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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

33 予兆篇

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33-06 エネルギー転送実験

 転移門(ワープゲート)間を通したパイプの中を流体が流れるかどうか、の実験。
「駄目か」
『駄目ですね』
 結論から言えば失敗であった。
 どれほど圧力を掛けても、パイプ内の水は流れていかなかったのだ。
「というよりも、加えた力がどこかへ逃げている、と言った方がいいかもしれないな……」
 実際に『水流の刃(ウォータージェット)』を最弱で使った仁が、顎に手を当てながら呟いた。
『逃げている、ですか……』
「ああ。入口をくぐる際の固有速度は、出口ではゼロになる。つまり、入口と出口の間で吸収されている、もしくはどこかへ逃げているとしか思えない」
『そうなりますね』
「うーん……」
 なかなか難しい問題である。
「その理由を解明しない限り、エネルギー転送はできないというのか……」
御主人様(マイロード)、出口側からも吸い出してみたらどうでしょうか?』
 その時、老君が一つの案を提示してきた。
「お、それはいいかもしれない。早速やってみよう」
 思いついたら即実行、である。
 今回、パイプの入口側と出口側に『風魔法推進器(ウインドスラスター)』を付け、どうなるか実験だ。
「よし、いくぞ」
 仁は2基の魔導機(マギマシン)を起動した。
「おっ?」
 出口側の風魔法推進器(ウインドスラスター)から、ちゃんと風が出てきている。
「よし、煙を送ってみて、本当に送り込んだ空気が出てきているのか確認だ」
 煙の出る魔導具というものがすぐには思いつかなかったので、仁は枯葉を燃やすことにした。
「礼子、頼む」
「はい、お父さま」
 一斗缶くらいの金属容器の中に枯葉を詰め、火を付ける。すぐに煙が立ち上った。
「よし、これを吸い込ませてみると……」
 入口側の風魔法推進器(ウインドスラスター)から吸い込まれた煙は、ちゃんと出口側の風魔法推進器(ウインドスラスター)から排出されたではないか。
御主人様(マイロード)、成功ですね』
「うん。まずは目処が立った、というところかな」
 とはいえ、このままでは小型化はできそうもないので、半分成功、といったところである。
「まずは艦艇に装備すればかなり行動の自由が広がるな」
『そうですね。引き続き、研究は進めますか?』
「うん、頼む」

 こうして、大型艦艇へ『自由魔力素(エーテル)転送装置』が備え付けられることになった。
 実際に配備されるのは戦艦『穂高』『浅間』『妙高』、巡洋艦『梓』『桂』『湊』『関』『犀』『鴨』『宮』、そして特殊巡洋艦『吾妻』と『江戸』。
 これらのうち、『関』『鴨』『桂』『梓』『吾妻』『江戸』は、まだ蓬莱島に戻ってきていないので、まずはそれ以外の艦からということになる。
「改良と平行して魔力貯蔵器(マナボンベ)も量産し、それが済んだら南極調査開始だ」
『承りました。分身人形(ドッペル)を使用しますか?』
 仁は、自分の目で確かめに行けないことを残念に思っていたので、分身人形(ドッペル)を使うことに否やはなかった。
「そうだな、そうしてくれ」

 魔力貯蔵器(マナボンベ)の方も、職人(スミス)たちと手分けして行ったので、その日のうちに必要数+アルファが揃ったのである。
 この魔力貯蔵器(マナボンベ)は、リュックサックのように背中に背負い、脱落しないようウエストベルトで固定する。
 魔力素(マナ)はフレキシブルなミスリル銀のケーブルを通じて、口から取り込む。
 酸素ボンベと同じ使い方だ。
 仁は更に、このミスリル銀のケーブルの先端に魔結晶(マギクリスタル)でマウスピースを作ったのだが、その部分に魔導式(マギフォーミュラ)を仕込み、幾つかの魔法を放てるようにしておいた。
「水中で有効なものをメインにしたからな」
「はい、ご主人様」
 使い方をマーメイド1に説明していく仁。
「『水の奔流(ウォーターストローム)』、『超冷却(アブソリュートゼロ)』、『音響衝撃波(ソニックブーム)』、『落雷(サンダーボルト)』だ」
 いずれも指向性を持たせ、狭い範囲にのみ効果があるように調整してある。
魔力貯蔵器(マナボンベ)の方にも、余裕があったから小物用の収納場所を設けてある。必要に応じて『魔力爆弾(マナボム)』やナイフなんかを入れておくように」
「はい、わかりました」
 これで、仁としても、今できる手は全て打ったはずだ。

*   *   *

 翌日、9月23日。
「老君、それじゃあ『南極調査艦隊』、出発だ」
『はい、御主人様(マイロード)
 転送機を使い、今『蓬莱島新婚旅行艦隊』が調べ終わっている海域まで送り込む。
 そして引き続き、その先を調査させていくのである。
 入れ替わりに『蓬莱島新婚旅行艦隊』は帰島させ、改造を行う予定。

「さて、あとは報告待ちだな」
 やるべきことを済ませた仁はほっと一息つき、里帰りしている愛妻のことを思った。
「エルザは実家でのんびりしているかな」

*   *   *

 同日、ショウロ皇国エキシの町。
 エルザの実家がある町である。

 ラインハルトと共にショウロ皇国へと転移したエルザとミーネは、その晩はラインハルトの家『蔦の館(ランケンハオス)』に泊まり、翌日、ラインハルトの馬車を借りて実家へと向かった。
 御者はエドガーである。
「時差ってややこしいわ。説明してもらったけど、まだよくわからないのよ。エルザは理解できているの?」
「うん」
「そう。やっぱりエルザは凄いわね」
 蓬莱島とショウロ皇国の時差は5時間半くらいある。
 蓬莱島で夜の7時でも、こちらはまだ午後1時半。慣れないと面食らうのである。
「それより、ライ兄が馬車を改造していたから助かった」
「そうね。あまり揺れないわね」
 仁の馬車に乗り慣れてしまうと、普通の馬車は揺れがひどくて乗れたものではない。
 とはいえ、互助会(ギルド)の方に『ゴーレムアームサスペンション』の仕様は教えてあるので、徐々にではあるが浸透していくことであろう。

「もうすぐ着くわ」
「ん」
 見慣れた、懐かしい風景。エルザは思わず窓に身を寄せ、眺めに見入るのだった。
 馬車はランドル邸前で停止。
「エルザ様、ミーネ様、到着いたしました」
「エドガー、ご苦労様」
 エルザは一言エドガーを労う。
 まずはミーネが、次いでエルザが馬車から降りた。
「お帰りなさいませ、エルザ様」
 顔馴染みの家宰が一行を出迎えた。
「ただいま、セドリック」
 エルザは目を潤ませながら、実家の門をくぐったのである。
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