挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

29 世界会議と賢者の足跡篇

1054/1479

29-19 夢への挑戦

「ほう……」
「これは、興味深い」
「これはすごいや!」
 既にラインハルトやエルザ、ビーナたちが来た時に行った擬装で十分なのだが、地下室の転移門(ワープゲート)だけは見せるわけにいかないので、事前に封印してあった。
 そんなダミー研究所である『館』を今、数名の男女が興味津々で見て回っている。
 食堂、工房、居間。
 特に工房は客たちの注目の的であった。
 その筆頭はエゲレア王国第3王子のアーネスト。彼の婚約者であるクライン王国の第3王女リースヒェンは、意外なことにアンにべったりくっついている。
 いや、意外ではないのかもしれない。乳母であったティアと同型……正確にはロットが異なり、実際に姉妹機であるのはレファなのであるが……なアンが気になるのであろう。
「こんなところで魔法工学を勉強できたらなあ」
 無邪気にそんな呟きを漏らすアーネスト。
「アーネスト殿は、ゴーレムがお好きでしたね」
 そんな彼に話しかけたのはショウロ皇国女皇帝であった。
「あ、陛下。はい、ゴーレムや自動人形(オートマタ)は大好きです!」
「ふふ、そんなところはジン殿と相通じるものがありそうですね」
 女皇帝はそう言って柔らかな笑みを浮かべた。

「ねえジン、僕に工学魔法を教えてくれないかな?」
 唐突に、アーネストはそんなことを言いだした。
「え?」
「1週間でもいいから、ジンに教えてもらいたいんだよ……」
「……」
 とはいうものの、アーネストは王族であるし、今ここで仁が承諾するわけにもいかない。
「アーネスト殿、ジン殿が困っていますよ? そういうことはまず、お父上に了解を取ってからお願いするのがよろしいでしょう」
 またも女皇帝がフォローしてくれた。
「……うん……はい、そうですね。わかりました」
 アーネストはおとなしく引き下がった。
「ジン、父上にお許しをもらえたら、教えてよね!」
「あ、はい」
 そうまで言われては、仁も頷くしかなかった。

*   *   *

『シャーク11』と『シャーク12』が倒した凶魔海蛇(デス・シーサーペント)を引きずるその横を、客たちを乗せた『シャーク10』が並走していた。
「しかし、こうしてみると壮観ですな」
「マキナ殿、凶魔海蛇(デス・シーサーペント)はどんな素材になるのです?」
「そうですね、骨は丈夫なので剣や大型ナイフの柄になります。牙は更に丈夫ですので同様に使われます。肉は臭くてまずいので誰も食べません。焼却することになりますね」
 マキナが説明すると、皆興味深そうに耳を傾ける。
「皮は弾力があって丈夫なので、革鎧や剣の鞘、珍しいところではエリアス王国のポトロックで『ベルト』という船の部品になっています」
「おお、マルシアの工房で作られている水車船ですな」
 同乗していたエリアス王国のゴドファー宰相が我が意を得たりとばかりに発言した。マキナも話を合わせる。
「ああ、そうでしたね。ジンが部品加工して卸しているそうです」
「おお、そうなのか」
 そこまで詳細な情報は知らなかったようだ。宰相の立場では無理もない。
「素材としては中の上といったところですね。日常的な用途なら十分すぎるレベルです」
 マキナがそう言うと、ゴドファー宰相がいささか呆れた顔で言う。
「いや、この凶魔海蛇(デス・シーサーペント)を中の上などというのは君らくらいだよ」
「まったくだな」
 セザール王も同意を示した。
「そんな貴公らとはずっと仲良くしていきたいね」
 そう言ったのはアーサー王子である。
「ええ、私も争いごとは嫌いです。世界が平穏で、好きな魔法工学の研究ができればそれで満足なのです」
「おや、ジン殿と同じ意見ですか」
 フランツ国王、ロターロが興味深そうに言った。
「ええ。俺やジンのような技術屋は、世界を支配するというような欲望はまったく理解できませんので」
「なるほどな。人それぞれ、というわけか」
 アーサー王子が感心したような顔で頷いた。
『シャーク10』は時速30キロほどで海上を快走していく。
 その窓から外を見ながらアーサー王子は、
「そんな世界を見られる貴公らが少し……うらやましい」
 と、独り言のように呟いたのであった。

*   *   *

 大空を飛び回る『コンロン3』は、ゆっくりと高度を下げ、海上を行く『シャーク10』の真上を掠めた。
「陸、海、空。『崑崙君』の技術は底なしね」
 フィレンツィアーノ侯爵がしみじみとした声音で呟いた。
「閣下、それもこれも、根っこは一つ、です」
 エルザがそんな侯爵に向かって言う。
「一つ?」
「はい。それは、『夢の実現』という短い言葉に集約、されます」
「夢、か」
「夢、ね」
「夢……」
 大地を風よりも速く駆け回りたいという夢。
 大海原を自由に行き来してみたいという夢。
 大空を思うがままに飛んでみたいと言う夢。

「まだ道半ば、ですが」
「半ば、ね……」
 その言葉を聞いた者たちは溜め息をついた。
 今の仁を以てして半ばなのか、と。
「満足してしまえば、進歩はそれで止まる、といっています。また、最高の作品はいつでも『ネクスト・ワン』だ、とも」
「それが『崑崙君』、なのね」
 フィレンツィアーノ侯爵は目を閉じ、静かな声で言った。

*   *   *

「俺はいつでも挑戦者でいたい、と思っています」
『翡翠館』の大食堂で寛ぎながら、仁は女皇帝やアーネスト王子、リースヒェン王女らに語っていた。
 自分、という一人称を使う事も忘れ、仁はそう呟きを漏らした。
「頂点に立った、と思った瞬間に、後退が始まります。ゆえに、永遠の挑戦者であり続けたい。それが今の目標です」
「なるほど、それがジンの心構えなのじゃな」
「ジン君らしいわ」
 女皇帝のふわっとした微笑みが仁の心を解きほぐす。
「普段は、こんな話はエルザとくらいしかしないんですけどね」
 だからこんな余計なセリフも口を付いて出てくる。
 けれども、それが心地よい仁であった。
 いつもお読みいただきありがとうございます。

 20160123 修正
(誤)地下室の転移門(ワープゲート)だけは見せるわけに逝かないので
(正)地下室の転移門(ワープゲート)だけは見せるわけにいかないので

(旧)「ええ。われわれ技術屋は、
(新)「ええ。俺や仁のような技術屋は、

 20160301 修正
(誤)「ええ。俺や仁のような技術屋は、
(正)「ええ。俺やジンのような技術屋は、
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ