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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

32 新婚旅行篇

1212/1564

32-30 隠遁所

 いよいよ仁たちはコイヘル村へ向かうことにした。
「いやあ、さすが『魔法工学師マギクラフト・マイスター』ですな!」
「空を飛ぶ乗り物! かの『賢者(マグス)』様が仰っておられたとおりだ!」

『コンロン3』を見に、町中の人が集まって来たのではないかと思う程の人だかり。
 そんな中で、仁は町長ファドンに挨拶をしていた。
「お世話になりました。またそのうち」
「いつでも歓迎致します、二堂様」
 町の人たちも、興奮はしているが、殺到してくることはなく、節度を持って見送ってくれた。
 このあたりは人々の気風もあるのかもしれない。

*   *   *

「ほら、あそこがコイヘル村だ」
 ものの数分で着いてしまう。
 大騒ぎにならないよう、村から見えない距離に着陸することにした。
 幸い、小さな起伏があってその陰に降下することができた。
「見られていないかな?」
「大丈夫です。『不可視化(インビジブル)』を使っていましたから」
 エドガーの説明に、全員納得する。
「よし、行こう」
 今回もエドガーを留守番とし、仁たちは『コンロン3』を降りた。
 荷物は『染料』と交換するための物資だ。お金でないのはグースの進言による。

 歩いて村に向かうと、畑仕事をしていた村人が声を掛けてきた。
旅人たびびとさんかね?」
「ああ、そうばい。……アネットさんち人、知りまっしぇんか?」
 会話はグースに任せることになっている。
「アネット? ああ、長老のお孫さんやね。今日は家にいるはずたい」
「その家はどこやろうか?」
「村外れ……いや、村から少し離れた林の脇ばい。ここをずーっと行って、あの大きな木を左に行けば見えてくるとよ」
「ありがとう」
 村の中かと思ったら、村の外に住んでいるようだ。隠遁生活をしているらしい。
 仁たちが教わったとおりに歩いて行くと、林の脇に中くらいの家が見えてきた。
「ちょっと他とは違う様式だな」
 どちらかというと日本家屋に近い部分もある。
 近付いていくと、家の前にある小さな畑を耕していた中年男性が顔を上げ、仁たちを見、
「おや、珍しい。お客さんかい」
 訛りのない言葉で言った。
「はい。ええと、アネットさんという方はいらっしゃいますか? ナデのファドンさんからの紹介状を持って来たんですけど」
「おお、ファドンさんか。達者だったかい?」
「ええ、歓迎されました」
「そうかい。それは重畳。私はアネットの亭主でガウェルという」
「グースと言います。こちらは友人のサキ。それに仁とその奥さんでエルザ」
「よろしく」
「ああ、よく来てくれた。それじゃあ家へどうぞ」
「お仕事のお邪魔して済みません」
「なんの、ただ冬に向けて畑を打ち直していただけだ。気にしないでくれ」
 そういいながらガウェルは家の扉を開け、一行を招き入れた。
 ここも玄関で靴を脱ぐ様式だった。やはり『賢者(マグス)』の影響だろう。

「おお、ガウェル、お客人か」
「ああ、祖父じい様、ファドンさんの知り合いで、アネットへの紹介状を持っているそうです」
「え、私への?」
 奥から出てきたのは白髪白髯はくはつはくぜんの老人。そしてその後ろから、小柄な中年女性が顔を出した。この女性がアネットだろう。
「アネットさん、お久しぶりです」
「ええと……ああそう、グースだったわね。ナデの町で2、3回顔を見た覚えがあるわ」
「これアネット、立ち話しとらんで、部屋へ案内せんかい」
「ああ、そうね。皆さん、こちらへどうぞ」

 案内されたのはいかにも応接間、といった佇まいの部屋であった。
 そこは板の間で、低めのソファとテーブルが置いてある。
 エルザ、仁、グース、サキの順で座る。礼子は仁の真後ろに立った。
 相手をしてくれるのはアネットである。
「そっちのお嬢ちゃんもお座りなさいな」
 礼子を自動人形(オートマタ)と知らないアネットが声を掛けるが、礼子は応じない。
「いえ、わたくしは……」
 おそらくその後は、『従者ですのでここで結構です』と続けようとしたのであろうが、面倒事を避けようと仁が礼子を呼ぶ。
「礼子、こっちへおいで」
「はい、お父さま」
 仁の言葉には素直に従う礼子。
「ここにお座り」
 仁は自分の膝を指した。
「え、でも……」
「いいから」
「……はい」
 それを見届けたグースは、預かっていた紹介状を取り出し、アネットに手渡した。
「間違いなくファドンさんの字ね。……ふうん、『虹色芋虫(ラヨチワーム)』の染め粉が欲しいの?」
「はい、そうなんです」
「ということは、魔法が使えるのね? あの染め粉は魔力を加えないと色が変わらないから」
「ええ。仁とエルザさんは魔導士であり、『魔法職人(マギスミス)』です」
 フソーやミツホで一般的な『魔法職人(マギスミス)』と紹介したグースであった。
「染め粉のお代としては、こういうものを考えています」
 仁は、用意してきた荷物の中から、幾つかの道具・魔道具を取り出した。
「これは『ライター』です。このボタンを押すと火が着きます」
 ビーナと作った『魔石(マギストーン)』式ではなく『魔結晶(マギクリスタル)』をエネルギー源としているので、この程度の火をおこすだけなら10年は保つ。
「それから、こちらは『浄水石』です。濁った水の中に入れておくと、数秒できれいな水になります」
 公衆衛生を考えつつ開発した魔導具で、『浄化(クリーンアップ)』『殺菌(ステリリゼイション)』の魔法効果が付与されている。
 本来は排水溝や汚水溜め、浸透式便槽などに投入して使うものだ。
「それに……」
「ちょ、ちょっと待って。そんなに『虹色芋虫(ラヨチワーム)』の染め粉の在庫はないわ」
「は?」
 どうやら、仁が持ってきた魔導具は、高い評価がもらえたようだった。

「それじゃあ、『虹色芋虫(ラヨチワーム)』の染め粉500グラムと、このライター、浄水石の交換でいいのですか?」
「ええ、それで十分。ありがたいわ」
 こうした隠遁生活をしているなら、確かにライターと浄水石は役に立つだろう。
「それにしても、ライターはともかく、浄水石の効果ですが、よく信じてくれましたね」
 言わずもがなのことを言う仁に、アネットはにっこりと微笑んだ。
「ファドンさんが貴方のことを『賢者(マグス)』の再来、と言っていたからね」
 どうやら紹介状に仁のことが詳しく書かれていたようだ。
「できたら、『賢者(マグス)』様のことを話して欲しいのだけれど」
「ええ、いいですよ」
 ミツホやフソーで『賢者(マグス)』が慕われていることはよく知っているので、求めるものを手に入れた仁は、そのお礼も兼ねて、話して聞かせよう、と思ったのである。
 いつもお読みいただきありがとうございます。

 20160628 修正
(誤)礼子は仁の間後ろに立った。
(正)礼子は仁の真後ろに立った。
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