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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

33 予兆篇

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33-07 里帰り

「さあ、どうぞ。兄上様がお待ちでございます」
「うん」
 今の、つまり新ランドル家は、エルザの兄モーリッツがエルザが興した準男爵家を引き継いだものだ。
 そのことを、使用人たちは皆知っているので、恭しい態度を崩さない。
「ミーネ様もどうぞ」
「え、あ、はい」
 そして、かつて同僚の侍女であったミーネが、実はエルザの実母だったことも知らされていた。
 つまりミーネは、一旦取り潰されたランドル家を再興したエルザの実母、ということになる。
「そんなにかしこまらないで下さい。今はエルザ様の母上様ではないですか」
 その事実を知らされて妬む者はいないようだった。
 が、かつての同僚にかしづかれることにミーネは慣れておらず、面食らうのであった。
「エドガー、だったかしら? こちらへどうぞ」
「はい、ありがとうございます」
 エルザが作った自動人形(オートマタ)、エドガーのことも事前に連絡が行っていたとみえ、自然な感じで受け入れられていた。
 これらは皆ラインハルトの手配りであった。

 エルザ、ミーネ、そしてエドガーは、家宰のセドリックに先導され、ランドル家の玄関をくぐった。
「まずは、大旦那様と大奥様がお待ちです」
「兄さまは?」
「はい、旦那様……モーリッツ様は、本日ロイザートから使者の方がお見えになるということで、その準備がまだ終わっていらっしゃらないのです」
「そう」
 何の使者なのかは気になったが、ここで問い質すのもおかしいと思い、エルザはまずセドリックの言うところの『大旦那様と大奥様』……つまり実父ゲオルグと継母マルレーヌに会うことにした。
「どうぞ」
 事前に連絡がしてあったとみえ、部屋のドアは既に開いており、入口には継母マルレーヌが立っていた。
「いらっしゃい、エルザ。ようこそ、ミーネさん」
「お母さま、ただいま帰りました」
「奥様、ご無沙汰しております」
 マルレーヌはミーネに微笑みかけると、
「ミーネさん、貴方はもう使用人じゃないんですから、もっと楽にして下さいな」
 と、優しい言葉を掛けた。ミーネはそれに対し、少しはにかんで答える。
「はい、ありがとうございます。……これは私の地ですので……」
 そんなやり取りをしている2人の『母』を横目に見ながら、エルザは部屋の中へと足を踏み入れた。
「お、か、えり、エル、ザ」
「父さま、ただいま帰りました」
 父ゲオルグは大分具合がよさそうである。ただ、言葉がたどたどしいのは治っていない。
(やはり脳に障害が……?)
 残念ながら、エルザの治癒魔法といえども万能ではない。
 駄目になった脳細胞までは再生できなかったのである。
 それでも、父ゲオルグの顔は穏やかであり、
「けっ、こん、せいかつ、は、どうだ、うまくやって、いる、か?」
 などと聞いてくるあたり、かなり良くなっていることが分かる。
「はい、毎日、幸せです」
「そう、か。それは、なにより、だ」
 それからしばらく、エルザは父ゲオルグと、とりとめのない言葉を交わした。
 2人の母は席を外したようで、柔らかな秋の日射しが窓から差し込む、穏やかな時間を過ごせたのであった。

「あなた、お食事の時間です」
 午前11時半頃、マルレーヌ自らが昼食の載ったワゴンを押してやって来た。
「お母さま」
「ゆっくり話せたようね。ミーネさんは食堂の方にいるから、行ってらっしゃい」
 ゲオルグには聞こえないような小声でエルザに告げるマルレーヌ。
「レー、ヌ」
「はい、あなた」
 マルレーヌを見て相好を崩すゲオルグ。かなり顔の麻痺も取れているようだ。
 エルザは、ここはマルレーヌに任せ、食堂へと向かったのである。

「母さま」
 食堂に顔を出したエルザは、そこで腰掛けているミーネを見つけた。
 てっきり、昼食の仕度を手伝っていると思ったのだが、と言うと、
「そう思っていたんですけど、手伝わせてくれないのよ」
「お客様ですから」
 厨房から料理長の声がした。
「ほら、ね」
 くすっ、とエルザは笑い、ミーネの隣に腰を掛ける。
「……どうだった?」
 どう、とは、ゲオルグのことであることをエルザはすぐに悟る。
「うん、大分いいみたい」
「そう」
 ミーネにとっては、あまりいい印象のないゲオルグであるから、この反応も致し方ない。
「エルザ、済まなかったな」
 そこへ掛けられた声。エルザの兄で、ランドル準男爵家当主のモーリッツだった。
「あ、兄さま。お仕事の方はもういいの?」
「ああ、一段落ついた。というか、昼食の時間だしな」
「それも、そう」
「モーリッツ様、ご無沙汰致しております」
「ああ、ミーネ。いや、ミーネさんも元気そうですね」
「恐れ入ります」
「堅いですね。もううちの侍女じゃないんだから、普通に話してくださいよ?」
「はい、ありがとうございます。大奥様にもそう言われたのですが、長年染み付いた習性で……」
 侍女だったミーネであるが、今はエルザの実母としてモーリッツも敬意を払う対象となったのだが、当のミーネはまだまだ慣れないようだ。
 そもそも、当主であるモーリッツと同じ食事の席に着くこと自体、初めてのことである。
「まあ、仕方ないですね。少しずつ慣れていってください」

 そこへ食事が運ばれてくる。
 白米のお粥と味噌仕立てのスープ、それに小さいステーキ、野菜サラダ。
「最近はこの『米』を昼に食べることにしているんだ」
 モーリッツが言う。
「なんとなくだが、口に合うんだよ。この『味噌』も」
 発音については仁がいろいろと指導したらしく、ショウロ皇国内で『ミショ』とか『ビンペイ』という声は聞かれなくなりつつある。
「うん、美味しいな」
 モーリッツはお粥を食べてはスープを口にするという順である。
(ちょっとお出汁が利いていない)
 と感じたエルザであるが、そこは口を噤んでおく。
 それでも、十分に『美味しい』と言えるレベルではある。蓬莱島が特別なだけだ。
 ぺちゃくちゃというようなお喋りはしないが、軽い会話を交わすのがランドル家の食卓である。
「兄さま、ロイザートからの使者が来る、って聞いたけど」
「ああ、そうなんだ。昼過ぎに着くらしい、と鳩便で連絡が入った」

 因みに『鳩便』は、基本的に領主もしくは領主直属の配下が取り纏めている。
 ここエキシの町では、領主であるランドル家が鳩舎きゅうしゃを持ち、首都ロイザートとのやりとりを請け負っているわけだ。

「何か、厄介ごと?」
 兄の顔色が優れないのを見て取ったエルザからの質問に、
「どうもそうらしい」
 と答えたモーリッツであった。
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