていたのである。
 フリッツは返す剣で追撃を図る……が、火の玉(ファイアボール)を纏ったままの剣は赤熱し、ついに曲がってしまった。
「ちっ!」 
 使いものにならなくなった剣を捨てたフリッツは、非常用に持っている腰の短剣を抜く。
 そのわずかな間に、盗賊は体勢を立て直し、ナイフを手にしていた。
 近接戦闘で『火の玉(ファイアボール)』は自分も被害を受ける可能性が高い。
落雷(サンダーボルト)』も同様だ。
 フリッツと盗賊は、リーチの短い短剣とナイフで切り結び始めた。

*   *   *

「このゴーレム、なかなかやりますね」
『グラー』と呼ばれたゴーレムと戦うのはエドガー。
 体格では大人と子供、いやそれ以上の差があるが、エドガーは一歩も譲らなかった。
 エルザ製作とはいえ、仁が指導し、蓬莱島のレア素材をふんだんに使って作られたのだ。
 並大抵のゴーレムに引けを取ることはない。
「エルザ様が見ておられるのです。無様な戦いはできません」
 とはいえ、相手のゴーレムもかなりの性能である。
 拳、蹴りなどの打撃戦では、体格差もあってエドガーは有利に立てずにいた。
「ならば、武器を使うまで」
巨大百足(ギガントピーダー)』の甲殻で作ったナイフを使い、拳による打撃と見せかけて突き出す。
 拳打と予想したため、次の反撃に繋げるためわずかに体を引くだけだった『グラー』の右目にナイフが突き立った。
 魔力を流した『巨大百足(ギガントピーダー)』の甲殻は、アダマンタイトよりわずかに弱い程度。眼球に使われている魔結晶(マギクリスタル)よりも硬い。
「!」
 が、『グラー』は意に介さないのか、さしたる反応を見せない。
 それでも、片眼になった分、距離感の把握が甘くなり、エドガーの攻撃が当たるようになった。

*   *   *

「……」
 エルザはただ、障壁(バリア)を展開し、三所みところの戦いを見守るだけ。
 手を貸せないことが残念で、少し苛立たしかった。
 仁に連絡し、相談しようかとも思ったが、時差を考えると、蓬莱島は午前4時頃、まだ夜は明けていない。
 それでエルザは、もう少し自分だけで対処しようと判断した。
 そこへ、騒動を聞きつけたモーリッツがやってくる。男の使用人2名も一緒だ。
「な、なんだ、これは!?」
「兄さま、これは……」
 状況を説明するエルザに、モーリッツは驚きを隠せない。
「状況はわかったが……何でお前はそんなに落ちついていられるんだ?」
「え?」
 仁と一緒にいて、いろいろな騒動を経験してきたエルザは、少々のことでは狼狽うろたえなくなっていたようだ。
「で、ど、どうしよう?」
 政治的なことに関しては有能なモーリッツであるが、こうした荒事あらごとに関してはまったくの素人。
「今は何もできない。フリッツ兄さまとエドガーをなんとか援護できたらいいのだけれど、難しい」
 2人ともかなりの速度で動き回っているので、部外者がおいそれと手出しできそうもないのだ。
「ううん、やはり護衛や警備員を雇い入れるべきだったか」
 悔しそうにモーリッツが言うが、それこそ後の祭り。
「どうにかできないものか……」
 モーリッツもエルザも、攻撃魔法は不得意である。また、使用人も腰が引けており、助勢は望めなかった。
 だが。
「発想の転換……」
 工学魔法を武器に変えた仁のことを思い出すエルザ。
「そう、少なくとも兄さまの手助けは、できるかも」
 エルザはフリッツと盗賊の戦いを注視した。
 そしてフリッツが背を向けたタイミングを見計らい、
「『明かり(ライト)』」
 目つぶしの意を込め、盗賊の顔目掛けて光を当てたのである。

「うわっ!」
 月明かりと、庭にともされた常夜灯、それに時折発する魔法による発光だけで戦っていたため、エルザの投げ掛けたまぶしい光は、完全に盗賊の不意を突いた。
 1秒ほどの照射後、光は消されたが、くらんだ目はそうすぐには戻らない。
「『光の玉(ライトボール)』」
 すかさずエルザは眩しすぎない明かりを灯す。
「エルザ、よくやった!」
 フリッツは、一時的に目がくらんだ盗賊を見事組み伏せ、無力化したのである。
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