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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

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21 折り鶴

『最近、体の不調が酷くなってきた。私もどこまで行けるかはわからない。だが、行けるところまでは行こうと思う。それが、妻アドリアナとの約束だから』

*   *   *

 2353年。
 アドリアナは13歳になった。
賢者(マグス)』シュウキ・ツェツィは首都カルナグを発つ準備をしていた。
「お父さん、こっちは準備できたわよ」
「ありがとう、アド。こっちもこれで終わりだ」
 彼等は『工学魔法』布教のため、更に北を目指す予定だ。
 今回、付いてくる弟子は3名。

 フェスミーフェ。工学魔法と治癒魔法、双方をこなす。
 ハケリー。有望な治癒魔法使い。
 カーラ。工学魔法に抜きん出た才能を見せる女性。
 いずれも30代半ばの、実力ある弟子たちだ。

「お師匠様、お名残惜しい」
「お師匠様、どうかお元気で」
「お師匠様、お教えは必ずやこの地に広め、根付かせます」
「お師匠様、またいつか、お会いできますように」
「お師匠様、この御恩は生涯忘れません」
 古くからの弟子、リーベスラウ、ロットラオ、テンペス、ダルサムト、アロンドといった面々はこの地に残り、シュウキの教えを受け継ぎ、広めていくことになった。

 旅立ちは春4月。
 国王ガルドレイク・ドラゴル・レナードから贈られた馬車2台に分乗し、一行はゆるゆると首都カルナグを発ったのである。

「ねえお父さん、それ、何?」
 馬車の中では、シュウキが何ごとかをやっており、アドリアナがそのことについて質問していた。
「これか。これは……ほら!」
「わあ!」
 それは『折り鶴』であった。シュウキが唯一折れる『折り紙』である。
 これまで、紙といえば皮紙で、厚みが2ミリ以上もあったので、とてもではないが折ることなどできなかったのだが、この皮紙は改良されたものでとても薄く、折り紙に使うことができたのである。
「お父さん、すごーい!」
 尊敬の眼差しでシュウキを見つめるアドリアナ。
 その日から、この折り鶴は彼女の宝物となった。

*   *   *

 彼等が次に定住したのはガラクロの町。
 ここは国王の従弟が統治する町で、かなり規模も大きく、栄えていた。
「ほう、ここはいい町だな」
 シュウキが声を上げた。というのも、町中に緑が多かったのである。
「街路樹、か……」
 ガラクロの町は、かなり海寄りにあるためか降水量も多く、緑が育ちやすいのだろう、とシュウキは思った。
「綺麗な町だね、お父さん」
 空気も、心なしか湿り気を帯びており、これまで過ごしてきた内陸の町とは明らかに違っていた。
「そうだな。海も近いらしいぞ」
「見てみたい!」
 シュウキはともかく、アドリアナは、まだ『海』というものを見たことがなかったのだ。
「そうだな、落ち着いたら2人で行こうか」
「うん!」

*   *   *

 国王からの紹介状があったので、住居はすぐに決まった。
「わあ、広いね」
 シュウキ父娘と、弟子3人が住むには十分すぎる広さがあった。これも国王の紹介状が持つ威力であろう。
 家、というより屋敷は3階建てであったので、シュウキ父娘は2階、弟子たちは3階に住むことにした。
 そして1階は工房と教室にする予定。
 もっとも、教室の方は人が増えてきたらどこか適当な場所を借りる予定であるが。

 多くない荷物を片付けながら、アドリアナが少し寂しそうな声でシュウキに話しかけた。
「ねえ、お父さん。転移門(ワープゲート)、残念だったね」
「ああ、そうだな」
 転移門(ワープゲート)を作るには、品質のよい全属性の魔結晶(マギクリスタル)が必要である。
 動作ではなく、2地点を結ぶために必要なのだ。
 この品質が悪いと、遠く離れた2点間を結ぶことができないのであった。
 だが、鉱物資源に恵まれたレナード王国といえども、その要求を満たすような魔結晶(マギクリスタル)は稀少であった。

転移門(ワープゲート)があれば、カルナグやユルガノ、それに……シャイア町にいつでも行けるのにね」
「うむ」
 アドリアナにとって、物心ついた時に住んでいた町……当時は村……であるシャイア町はやはり懐かしいのであろう。
「あたし、もっともっと頑張る。頑張って、転移門(ワープゲート)の性能を上げて、使いよくしてみせる。あ、もちろん、他の魔法工学も頑張るから!」
 そんな愛娘の頭を、シュウキは優しく撫でた。
「はは、アドリアナは努力家だな。だが、忘れてくれるなよ、私が一番嬉しいのは、お前が幸せでいてくれることなんだからな」
「ありがとう、お父さん。でも、あたしの幸せは、お父さんの役に立てることだから」
「そうか、ありがとうな。でもな、親としてはお前がいい人見つけて結婚してくれるのも嬉しいんだが」
 冗談めかして言うシュウキに、アドリアナも笑って答える。
「それならお父さんと結婚する! そうすればいつも一緒にいられるよ!」
「はは、確かにそうかもな」
 シュウキも笑う。新居に2人の明るい笑い声が響いた。

 翌日には、『賢者(マグス)』シュウキ・ツェツィの評判を聞きつけた入門希望者が現れた。
 その数、ざっと20人。
 いずれも、かなりの魔導士で、嬉しい悲鳴である。
 さっそく教室に使える家を探すことになった。
 そして、それもまた、国王の紹介状により、1日で見つかる。
 シュウキたちの家の隣に。
 これもまた、『賢者(マグス)』ゆえの優遇措置らしい。
「まあ、苦労せずに済んだからいいかな」
「そうだね、お父さん」

 翌日から、本格的な『賢者(マグス)』の講義が始まった。
 集まってきた者は20人どころか、その倍以上の50人超。
「まず、初めに言っておこう」
 50人を超す魔導士たちに向かって、シュウキが話し始めた。
「私は魔導士ではない。知識を伝えることしかできぬ。実践は私の弟子、そして娘のアドリアナが行う。このことに不満があるものは、明日から来なくてもよい。何なら、今から退席して貰ってもかまわない」
 だが、誰一人として席を立つ者はいない。シュウキは満足げに頷くと、言葉を続けた。
「よろしい。ではまず、魔法工学について述べる。この体系は……」
 シュウキ・ツェツィ、新たな弟子教育の始まりであった。
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