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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

過去篇 弐

1019/1472

11 バルボラ村

 過去篇 壱 からの続きなので11から始まります。
 2340年4月。
 シュウキ・ツェツィは5人の弟子を連れ、レナード王国にやってきた。
 それまでの道は平坦ではなく、苦難の連続であった。
 馬車も壊れてしまっており、徒歩での山越えは辛く苦しいものだった。
 彼等は首都カルナグの遙か西にある小さな都市、ハビオネに到着。
 レナード王国の人々は『賢者(マグス)』の思想を受け入れ、共感してくれた。
 ここで新たに3人の魔導士が弟子入りしたのである。

 4月5日。
「『賢者(マグス)』様、今日はどちらへ?」
 朝食後、弟子の1人、ロットラオが尋ねた。
「うむ、北の村で病人が出たということだから、様子を見に行こうと思う」
「わかりました、お伴致します」
 シュウキ・ツェツィは元医学生であり、病人と聞いては放っておけなかった。
 幸い、弟子には治癒魔法を嗜む者がおり、大半の病気は治してやることができたのだ。

 8人になった弟子のうち、新しい弟子2人と古くからの弟子3人を連れ、シュウキは北を目指した。
 そして4月7日に、北の村……シャイア村に到着したのである。
「……これはひどいな……」
 シャイア村は戸数約20戸、人口80人くらいの小さな村であったが、過半数の住民が罹患していたのである。
「間違いなく赤痢だ」
 40度近い高熱、腹痛、血便などを見て、シュウキは赤痢と診断した。
「すぐにこの村を隔離するんだ」
 赤痢は赤痢菌によってもたらされる感染症で、大半は糞尿などから食物や水を経由して感染する。
 細菌性とアメーバ性があるが、今回のものは細菌性である、とシュウキは診断した。
「いいか、この病気は経口感染する。手の消毒を忘れるな」
 既に工学魔法『浄化(クリーンアップ)』『殺菌(ステリリゼイション)』は完成しており、古くからの弟子は全員が使えるようになっていた。
 また、今回取った弟子3名のうち、2名はこの方面への適性を見せており、うち1名は弟子にしてすぐに『殺菌(ステリリゼイション)』を覚えていたのである。
 シュウキ自身は魔法を使えないが、彼の身体はなぜか一切の病気に対して耐性があった。
 だが、彼の手から他者への感染を引き起こさぬよう、シュウキは細心の注意を払い、患者への手当をしていったのである。

 彼の取った治療法は、まず下痢による脱水症状を緩和するため、水分を大量に飲ませることであった。
 次いで、腹部消化器への治癒魔法『回復(ヒーリング)』である。
 まだ内科系治癒魔法の上級『療治(メディケア)』は完成していなかった。
「頑張れ、もう大丈夫だからな」
「ああ、あ、ありがとうございます……」
 手当が間に合った者はほぼ全員が助かった。が、シュウキたちが到着した時に重篤だった村民3名は必死の手当も虚しく……。
「……あと1日早く着いていれば……」
「師匠、そんなにご自分を責めないで下さい」
「そうですよ。村の人たちは皆、感謝していたじゃないですか」
 弟子たちは悲しげなシュウキを見て、元気付けるように言った。
 そこへ、古くからの弟子リーベスラウがやって来て、新たな情報を述べた。
「更に北に、バルボラ村という小さな村があって、そこもひどい有様らしいです」
「そうか。……よし、明日、私はそちらへ行こう。この村には、そうだな、ロットラオとフェスミーフェに残ってもらうとするか」
 ロットラオは古くからの弟子で、治癒魔法が使え、フェスミーフェは新しい弟子で、『殺菌(ステリリゼイション)』をこの村に来てから覚えた、将来有望な弟子である。
「テンペスとハケリーは付いて来い」
 テンペスは古くからの弟子、ハケリーは新しい弟子だ。
 2人とも信頼できる。テンペスは弟子たちの中で一番の治癒魔法使いだし、ハケリーは弟子にしてすぐ『殺菌(ステリリゼイション)』を覚えた期待の新人であった。

 早朝にシャイア村を出た3人は、急ぎ足で歩きに歩き、なんとか日が暮れる前にバルボラ村に到着することができた。だが。
「……手遅れだったか……」
 その村には、動いているものは1人としていなかった。
 15軒、50名ほどの村は既に手遅れであった。
「……あと2日、いや、1日早く着いていれば……」
 それはいつの世でも、いつの時にも、己の無力さを噛みしめざるを得ない時に思うこと。
 そんな時。
「師匠、何か聞こえませんか?」
 ハケリーが聞き耳を立てながら呟いた。
「うん?」
 シュウキとテンペスも耳を澄ませる。風に乗って何かが聞こえてきた。
「……泣き声か?」
「行ってみよう」
 声の聞こえる方に3人は歩を進めた。
「あそこだ」
 それは村外れにある小さな小屋の中から聞こえてきていた。
「誰かいるのか!?」
 小屋の戸を開けると、そこには脱水症状を起こした若い女と、その腕に抱かれた赤ん坊がいた。
 泣いていたのはその赤ん坊であった。
 急いで赤ん坊を抱き上げるシュウキ。同時に、母親らしき若い女の容態を診る。
「……ナ……を」
 唇はひび割れ、目は落ち窪んでおり、どう見ても手遅れであった。が、シュウキは諦めない。
「治癒魔法を!」
「は、はい! 『回復(ヒーリング)』!」
 テンペスは急いで治癒魔法を掛ける。
 が、『回復(ヒーリング)』では力不足で、女性の容態は回復の兆しを見せない。
「……脱水症状がひどい。急いで白湯……いや、間に合わない。水のままでいいから飲ませるんだ」
「はい!」
 こういう時のために用意した水筒から、水を飲ませるハケリー。
 吸い飲みのような注ぎ口が付いており、こぼすことなく患者に水を飲ませられる。
「……」
 水を飲ませたあと、もう一度治癒魔法を掛ける。
「『回復(ヒーリング)』!」
 その甲斐あってか、女性の口から言葉が出るようになった。
「あ……は?」
 赤ん坊のことだろうと、シュウキは声を掛ける。
「赤ん坊はここだ。無事だぞ! しっかりするんだ!」
 赤ん坊にも少しだけ水を飲ませることができていた。診察したところ、幸運なことに赤痢に感染はしていないようだ。
 母乳しか飲まない乳児だったことが幸いしたのだろう。
「その……子……を……おね……がい……しま……す」
 女性は、ようやくそれだけの言葉を紡ぎだした。
「『回復(ヒーリング)』!」
 だが、やはり『回復(ヒーリング)』では効果が不足していたのであろう。
 一時は持ち直したかに見えた女性の瞳から、急速に光が失われていった。
「おねが……いし……ま……す……」
「しっかりしろ!」
 最早手遅れ、シュウキとしても声を掛けることしかできない。
 少しでも生きる気力が戻ればと、赤ん坊をそばに近づけた。
 女性は少し目蓋を見開き、赤ん坊を見つめ、
「ア……ドリ……ア……ナ……を……おね……が……い……し……」
 そして事切れたのである。
 いつもお読みいただきありがとうございます。

 お知らせ:12月12日(土)は実家に帰ってきますので朝から夜にかけて不在となります。
 レスが遅れますので御了承ください。

 20151212 修正
(誤)一時は持ち直したかに見えた女性の瞳から、休息に光が失われていった。
(正)一時は持ち直したかに見えた女性の瞳から、急速に光が失われていった。

(旧)少しでも生きる気力が戻ればと。赤ん坊をそばに近づけた。
(新)少しでも生きる気力が戻ればと、赤ん坊をそばに近づけた。

(誤)今回取った弟子5名のうち
(正)今回取った弟子3名のうち

(旧)既に生きているものが皆無であったのだ。
(新)動いているものは1人としていなかった。
「既に」が後の文にも出ていますので、全体的に整えました。

 20151213 修正
(誤)弟子の1人に治癒魔法を嗜む者がおり
(正)弟子には治癒魔法を嗜む者がおり
 1人じゃなかったです。

(誤)新しい弟子2人と古くからの弟子2人を連れ、シュウキは北を目指した。
(正)新しい弟子2人と古くからの弟子3人を連れ、シュウキは北を目指した。
 人数がおかしかったので。
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