挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

29 世界会議と賢者の足跡篇

1039/1534

29-04 世界会議開幕

 3458年、7月10日。
 この日はアルス人類にとって記念すべき日になるだろう。
 そう、記念すべき『世界会議』第一回が開催される日なのである。

 崑崙島時間午前9時、『翡翠館』大会議室にて。
 参加者たちは丸く並べられたテーブルに着いていた。
 各国代表2名ずつが並んで座っている。仁の隣はエルザだ。
 唯一の例外はデウス・エクス・マキナ。
 彼だけは1人、という触れ込みである。

「えー、始める前に一つだけ説明させていただきます。これは『円卓会議えんたくかいぎ』というやり方でして、参加者に序列を付けないやり方であります」
 この説明に、列席者からおお、とか、なるほど、という言葉が漏れた。
 否定的な反応がなかったので、仁は改めて宣言を行う。
「では、『崑崙君』ジン・ニドーの名におきまして、ここに第一回世界会議の開催を宣言させていただきます」
 仁の言葉に続き、参加者全員からの拍手が巻き起こった。
「今回の司会は、『デウス・エクス・マキナ』殿にお願いすることにしますが、次回以降は代表者の中から選出していただけたらと思います」
 一言言い添える仁。続いてマキナからの言葉が。
僭越せんえつながら司会として会議の進行役を務めさせていただきます。書記は崑崙君の所持する自動人形(オートマタ)、『アン』に務めさせます」
 マキナとアンが立ち上がって一礼した。
 その青髪を見た何人かは、アンが魔導大戦時の古代遺物(アーティファクト)級の自動人形(オートマタ)であることに気付く。
 その気付いた一人は、傍聴席のリースヒェン王女。彼女は、己の乳母自動人形(オートマタ)、ティアを思い出していた。

「ではジン殿、本日の議題はどうなっているか、もう一度はっきりとさせてもらえますか」
「わかりました。お手元の資料をご覧になって下さい」
 予め準備していた資料である。『木紙』に、ゴーレムが筆記、複写したものだ。
「まずは大陸の交通に関して、セルロア王国国王陛下より、『魔法工学師マギクラフト・マイスター』としての自分に依頼されていた件の報告とその展望ですね」
「それは興味深いな。続けて下さい」
「はい。それから生活向上のための魔導具と新システムについて、提案があります」
 マキナは頷いた。
「わかりました。それ以外については、会議中に出てくることもあるでしょう。他に、『こういうことを諮りたい』という方はおられますか? おられましたら挙手を願います」
 手は挙がらなかった。
「今はまだ、ということですね。それではまず、最初のテーマから始めることにしましょう。ジン殿、どうぞ」
「はい」
 仁はバトラー41、42に命じ、モノレールの模型を持ってくるように命じた。

 おおよそ畳1枚分の大きさを持つ板の上に構成された模型である。
「モノレールといいます。レール……軌道が1本であるので、1という意味である『モノ』レールです」
「おお!」
「これは!」
「よくわからんがすごい!」
「……これは、セルロア王国のセザール陛下より受託したものでして、陸上輸送の改善がその目的です」
 一区切り入れた仁はセザール王を見た。
「そのとおりだ。私が先日、ジン殿に依頼した」
「その時、自分は、『セルロア王国内に留まらず、いずれ世界的に交通網を広げていただきたい』とお願い致しまして、それを陛下は快諾して下さいました」
 仁は各国首脳を見渡した。
「こうした交通手段は、『規格』というものがあります。少しでも異なると互換性がなくなり、非常に効率が悪いことになってしまいます」
「ふむ」
「なんとなく、わかるわ」
 ここまではまずまずの手応えである、と仁は感じ、先を続けることにした。

「この『モノレール』は、専用の軌道、つまり道を作ってやる必要があり、その点では費用や工事など、不利ではあります」
「うむ」
 セザール王が頷く。
「乗り降りや荷物の積み下ろしも、高い場所なので若干不便でしょう」
「確かにそうなるな」
 次いで仁は利点の説明に切り替える。
「ですが、利点も多くあり、まずは一般交通と干渉しません」
 専用の軌道であるから、一般道と交差する、いわゆる『踏切』も必要がない、と説明する仁。
「地面の凹凸にも影響されにくいです」
 道路であると、地面が凸凹しているとそれに合わせて舗装するか、あるいは盛り土などで対処することになるが、高架の場合は真っ直ぐにできる。
「なるほど、高速輸送にはもってこいだな」
「同じ理由で、できるだけ最短距離を通すことが可能です」
「それはそうだ」
 この世界の道路は、場所によってぐねぐねと曲がっていたりする。
「それに、眺めもいいですね」
 高さがある分、窓外の眺めも悪くないはずだ、と追加。
「そして、自分としての一番の理由は人身事故です」
 馬車が人をはねるよりも重篤な結果をもたらす可能性があるので、できればそれは避けたいと仁は説明した。
「この『モノレール』ですと、ある程度はどんな事故が起きるか、また、どこで起きるか予想が付きますが、一般道を走るとしたら、予想がしづらくなります」
「なるほど。ジン殿のいうことはよくわかる」
 セザール王をはじめ、列席者は頷いた。
「事故が起きるとしたらその軌道、といったかしら? ……軌道から外れて落ちる、とかよね?」
 ショウロ皇国女皇帝が指摘する。
「そうですね。それがわかっていれば、どうすれば落ちにくくなるかを考えればいいんです」
「なるほど。人をはねる、となるとどこで起きても不思議ではないからな」
 これはエゲレア王国のガルエリ宰相。
「馬車の事故も毎年起きていますからね」
 と、エリアス王国のフィレンツィアーノ侯爵。
「はい、まだ他にも考えられるかと思いますが、まずは仰るような内容がほとんどでしょう」
 仁は改めて模型を指し示す。
「最初は都市部での交通に使うのもいいと思います。これを輪にしてやり、ぐるぐる走らせれば……」
「そうか、往復させる必要はないわけで、運用が楽になるな」
 セザール王は大きく頷いた。
「はい。そして、この軌道の建造には、ショウロ皇国の大型ゴーレム『ゴリアス』と、セルロア王国の大型ゴーレム『リヨン』が大いに役立つでしょう」
「おお、確かに!」
 ゴーレムの平和的利用という点でも、大いに意義がある。

「個人的に重要と思われるのは、これによって従来の馬車などによる輸送への打撃が少ないだろうということです」
「ふむ、長距離輸送は『モノレール』で、短距離輸送は馬車などで、と住み分けられるということだな」
 真っ先に理解を示したのはクライン王国のアーサー王子であった。
「確かに、これができたがゆえに失業者が出てしまっては経済的な後退ともなりかねないですな」
 フランツ王国のアーダルク・ド・ヒーグル宰相も頷いた。

「この『モノレール』建造という雇用が発生すれば、その分経済が活性化するという考えもあります」
 仁が付け加えたのだが、これに関する賛同は少なかった。というよりなかなか理解できなかったようである。
『公共事業』という考えがないので無理はない、と考え、その場ではそれ以上詳しくは言わなかった仁である。
 が、アーサー王子だけは何か感じることがあったのか、少し考え込んでいたようだ。

 仁は注意点を説明することにした。
「注意すべきは、駅ができるとその土地は発展すると思われますが、それゆえに利権が絡む可能性があるということです」
 現代日本でもいろいろと取りざたされる問題である。
「ううむ、なるほど。気を付けねばならぬな」
「駅の選定からして難しそうですね」
 等々、反応は上々であった。
 この議題で午前中は終始したのである。
 いつもお読みいただきありがとうございます。

 20160108 修正
(誤)書記は崑崙君の所持するゴーレム、『アン』に務めさせます
(正)書記は崑崙君の所持する自動人形(オートマタ)、『アン』に務めさせます

(旧)非才ながら
(新)僭越せんえつながら

(旧)軌道が1本であるので『モノ』レールです
(新)軌道が1本であるので、1という意味である『モノ』レールです

(旧)専用の軌道であるから、踏切も必要がない
(新)専用の軌道であるから、一般道と交差する、いわゆる『踏切』も必要がない

(旧)予め準備していた資料である。
(新)予め準備していた資料である。『木紙』に、ゴーレムが筆記、複写したものだ。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ