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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

31 結婚式篇

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31-13 それぞれの想い

本日は特別に2話更新します。

次話は13時に。




 いつからだろう。あの人が、心の中に棲み着いたのは。

 いないと寂しい。
 会えないと切ない。

 そばにいてくれると安心する。
 笑顔を向けられると嬉しくなる。

 いつも一緒にいたい。
 それが出来ないのなら、何か繋がりが欲しい。

 そして求めた繋がりは『工学魔法』だった。
 優しく、詳しく、丁寧に教えてくれた。おかげで、今の私は多分一流の仲間入りできていると思う。

 何か役に立ちたい。
 支えてあげたい。

 そして覚えたのは『治癒魔法』だった。
 頑張ったつもり。おかげで、最上級まで使えるようになった。

 でも、まだ足りない。
 あの人が、私にとって、掛け替えのない男性ひとであるように。
 私も、あの人にとって、掛け替えのない女性ひとになりたい。

 明日。
 何かが、変わるのだろうか。

*   *   *

 私は娘がいるとはいえ、結婚してはいない。
 貴族の男の慰み物となり、娘を産み、その娘を取り上げられそうになって、辛うじて侍女としてそばにいることを許された経緯がある。
 だから、娘をそんな目に合わせたくなかった。
 娘には、幸せな結婚生活……私にはできなかったけれど……をして欲しいと思っていた。

 明日、娘が嫁ぐ。
 お相手は、異世界から来たという男性。
 出会って1年と少し。

 第一印象は、『頼りなさそうな少年』。その頃は、異世界から来たとは知らなかったが。
 歳を聞けばもう20歳とのこと。年齢より若く見えるのは、その彼の故郷の特徴であるらしい。
 ゆえに『少年』改め『青年』として見なすことにしたが、『頼りなさそう』という印象は変わらなかった。
 技術者としては、我々一行の長である貴族の青年をも上回るらしいが、その言動はどうにも優柔不断で、世慣れない感を否めない。
 だから、娘にあまり近付くな、馴れ馴れしくするな、と釘を刺した。
 同行する執事には咎められたが、愛娘を守るためだから後悔してはいない。

 しかし、私の判断は間違っていた。
 娘が、実家からの命令で意に染まぬ結婚を強いられそうと知ったあの日。
 共に逃げ出した際、『統一党(ユニファイラー)』なる集団に、娘は拉致され、私は瀕死の重傷を負った。
 そんな私たちを救ってくれたのは頼りなさそうに見えた青年だった。
 そして帰る場所を失った私たちを、楽園のような場所に匿ってくれた。
 その頃には、私の中の黒いモノはなくなっており、素直に彼のことを見ることができるようになっていた。

 優柔不断に見えたのは優しいから。
 世慣れないように見えたのは、異世界からやって来たから。
 そして、頼りないなんてとんでもない。彼は、世界を征服、いいえ、世界を滅ぼすことすら可能な『力』を有しているのだから。
 でも、彼はその力を無闇に振るったりしない。世界の敵には容赦ないけれど、友人・仲間・知り合いには優しい。

 そんな彼と娘は仲良くなっていった。
 初めは兄妹のような関係だったが、次第にそれはもっと親密な関係になっていく。
 そして彼は、次第に頭角を現し、祖国への帰郷も叶えてくれたのだ。
 実家との軋轢も解消してくれた。感謝してもしきれない。
 その頃から、2人はあちらこちらへ一緒に出掛けるようになった。
 かといって、男女の仲になったわけでもない。
 彼にしてみれば、娘は『妹』なのだろうか? とも思う。
 それはそれで、娘の将来が少し心配になる。

 娘はいつの間にか、一流の魔法技術者(マギエンジニア)に成長していた。更に、国選治癒師(ライヒスアルツト)にまでなったのだ。
 これもひとえに彼のおかげ。
 そんな頃から、2人の間がまた少し縮まったようだった。

 ところで、彼には、女性の知り合いも数多くいる。
 女好きなのか、とも思えるが、そうでもないようだ。その点は安心できるといっていい。

 娘と彼がついに婚約をした。
 彼は、娘を選んでくれたのだ。今は素直に嬉しい。
 今ならわかる。彼は、その孤独ゆえに家族を欲しているのだ、と。
 娘は、そんな彼の心の隙間を埋めることができたのだろう。

 明日、娘が嫁ぐ。
 願うことはただ一つ。幸せになってちょうだい。

*   *   *

 明日は結婚式。
 結婚。嫁取り。祝言。
 娶るのは可憐という形容がぴったりな少女。
 つまり、この世界の女性を伴侶にする。

 自分が『家庭』を持つ。
 本当の意味での家庭を知らずに育った自分が、『家庭』を持つ。
 自分にできるだろうかという不安はある。
 知らず知らずのうちに、何か失敗をして、『家庭』を壊してしまわないだろうか。
 あの可憐な少女を、不幸せにしてしまわないだろうか。
 ネガティブな考えが頭の中を渦巻く。

「お父さまなら、大丈夫です」
 そこに響く、凛とした声。
 声を発したのは世界最高、最強の自動人形(オートマタ)の少女。
「そう、かな……」
「はい。ご自分を省みることこそが大事なのです」
「でも、失敗したら」
「失敗したら、次からは失敗しないようにすればいいのです」
「そう、か……そうだな」
 愛娘ともいえる、己が作った少女の言葉が胸に染みる。
「はい、わたくしも精一杯お手伝いさせていただきます」
 その声音に、暗い考えも吹き飛ばされるようだ。
「明日はきっと、今日よりもいい日になります」
「そうありたいな」
 何があっても、乗り切ってやる。自分が愛した少女を、幸せにする。否、共に幸せになる。
 そんな決心を胸に抱いて、結婚前夜は過ぎていくのであった。
 いつもお読みいただきありがとうございます。

 20160426 修正
(旧)あの人が、私にとって、かけがえのない男性ひとであるように。
(新)あの人が、私にとって、掛け替えのない男性ひとであるように。

(旧)しだいにそれはもっと親密な関係になっていく。
(新)次第にそれはもっと親密な関係になっていく。
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