挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

過去篇 肆 アドリアナの冒険

1069/1567

001 旅立ち

『敬愛する父、シュウキ・ツェツィを葬った私は、一人旅立つことにした。
 父がいない今、当分他人と関わり合いたくなかったのである。
 お伴は私が作り上げたゴーレム4体。作り上げた『船』で北上してみる』

*   *   *

 船で海を行くと、馬車に乗り陸を進むよりも、楽に距離を稼ぐことができる、とアドリアナは思った。
 道なりではなく、直線に近い道筋を選ぶことができるからだろう。
 休む際は海岸に停泊できそうな場所を見つけ、船を繋ぐ。決して薄暗くなるまで海の上にはいない。
 早め早めの行動が安全を保証してくれるのだから。
 それが、彼女が父シュウキとの旅で身に付いた行動規範だった。
 十分に明るくなったら海に出てまた北上。その繰り返し。
 なので1日の行動時間は6時間くらい。速度も、フルスピードは出さず、余裕を持った航行を心掛けている。
 食糧は、海で魚を獲ったり、海岸近くに生えている灌木の実を食べたり。干し肉や乾燥させたパンも少し持ってきているが、そちらは非常用だ。
 水は工学魔法『凝縮(コンデンス)』を使い、空気中の水分を凝結させて飲用にしていた。

「この水は、空気中の酸素や窒素、二酸化炭素、それに若干の埃を含むから、超純水じゃあないんだ、ってお父さまは言ってらしたっけ……」
 一人でいると、独り言を言う癖がつくようで、アドリアナも例外ではなかった。
 父シュウキのことを思い出すと、まだ涙がこぼれそうになるアドリアナ。
 そんな弱気の虫を押さえつけ、彼女は海の彼方を見つめた。

 北上するにつれ、自由魔力素(エーテル)濃度が上がるのだろう、魔法の効きがよくなっていく。
「この話はお父さまから聞いていたけれど、これほどの速度で北上しなければ、体感は難しかったでしょうね」
 時速50キロくらいは余裕で出せることに気付いたアドリアナだったが、強靱化(タフン)を掛けているにも関わらず、船体が保たないかもしれないことにも気付いてしまう。
「ちょっと強度不足かしらね」
 独り言に答えてくれる者はいない。お伴のゴーレムは、アドリアナの話し相手になるような指示は与えられていないからだ。
 だが、声に出すことで、自分に言い聞かせることができる、という面がある。口にした言葉を耳から再度取り込むことで、脳が活性化する……らしい。
 まだ昼前ではあるが、アドリアナは、船の改良のために一旦上陸することにした。砂浜を見つけ、接岸。ゴーレムが船を引き上げる。
「そのくらいでいいわ。Fー002は付いてきなさい」
「ハイ」
 ゴーレム1体に伴を命じ、アドリアナは補強材料を探しに出掛けた。

 幸い、浜から数百メートルのところに村が見つかった。ちょうど出会った中年の男性に、彼女は愛想よく挨拶をする。
「こんにちは」
「おや、こんなところに旅の人かね。……その後ろの人は?」
「はい、あたしはアドといいます。これは、Fー002。ゴーレムです」
「ゴーレム? 立派な物だな。お嬢さんは魔導士なのかい?」
 さほど驚かないところを見ると、ゴーレムのことを多少なりとも知っているのだろう。
「ええ、そうです。あの、こちらの村に、鍛冶屋さんはありますか?」
 金属材料が欲しいアドリアナである。
「ああ、小さいけど一軒あるよ」
 農具ならすきくわ、漁具ならもり、生活用具では鍋などを作ったり修理したりする関係で、人が集まって住んでいるなら鍛冶屋はなくてはならない職業である。
 そのため、この小さな村にも小さいなりに鍛冶屋は存在した。
「ありがとうございます」
 礼を言ってアドリアナは、Fー002を引き連れ、教えてもらった鍛冶屋への道を歩き出した。
 小さな村ゆえに、すぐに辿り着く。
 Fー002を表に待たせ、アドリアナは薄暗い工房をのぞき込んだ。
「こんにちは」
 ちょうど休憩時間だったらしく、初老の男がお茶を飲んでいる手を止め顔を上げた。この男が親方だろう。
「何か用かい?」
 初めて見る顔であるアドリアナを訝しげに眺める親方。
「ええと、私はアドっていいます。少し、鉄とか軽銀を分けて貰おうと思って」
「はあ?」
 見た目、いや、実際にも、まだ18歳という少女であるアドリアナの言葉を、呆れたような顔で鍛冶屋の親方は見つめた。
「あ、あたしは魔法工学師マギクラフト・マイスター……じゃない、『魔法工作士(マギクラフトマン)』なんです」
 シュウキに言われた『魔法工学師マギクラフト・マイスター』を名乗っても通じないだろうと思ったのだが、魔法工作士(マギクラフトマン)でも通じなかった。
魔法工作士(マギクラフトマン)? なんだい、そりゃ?」
 まだまだ世の中には認知度が低いのだなあ、とアドリアナは再認識する。
「ええと、魔法でものを作る技術者です」
 今度は通じたようで、親方は頷いた。
「ほう、お嬢ちゃんは魔導士なのか。それで物を作る? 初めて聞いたな、そんなやり方。何か作って見せてくれねえか?」
「いいですよ。何を作りましょうか」
「そうだなあ。今ちょうど、包丁の注文が入ったところなんだ。包丁を作って見せてくれるかい?」
「わかりました」
 アドリアナは、親方が出してくれた鉄の塊を手に取った。
「『変形(フォーミング)』」
「お、おお!?」
 工学魔法の中で、最も重宝する魔法をいくつか挙げるとしたら、1つは間違いなくこの『変形(フォーミング)』であろう。
 手作業の数十倍、もしかしたら百倍以上の速さで材料を目的の形状にしてしまうのだから。しかも、無駄を出さずに。
「これでどうですか?」
 十数秒で包丁の形が出来上がった。これを熱処理して柄をすげ、刃を研げば包丁の出来上がりだ。
「すごいな、お嬢ちゃん! 魔法工作士(マギクラフトマン)ってえのはてえしたもんだ」
 親方は目を丸くしたあと、手を打ち鳴らして高笑いをした。
「からかっているのかと思ったが、こんな見事な技を見せられちゃあ黙ってられねえ。何が欲しいって?」
「ええと、鉄が少しと、できれば軽銀を」
「ほう。鉄は……屑鉄でよけりゃあ、裏に転がっているのを好きなだけ持っていっていいぜ。軽銀は……うちにはねえなあ。済まん」
 小さな村である。高価な軽銀を使う機会など早々はないのだろう。
「ありがとう、親方さん」
 工房の裏口から外を見たアドリアナは、必要とする量は十分にあることを確認した。
「じゃあ、これだけいただいていきます。ええと、お代はいくらでしょう?」
「屑鉄だし、見事な技を見せて貰ったからな。金はいらねえよ。だが、随分多いな。1人で持って行けるのかい?」
「ええ、大丈夫。この子がいますから」
 アドリアナは表に待たせておいたFー002を手招きした。
「お、おお!? こいつは、ゴーレムってやつかい!?」
「ええ、そうよ。あたしが作ったの」
「なんと! お嬢ちゃんが? すげえんだな、その『魔法工作士(マギクラフトマン)』ってえのは」
「ええ、もっと南の方で講義が開かれているんですよ」
 だが、この『講義』という意味がわからなかったようだ。
「こうぎ? ってなんだ?」
 アドリアナは少し考える。
「ああ……あのね、えーっと……要するに師匠が沢山の弟子を取って教えてるんです」
 これなら通じたようだ。
「ほう。……しかしそんなに沢山の弟子がいたら、1人に掛かる時間が短くなっちまわないか?」
 よくも悪くも徒弟制度的な考え方である。
「そのへんはよくできていまして、最初のうちは全員が同じことを学ぶから、かえって効率がいい面もあるんです」
「ほう。そんなものなんかね」
 そこで親方はよっこらしょ、といいながら立ち上がった。そろそろ休憩を終えて仕事に掛かるらしい。
「面白い話を聞かせてくれてありがとうよ、嬢ちゃん」
「あたしこそ、鉄をありがとうございます。……そうだ、残りの屑鉄、まとめておいてあげますね」
 アドリアナは必要な屑鉄とそれ以外をゴーレムFー002に分けさせると、
「『融合(フュージョン)』」
 工学魔法でそれらを1つにまとめてしまった。
「な、な……」
 顎が外れそうな程に口を開けてそれを見ている親方。
「ついでに『変形(フォーミング)』」
 不定型な塊は、使いやすそうな鉄塊となる。
「……」
 最早言葉もない親方。
 アドリアナは自分が貰った分の屑鉄も同じように一塊にし、それをFー002に運ばせる。
 そして振り返って一言。
「それじゃあ親方さん、ごきげんよう!」
 意気揚々と浜辺へ戻るアドリアナであった。
 いつもお読みいただきありがとうございます。

 20160207 修正
(旧)当分他人との関わり合いはしたくなかったのである
(新)当分他人と関わり合いたくなかったのである

(旧)船体が保たないかもしれないことにも気付いてしまう。
(新)強靱化(タフン)を掛けているにも関わらず、船体が保たないかもしれないことにも気付いてしまう。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ