29-01 第一陣
あけましておめでとうございます。
「マギクラフト・マイスター スピンオフ」
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の方に、1月1日より新春スペシャルを更新しております。
お楽しみ頂けたら幸いです。
本年もどうぞよろしくお願いいたします。
3458年7月8日。世界会議2日前である。
この日は、ショウロ皇国とエリアス王国の代表が崑崙島にやってくる予定となっている。
残りの国は翌9日だ。
今回が初めてでもあり、話が急だったこともあって、日程の調整上こうなったのである。
仁としてはもう少し前から来てもらいたかったが。
その分、気に入ったなら会議後に留まってもらってもいいと思い直している。
「まずショウロ皇国、帰りにエリアス王国、と言う順だな」
『コンロン3』の発進準備を進めながら、確認するように仁が呟いた。
崑崙島との時差が4時間20分あるので、ショウロ皇国には朝の8時頃に着きたいと思っている。
乗員は仁、エルザ、礼子、護衛(建前)のランド99と100、世話係としてバトラー11と12、ソレイユとルーナ、それにアン。そして操縦士はエドガーである。
行きは転送機で行くので一瞬だ。
そして準備といっても、機内の掃除くらいのものである。
仁とエルザは正装に身を包み、『コンロン3』に乗り込んだ。
「よし、行くか」
時刻は蓬莱島時間で午後1時。『コンロン3』は蓬莱島の空に舞い上がり……『転送機』によってショウロ皇国へと転移した。
転送機の存在は極秘なので、宮城からは視認できない上空へ出てからゆっくりと降下する。
「あ」
眼下の宮城広場には、既に儀仗兵が整列し、崑崙君を出迎え、また、女皇帝陛下を送り出す式典の準備が終わっていた。
「気の早い……」
「陛下はそういうお方」
「だな」
ゆっくりと着陸床へ降下する『コンロン3』。
着陸と同時に、楽団が音楽を奏でた。
慣れない仁はやや気後れするものの、エルザがその腕を取り、タラップに向かう。
途中で気を取り直した仁は足を速め、半歩先にタラップに足を掛ける。そしてエルザに手を貸す形でタラップを下りた。
その後ろから『従騎士』礼子、その後にソレイユとルーナが続く。
「ようこそいらっしゃいました、『崑崙君』」
ショウロ皇国女皇帝陛下、ゲルハルト・ヒルデ・フォン・ルビース・ショウロが、左右に女性騎士を従えて一行を出迎えた。
『崑崙君』仁の左には婚約者のエルザ、右には従騎士の礼子が立った。そして後ろにはソレイユとルーナが。
金色のソレイユと銀色のルーナは、一般への初めてのお目見えとなるはずだ。
体格は礼子と同じくらいであるが、その造形の見事さと、派手さを抑えた艶消しの金、銀色は衆目を集めた。
「お迎えに上がりました、陛下」
日本式の礼をする仁と、カーテシーを行うエルザ。
「ありがとう」
女皇帝の言葉の後、宰相から最終的な参加者の紹介がなされた。
「同行するのは、デガウズ・フルト・フォン・マニシュラス魔法技術相だ」
デガウズ魔法技術相が進み出た。
「護衛のため、近衛女性騎士、フローラ・ヘケラート・フォン・メランテ」
フローラが進み出、一礼した。
「フリッツ・ランドル・フォン・グロッシュ中佐」
フリッツも進み出、会釈する。
「身の回りの世話をさせるため、男性使用人2名、女性使用人2名を同行させたい」
それらは事前に連絡を受けていたのでまったく問題はなかった。
「それでは陛下、行ってらっしゃいませ。崑崙君、陛下をよろしくお頼み致す」
宰相、ユング・フォウルス・フォン・ケブスラーは深く礼を行った。
以上の短いやり取りで、仁たちと女皇帝一行は『コンロン3』へと乗り込む。
余談であるが、これ以降、こうした短い、式典ともいえない式典だけで世界会議へと向かうという慣例が出来上がることになる。
その先鞭をつけたのは間違いなく女皇帝だ。
* * *
「船内ではお寛ぎ下さい」
「そうね、堅苦しいのは会議の時だけでいいわ。皆、好きにしなさい!」
女皇帝が宣言する。一番自由にしたいのはおそらく本人であろう。
楽団が奏でる音楽に送られ、『コンロン3』は大空へと浮かび上がった。
「わあ、飛んだわ!」
女皇帝は窓にかじり付くようにして外を眺めている。
「陛下、はしたないですぞ」
デガウズ魔法技術相が窘めるが、効果はない。
ならばと、デガウズは近衛女性騎士フローラを見やると、彼女も女皇帝と同じように窓にかじり付いていた。
使用人たちも窓に釘付け。
フリッツは久しぶりに会った妹と何やら話し込んでいる。
自由にしろ、と女皇帝が言ったとはいえ、少々行きすぎているのでは、と気にする魔法技術相。
しかし、女皇帝に自分がうるさく言うのも憚られ、デガウズは仁に泣き付いた。
「『崑崙君』、なんとかならんかね?」
「そうですね……」
仁は、ミロウィーナのために追加した床窓を開けることにした。
「陛下、こちらを」
「何? ジン君」
振り返った女皇帝は、床が透明になっているのを見て、歓声を上げた。
「まあ! これ、窓なのね!!」
「ええ、これなら、座ったままでごらんになれますでしょう?」
「そうね、ありがとう! さすがね!」
ようやく落ち着いてきた女皇帝は、席に座り、床の窓越しに地上を見つめるのだった。
フリッツはというと、実の妹であるエルザに、色々と質問をしていた。
「この『飛行船』は、最高速度はどのくらいなのだ?」
「いったい何人乗れるんだ?」
など、やはり軍人と思われる質問である。
エルザは差し障りのない範囲でそれらに答えていった。
* * *
おおよそ2時間で、『コンロン3』はエリアス王国にやって来た。
船内で仁は、ショウロ皇国の一行に『時差』の説明をしていたので、こうした現象は興味を持って受け入れられた。
そして午後1時、ボルジアに到着。
その少し前から、王国所有の熱気球が一行の到着をいち早く見つけ、報告していたので、『コンロン3』が王城前に着陸した時には、既に歓迎の準備が万端整っていたのである。
「『崑崙君』ジン・ニドー卿、お世話になります」
エリアス王国から参加するのは宰相のゴドファー・ド・トヴェス・ロッシ侯爵と、総務相のドミニク・ド・ザウス・フィレンツィアーノ侯爵。
護衛は近衛隊副隊長のノウスト・ヴァリン。
あとは男女2名ずつの使用人である。
国王、ブリッツェン・スカラ・エリアス12世は健康が優れず、参加を見送った。
『コンロン3』内で、ショウロ皇国とエリアス王国の首脳陣は互いに挨拶を交わした。
* * *
程度こそ違うが、エリアス王国の面々も、空を飛ぶという経験に我を忘れ、床窓から眼下の風景を食い入るように眺めていた。
そして一行を乗せた『コンロン3』は1時間半ほどで崑崙島に着く。
「ようこそ、崑崙島へ」
仁お馴染みのセリフで一行の歓迎が始まるのであった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20160105 修正
(誤)デガウズ魔法技術相進み出た。
(正)デガウズ魔法技術相が進み出た。
(旧)『転送機』によってショウロ皇国へと転移した。
(新)『転送機』によってショウロ皇国へと転移した。
転送機の存在は極秘なので、宮城からは視認できない上空へ出てからゆっくりと降下する。