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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

06 旅路その2 エゲレア王国篇

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06-04 ようこそ崑崙島へ

 翌日の朝、ブルーランドの城門前。
「ああ、来た来た」
 少し前から来て待っていた仁の目に、門から出て来た馬車が写る。それは見なれたラインハルトの4頭立て馬車。
 その馬車は仁と礼子の前で止まり、ドアが開いてラインハルト、エルザが出てきた。
 そして更にエルザの執事であるアドバーグと、乳母のミーネも降りてきた。
 更に更に、仁が予想していなかった人物、すなわち赤い髪の少女、ビーナが最後に出て来たのである。
「ジン! 会いたかった!」
 地面に降り立つなり、ビーナは仁の前に駆け寄ってきてそう言った。
「あの時、一方的に言うことだけ言っていなくなっちゃって! あたし、あなたにちゃんとお礼を言いたかったのに……!」
 仁よりもほんの少し小さいビーナだが、爪先立って詰め寄ってくるので目線は仁と同じくらい、更に迫力があったので、
「ご、ごめん」
 のけ反りつつ思わず謝ってしまう仁。だが、そんな仁を見かねたのか、それともビーナの態度に思うところがあったのか、
「ジン君があやまるのはおかしい。あなたももっと離れて」
 なんとエルザが2人の間に入り、ビーナを仁から引き離したのである。
「う、わかったわよ。……ジン、あんたがあやまる必要はないわ。あたしがあなたにお礼を言いたかっただけ」
 そんな様子を見ていた3人。
 ラインハルトはエルザの仕草を微笑ましく思い、
 執事のアドバーグは変わってきたエルザを眩しいものでも見るかのように見つめ、
 乳母のミーネは仁を睨み付けていた。

「さて、ジン、ビーナ嬢が君にどうしても会いたいと言ったので連れてきたわけだが、まずかったろうか?」
 仁はそれにそんなことはない、と答えた。そして、
転移門(ワープゲート)の設定上、一緒に来られるのは2人なんだが……」
「ああ、わかっている。実はクズマ伯爵も挨拶くらいはなどと言っていたのだが、政務があるらしくて来られなかった。で、アドバーグとミーネはただの見送りだ」
 だが、そのミーネは、
「ラインハルト様! 本当に、そんなわけのわからない場所へお二人だけで行ってしまわれるおつもりですか!?」
 などとごねている。礼子の視線にも気が付いていない様子。
 ラインハルトはそんなミーネを抑えて、
「大丈夫だよ。僕がいるんだし、お前も旅の間、ジンがエルザの事ずっと気にしてくれていたの知っているじゃないか」
「それはそうですけど……」
 まだ納得がいかない様子のミーネをアドバーグが何か言って宥めていた。

「じ、ジン! あ、あたしも……その、あなたの家に行っては……ダメ?」
 そんなラインハルト達を尻目に、ビーナは1番言いたかったことを口にしていた。
「手伝ってくれていた時から気になっていたのよね。お願い!」
 どうしようか、と仁は悩む。
 蓬莱島の家を造ったのも、元はといえばビーナを連れてくる事になった時の対策からだった。
 ただ、2人しか連れて行けないと言ったことはどうしよう、と。
 そんな仁の考えを読んだのか、
「お父さま、私にもお一人くらいならお連れできると思います」
 と礼子が助け船を出した。
「そ、そうか。なら、なんとかなりそうだな」
 そして仁は一行に向き直って、
「えーと、転移門(ワープゲート)は俺の魔力にしか反応しない。で、俺の手に捕まっていれば一緒に行けるんだ。だから2人、って言ったんだが、礼子も1人くらいなら連れて行けるらしい」
 そう説明する。いろいろ突っ込みどころのある説明だが、古代遺物(アーティファクト)である転移門(ワープゲート)である、そんなものなんだろう、と特に突っ込まれずに済んだことは仁にとって幸いだった。
「でしたら是非わたしを……」
 ミーネがまだごねていたが、アドバーグが気を利かせ、馬車へと引きずり込んだので静かになった。

「では、行こうか」
 仁が歩き出し、ラインハルト、エルザ、ビーナが続く。礼子は殿しんがり
 じきにエルザが仁に並び、その右腕に自分の左腕を絡ませる。それを見たビーナは、仁の左腕にしがみついた。
 ラインハルトは後ろからそれを見、にやにやしつつ、
「君のお父さまも大変だな」
 と、後ろを歩く礼子に声を掛けたのだった。その礼子はいかにも不機嫌そうだ。

 歩くこと10分、ラインハルトもエルザも、もちろんビーナも疲れた様子は無かったが、仁は立ち止まり、
「コマ!」
 と愛馬ゴーレムを呼んだ。
 馬ゴーレムの『コマ』は、同型の馬ゴーレム2頭を引き連れて森から出て来た。その結果、
「な、なにこれ」
 それを見たビーナの顔が引きつり、
「……おもしろそう」
 エルザは顔を輝かせ、
「馬のゴーレムか! さすがだな、ジン!」
 ラインハルトは絶賛したのである。

「ゴーレム馬だよ。こうやって乗るんだ」
 仁はエルザとビーナから腕を放してもらい、『コマ』に跨って見せた。
「ここを持って、こうひねると動き出す。自律性も持っているから、行き先をちゃんと指示すれば乗ってるだけでも大丈夫だ」

 実を言うと、転移門(ワープゲート)までの距離をラインハルト達に歩かせるのは時間の無駄だと朝になって気が付いたので、『コマ』以外は急遽作ったゴーレム馬だったりする。
「あ、あたしスカートなんだけど」
 ビーナが顔を赤らめてそう言ったので、
「うっ」
 それには気が付かなかった仁。だが、エルザはそんなこと気にしないらしく、既にゴーレム馬に跨っていた。
「ジン君、これおもしろい」
 ハンドルを上手く操作し、ぱかぱかとそこら辺を歩かせているエルザ。ビーナを見下ろして笑っているようにも見えなくはない。
「うん、この発想は無かった」
 ラインハルトももう一頭に乗って、いろいろと試すように乗り回している。
 元々、連れてくるのは2人の予定だったので、ゴーレム馬も2頭だけなのである。
(エルザと一緒に乗ってもらうか、いや、いくらなんでも慣れてないエルザと一緒じゃ危ないよなあ)
 一応は速度リミッターを掛けてはあるのだが、万一のことを考えると不安だ。
 となると仁の『コマ』ということになる。
「仕方ないか」
 ということで、仁はビーナの傍らまで『コマ』を進めて、
「ほら、ビーナ、こっちに乗れよ」
 と手を差し出した。
 最初は『え?』とよくわかっていないようだったが、仁の意図するところを理解すると、
「う、うん!」
 ぎゅっと仁の手を握ると、自分から『コマ』に乗り込んできた。そして仁の前に横向きに座る。
「…………」
 そんな2人を見つめるエルザに、ビーナは勝ち誇ったような視線を投げ、仁にしがみつきながら、
「さ、行きましょ。ジンの家、ずっと前から興味あったのよ!」

 仁、エルザ、ラインハルトの順で森の奥を目指す。礼子は遊撃ポジション、周囲を警戒しつつ行く。
 まあ、この森は小動物や鳥くらいしかいないのはわかっているが。
 人が歩くより若干速い速度で進んでいく。
 30分もかからず、森奥にある大岩、その麓へとやって来た。
「さて、ここで馬から降りてくれ」
 そう言ってまず自分が降り、手を貸してビーナも地上に降ろした。
 ラインハルトはいち早く自分で降り、
「ほら、エルザ」
 そう言ってエルザに手を貸そうとしたら、
「いい。1人で降りられる」
 ちょっとだけ拗ねたようにそう言って飛び降りた。

 仁は大岩を回り込み、裏手にある洞窟へと皆を案内した。
「ここが入り口だ。俺の手を取ってくれ。そうすれば結界に引っかかることはないから」
 そう言って手を出すと、右手にはビーナが、左手にはエルザがすばやくつかまってきた。
「あー、ラインハルトは礼子の手を取ってくれ。礼子、頼む」
「はい、お父さま」
 いかにも嫌そうな表情でラインハルトに向かって手を差し出した礼子に苦笑しながらラインハルトはその手を取った。
 その際、礼子の手が思ったよりも軟らかく、体温らしきものも感じられたので内心驚く。
「さて、それでは行こうか」
 そう言って仁は洞窟をくぐった。ビーナとエルザも並んでくぐる。
「あかるい」
 中は思ったより明るいので、2人とも驚いている。
転移門(ワープゲート)に小さな照明が付いているからね」
 そう言って仁は奥にある転移門(ワープゲート)を示した。両手が塞がっているので、行儀悪いとは思ったが顎でだ。
「おお! あれが転移門(ワープゲート)か!」
 初めて実物を見て興奮気味のラインハルト。だが仁は、
「さ、行くぞ」
 そう言って転移門(ワープゲート)へと足を踏み出す。
 エルザとビーナは躊躇していたが、仁と手を繋いでいるので、そのまま手を引かれ、転移門(ワープゲート)に飛び込んだ。

*   *   *

 一瞬で景色は変わり、石造りの地下室に出た一行。
 少し遅れて礼子とラインハルトも転移門(ワープゲート)から出て来た。そして『コマ』達ゴーレム馬が最後に出て来る。
 仁は2人から手を解き軽く会釈をしながら、
「ようこそ、崑崙島へ」
 仁、もててますね……でも気が付いていない。
 『コマ』、久しぶり(カイナ村篇以来)の登場です(すっかり忘れていたなんて言えない……)。

 お読みいただきありがとうございます。

 20130617 21時25分
 冒頭に段落の始まりを示すための空白が無かったので挿入しました。
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