挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

05 旅路その1 エリアス王国篇

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

106/1686

05-15 街巡り

 翌日、朝食を済ませると、今度こそ仁達はすぐに街へと繰り出した。

 首都ボルジアの街構成は3層構造になっている。
 中心はもちろん王城。エリアス王、ブリッツェン・スカラ・エリアス12世の居城があり、閣僚が住む。政務はここで行われている。
 その王城を取り巻く1層目は、堅牢な城壁の外側に広がる貴族街。首都における各貴族の別邸があったり、高級な商店が軒を連ねており、これもまた外側を城壁で囲まれている。
 2層目は貴族街城壁の外にある庶民街。裕福な商人、腕のいい職人、大衆向けの商店などがある。
 3層目が庶民街の外側に広がっている農場。農業を営む者の居住地や、庶民街に住めなかった者達の居住地がある。

 今、仁、礼子、エルザ、そしてラインハルトは王城の外、貴族街を2頭立ての屋根無し軽馬車で進んでいた。見晴らしはいいが少々埃っぽいのが難点である。
「どうだい、ジン?」
 埃っぽいのはさておき、見る物全てが珍しいというように、さっきから仁はきょろきょろしっぱなしである。どう見てもお上りさんだ。
 まあ、この世界に召喚されて初めての貴族街、無理もない。
「あ、ああ、なかなか見所があるな」
「そうだろう? ここの建物は、魔導大戦前からある物が多い。大戦で人口は減ったが、戦火に巻き込まれなかった分、この国には古い建物が多く残っているのさ」
 地球で言うと、ゴシック様式のようなものであろうか。石造りで、尖った塔が多数建っているのが特徴的だ。装飾過多に見えなくもない。
 ただ、全体に古びているので、その一見多すぎる装飾もその主張を弱め、全体的にバランスが取れているとも言える。
 仁がそう感想を述べるとラインハルトは感心して、
「うん、ジンはいいところを突くな。僕も同感だ。大戦後の建築は実用本位になって実に味気ないと言われている。それに比べると様式美とも言えるこの建築は……」
 そこまでまくし立てたラインハルトは、エルザの睨むような視線に気が付いた。昨日の今日、ラインハルトは口を噤む。
「まずは仕立屋へ行くとするか」
 ラインハルトはそう言って、御者に命じる。御者は巧みに馬車を操り、大通りから角を一つ曲がった仕立屋の前に着けた。
「さあジン、下りてくれ。レーコ嬢も」
「え? 俺は仕立屋に用はないんだが」
 だがラインハルトはまあそう言わず、といって仁をその仕立屋に連れ込んだ。

「これはラインハルト様、ようこそおいで下さいました」
 すぐに主人が出て来て挨拶した。
「ああ、1日遅れたが来たよ。出来てるか?」
「はい、出来ております。お召しになられるのはこちらの方ですか?」
 主人は、ラインハルトの隣に立つ仁を見てそう言った。ラインハルトはそうだ、と頷く。
「それでは、こちらへいらして下さい」
 仁を奥へと連れて行こうとする主人。
「お、おい、ラインハルト」
「まあいいから、付いていってみろよ」
 そう言われて、仁はわけがわからないまま奥へ。

*   *   *

「おい……これ」
 しばらくして出て来た仁は、見事な上着を着ていた。
 元々、仁の服装は、黒いズボンに白いシャツ、ベージュ色のベストという、平均的な庶民の物だった。
 まあ素材はいずれも地底蜘蛛(グランドスパイダー)の糸で織られている時点で家一軒買えるくらいの価値があるので、どこが平均的かと突っ込まれそうではあるが。
 それは置いておいて、今仁は、その平均的な庶民の服装の上に豪華な上着を着ていたのである。
「お父さま、良くお似合いです」
 礼子が褒めたそれは、色はわずかに紫がかった濃いグレーで丈は膝の上くらいまであり、大きな襟がついている。飾りボタンは銀色。刺繍で『J』の飾り文字が胸部分に施されていた。

「僕からの贈り物さ。標準的な魔法工作士(マギクラフトマン)が着ている上着だ。それを着ていれば、一応他の貴族の前に出ても失礼にはならない」
 これからの旅、道中で役に立つだろう、と言う。
「もうすぐ春とは言え、北上するから寒くなるしね」
 そう言ってラインハルトは締めくくった。そこまでいわれては、仁も素直に受け取るしかない。
「わかった。ありがとう、ラインハルト。でもよくサイズがわかったな」
 そう口にしてから仁は、言わずもがなだと思った。ラインハルトも一流の魔法工作士(マギクラフトマン)である。外見から服のサイズの見当を付ける位できるだろう。
「と、いうわけで、さあ、いよいよ本格的に街を見て回ろう!」
 ラインハルトの先導で、馬車には乗らず、2つ隣の宝石商へ入る一行。

 宝石商では、一般的ないわゆる宝石の他に、魔結晶(マギクリスタル)を使った宝飾品も扱っているので、エルザも仁も楽しめるだろうとの配慮だった。
「へえ」
 現代地球と違ってショーケースは無かったが、豪華に飾り付けられた棚には原石、裸石ルース、そして加工品が並べられていた。
 デザインが苦手な仁は、気に入ったデザインを記憶に留めると共に、こっそり礼子にデザインを憶えていてくれ、と頼んでおくのも忘れない。
「ああ、この石はいい色だなあ、エルザの目の色そっくりじゃないか」
 そんな中。並んでいる裸石ルースの中にあった水色の石に目を留めた仁。少し離れた所で別の棚を見ていたエルザが振り向く。
 親指大のその石は薄い水色で、角度によって深い青色を見せる。楕円形のいわゆるカボッションカットに成形されており、ペンダントヘッドにでも使えそうだ。
「どれどれ、ほう、これはいいな」
 仁の肩越しにのぞき込んでそう呟いたラインハルトは、店主を呼ぶと、その石を買う旨を告げた。
「これはこれはお客様、お目が高い。この水石アクアマリンは、かのレナード王国から輸入した物ですよ」
 そう言いながら店主は魔導式(マギフォーミュラ)の書かれた手袋をはめて、その石をつまみ上げた。
 なるほど、と仁は胸中で納得する。ショーケースに入っていなくとも、結界で保護してあるので一般人は手を出せないことを知ったのだ。
 結界に対応する魔導式(マギフォーミュラ)を書き込んだ手袋かそれに類する物がないと、棚の上の石には触れられないわけである。
 まあ、棚に施してある結界を圧倒できるような魔力があれば別。つまり、仁や礼子なら可能と言うことだ。そんなことはしないが。
 代金は12万トール。即金で払ったラインハルトは、
「もうすぐエルザの誕生日だからな」
 そう言って包装されたそれを大事そうに内ポケットにしまった。

 次に訪れたのは魔導具店。
 エルザが渋い顔をしないかと心配した仁だったが、さっき自分の誕生日が近い、といいながらラインハルトが買った水石アクアマリンの効果か、何も言わなかった。
「ふんふん、なかなか凝った作りをしているな」
 仁は明かりの魔導具を眺めていた。そしてふと、ブルーランドで出会った魔法工作士(マギクラフトマン)の少女、ビーナのことを思い出していた。
「なんとなく魔導式(マギフォーミュラ)の使い方に類似性があるな」
 そう思いながら製作者を見ると『グラディア・ハンプトン』と書かれていた。
 確か、ビーナが師事した魔法工作士(マギクラフトマン)だったっけ、と思い、そばにいたラインハルトに、
「この魔法工作士(マギクラフトマン)知ってるか?」
 と聞いてみたところ、
「『グラディア・ハンプトン』? ああ、そこそこの物は作るが、今一つ突き抜けた所のない魔法工作士(マギクラフトマン)だな」
 と、やや辛口の評価が返ってきた。
「それより、これを見てくれ。こいつをどう思う?」
 ラインハルトが示したそれに仁は見覚えがあった。冷蔵庫である。
「…………」
 どう答えるべきが仁が長考していると、ラインハルトが先に自分の意見を口にする。
「なかなかのアイデアだと思うよ。魔力源を魔結晶(マギクリスタル)ではなく魔石(マギストーン)で済ませているところなんか、大したものだと思う」
「まあ、な」
「なんだ? ジンらしくない煮え切らない返事だな? 見ろよ、多分この部分に氷を作って、中のものを冷やすんだろうな。で、1度氷を作ってしまえば、その氷が溶けてなくなるまでは動作しなくて済むんだ。なかなか考えているじゃないか。一つ買って帰りたいよ」
「あー、うん」
「本当にどうした? でもな、何で上に魔導装置(マギデバイス)を設置したんだろうな? 下に設置した方が大型化したりしやすいのに」
「ああ、冷たい空気は重いから下へ沈むんだよ。だから冷却部は上にあるんだ」
 咄嗟に仁がそう答えると、ラインハルトははっとした様な顔になって、
「ジン、もしかしたらこれ、君が?」
 と尋ねてきたので、仁も誤魔化しきれずに、そうだ、と答えたのである。
 ここにまで売れてきていました、冷蔵庫。
「それより、これを見てくれ。こいつをどう思う?」と書いて、例のフレーズを続けたくなったのはここだけの話です。
 お読みいただきありがとうございます。

 20130617 16時50分
 誤記修正
(誤)デザイン苦手な仁は
(正)デザインが苦手な仁は
「が」が抜けていました。


 20131021 11時33分
 エリアス国王の名前をフリッツからブリッツェンに。フリッツだとエルザの兄と同じなので。

 20131022 11時15分
 エリアス国王の名前から『ド』を取りました。王族は付けません。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ