挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

過去篇 肆 アドリアナの冒険

1079/1479

011 さようなら/間奏1

 アドリアナはまだ少し余っていたステンレス鋼を用い、スプーンを5つこしらえた。
 村長一家用に、である。4人に1つずつ、そしてもう1つはお客用として。
 そしてそれらは、早速夕食で使うことになった。

「わあ、使いやすい! アド、ありがとう!」
「ほんと。それにピカピカしてきれいだわ」
 クルルとマルルは新しいスプーンとフォークを気に入ってくれたようだ。
 その笑顔を見て、アドリアナは作って良かった、と思った。
(……こういう笑顔をしてもらえるように、これからも頑張ろう……)
 このことはまた、将来のアドリアナの原動力にもなっていくのだ。

*   *   *

 夕食後、アドリアナは家長であるメウト、その妻バイセ、長女マルル、次女クルルに向かって頭を下げた。
「長い間お世話になりました。明日、旅立とうと思います」
 この発言にクルルとマルルは盛大に反応した。
「なんで? アド、行っちゃいやだ!」
「アド、何か気に入らないことあったの? あ、今日、2人だけでクラリーの実を採りに行ったこと? あれはね……」
「ううん、そうじゃないの」
 必死に弁解しようとするマルルを押し止め、アドリアナは微笑んだ。
「あたしは、やること、やらなきゃいけないことがあるの。そのために、もっと北へ向かわないといけないのよ」
「北へ……?」
「そう、北へ。そこにはきっと、あたしが欲しいものがある、はず」
 そう言ったアドリアナの顔は、クルルとマルルが今まで見たことがない、大人びた顔だった。
「アドの欲しいものって……?」
 辛うじてクルルは質問を口にする。
「あたしの欲しいものは、知識」
「なんのために……?」
 今度の質問はマルルから。
「お父さまが求め続けた夢を、あたしが叶えるために」
 そして一呼吸置いて、アドリアナは言葉を続ける。
「だからあたしは立ち止まらない。遙か高みを目指して、歩いて行く。それがあたしの目的」
「……」
「……そう、わかったわ」
「お姉ちゃん!?」
 マルルは母バイセゆずりの柔らかな笑顔を浮かべながら言った。
「アドには譲れない夢があるのね。でも、あたしたちのこと、忘れないでくれたら嬉しいな」
「もちろんじゃない! このお家で過ごした日々、クルルとマルルと遊んだこと、絶対に忘れないわ。忘れてたまるもんですか」
「……なら、いいわ」
「お姉ちゃん!」
 物分かりのいい姉に不満を言おうとするクルルを押し止め、
「クルル、お友達の夢を応援してあげようよ、ね?」
「お姉ちゃん……」
 今にも泣き出しそうな妹、クルルの頭を撫でる姉マルル。
「マルル……クルル……」
 アドリアナも、そんな2人のやり取りを見て、目に涙を溜めていた。
「……うん、お姉ちゃん。わかった。……アド、頑張って……」
 最後は消え入りそうな小さな声だったが、クルルもまた、アドリアナを応援する、と言ったのだった。

 その夜、アドリアナはクルルとマルルと一緒に眠った。

*   *   *

「アドちゃん、また来てね」
「アドさん、元気でな」
「アド、いつまでもあたしたち、友達だよ!」
「アド、アドのこと忘れないわ!」
「嬢ちゃん、いろいろと楽しかったぞ」

 海岸から船出するアドリアナを見送りに、村長一家と鍛冶屋の親方がやって来ていた。
 他にも、道ですれ違っただけの村人や、見知らぬ人たちまで。
「フォーク、ありがとうな」
「気を付けるんだよ」

「ありがとうございます! 皆さんも、お元気で!!」
 船の上から手を振るアドリアナ。
 ゆっくりと船は沖へと向きを変えていく。

「しかしたいした嬢ちゃんだったなあ」
「いったい何者なんだろうのう」
 そんな呟きを漏らす村人に向かって、クルルは大声で宣言する。
「アドは、あたしたちの友達だよ!」
 マルルは少し離れた場所で、小さくなっていく船影を見つめていた。
「アドの夢が叶いますように……」

 その日の海は青く澄み、波は凪いでいた。

*   *   *

「……だってさ」
 1冊目の日記を読み終えた仁は、顔を上げて一同を見渡す。
「先代は北を目指したんだね」
「……おそらくは魔族のいる大陸」
 サキとエルザが推測を述べる。
「だろうな」
 それはおそらく正解だろうと仁も同意した。
「寂しかったろうね、アドリアナさん」
 ハンナが少し悲しそうな目をしながら呟いた。
「そうですね、ハンナちゃん。お母さまは、そんな悲しみを背負われて、なお工学魔法を高めることを選ばれたのですね……」
 礼子が、ハンナの言葉に反応した。

「ジン兄、アドリアナさんは、どうやってスクリューの軸から水が漏れてくるのを防いでいたの?」
 エルザから質問が出た。
「マルシアさんもそこを解決できなくて苦労していたはず」
「ああ、そこか」
 仁は日記の後ろのページを示した。
「ここに図が出てるな。……なるほど、要するにスクリューを回すゴーレムのいる部屋、つまり機関室だな。そこだけは水が入ってくるようだ」
「え?」
「つまり、水漏れは機関室だけで完結するようにしてあって、その漏れてきた水は水属性魔法で排出している。最悪、ゴーレムたちは水中でも動ける構造のようだ」
 当時としては画期的だったのだろう、と思われる。
賢者(マグス)シュウキも、スクリューは知っていても水密をどうするかは知らなかったんだろう。それを先代は魔法を組み合わせてとりあえず解決していたんだな」
「……納得。さすが先代様」

「さて、2冊目を見てみるか」
 ペリド2にペルシカジュースを持って来てもらい、喉を潤した一同。
 仁は本棚から『2』と番号が振られた日記を取り出した。
 留め具を外し、ゆっくりと開いてみる。

『北を目指して3日目、大陸と大陸の接点ともいうべき場所に辿り着いた』
「……今でいうパズデクスト大地峡に、先代は辿り着いたみたいだな」
自由魔力素(エーテル)の濃度は倍くらいになっている。ゴーレムたちも力が有り余っているようだ。だが無理はできない。慎重に進むことにする』
 いつもお読みいただきありがとうございます。

 20160217 修正
(誤)4人に1つ、
(正)4人に1つずつ、

(誤)「マルル、お友達の夢を応援してあげようよ、ね?」
(正)「クルル、お友達の夢を応援してあげようよ、ね?」
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ