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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

過去篇 肆 アドリアナの冒険

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009 クラリー採り

 その日の午後は、クラリーの実を干す手伝いをして過ごした。
 干し終わった後、半月ほど前に干したものを食べさせてもらったが、なかなか美味しい。
 酸味が抑えられ、甘さが強調されているのだという。
 アドリアナは酸味のある果物が好きだが、こういった自然の甘味も大好きである。
「あ、美味しい!」
「でしょ? これ、あたしが採ってきたんだよ」
 胸を張り得意そうなクルルと、それを微笑ましく見守るマルルとバイセであった。
(家族……姉妹って、いいな)
 ちょっぴり羨ましく思ったアドリアナであった。

「明日、アドちゃんも行ってみる? 楽な場所もあるよ」
「その代わり、あまり沢山は採れないかもしれないけれど……」
 クルルとマルルからのお誘いに、
「うん、行く」
 アドリアナは即答した。
 野遊びは、幼い頃以来である。
 ふと、幼友達の顔が思い浮かんだ。
(バル君、フムンド君、ロロラちゃん……)
 声には出さず、名前を呼んでみる。
 思い出の中の友達は、相変わらず昔のままの姿で微笑んでいた。

*   *   *

 翌日、朝食を済ませると、非常用の干し肉と、収穫した実を入れる袋を持ち、アドリアナはクルル、マルルと共に山へ向かった。
 因みに、水はアドリアナが魔法で出せるから、と言ったので、最小の水筒を持っている。
 水は重いので、それだけでも行動が楽になる。
「でも、干し肉はなんで?」
 アドリアナが尋ねた。各自の背には、実を入れる籠の入った袋と水筒。袋には他に干し肉も入れてある。
「山を舐めちゃいけないからよ。足をくじいて歩けなくなることだってあり得るんだから」
「……ふうん」
 今のアドリアナには、中級までの治癒魔法を使うことができるので、足の捻挫や単純骨折なら治してしまえるのだが。
 確かに、アドリアナとはぐれてしまう可能性だってあるのだから、用心は必要である。
 なので干し肉と水筒は各自が持っているのだ。

「……ふう、ふう……ちょ、ちょっと、休もうよ……」
「アド、やっぱり慣れてないのねー」
「まだ半分も来てないのよ。……これでも一番近くて楽な場所を目指しているんだけど」
 クルル、マルルに比べ、アドリアナは絶対的に運動不足であった。

 休み休み歩き、お昼前にはなんとか目的地に辿り着いた3人。
 そこは、テーブル状になった岩山の上であった。
「……」
 ぐったりとするアドリアナ。
 クルルは元気にそこら中を飛び回ってクラリーの実を集め始めている。
 マルルはアドリアナを心配そうに介抱していた。
「アド、大丈夫?」
「……う、うん。……もうちょっとだけ、休ませて……」
 10分ほど休むと、なんとかアドリアナも復活した。
 それで、マルルはアドリアナに説明をする。
「これがクラリーの木よ。雄と雌があって、雌の木にしか実は生っていないわ。それからときどき虫が付いているから気を付けてね」
「うん、わかったわ」
 アドリアナは、虫のたぐいは平気である。後年、地底蜘蛛(グランドスパイダー)を蓬莱島の地下で飼っていたくらいだ。
「アドー、ほら、これだけ採れた」
 駆けずり回っていたクルルが籠を見せに戻ってきた。人の頭ほどの大きさの籠、その3分の1くらいがクラリーの実で埋まっていた。
「わあ、すごいわね」
 アドリアナはよっこらしょ、と立ち上がる。そんなところはシュウキ譲りなので少々おっさんくさい。
「ええと、あったあった」
 クルルの手が届かない高さに、まだまだクラリーが残っている。
「紫色の実は生で食べられるから食べてごらんよ」
 クルルが唇を紫色に染めながらそう言った。
「うん」
 言われたとおり、紫色に熟した実を口にするアドリアナ。
「あ、美味しい」
 甘酸っぱい味覚が口の中に広がる。3つ4つと続けざまに口に入れるアドリアナに、
「赤いのはまだ熟していないから酸っぱいのよ」
 とマルルが注意してくれた。
 確かめるため、1つだけ口にしてみたアドリアナは、
「あ、ほんとに酸っぱい」
 と言いつつも平然としている。彼女は酸っぱいものが大好きなのであった。
「アド、すごいね……」
「うん。あたし、ラモンの実も丸かじりできるよ?」
「ラモンがどんなものか知らないけど、酸っぱいものが好きだということはわかったわ……」
 マルルは感心するやら少し引くやら。クルルは遠くで実を集めていた。
 そのクルルが大声を出す。
「お姉ちゃーん! アドー! 来てごらーん!!」
「あら? どうしたのかしら」
「行ってみましょう」
 クルルの呼ぶ声に応え、2人はそちらへと向かった。
「どうしたの、クルル……あら」
 そこには大きなクラリーの木があり、薄い緑色をした細長い球状のものが沢山付着していたのである。
「野生のまゆだね」
「へえ、これが……」
 どうやら天然のかいこらしい、とアドリアナは思った。

 ところで、地球の蚕は野生では育たないという。クワの木に乗せても、色が白いのですぐ鳥に補食されてしまうし、腹脚(幼虫の腹部に付いている吸盤状の脚)の吸着力が弱いため、風が吹いただけで落ちてしまうというのだ。
 それが、このアルス世界では野生の蚕がいるようである。
 さらに蛇足であるが、『天蚕てんさん』……天然の蚕、と言われているのはカイコガではなくヤママユガの幼虫である。その繭をヤママユという。
 食べるのもクワではなく、クヌギ・クリ・ナラ・カシワなどである。その点も異なっていた。

「これ、沢山集めて糸を採ったりするの?」
 アドリアナが尋ねるが、クルルとマルルは首を横に振った。
「ううん、そんなことしないよ?」
「そうなの……」
「うん」
 シュウキもさすがに養蚕などは知らなかったため、アドリアナもそちら方面には詳しくない。
 この天蚕を産業にできれば、村の収入も増えるのだが、残念なことに、この場にそれに気が付く者はいなかった。

「それより、もっとクラリーの実を集めようよ」
「そうね」
 その後昼食として、干し肉とクラリーの実を食べたりして、3人は楽しく過ごした。
 そして帰路。
「……下るのも楽じゃないわね」
「山は下るときに怪我をしやすいから気を付けてね」
「うう……」
 やっぱりばてるアドリアナ。

 おまけに、クラリー採りから帰った翌朝。
「あいたたたたた……」
 今度は筋肉痛に悩まされるアドリアナであった。
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