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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

30 謎のゴーレム篇

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30-25 注目する者たち

 一方、救護室では、気を失っていた男は気が付き、起き上がろうとしていた。
「先生、患者ですが、動いても大丈夫なのですか?」
 治癒師の元にいた雇われ看護人が心配そうに治癒師に向かって尋ねた。
「もう大丈夫だろう」
 若干投げやりな口調で治癒師が答えると、看護人は男に手を貸し、起き上がる手伝いをした。
「ええと、お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
 寝台から身体を起こした男に看護人が尋ねる。
「私は、ガ……ガリク。ガリク・アッシュといいます」
「ガリクさんですね。では、お大事に」
 看護人は救護室の記録に書き込むと、それ以上引き止めることもなく、ガリクと名乗った男が出て行くに任せた。
 そのガリクはふと足を止め、振り返って尋ねた。
「あ、私の馬車はどうなったろうか? それに荷物は?」
「ああ、馬車でしたら駐馬車場の外れに移動してあります。荷物は一部がひっくり返っていましたが、積み直しておきました」
「何!」
 ひっくり返っていた、という言葉を聞いたガリクの顔色が変わった。
「中身は! 中身は無事ですか!?」
「さあ? 私に聞かれましても……」
「……わかった」
 看護人が答えるや否や、ガリクは駐馬車場へ向かって駆け出した。

「……無事だったか……」
 積み荷を確認したガリクは、ほっと溜息を吐いた。
「鎧の一部が破損しているが、これくらいなら問題なかろう。だが、破片はどうしたのだろうか」
 探しに行くべきか、それとも本来の目的を果たすべきか、とガリクは逡巡した。
「……目的が優先だな」
 そこへ、ガリクの姿を認めた先程の警備員2名がやってきた。
「やあ、もう身体の方はいいのかな?」
「え、あ、はい、お手数お掛けしましたようで……」
 ガリクの方は警備員の顔を知らないが、おそらく気を失った自分を救護室に運んでくれた者か、あるいは馬車をここへ移動させた者のどちらかだろう、と見当を付ける。
「いや、それはいいのだが、我々の本業はこの『ゴーレム競技(ゴンペテイション)』会場の警備なのでな、積み荷を確かめさせてもらいたいのだ」
 危険物などの持ち込みは排除したいから、と言う。
「はあ、いいですよ」
 ガリクはにこやかに頷き、まず鎧を指差す。
「これはご覧の通り、鎧です。特殊な構造で、軽くできています。ですが、その分少々弱いのが欠点でして……」
「ふむ、なるほど。先程の転倒のせいか、少し欠けているな」
 警備員はガリクの説明に頷く。
「で、こちらの樽は何だ?」
 先程叩いてみて、重い音が響いた樽を指差す。
「ええと、ご存知かどうかわかりませんが、『水銀』です」
 一般的にいって、水銀の危険性についてはまだまだ認識されていない。
 ゆえに警備員も、それを聞いて満足する。
「ほう、水銀か。すると貴殿……済まん、名前を教えてもらえるか?」
「あ、はい。ガリクと申します。ガリク・アッシュ」
「そうか。ではガリク殿。貴殿は錬金術師なのか?」
 水銀は、錬金術師が使うことで有名な液体金属であった。
「ええ、そういうことになります」
 ガリクは頷いた。
「そうか。それでわかった。水銀とは重いのだろう?」
「はい。金よりは軽いですが、鉄や銅、鉛などよりも重いですよ」
「ふうむ。……もしよかったら、その水銀を何に使うのか教えてもらえるだろうか?」
 この質問に、ガリクは少し困った顔をして答えた。
「困りましたね……錬金術師にとって、手の内を見せるというのは死活問題なのですよ」
「そ、そうか。それは悪かったな」
 だが、ガリクは薄く笑うと、一言。
「いえ、いいんですよ」
 そして二言三言言葉を交わしたガリクは、警備員と別れ、『ゴーレム競技(ゴンペテイション)』会場へと向かった。

「『ゴーレム競技(ゴンペテイション)』を見たいのだが」
「あと決勝戦だけなのに物好きだね」
 そう言われながらも、ガリクは苦笑しただけ。
 入場料200トールを払い、一番後方の立ち見席へ。座席は全て満席だったのだ。
 後方からの立ち見であるが、大型の魔導投影窓(マジックスクリーン)があるので、観戦に不都合はない。
「……間に合った、か」

 そして、その少し前、ヴィヴィアンとルコールもゴーレム競技(ゴンペテイション)の観客席に座っていた。
「あと決勝戦だけとはな。半額にしてくれてもいいだろうに」
 ぼやくルコール。
 だがヴィヴィアンは、今しも決勝戦を戦おうとしているゴーレムに注目して取り合わなかった。
 その視線はもちろん41番『ファントム』に向けられている。

*   *   *

〈さあ、盛り上がったゴーレム競技(ゴンペテイション)もいよいよ大詰め! 最終戦となります!〉
『模擬戦』決勝戦が始まろうとしていた。
〈40番、ドナルド・カロー氏、『古き戦士(アルトクリーガー)』と41番、ジックス氏、『ファントム』! ここまでの累計得点1位と2位の対決でもあります!〉
〈最後の最後、大一番ですね。楽しみです〉

 これまでの戦いで若干傷んでいた試合場は10分ほど掛けて修理された。
 そしていよいよ決勝戦開始である。
 今回は、共にロングソードを武器としている。
 それを片手で持っているのだ。
〈解説のトルフさん、これをどう見ますか?〉
〈そうですね、グレートソードよりも速さを求め、ショートソードよりもリーチの長さを求めた結果ではないでしょうか〉

*   *   *

分身人形(ドッペル)』を通してこの試合を注目している仁も同じ意見だった。
「どちらも、性能を最大限に生かせる大きさを選んだんだろうな」
「でもジン兄、『ファントム』はどうして二刀流……二剣流をつかわないの?」
 エルザからの素朴な質問に、仁は考え込んだ。
「うーん、そうだなあ……俺は武術は全くの専門外だから、的外れかもしれないが」
 そんな前置きをして、仁は自分の意見を口にした。
「『型』としてなら2本の剣を振り回せるが、いざ戦いとなったらどうか、とは思うんだ」
「どういうこと?」
「つまり、『ファントム』の制御核(コントロールコア)の処理能力が並のゴーレム2体分あると仮定して、それを左右の腕の制御に振り分ければ二剣流は可能だろう。だが、『古き戦士(アルトクリーガー)』は本物の戦士だ。全力を出さなければ勝てないだろう。そんな状況なら、制御核(コントロールコア)の処理能力を1本の剣に集中したほうがいい……かもしれない」
御主人様(マイロード)の仰る通りです。少なくとも、私の制御形態では、多岐に割り振って互いに連係させるよりも、一つに集中した方が、結果的に20パーセントから30パーセント効率が上がります』
 老君も仁の考えを支持した。
「おそらく、『連係する』ための処理時間が必要ない分、効率が上がるんだと思う」
 つまり、『互いに干渉しないように』という『気づかい』をしないで済む分、1本……正式には『一振り』の剣に集中した方がいい結果が出るということだ。
 仁としてはこれが例えば『宮本武蔵』など、人間の剣士に当てはまるかどうかはまったくわからない。あくまでもこれはゴーレムの動作制御において、の話である。
「お、いよいよ始まるぞ」
 仁たちは魔導投影窓(マジックスクリーン)に注目した。
 いつもお読みいただきありがとうございます。

 20160324 修正
(誤)それを左右の腕の制御に振り分ければ2剣流は可能だろう。
(正)それを左右の腕の制御に振り分ければ二剣流は可能だろう。
+注意+
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