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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

30 謎のゴーレム篇

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30-09 白金

「さて、『崑崙君』、話は変わるが」
 当初予定した打ち合わせを終え、セルロア王国国王セザールは、親しげな笑みを見せた。
「結婚披露宴の書状、先日受け取った。おめでとうと言わせてもらおう」
「あ、ありがとうございます」
 そちらはエルザ中心で行ってもらっていたので、不意を突かれて慌てる仁。
「聞けば各国を回られるとか。我が国では、そうだな、1週間ぶっ通しで宴を開こう……」
 いたずらっぽく笑ったセザール王は言葉をそこで切り、
「……と思ったが、日程もあるだろうしな。書状どおり3日間とさせてもらうよ」
 と締めくくった。
 仁がほっと溜め息をつくと、その心中を見透かしたように笑うセザール。
「はは、有名人は辛いな。これもまた、義務と思ってあきらめることだ」
「はあ……」
「本来なら、各国の貴族王族が、こぞってジン殿に娘を嫁がせようとしてもおかしくはないのだしな」
「は、はあ」
 なんとなくわかるが、それが自分の身に起きていることという自覚が仁にはなかった。
「貴族などというのは、商人よりも利に聡い面があるからな」
 王太子時代にいろいろと苦労した彼らしい評であった。

「もう一つ、『さて』があるのだが、聞いてもらえるだろうか?」
「何でしょうか?」
「ショウロ皇国には『魔導人形競技(ゴンクレンツ)』というものがあるそうだな?」
魔導人形競技(ゴンクレンツ)』。昨年、技術博覧会の時に、おかしくなっていたエルザの父に仁が挑まれた競技である。
「我が国でもそれに倣って、『ゴーレム競技(ゴンペテイション)』を行う予定なのだよ」
「それは面白そうですね」
「うむ。それで、『崑崙君』には審査委員長をお願いしたいのだ。もちろん、婚約者殿帯同でな」
「審査委員長ですか……」
 仁の心情を察したセザール王は一言言い添える。
「ジン殿としては参加したいのであろうが、そうなるとぶっちぎりの優勝になってしまうだろうから、ご遠慮願いたいのだ」
「はあ……」
 その言い分はわかるだけに、仁も頷かざるを得なかった。
「で、いつなんです?」
「7月の28、29日だ」
明明後日しあさって……ですか」
 仁はちょっと考えてから、承知することにした。
「わかりました。やらせてもらいます」
「おお、それはありがたい」
 セザール王は仁と握手を交わした。
「欲を言わせてもらえれば、ジン殿作のゴーレムを1体か2体、模範用として連れてきてもらえないだろうか?」
 何か模範演技などをさせてもらいたいからだそうだ。
「ええ、わかりました」
「おお、そうか! 助かる! こちらはこちらで、謝礼は2000万トールを用意してあるのだが、足りるだろうか?」
 おおよそ2億円である。さすがは大国、と仁は思った。
 が。
「お金はその半分で結構ですので、残りは白金でいただけませんでしょうか?」
「白金? これはまた、珍しいものを欲しがるのものだな。私はかまわないと思うが……」
 念のため、セザール王は第一財務省長官のルーブラ・ポドンを呼び、確認した。
「そうですな。白金の在庫でしたら、およそ50トンはあるでしょうな」
 白金の相場はグラムあたり50〜100トール。
「ならば、2トンを譲ろう」
 グラム50トールとすれば、計算上はちょうど1000万トールになる。
 これはセザール王の好意も入っている。
「ありがとうございます。それで結構です」

 ところで、このアルス世界でいう『白金』は、いわゆる『プラチナ』ではない。
 白金族元素であるイリジウム、オスミウム、ロジウム、パラジウム、ルテニウムの合金である。
 純粋なプラチナは軟らかいが、この合金は非常に硬く、常温での加工はまず不可能。
 また、融点も高く、木炭やたきぎの熱では溶かすことができないので、畢竟ひっきょう工学魔法に頼ることになるが、魔法工作士(マギクラフトマン)たちもこの合金を各元素に分離できなかったため、用途が非常に限られていたのである。
 セルロア王国での用途といえば、『分銅』に使われるのが常であった。
 白金族元素の常として、錆びにくく重いので、分銅の素材としては好適なのである。
 が、それだけでは消費しきれるものではない。
 ゆえにセルロア王国の倉庫には大量の『白金』がプールされていたのであった。

 この使い途が限られる『白金』だが、仁なら元素毎に分離して有効に使えるが、一般には無理であるし、需要もない。
 ゆえに、この取引は仁に取ってもセルロア王国に取っても有益なのだ。

 ここで、仁からの提案。
「ところで、この『白金』の使い途ですが、競技の優勝者に渡すトロフィーや記念メダルなどを作ったらどうでしょうか」 
 加工しにくいということは、頑丈であるということ。記念品に使うには向いているといえよう。
「おお、なるほどな。魔法工作士(マギクラフトマン)なら加工できるわけだ。……となれば、ジン殿、『ジン・ニドー賞』というものを設けたいから、トロフィーとメダルをそれぞれ1個、作ってもらえないだろうか?」
「え?」
 思わぬ依頼が入ってしまった。
「優勝の他に、いろいろな優秀賞を作り、その一つに『魔法工学師マギクラフト・マイスター賞』か、『ジン・ニドー賞』を作ったらと思うのだ」
「は、はあ」
 名前はなんとなく照れくさいので、仁は『魔法工学師マギクラフト・マイスター賞』にして欲しい、といった。
 セザール王はそれを承知。
「その分の白金も渡すので、なんとか当日までに作ってもらいたい。トロフィーとメダル用、それにその分の謝礼も含め、100キログラムでどうだろうか」
「それで結構です」
 仁としては、作る手間よりもトロフィーとメダルのデザインの方が問題である。
 それは何か指定が入るだろうと思いきや、
「『魔法工学師マギクラフト・マイスター賞』であるから、ジン殿の好きにデザインしてくれ。注文は一切つけない」
 と言い切られてしまった。
「ああ、もし色に変化をつけたいなら、金や銅も少し使ってもらって構わないが」
「……わかりました」
 仁は、帰ったらエルザに相談してみよう、と思ったのである。

 その日は、『白金』1トン分を受け取り、蓬莱島に帰った仁である。
 その際、100キロの塊をそれぞれ右手と左手で軽々と持ち運ぶ礼子を見て、倉庫の主計官は引き攣った顔をしていたらしい。

*   *   *

「うーん……」
 蓬莱島の工房でトロフィーのデザインを考えながら、仁は唸っていた。
「ジン兄、どうしたの?」
 工房を覗いたエルザが声を掛ける。ちょうど相談してみよう、と思っていたので、仁は渡りに船とばかりに喜んでエルザを手招きする。
「はい?」
 とことことエルザがやって来た。仁は事情を説明する。
「……ジン・ニドー賞なら、ジン兄の似姿にするべき……と言いたいけど」
 仁がとてつもなく渋い顔をしたので、エルザは笑って前言を否定する。
「それは冗談として、『魔法工学師マギクラフト・マイスター賞』なら、他には見られないようなものにするといい、と思う。材質は白金で、他に類がないわけだし」
「なるほどな……」
 美術的価値ばかりを考えて悩んでいたが、ここはひとつ仁オリジナルデザインを見せてやろうかと、仁はとあるアイデアに至ったのである。
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