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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

32 新婚旅行篇

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32-27 ナデ再訪

「……えへん」
 わざとらしいサキの咳払いに、仁とエルザは抱き合っていた腕をほどいた。
「えーと、仲のいいのも結構だけどね」
「そういうのは2人きりの時にやってもらいたいな」
 サキとグースから生温かい眼差しが注がれる。
「えーと、そういうわけで」
「何がそういうわけかわからんが、誤魔化そうとしていることだけはわかる」
「おい」
 仁が突っ込むが、グースは笑みを浮かべたまま。
 その顔つきで、仁はグースが自分をからかっているだけだと悟った。

「なあ、仁」
 そのグースは、今度は真面目な顔つきで仁に向かう。
「仁が何もかも背負う必要はないさ。俺は『ファミリー』に入ったのは後の方だけど、『家族』って助け、支え合うものだろう?」
「グース……」
 サキも微笑みながら仁に告げる。
「そうそうジン、ボクたちがいるさ。頼りない家族だろうけどね」
「サキ……」
 そしてエルザが。
「ジン兄は抱え込みすぎ。もっと私たちにも頼って、欲しい」
 最後に礼子が。
「お父さまは定期的に落ち込みますね。でもわたくしも老君も、蓬莱島の皆もいます。みんな、お父さまの子供たちです。全員がお父さまのお手伝いをします」
 皆に言われた仁は、黙って俯いていたが、
「……ありがとうな」
 やがて顔を上げ、礼を口にした。
「グース、サキ、エルザ、礼子」
 その顔は晴れ晴れとしていた。
「俺は、この世界では異邦人……いや、異分子なんじゃないかという思いが捨てきれないんだ」
「ジン兄、それ……」
 何か言いかけたエルザを、仁は遮って、
「でも、最近ようやく、馴染めた気もする。みんなのお陰だと思う。もう一度、ありがとうと言わせてもらうよ」
 そして仁は立ち上がり、
「さあ! 改めて、『虹色芋虫(ラヨチワーム)』を探しに行こう!」
 と宣言した。
「まあ、『虹色芋虫(ラヨチワーム)』でなくその染料だけどな」
 グースが訂正する。
「『虹色芋虫(ラヨチワーム)』は、今の季節にはもう、冬越しのためサナギになっているだろうからな」
「そうか……あれ? そうなると、サナギを採集してくれば蓬莱島でも養殖できるのか?」
「えーと……多分できるな。食草はシトラン系の植物なら大抵は食べるはずだ」
「ふうん」
 それなら、蓬莱島にはシトランの木が沢山あるので養殖は楽そうだ、と仁は思った。
 そんな時。
「『ナデ』の町上空です」
 エドガーから声が掛かった。
「よし、郊外に着陸だ」
 その時。
「うわあああああ!」
 グースが悲鳴を上げた。
「ど、どうしたんだい!?」
「今まで気が付かなかったが空を飛んでいた……」
「おい」
 真っ暗だったことと、『暴食バッタ』退治のため緊張していたこともあって、今までは平気だったのが、気が抜け、ふと外を見た途端にここが空の上であることを思い出したらしい。
「やれやれ、もう着陸するから安心してくれ」

 ナデの町から1キロほど離れた平地に『コンロン3』は着陸した。
「おお! グースやなかか!」
「元気そうだな! ……少し顔色が悪いようだな?」
「お、お久しぶり……」
『コンロン3』が珍しいので、多くの住民が遠巻きに見つめていたのだ。
 そんな中に、ナデの町長ファドンもいた。
「おお、グース! それに二堂様。これは貴方がお作りに?」
「はい。町長さん、お久しぶりです」
「とりあえず、家へいらっしゃいませんか?」
「ありがとうございます」
 住民達に取り囲まれかけていた仁たちは、町長の家へと向かうことにした。
「しかし、『馬なし馬車』の次は『空飛ぶ乗り物』ですか。さすが『魔法工学師マギクラフト・マイスター』ですなあ」
 歩きながらファドンはしきりに感心していた。
 仁たちの周り、5メートルくらい空けて住民たちが付かず離れずぞろぞろと付いてきている。
 以前『馬なし馬車』で訪れたことを知っている者も多数いるようだが、遠慮して話しかけては来ないので助かっている。
 そのあたり、フソーの気質は他の国とは違うのかもしれない、と仁は思っていた。

*   *   *

「ほう、『虹色芋虫(ラヨチワーム)』を探しに」
「ええ、正確にはその染料を、ですが」
 仁たち一行は町長ファドン宅で歓迎されていた。
「ふむ……確か、コイヘルの村の特産品だったと思います」
 コイヘルの村というのは、ナデの更に北、オグニ湿原の南西にある村だそうだ。
「知り合いがいますから、紹介状を書きましょう」
「ありがとうございます」
 これでかなり目的に近付いた、と仁が思ったその時。
 とたとたと足音がしたかと思うと、いきなりグースに抱きついた小さな影があった。
「あ、ナリー」
 ファドンの娘、ナリーである。彼女はグースにひどく懐いていたのだ。
「これこれナリー、今大事なお話をしているんだから、あっちに行ってなさい」
 父ファドンがたしなめるが、ナリーはいやいやをするように首を横に振る。
「はは、じゃあここに座るか?」
 グースはそんなナリーを両膝の間に座らせた。
「グース、いいのか?」
「別に聞かれて困る話もしませんし。なあ、仁?」
「そうですよ。ナリーちゃんもグースと久しぶりに会ったんだから」
 仁のセリフにこくこくと頷くナリー。無口なのは変わっていないようだ。

「ええと、何の話だっけ?」
 仕切り直したものの、面食らって話の流れを珍しくも忘れたグース。
「コイヘルの村にいる知り合いに紹介状を書くという話だよ」
「ああ、そうだった」
 頭を掻くグースを、ナリーはにこにこして見上げている。
 そんな2人を見て、サキはなんとなくもやもやしていた。

「コイヘルの村にいる知り合いというのは妻の従妹でな」
「ああ、聞いたことがあります。アネットさん、でしたっけ」
 グースも話には聞いていたようだ。
「そうだ。コイヘル村の長老のお孫さんだな」
「そうでしたっけね」
「では、さっそく書くとするか」
 ファドンが立ち上がって書斎へと向かおうとしたところに、その妻、フレーデが顔を見せた。
「ただいま帰りました。……あら、グースやなかか。久しぶりやね。それに二堂様、いらっしゃいませ」
「ご無沙汰してます。お元気そうで何より。あ、そういえば」
 仁は、手土産を持って来たのをすっかり失念していた。
 礼子に運んでもらった手荷物からそれを取り出す。
「また石鹸ですが」
 前回、石鹸を上げたらとても喜んでくれたので、今回も石鹸。
 ただし今回は蓬莱島産のものである。
「おお、これはありがたい!」
「うれしかー。二堂様、ありがとうございます」
 喜んでもらえてほっとした仁であった。
 いつもお読みいただきありがとうございます。
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