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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

過去篇 弐

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15 弟子と娘

 ユルガノの町で、シュウキたちは歓迎された。
「ええと、ここの魔導式(マギフォーミュラ)ですけど、どうしてこの形にするんでしょうか」
 町長センテイムも、一人娘であるシャトーネをシュウキの下へ学びに行かせていた。
「ここはだね、元素……といってもわからんか、『物質の最小単位』を検知するための式なのだよ」
「……とりあえず、わかりました」
「うむ、あとでそのあたりをじっくり教えてあげよう」
「お願い致します」
 シャトーネは15歳、人一倍熱心にシュウキの講義を受けていた。

「先生、先程のでんそ、というものですが……」
 講義が終わった後にもシュウキの下へやって来て、色々と質問をしていく。
「『元素』、だな。元素、という物は……」
 シュウキも、熱心な弟子に教えるのはやぶさかではなく、ついつい時間を忘れて説明に熱が入ることもしばしば。
 それでアドリアナの所に帰るのが遅くなり……。
「……お父さん、おそーい!」
「済まないな、アド。ちょっと講義が長びいてしまって」
「あたししってるよ。シャトーネさん、でしょ?」
 しっかりと見ているアドリアナ。子供といっても侮れない。
「シャトーネは熱心だからな。教えがいもあるんだ」
「……むう」
 少し膨れっ面のアドリアナだが、
「さあ、一緒にお風呂入ろうか」
 とシュウキに言われれば、途端に笑顔になる。
「うん!」
 2人でお風呂に入る時が、アドリアナにとって至福の時である。
 いつもは弟子たちに囲まれて忙しい父が、彼女だけを見てくれるからだ。
「お父さん、今日ね、あたし『掘削(ディグ)』を覚えたよ!」
「そうか、すごいな、アドは!」
 そして、新しい魔法を覚えたことを報告すると、必ず父は頭を撫でてくれるので、アドリアナは毎日一所懸命に勉強していたのである。
 父娘水入らずのひとときはアドリアナにとって、そしてシュウキにとってかけがえのない時間であった。

*   *   *

「……よって、ここはこのような魔法制御の流れ(マギシークエンス)を構成することが必要となる。……ここまでで何か質問は? 無ければ今日はこれまで」
「ありがとうございました!」
 シュウキがユルガノの町に来て1年が過ぎた。
 教えを受けに来た者たちのレベルがはっきりし、今は初級・中級・上級の3段階にわけて講義を行っている。
 上級は高弟と呼べる、シュウキの古くからの弟子たちが中心となり、日夜新しい工学魔法を追究することを目的としている。
 中級は一般の弟子では最も人数の多いクラス。才能のある魔導士たちが、新しい分野としての工学魔法を学んでいる。
 シュウキと高弟たちが交代で講義を行っている。
 初級は、才能はあるが、まだ工学魔法を覚える前段階の者たちである。高弟の中でも比較的経験の浅い者が担当している。

 この他に、治癒魔法を専門に教えるクラスがあり、女性の魔導士が多いという特徴があった。
 そして番外として、『知識』を教えるクラスもあった。
 シュウキが日本にいた時に学んだ学問を教えるのがその目的だったが、こちらはなぜか人気がなく、半年で閉講となっていた。

 町長の娘、シャトーネは中級のクラスでもトップにおり、あと半年もすれば高弟の仲間入りができるだろうと見込まれていた。
「がんばってシュウキ先生のお役に立たなくちゃ」
 その想いが、思慕なのか恋慕なのか、シャトーネ自身も気が付いていないようだ。

 そしてもう1人。
 アドリアナは、シュウキが講義を行う時は必ず中級のクラスに入り込み、講義を聞いていた。
 クラスの者たちは、単に寂しいので父親の顔を見に来ているのだろうと思っているが、そうではなかった。
 中級クラスの誰よりも……シャトーネすら凌駕して、講義内容を理解していたのである。
 それが証拠に、シュウキ以外が講義をしている時には、町外れで1人魔法の練習をしていたのである。
「……はやくじょうずになって、お父さんのおてつだいしなくちゃ!」
 彼女は、シュウキが目指す『工学魔法の完成』という夢を全力で手伝うことを幼心に決めていたのである。
 そして、それは決して子供の夢などではなく、彼女は着々と実力を付けていた。
「『落雷(サンダーボルト)』!」
 今やアドリアナは土・水・火・風・雷・治癒、それぞれ中級まで使いこなせるようになっていた。
「……でも、これじゃあまだ、だめ」
 父が追い求める工学魔法の完成には、全ての属性を上級まで使いこなせるようになる必要があると、本能的に感じていたのである。
 そして、それはシュウキも感じていたことであった。
『少なくとも、新しい魔法を構築しなければ工学魔法の体系は完成しないだろう』と、シュウキは経験を通じて悟っていたのであった。

「新しい魔法を自由自在に構築するには、全ての属性に通じ、総合的に考えなくてはならない」
 シュウキが講義で言っていることであった。

*   *   *

「……うーん、あとちょっとなんだけど、うまくいかないなあ……」
 今日のアドリアナは、風属性魔法の上級『風槌炸裂(ダウンバースト)』の練習をしていたのである。
風槌炸裂(ダウンバースト)
 だが、何度やっても叩き付ける威力が出ないのだ。
「これじゃあ、ただ上から下に『風の一撃(ウインドブロウ)』をはつどうしているだけよね」
 悩むアドリアナ、そこに声が掛かった。
「空気にも重さがあるんだ。それを感じ取ってやってみたらどうだ?」
「えっ?」
 振り返ったアドリアナの背後にいたのは父シュウキであった。
「お父、さん?」
「すごいなアド。もうこんなレベルの魔法を練習するようになったのか」
 シュウキは腕を組み、考えた。
「お前も明日から、上級クラスの講義においで」
「……いいの?」
 今までアドリアナは、上級クラスに参加することを禁じられていたのである。
 それは、同年代の友達を作る時間を奪いたくないという、ちょっと見当外れなシュウキの親心からであった。
 アドリアナには、このユルガノの町に友達はいなかったのである。

 思えばこれが、彼女の長い孤独な人生の始まりを示唆する出来事だったのかもしれない。
 ともかく、アドリアナは大人に混じって上級クラスに参加する許可を得たのである。

 それからのアドリアナの活躍はめざましかった。
「えっとね、ぶんしのけつごうりょくをなくすんじゃなく、よわめてそのじょうたいをいじすればいいとおもうの」
「なるほど、言うことはわかる。だが、その維持にはとんでもなく繊細な魔法の制御が必要になるぞ?」
「うーん、だったら、けつごうりょくをいったんなくしちゃって、そのかわりにまりょくでつつんでしまったら?」
「……師匠、その方法ならできそうな気がしますよ!」
「そうか。 よし、魔法制御の流れ(マギシークエンス)を考えてみよう」
「あのねあのね、ここはこうするといいよ」
「確かに。……先生、お嬢様はまさしく天才ですね!」

 この日、工学魔法に『軟化(ソフトニング)』が加わった。
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