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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

過去篇 肆 アドリアナの冒険

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022 間奏4/新たな過去

 仁は3冊目の日記を閉じ、本棚に戻した。
「そうだったのか、先代は魔族……いや、当時は魔族と呼ばれていなかったんだろうが、そこでまたいろいろな魔導具を研究したんだな」
 卓越した技術を持つに至った、その理由の一つが明らかになったのである。
「魔族の所へ行ったときに、『魔法工学師マギクラフト・マイスター』の名が知られていたのも、お母さまがそこに行かれていたからなのですね」
 礼子が静かな声で言った。
「そういうことになるな」
 同じく静かな声で同意し、仁は書斎を後にする。
 先代の足跡そくせきは気になるが、一日中読みふけっているわけにもいかないのである。

 研究所を出ると、外は夏の日射しが降り注いでいた。
「今日も暑くなりそうだな」
 目を細めて夏の青空を見上げた仁はぽつりと呟いた。

*   *   *

「……さて、まだまだやることは山積みだからな」
 もう一度、研究所内の司令室に戻った仁は、椅子に腰を下ろし、老君を相手に今後のことを検討し始める。
御主人様(マイロード)、先代様の記録にありました、『魔導式物質抽出装置マテリアルエクストラクター』はどうなさいますか?』
 海水に溶け込んでいる任意の物質を取り出せる魔導具である。
「そうだなあ、実験的に作ってみるのはいいかもしれないな」
 今のところ、蓬莱島は資源面で困ってはいないのである。
「それに、隕石からもけっこう資源は入手できるようだしな」
 アルスの月『ユニー』の裏側にある拠点では、近くを通り掛かる隕石群を回収し、資源としていた。
 大半は石質隕石であるが、鉄隕石もときおり回収されており、鉄・ニッケル・コバルトなどの備蓄は豊富である。
「それよりも人工魔結晶(マギクリスタル)の研究を進めたいと思っているんだ」
 魔結晶(マギクリスタル)は、今のところ隕石からはあまり発見されていないという。
 ユニーにも少ないため、生成には何か条件があるのかもしれないと仁は推測していた。
「ミティアナイトは隕石だったというのにな……」

 それとは別に、質の低い魔石(マギストーン)に、特定条件下で自由魔力素(エーテル)を作用させて人工魔結晶(マギクリスタル)とできないか、の研究を仁は進めたかったのである。
『そうですね。使い途がないほど低品質の魔石(マギストーン)を高品質の魔結晶(マギクリスタル)にできたら素晴らしいですね』
 魔結晶(マギクリスタル)の採掘量を1としたら、魔石(マギストーン)の採掘量は100。だが、そのうち使いものになる品質の魔石(マギストーン)は20ほど。つまり80の魔石(マギストーン)が廃棄されているのである。
 これを再利用できたら、というのが仁の目論見である。

『あとは、セルロア王国から依頼を受けているモノレールの試作計画を立てませんと』
「ああ、そうだな」
 とはいえ、仁の頭の中では構想は完成している。

「やっぱり、エルザとの結婚式をどうするかだなあ……」
 これが今のところ、最大の難問である。
 まず、挙式。蓬莱島で挙げるのか? それともエルザの故郷、ショウロ皇国で? あるいはカイナ村で?
 披露宴。これは、各国を巡る必要があるかもしれない。
「……悩むなあ」
御主人様(マイロード)、大変でしょうけれど、これもまた立場上……』
魔法工学師マギクラフト・マイスター』であり、『崑崙君』として各国に名を知られた仁であるからこその悩みである。

「先送りにしていい問題じゃないしな」
『挙式はともかく、披露宴に付きましてはエルザさんとご相談なさった方がよろしいかと』
「それもそうだな。この後相談してみよう」
『それに、できますればラインハルトさんにもご相談なさることを進言します』
「確かにな……」
 この世界での常識、特に貴族社会でのそれについて、仁ファミリーの中では1番詳しいであろうからだ。

 こうして、仁は昼時まで老君と会談をした。

*   *   *

 ローレン大陸は、クライン王国・エゲレア王国・エリアス王国・フランツ王国・セルロア王国、ショウロ皇国、さらにその西にあるミツホ国・フソー国という国々からなる。
 これに、滅んでしまった旧レナード王国が人間の住む国である。
 エゲレア王国はローレン大陸南東部にあり、その昔は、『ディナール王国』という大国の一部でもあった古い国である。
 更にその昔はというと、『魔導大戦』という、人類の生存圏全てに渡るような戦争を境に、記録が途絶えているのだ。
 その『魔導大戦』の少し前頃に『ディナール王国』が成立したことはわかっているくらいで、絶無、とまではいかないが口伝の類も少なくなり、文字で残る記録もほとんどないのが現状であった。

 それを遺憾に思い、研究している『歴史学者』『考古学者』も大勢……とはいえないが、存在する。
 そして。
「うーん、口伝の方は、そうしたものを伝えていたのが高位の魔導士だったのだろうと推測できるけど、文字による記録が残っていないのはなぜかしら」
『仁ファミリー』の一員、ヴィヴィアンもまた、そうした『空白期』の調査に乗り出していたのである。

 彼女が今回やって来たのはエゲレア王国の西部、ナカライ。周囲は緩やかな起伏の山である。
 ショウロ皇国の伝承を集めていた彼女であったが、それらの中に、魔導大戦前の国に関するものが一つだけあったのだ。

「『南なる土地、そは山に囲まれ、東に大きなる町を持つ』……ね。まったく、もう少し手掛かりがあってもいいじゃないの」
 ただそれだけの手掛かりを以て、彼女は小群国を渡り歩いていたのである。
 とはいえ、周囲を山に囲まれた町、というのは意外と少ない。
「東に大きな町がある、ということはそっちに大きい平野部があるわけよね……」
 蓬莱島謹製の地図で確認したところ、そのような場所は、ここエゲレア王国のナカライ周辺くらいしか見あたらなかったのだ。
 もちろん、当時は大きな町があって今は寂れている、という可能性もなくはない。
 だが、語り部としての勘が、このあたりではないかといっていたのである。

「この先はニカライ、そしてダイローか……地名からして、古い名前みたいね」
 響きからもヴィヴィアンは何かを感じ取っていた。
「デナン山……ね。鉱山もあるみたいだし、何か遺跡があったとしてもおかしくないわ」

「おーい、ヴィヴィアンさん」
 山を眺めて考えごとをしていたヴィヴィアンに声を掛けた者がいる。
「ああ、ルコールさん」
 禿頭、白い髭、グレイの目の老人である。
 市井の考古学者で、かつては洗脳されて統一党(ユニファイラー)の手先となっていたこともある人物だ。
 仁がラインハルトとエルザらと共に訪れた遺跡で出会い、洗脳を解かれた経緯がある。
 が、統一党(ユニファイラー)が目を付けたということは、それなりに優秀な証で、偶然ヴィヴィアンと出会い、意気投合してこの地にやって来ていたのである。

「ああ、ルコールさん、どうでしたか?」
「うむ、まったく手掛かりなしだ。そっちはどうだね?」
「こちらも駄目でした」
「ふうむ、次の町へ行ってみた方がいいかもしれんな」
「そうですね。明日はニカライへ行くとしましょう」

 ヴィヴィアンとルコール。この意外な組み合わせの2人は、この先に何が待つのか、まだ知らない。
 世界は一見平穏であった。
 いつもお読みいただきありがとうございます。

 20160228 修正
(誤)「生む、まったく手掛かりなしだ
(正)「うむ、まったく手掛かりなしだ
 orz

(誤)エゲレア王国はローレン大陸南東部にあり、(改行)その昔は、
(正)エゲレア王国はローレン大陸南東部にあり、(改行無し)その昔は、

(旧)絶無、とまではいかないが、
(新)その『魔導大戦』の少し前頃に『ディナール王国』が成立したことはわかっているくらいで、絶無、とまではいかないが

 20160308 修正
(誤)『そうだなあ、実験的に作ってみるのはいいかもしれないな』
(正)「そうだなあ、実験的に作ってみるのはいいかもしれないな」
 仁のセリフが『』だったのを「」に。
+注意+
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