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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

過去篇 肆 アドリアナの冒険

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014 蔵の中

 夕食時、さっそくアドリアナは驚くことになった。
「こ、このグラスはいったい……?」
 透明度の高いグラスで飲み物が出された。
 水晶ではない、ガラスでもない。
 こっそり『分析(アナライズ)』したが、この魔法でも知らない物質はわからない、
 辛うじて、酸素とジルコニウム、それに微量のカルシウム、マグネシウムなどが含まれていることはわかっただけだ。
「はは、このへんでまれに採れる透明素材ですよ」
 バシャーコが教えてくれる。
 よく見ると、窓も同じ材質だ。
「所変われば、なようですね」
 素直にアドリアナは感心した旨を表す。
 そして、こちらへは勉強するために来た、と包み隠さず述べたのである。
「ほう、『魔法工学師マギクラフト・マイスター』ですと?」
 バシャーコは感心し、無口なサイトスも興味を示したのである。
「モノ作りに特化した魔法技術……興味深い」
「あなた、それでしたら村の保管庫を見せて差し上げたら」
 ザミアが口添えしてくれた。
「うむ、そうだな。だがあそこには祖先の秘宝も混じっておる。だからその前に、我が家の蔵を見せてやるとしようか」
「ああ、それがいいですわ」
 アドリアナの知らないところで話が進んでいく。
 どうやら、紹介状にはいろいろと書かれていたようだ。
「あ、ありがとうございます……」
 とだけ、答えたアドリアナであった。

*   *   *

「まあ見てください」
 アドリアナを案内したのは人当たりのいいバシャーコ。
 食事の後、屋敷の裏手にある蔵へと案内してくれたのである。
 重そうな扉を開けると、明かりが灯った。
自由魔力素(エーテル)による発光ですね」
 瞬時に理解したアドリアナ。
「ほう、そうなのですか」
 感心するバシャーコ。
 その様子を見て、アドリアナはおや、と思う。だが、口には出さなかった。
 蔵の中にあったものが彼女の興味を惹いたからである。
「すごい……!」
「どうです? 『森羅』の氏族長の家に代々伝わるものですよ」

 そこには、数々の魔導具が置かれていた。
 一般には『古代遺物(アーティファクト)』と呼ばれているものもある。
「手に取ってみていいですか?」
 アドリアナが尋ねると、バシャーコは頷いた。
「壊さないで下さいよ?」
 と、おどけた一言も添えて。
「ええ、もちろん」
 アドリアナも一言答え、まず一番手近な魔導具を手に取った。
「……すごい……細かな細工。手で彫ったのか、魔法で刻んだのか……」
 頬を紅潮させ、独り言を呟きながらためつすがめつ眺めるその様子を見て、バシャーコは苦笑しつつ、手近にあった椅子に腰を下ろした。

 アドリアナが手にしているのは単なる床置き型の魔導ランプなのだが、彼女が感心しているのはその作りであった。
「……やっぱり、意匠をこらす、というのも大事なのね……」
 アドリアナはデザインが少し苦手である。モデルがあれば、写実的なものを作ることは得意なのだが、オリジナルのデザインをしろと言われると悩んでしまうのだ。
「お父さまが仰ってたっけ。『よい物をたくさん見て、審美眼を磨くのが第一だ』って。……うん、ここでたくさんいい物を見て、鍛えるわ!」

 次に手に取ったのはやはり床置き型と思われる小さな魔導具だった。
「え、何これ。こんな小さくても暖房できるの……って当たり前か。ああ、あたしもまだまだだわ、暖房のイメージに囚われてるわ」
 目覚まし時計程度の大きさの暖房器具を見て、固定観念を払拭する重要さを再認識したアドリアナであった。

「これって……」
 今アドリアナが眺めているのは絵である。
 絵ではあるがゴーレムである。平面的なゴーレムといえばいいか。
 液晶テレビくらいの厚みがあり、立派な額縁に入っていた。だがゴーレムである。
「こんな考え方があるのね……見張りに使うのかしら?」
 人型だけがゴーレムではないと、アドリアナは心に刻み込んだ。

「これは面白い考え方ね……」
 それは球状の掃除機、といえばいいのだろうか。
 直径40センチくらいの球を部屋の中で転がすことにより表面に汚れを吸着し、『浄化(クリーンアップ)』に似た魔法でそれをきれいにする。
「自分で転がるようにしたら面白いかも……って、それならゴーレムに掃除させた方が早いかな?」
 とはいえ、時には遊び心も必要なのだ、と気付かせてくれる魔導具であった。

 それからも、アドリアナは一つ一つ手に取って、また手に取れないものは前から横から上から後ろから眺めて、研究心丸出しで分析していくのであった。
 バシャーコの声が掛かるまでは。

「……あー、アドリアナ殿、楽しそうなご様子、まことに結構ですが、もう夜も更けた。続きは明日にしませんか?」
 その声にはっと我に返ったアドリアナ。
「もうそんな時間ですか。……ありがとうございました。大変勉強になりました」
「それはよかった。また明日もご案内致しますので、今夜はもうお休み下さい」
「はい、ありがとうございます」

 ザミアに案内された部屋へと戻ったアドリアナ。
「ええと、部屋にお湯が用意されているって言ってたわね」
 こちらでは『風呂』の習慣がないらしいのだ。
 お湯で身体を拭くことが一般的で、お湯に浸かるのは年に数回、ということらしい。
「お湯がもったいない、というわけでもなさそうね。単なる習慣かしら」
 アドリアナとしては、シュウキほど風呂には拘らないので問題ない。
 上着を脱ぎ、身体を拭くと、疲れが一気に押し寄せてくる。
 その後お客用に用意された寝間着に着替え、布団に潜り込む。
 その布団が、何か動物の毛皮で出来ているらしいことを認識しかけただけで、アドリアナは眠りに落ちていったのだった。

*   *   *

 翌日も、朝食を食べるとすぐに『蔵』に篭もるアドリアナ。
 食事時間以外は、収蔵された魔導具の観察・解析に熱中。
 が、夕食の後は部屋に戻り、何ごとかを考えながら、メモをまとめていく。
 そんな日々が3日続いた。
 そして、4日目の朝、バシャーコが言った。
「アドリアナ殿、今日は村の保管庫にご案内しましょう」
 彼女が、収蔵された魔導具を壊したり盗んだりするような者ではないということをバシャーコから聞き、サイトスが許可を出したのである。
 いつもお読みいただきありがとうございます。
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