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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

32 新婚旅行篇

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32-05 9月10日旅行二日目

 2日目の朝も晴れていた。が、昨日にくらべ、いくらか空の青さが白っぽくなったようにも見える。
 大気も、やや湿度が増したような感じがした。
 赤道に近付いたからであろうか。

 午前中は何ごともなく過ぎ、お昼前になってラインハルトが顔を見せた。
「やあ、ジン」
「ようこそ、ラインハルト」
「ちょっと時間ができたので様子を見に来たよ」
 そう言ってラインハルトは『江戸』の舳先に立って大海原を見つめた。
「ううん、これは凄い眺めだ! 右を向いても左を見ても水平線。正に海のただ中にいるというわけか」
 天体観測による航法が確立されていないため、この世界の船は基本的に陸が見えない程沖に出ることはない。このような眺めを見ることができるのは仁ならでは、だ。
「いいなあ。ずっと乗っていたいが、仕事があるんでね」
 1時間ほど『江戸』の乗り心地を楽しんだラインハルトは、名残惜しそうに帰っていったのであった。

*   *   *

「そろそろ進路を西に変える時だな」
 南下、正確には南西に向けて進んでいた『新婚旅行艦隊』は、いつしかポトロックより南、赤道近くまで来ていた。
 ここから西に進路をとれば、まだ名前のない群島に着く。
「くふ、いよいよ前人未踏の島を目指すんだね」
 目を輝かせながらサキが言った。
「ああ、楽しみだ! 仁と一緒だと本当に退屈しないなあ!」
 サキの隣に立つグースもまた、楽しそうに言う。
 そしてそれは、乗っているメンバー全員の気持ちでもあった。

「だけどジン兄、自由魔力素(エーテル)濃度は大丈夫、なの?」
 少しだけ心配そうにエルザが言う。
「ああ、今のところ大丈夫だ」
 自由魔力素(エーテル)分布を記録しながら航行しているわけだが、その減少率は今のところ緩やかである。
「もしかすると、急激に減少するラインがどこかにあるのかもしれないな」
「……大丈夫なの?」
 さらに心配そうになったエルザを安心させるべく、仁は説明する。
「周囲を囲んでいる4隻の巡洋艦は、『特殊巡洋艦』の『吾妻』と『江戸』よりも自由魔力素(エーテル)減少に弱いから、あれらが航行できている間は心配ないよ」
 そうなっても、巡洋艦は非常用の魔結晶(マギクリスタル)で離脱できる、とも付け加える仁。
 1隻たりとも犠牲にするつもりはないのだ。
「わかった。安心した」

「ところで、多分夕方からトアさん夫妻が参加するはずだ」
 甲板で海を見ながら、仁はエルザに向かって言った。
 2人は……というよりも、トアが、先日訪問したミツホについて書いた報告書を女皇帝が見、直々にご下問を受けていたために1日目からの参加ができなかったのである。
「向こうを昼過ぎに出ると言ってたからな」
 今現在『新婚旅行艦隊』がいる海域とショウロ皇国首都ロイザートとの時差は、2時間半くらい。
 ロイザートが午後1時なら、こちらは午後3時半といったところである。
「また賑やかになる。楽しみ」
「だな。ミツホで何を見てきたのか、じっくり聞いてみたくもあるな」
「同感」

「おにーちゃーん!」
 その時、ハンナの声が聞こえた。
 仁が振り向くと、艦橋からハンナが手を振っている。
「お茶の時間、だって!」
「わかった。今行くよ」
 手を振り返し、仁は答えた。
「……この旅行、退屈は、しないな」
「ん」
 歩き出した仁の腕を取りながら、エルザは頷いたのである。

「明日には島影が見えてくると思う」
 お茶を飲みながら、仁は説明をはじめた。
 場所は艦橋。
 なぜそんな場所でお茶を飲んでいるのかと言えば見晴らしがいいからに他ならない。
 水平線がある世界では、できるだけ遠くを見はるかすためには、高いほど有利になるので、艦橋は高所に設けられているのである。
 蓬莱島艦の場合は、遠距離の索敵は航空部隊や衛星が受け持つので、それほど高さに拘ってはいないが、それでも15メートルほどの高さに設けられた艦橋からの眺めはまた格別である。
 もちろん、『特殊巡洋艦』である『吾妻』と『江戸』の艦橋だからこそ、こうしたお茶会を開くことができるよう、内装が整えられているのだ。
「『ウォッチャー』からの観測だと、あと300キロくらいで最初の島に着くらしい」
 巡航速度で6時間だが、夜間は危険を避けるため、その半分の速度に落とす。
「うまく調整して、明日の朝に島影が見えるようにしようと思う」
「くふ、楽しみで眠れそうもないよ!」
 仁からの説明を聞いて、サキが声を上げた。
「だな。明日が楽しみだよ」
 グースも興奮気味だ。

「ああ、ちょうどいいときに来たみたいだな」
「ほんとうね。楽しみだわ」
 その声に振り向くと、トアとステアリーナが立っていた。
「早かったですね」
 時刻はちょうど午後3時。
「ええ、仕度は済ましてあったし、大荷物はいらないって言われてたから」
 ステアリーナは微笑んだ。
「……で、明日の朝、最初の島に着くのね?」
 エルザの隣に座ったステアリーナからの確認。
「ん、その予定」
「ああ、間に合ってよかったわ」

 とりあえず、今参加できるメンバーが全員揃ったので、仁は改めて説明を開始した。
「ええと、とにかく、明日の朝、島影が見えると思う。まずはマーメイド部隊とストリーム部隊が接近。空からはラプター隊。原住民の有無や、危険な動物・魔物がいないか確認する予定だ」
 その頃には『吾妻』と『江戸』は島のごく近くに投錨しているはず、と言う。
 実際のところ既に下調べはできていて、大きな危険はないとわかっている。が、万が一ということもあるので、上陸前にもう一度調べてみようというのである。
「今回は探検行じゃないから、上陸するにしても岸からあまり奥へは行くつもりはないんだ」
「くふ、そもそもジンとエルザの新婚旅行なんだものねえ」
「ああ、そりゃそうだ」
「岸辺だけでも楽しそう!」
「無茶は感心しないからねえ」
 サキが同意し、グースが頷き、ハンナははしゃぎ、マーサは落ちついた意見を述べた。
「いざとなったら『仲間の腕輪』の障壁(バリア)機能もあるし」
 老君からの遠隔操作で障壁(バリア)を張ることも可能なので、危険度はかなり低くなっていると言ってよい。
 それからも注意事項を伝えたり、島に着いたらやってみたいことを話し合ったりして、その日は暮れていったのである。

「ああ、なんか不気味な夕焼けだな」
「……ん」
 その日の夕焼けは雲が赤黒く色づき、なんとなく毒々しい色をしていたのである。
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