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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

31 結婚式篇

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31-44 メリーゴーランド

 仁とエルザは一旦カイナ村に戻った。
 翌日はフランツ王国なので、時差が少ない方が都合がいいからだ。
 さすがに、蓬莱島とショウロ皇国くらい離れている場所を行き来すると、時差が気になってくる。
 幸いにして『時差ボケ』は起こさなかったが、なんとなく疲れた2人である。
「おにーちゃん、エルザおねーちゃん、お疲れ様」
 ハンナの労りが身に染みる2人であった。
「ジン、エルザちゃん、今夜は泊まっておいでよ」
 マーサから誘いが掛かり、2人は言葉に甘えることにした。
 仁としても、マーサの家は不思議と落ち着けるのである。

*   *   *

 マーサ宅に泊めてもらった翌日。
「さて、ちょっと作りたいものがあるんだけど……」
 仁の工房2階、その居間で寛ぐ仁は、エルザに相談を持ちかけた。
「日焼け止め?」
「いや、ラインハルトに出産祝いを、さ」
「ああ、確かに」
 仁はこちらを優先させたかったので日焼け止めの方は一時老君に任せることにしたようだ。
「で、何にしようかと思って」
「うーん……」
 2人は一緒にいろいろと考えていく。
「やっぱり赤ちゃん用品がいいよな」
「ん。……そう、ジン兄の世界にはどんなものがあったの?」
「ああ、そう、だな……」
 おしめ(=おむつ)。おしゃぶり。ガラガラ。ゆりかご。でんでん太鼓。メリーゴーランド……
 仁は思いつくままに羅列していく。
「がらがら? でんでんだいこ? めりーごーらんど? ……それって、何?」
 どうやら、そのあたりはこの世界にはないようだ。
「ええと、ガラガラとでんでん太鼓は、子供用の玩具、かな? 手に持たせてあげて、動かすと音が出るんだ」
「面白そう」
「だろ? まあ、生まれたばかりじゃまだちょっと遊べないかもだが、メリーゴーランドなら……」
「それって、どんなもの?」
「えーと……」
 仁は『メリーゴーランド』について説明を始めた。
「天井から吊して……くるくる回ると音が出て……」
「よく、わからない」
「だろうなあ」
 そこで仁は絵を描いて見せることにした。
 木紙……は置いていないので、ミーネが子供たちに教えるときに使うホワイトボードの余りを引っ張り出してきて、そこにさらさらと絵を描く仁。
 デザインは苦手でも、模写は割合得意な仁、なんとかそれらしい絵を描くことができたようだ。
「……興味深い」
「ええと、黄色とかピンクとか、明るい色を使うんだ。で、くるくる回るときに音が鳴る。子供は喜ぶ……はずなんだけどな」
「確かに、小さい子に歌を聞かせる、といい、ということは聞く」
「だろう?」
「……試しに作ってみたい」
 カイナ村にも今年生まれた赤ん坊が何人もいるから、領主である仁からのお祝い、ということにしてもいいと思う、とエルザは付け足した。
「ああ、そうだな。じゃあ早速作るか。ええと、材料はあれとあれで……足りないものは……礼子!」
「はい、お父さま」
 部屋の外に控えていた礼子が、仁の呼びかけに応じて顔を見せた。
地底蜘蛛樹脂(GSP)と魔法染料を少し届けさせてくれ」
「わかりました」
 腕輪で老君に連絡してもいいのだが、こういう時に礼子を頼ってやると嬉しそうな顔をするのだ。
 ものの数分……それすら掛からずに、仁が頼んだ素材が転送機を使って工房に送られてきた。
「よしよし」
 1階の工房で待っていた仁は、手を摺り合わせた。
「まずは試作だ」
 回転する輪とそれを支える基盤を作り、吊り下げる飾りを作って取り付ける。
 そのままでは動かないから、動力は風車式にして、風魔法で動かすようにした。
 音を出す魔導具はエルザに任せている。以前技術博覧会で作った『オルゴール』の応用だ。

「さて、どうかな」
 組み立てを終えた仁は工房の軒先に試作1号を吊るした。
「わあ、おにーちゃん、それって何?」
 ちょうど家の手伝いを終えたハンナが顔を覗かせ、興味深そうに尋ねてきた。
「赤ちゃんをあやすための玩具だ。その試作さ」
「ふうん。面白そうだね」
「さて、それじゃあ動かしてみよう」
 仁は始動の『魔鍵語(キーワード)』を口にする。
「『動け』」
 すると、メリーゴーランドはゆっくりと回り始めた。同時に、口笛が流れる。
「うーん、ちょっと回転が速いかな」
「音楽が単調な気もする」
 仁とエルザは改良点を見出し、検討しているが、ハンナは目を輝かせてメリーゴーランドを見つめていた。
「わあ、面白い! これ、きっと赤ちゃん喜ぶよ!」
「そうか。だったら嬉しいな」
 ハンナからの評価が高かったので、仁はほっとしていた。
「よし、改良だ」
 一旦動作を止め、再度改良に入る。
「……ハンナちゃん、赤ちゃんが喜びそうな音楽って、何かな?」
 音楽については難しいと考えたエルザは、ハンナに助言を仰ぐことにした。
「うーん、口笛よりも、もっと跳ねるような音がいいんじゃないかな?」
「ああ、そうか」
 ハンナに指摘され、仁も少し思い出した。
「からんころんというような音が響いていたっけな……あれって何の音だったんだろう?」
「反響しないようなベルじゃないかな?」
「え?」
 ハンナの意見に、仁は少し驚いた。実物を知らないはずなのに、かなり適切と思われる案が出て来たのだから。
「え? だって、からんころん、っていう音は、木で作った鈴に似ていない?」
「ああ、そうか」
 ハンナが言っているのは現代地球で言う『カウベル』だ。『カウ』、すなわち『牝牛めうし』に付けるベルという意味であるが、家畜全般に付ける鈴もこう呼ばれているようだ。
 因みに、牡牛おうしに付ける鈴を『ブルベル』とか『オックスベル』とは言わない。
 で、金属製だとちりん、というような音になるが、材質が軟らかくなるにつれ、からん、という音になる。
「確かに、あの音ってプラスチックの鈴みたいな音だもんな」
 回転するにつれ、風鈴みたいに吊した鈴が鳴るようにしてもいいかもしれない、と仁は思った。
「……どうだ?」
 そのことをエルザと相談すると、
「いいかも。……その場合私の出番がなくなるけど」
 と、賛成しつつ、ちょっと残念そうな顔をしたエルザであった。
「それじゃあ、その鈴を作ってくれよ」
 それと察した仁は、エルザに依頼することにした。
「うん!」
 おかげでエルザは俄然やる気になったようだ。
「おにーちゃんたち、仲いいね」
 2人を見ていたハンナがちょっと羨ましそうにそう言ったほどである。

 それから2時間ほど掛けて、仁たちはメリーゴーランドの試作を作り続けたのであった。
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