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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

31 結婚式篇

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31-28 材質談義

 8月21日。
 仁とエルザは、熱気球に乗って手を振っていた。
 第一日目の『パレード』である。
 高度は地表から10メートルもなく、手を振り返す人たち一人一人の顔が良く見える。
 浮かびすぎないよう、大型ゴーレム『リヨン』が熱気球に繋いだロープを持っているのだ。
 周囲には前後左右上5つの熱気球が浮かんでいて、仁とエルザの乗った熱気球をガードしている。
「おお、すごいな」
「『魔法工学師マギクラフト・マイスター』だって?」
「『崑崙君』だって聞いたぞ?」
「だから『魔法工学師マギクラフト・マイスター』で『崑崙君』なんだよ」
「今年の記念式典にも出ていたよな?」
「ああ、あの女の子型の自動人形(オートマタ)を作った人か!」
 ゴーレムを手玉にとった礼子の勇姿は、一部の人々の記憶にまだ新しかった。
 その『女の子型の自動人形(オートマタ)』=礼子は、『不可視化(インビジブル)』により姿を消し、『力場発生器フォースジェネレーター』により空を飛んで仁とエルザを守護している。

 が、その必要もないほど、セルロア王国首都エサイアは平和だった。数日前から騎士や警備兵が不穏分子の摘発に動いていたのだ。
 とはいえ、捕らえられたのは2名だけで、それもただ仁に直接何かを交渉するつもりの商人だった。
 もちろん、付近にいる第5列(クインタ)も、2人を祝福すると共に、警戒を怠っていない。
「おめでとう!」
「お幸せに!」
 有力貴族の婚礼の際には慣例としてパレードが行われるので、市民達は皆慣れっこになっていたこともある。
 もっとも、大型ゴーレムと熱気球を使ったパレードはこれが初めてであったが。

「は、派手だな」
「……ん」
 当の仁とエルザは辟易していたけれども。

*   *   *

 幸いなことに、1日目はこれだけで終了。
 内容は濃いが、時間を短くするという配慮をしてくれているようだ。
「ふう」
「1日目、終わった」
 仁とエルザは王城の貴賓室に泊まっている。
 礼子とエドガーが付いているほかに、城の侍女が2名、何かあったときのため、隣室に控えているくらいで、水入らずといえる環境だ。
「お疲れさん」
「……ん。でも明日が、本番」
「だな」
 翌日の披露宴は王城内の大広間で行われる。主だった貴族や有力者が集まるということだ。
「でも、個人での接触は禁止、としてくれたみたいだからな」
 エゲレア王国でのことを踏まえているようで、セザール王の心遣いといえよう。
「それ以上に、『モノレール』の工事が進んでいたのに驚いたよ」
「あ、私も」
 まだ王城の敷地内限定ではあるが、試験的に走らせることくらいはできそうな長さ……およそ100メートル程は軌道の敷設が進んでいたのである。
 最初は王城外壁正門と王城中庭を繋ぐ往復運転とするらしい。馬車ではなく、モノレールで賓客を送り迎えすることになるようだ。
『あと1ヵ月あれば、『崑崙君』夫妻を最初のお客にできたのだが』
 とはセザール王の言葉。
「披露宴をしてくれるのは本当に有り難いんだけどな。正直な気持ちとしては、そっちに関わっていたいよ……」
 仁の心からの声であった。

*   *   *

 厳重な警備(蓬莱島勢含む)により、何ごともなく日付は変わり、明けて8月22日。
 この日は軽い昼食会のあと、午後2時から9時までの7時間が披露宴として予定されている。
 ゆえに午前中は比較的自由な時間があるのだ。
 とはいえ、セルロア王国にはそれほど知り合いがいないので、多少暇を持て余している仁たち。
 と、そこに、第一技術省長官ラタントの来訪が告げられた。
 ちょうど暇を持て余していたので、一も二もなく仁は入ってもらうことにする。
「ジン殿、失礼する」
「『ゴーレム競技(ゴンペテイション)』以来ですね。お元気ですか?」
『お元気ですか?』という言葉が、思わず口をついて出た。というのも、ラタントの顔には隈ができていたからだ。
「あ、ああ。ちょっと寝不足でしてな。……実はそれに関することなのだが」
「うかがいましょう」
「実は……」

 ラタントの悩みごととは『モノレール』であった。
 同じ車両を複数作ろうとしているのだが、うまく行かないのだそうだ。
「どこがわからないんです?」
 設計図や説明書は一通り置いてきたはず、と仁は何か足りないものがあるか尋ねた。
「いや、それが、車輪の材質なのだ」
「え?」
 仁が作ったモノレールは、整備を考慮して金属……特殊鋼の車輪を使っている。
 特殊鋼といっても、ニッケルクロム鋼である。これは、組成としてはステンレスに近いが、ニッケルとクロムの配合比が少なめなのでステンレス鋼とは呼ばれない。
 仁がサンプルに使ったのはニッケル2パーセント、クロム0.2パーセントのものだ。
「ジン殿が説明書に書いてくれた『クロム』だが、我が国で採れるのだろうか?」
「あ……」
 ニッケルの方は『紅砒ニッケル鉱』をあちらこちらで見ていたので、セルロア王国でも容易に手に入るはずだが、クロムの方は。
「そういえばクロム鉄鉱って見たことなかったな……」
 ニッケルもクロムも、重要なレアメタルで、仁も現代日本にいたときにその鉱石サンプルは見たことがあったのだが、こちらではあまり見かけていないのである。
(蓬莱島にあるからうっかりしてたな……)
 先代魔法工学師マギクラフト・マイスター、アドリアナ・バルボラ・ツェツィは、早い段階でステンレス鋼を使っており、そのためにニッケルやクロムの鉱床についても熟知していたのだが、今現在こちらの技術者はクロムを認識していないのであった。
「えーと、ニッケルだけでも大丈夫ですよ?」
 強度的にはまったく問題はないので、仁はそうアドバイスをした。
 勝手に判断されて材質や構造を変えられてしまうのも問題だが、拘るあまり先に進めなくなるのもそれはそれで困ったことである。
 仁としてはちょうどよいタイミングでセルロア王国に来ることができた、と思うことにした。
「ええと、この場合の『クロム』は焼き入れ性の向上のためなので、工学魔法で仕上げるなら、入れなくても大丈夫です」
 水焼き入れもしくは油焼き入れの場合、単なる炭素鋼では大きな部材の『内部』までは焼きが入りにくい。これを改善するのがクロムの添加である。
 その他にも耐摩耗性を上げる等の効果があるが、ニッケルを添加しただけでも十分実用になるので、仁はその点を説明していった。

「いやなるほど、よくわかった。感謝致しますぞ」
 2時間ほど掛けてじっくり説明したので、第一技術省長官ラタントは来た時とはうって変わって晴れ晴れとした顔で仁の元を辞したのである。
「参考書も持って来ているけど、そうした材料については書いていなかったな。今度追加しておこう」
「ん、それがいい」
 思い掛けなく時間を潰せたので、もう午前11時半、そろそろ昼時だ。
 昼食はセザール王と数名の側近と一緒に、という話であった。
「そろそろ迎えが来そうだな」
 と仁が呟くとほぼ同時にドアがノックされた。
「はい」
 礼子がドアを開けると、案の定セザール王の侍女が立っていた。
 いよいよ昼食会である。
 いつもお読みいただきありがとうございます。

 前話で、次の披露宴がショウロ皇国のように書きましたが、セルロア王国でした。
 前話を訂正してあります。面目次第もございません。≦(_ _)≧
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