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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

過去篇 参

1065/1475

23 完成

 2355年、4月8日。
 アドリアナ・バルボラ・ツェツィは15歳になった。
 そして。
「お父さん、ついにできたよ!」
「おお、そうか! やったな、アド!!」
 アドリアナとシュウキがこの1年間取り組んでいた課題。
 それは、『ゴーレムや自動人形(オートマタ)の『基礎制御魔導式(コントロールシステム)』について』。
 今までは、ゴーレムや自動人形(オートマタ)は、製作後に動作を教え込むことが一般的であった。そう、人間の赤ん坊のように。
 しかし早い段階で、シュウキ門下の魔法工作士(マギクラフトマン)たちは、独自の基礎制御魔導式(コントロールシステム)を構築するすべを学んでおり、一から教え込まずとも済むような技術を会得していた。
 立つ、歩く、止まる、座る、等の基本動作に加え、腕を上げる、腕を下げる、足を蹴り上げる、走る、殴る、持ち上げる、物を投げる、などの基本的な応用動作まではデフォルトでできるのだ。

 しかし、アドリアナが『できた』と言った内容は、次元が異なる。
『ほぼ』完成したゴーレムの基礎制御魔導式(コントロールシステム)を移し替える方法だ。
 その方法はといえば。
「実際に稼働しているゴーレムの『基礎制御魔導式(コントロールシステム)』を読み取るのだな?」
「うん。『知識確認(リードインフォ)』だと一瞬すぎるんで、新しく工学魔法を作ったの。『読み取り(デコンパイル)』と名付けたわ」
「なるほど。それを見ながら『書き込み(ライトイン)』していくというわけだな」
「そう。でね、その時、複数の制御核(コントロールコア)に同時に書き込んでいくのよ」
書き込み(ライトイン)』の手間は、1個でも100個でも変わらない。ただ消費魔力が個数に比例するだけである。
 アドリアナであれば、300個くらいの制御核(コントロールコア)に余裕で『書き込み(ライトイン)』することができた。
「とりあえず、100個くらい作っておけば、作業が楽よね」
「そうだな。これは大きな前進だ」
 効率が数十倍になるというのは大きい。
 また、時間を掛けて丁寧な仕事をすれば、ワンオフの特別仕様だってできるのである。

 これを切っ掛けに、ガラクロの町は『ゴーレムの町』とも呼ばれるようになった。
 すなわち、ゴーレム産業が盛んになったのである。
 シュウキの弟子たちの半数近くはゴーレム技術者となり、様々なゴーレム作りを行い始めた。
『ゴーレム技師(エキスパート)』という呼称ができたのもこの頃である。

『至高のゴーレム技師(エキスパート)』と呼ばれたのは、シュウキの弟子、カーラであった。
 彼女はこの町に来てからめきめきと頭角を現し、周辺の町、いや、首都カルナグにまでその名は知られるようになった。
 そして、アドリアナはというと。
「お父さん、具合はどう?」
「ああ、今日は随分と楽だよ」
「そう、よかった」
 最近体調の優れないことが多いシュウキを助けることを第一にしており、名誉は全てカーラのものになっていた。
 しかしアドリアナは一向に気にしていない。
「まだ、あたしの目指す場所は遙かに遠いもの」
 そう公言してはばからないアドリアナであった。

*   *   *

「うーん、やっぱり、『読み取り(デコンパイル)』と『書き込み(ライトイン)』を1つにまとめるためには、何かが足りないのよね」
 アドリアナは、日夜その問題に取り組んでいた。
 この2つを同時に行うことができれば、術者の負担は劇的に軽くなるのだ。
 だが、さすがのアドリアナにも、それはまだ実現できていない。
「やっぱり『読み取り(デコンパイル)』と『書き込み(ライトイン)』の間に何か挟む必要があるのかなあ……」
 その発想は正しい。
 コンピュータでいえば『インターフェース』に該当する部分である。
 シュウキの時代にはまだまだ夢の技術であったから、『インターフェース』の概念を教えることもできず、アドリアナが知らないのも無理はない。
「うーん、『読み取り(デコンパイル)』したものをそのまま『書き込み(ライトイン)』できないなら、できる形式にすればいいのよね……」
 こうして悩むこと数日。
「どうしても、『読み取り(デコンパイル)』した魔導式(マギフォーミュラ)を『書き込み(ライトイン)』できないなあ……」

 そんな彼女を心配したシュウキが、別方面からのアドバイスをした。
「アド、行き詰まった時は視野が狭くなっているから、一時的に別のことをしてみると、解決策を思いつくことがあるんだぞ」
 アドリアナにも、父シュウキが心配してくれていることがわかっていた。
「うん、お父さん。ありがとう」
 アドリアナは素直にシュウキのいうことを聞き入れ、シュウキと一緒に散歩に出掛けることにした。

 疎林に分類されるような、樹木がまばらな林の中を縫うように付けられている散歩道を歩く2人。
「なあアド」
「なに? お父さん」
「お前ももう15歳だ。その……好きな人とか……いないのか?」
 聞きづらいことを聞くシュウキの声は言い淀んでいた。
「いるよ?」
「何! だ、誰だ!?」
 一気に声のトーンが上がるシュウキ。
「お父さんよ」
 そしてその答えに、がっくりと肩を落とした。
「お前なあ、小さい頃ならともかく、15にもなって……」
 その言葉が終わる前に、アドリアナは立ち止まり、シュウキを真っ直ぐ見つめて言った。
「あたしが養女だってこと、知ってるよ」
「何だって?」
 それはシュウキにとって青天の霹靂であった。
「もうずっと前。あたしが9歳か10歳の頃から。お父さんたちが話をしているのを聞いちゃったんだ。あたしの生まれた村がどんなことになったのかも知ってる」
「お前……」
 アドリアナはふわり、と優しい微笑みを浮かべながら頭を下げた。
「お父さん、ありがとう。あたしを助けてくれて。ありがとう、娘にしてくれて。ありがとう、育ててくれて」
「アド……」
 顔を上げたアドリアナの目には涙が光っていた。
「ありがとう、『娘』として愛してくれて」

「そう、か。知って、いたのか……」
 少しだけ寂しそうに笑うシュウキ。
「私はな、アド……」
「うん、わかってる。あたしの名前を貰ったアドリアナさんのことを、お父さんは今でも愛してるってこと。でもね」
 そこで言葉を切ったアドリアナは、頬を染めながら言葉を紡いだ。
「お父さんも、もっと幸せになってほしいの。ううん、一緒に幸せになりたいの。父と娘、じゃなしに」
「アドリアナ……」
 そこまで言うとアドリアナはくるりと身を翻した。
「えへへ、やっぱり疲れてるのかな。こんなこと、打ち明けるつもりじゃなかったのに。この想いはずっと心の中にしまっておくつもりだったのに」
 そして、シュウキに顔を見せないよう、顔を背けたまま腕を組んだ。
「今言ったこと、忘れて。あたしはいつまでもお父さんの娘でいいや。ずーっと一緒にいるからね。お嫁になんか行かないよ」
 ぎゅっとシュウキの腕にしがみつくアドリアナ。
 2人はそうしたまま、散歩を続けるのであった。

*   *   *

 そして3日後、ついにアドリアナは『知識転写(トランスインフォ)』を完成させたのであった。
 いつもお読みいただきありがとうございます。
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