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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

過去篇 肆 アドリアナの冒険

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021 出会いと別れ

「どうして……といわれても、昔から私たちはそうだった、としか」
 少し困った顔でレーベルトは答えた。
「そうですよ、アドリアナ殿。特別何かしているわけではないですので」
 バシャーコも口添えする。
「まあ、それもそうですよね」
 少し頭が冷えたアドリアナはそれ以上の追究を止めた。

「ごめんなさい。少し熱くなってしまったわ」
 謝るアドリアナに、レーベルトは無言で首を振って答えた。
「ところでここの魔導具だけど、一通り見せていただいたので、もう少し高度なものを見せていただけないかしら?」
 その言葉に、レーベルトはにっこりと微笑んだ。
「ええ、もちろんです。この部屋は我々の研究者なら皆解析できる程度の物しかおかれていませんから」
「そうなのですか。やっぱりこちらの方々は水準が高いですね」
(とはいっても、貴女みたいに数時間で全部解析を終えるような者はいませんけどね)と、小声で付け加えるレーベルトであった。

 レーベルトに案内されたのは更に奥の部屋であった。
「ここは我々のゴーレム関係が集められています」
「素晴らしいわ!」
 立ち並ぶゴーレムを見て、顔を上気させるアドリアナ。
「早速見せていただいていいかしら?」
「ええ、どうぞ」
 壊さないでくださいね、というのは彼女には無用の忠告であることを、この時点でレーベルトは悟っていた。

「まずはこれを拝見」
 レーベルトがアドリアナを見ていると、手前から、と思いきや、その1つ奥のゴーレムを調べ始めたではないか。
(なるほど、あのレベルはもう見る必要がないということですね)
 入口で停止している、アドリアナが連れて来たゴーレムをちらっと見て、相当高度なゴーレムだとわかっていた。
(内骨格のゴーレムを南の住人が完成させていたとは驚きだ)
 北の大陸に住む者として、レーベルトにもそれなりの矜恃があった。

 アドリアナはレーベルトがそんなことを考えているとは露知らず、喜々としてゴーレムの解析を行っていった。
「……あら、『魔素変換器(エーテルコンバーター)』じゃないわ。……これは……?」
「ああ、魔力素(マナ)を溜めておいて使うのね。魔力貯蔵庫(マナタンク)式というところね。でも稼働時間が短いでしょうね……」
「こっちは……魔導神経が細いわね……効率悪そう」
 既に2体目の解析に取りかかるアドリアナを見て、レーベルトは唸っている。
(ううむ、すごい……間違いなく我々の技術者より上だ……)
 経験が浅い点を除けば、理解力は群を抜いている。知識的に知らないこともあるのだろうが、それを補ってあまりある閃きと推理力。
(誰が名付けたのか『魔法工学師マギクラフト・マイスター』か……けっして大袈裟な呼称ではないな)

 それからもアドリアナは解析を続け、昼食時間までに5体のゴーレムを解析し終えていた。
「アドリアナ殿、貴殿は凄い!」
 昼食を摂りに移動する際、レーベルトは手放しで彼女を褒めた。
「ありがとうございます?」
 よくわかっていないアドリアナ。
 彼女が解析していたゴーレムは、『福音』の氏族でも指折りの技術者にしか整備できないような高度な物だったのである。

「ううむ、アドリアナ殿、貴殿を見くびっていたようだ」
 孫であり技術者であるレーベルトからアドリアナの作業ぶりを聞かされて、ハーキラーは唸った。
「午後はもっと高度な魔導具の保管庫へご案内しよう。レーベルト、頼むぞ」
「はい、任せてください」

 そんなわけで、昼食後アドリアナは洞窟の最奥部へと案内された。
 レーベルトが一緒で、バシャーコは付いて来ない。
「もう、私の出る幕ではないでしょう」
 彼は彼で、せっかくこの『福音』氏族領に来たのだから、ということでやることもあったようだ。
 後に聞いたところによると、氏族間の交流は基本的に行われていないとのこと。
 例外的に、『森羅』と『福音』とが、年1〜2回の情報交換をしている程度らしい。

 それはさておき、アドリアナは『福音』氏族の秘宝ともいうべき魔導具が眠る保管庫へと足を踏み入れた。
 自動的に灯る明かり。
「感知器が付いているのね。参考になりそう」
 さっそく、そんなところから解析を始めるアドリアナに、レーベルトは興味津々だ。
「ここをちょっと変えれば、魔力のない普通の人も検知できそうね」
「……そんなもの、何に使うのだ?」
「はい!?」
「……姉さん?」

 独り言を呟きながら解析を進めていたアドリアナの横に、いつの間にか女性が1人立っていたのである。どうやらレーベルトの姉らしい。
 髪色はグレイ、目も黄色と、弟と同じ色。但し髪の長さは肩まであるし、女性らしい体つきもしている。
「で、何に使うのだ?」
 独り言に突っ込まれたアドリアナちょっと面食らったが、すぐに我を取り戻した。
「えっと、いろいろ使い道はあると思いますよ」
「だから、具体的にはどうなのだ、と聞いている」
「そうですね、人が近付くと警報を鳴らすような保安装置とか、そうそう、人でなくても、動物を捕らえる罠にも応用できると思います」
「……ほう」
 アドリアナの返答に満足したらしい。
「ふむ、アドリアナ殿といったか。私はハサリース、レーベルトの姉だ」
「あ、よろしくお願いします」
「姉さん、いったい何をしに?」
 そこへレーベルトが割って入った。
「何をとお前が言うか。我が氏族秘伝の倉庫が開けられたというから見にやって来たのだ」
「そうでしたか。ならここで僕と一緒に見学しましょう」
「何を馬鹿な。技術者として、この機会を逃してなるものか」
 ハサリースは控えめなレーベルトに対し、随分と活発らしい。言いたいこともずけずけ言う。
「アドリアナ、ここの魔導式(マギフォーミュラ)はどうしてこうなっているのかわかるか?」
 既に呼び捨てである。が、アドリアナも嫌がってはいない様子なのは、顔つきでわかった。
「ええ。それは、こっちのエレメントをそっちの魔導接続基板(リンクボード)に接続する際の緩衝用だと思います」
「なるほどな……」
 打てば響くように答えが返ってくるこの作業に、アドリアナ以上に熱中していくハサリース。
 その様子を見て、レーベルトは小さく溜め息をついた。

 夕方まで、アドリアナとハサリースの共同作業は続いた。
「いやあ、アドリアナ、充実したひとときだった」
「こちらこそ、楽しかったわ」
 2人はこの作業を通じて仲よくなったようだ。

*   *   *

 出会いがあれば、別れもある。

「アドリアナ殿、私の役目は終わりました。明日朝、『森羅』氏族領へ帰ります」
『森羅』のバシャーコは、自分の役目は終わったと言い、帰る旨を告げた。
「いろいろとお世話になりました、バシャーコさん」
「それはこちらのセリフだ。氏族として貴女には感謝してもしきれない。もし縁があったなら、帰りにも立ち寄ってもらえると嬉しい」
「きっと、寄らせてもらいます」
 そんな会話を交わし、バシャーコは翌朝『福音』の氏族領を後にするのである。

 一方、アドリアナは、この先1年近くもこの『福音』の氏族領に寄寓することになるのであった。
 いつもお読みいただきありがとうございます。

 20160217 修正
(誤)ゴーレムを1台2台と数えていましたが、
(正)本作品では1体2体ですね。
+注意+
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