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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

28 世界会議準備と遺跡調査篇(続)

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28-16 崑崙島へ

 ビーナが冷蔵庫3台を作ってしまえば、この日のノルマは終了である。
「ジンのおかげでいつもよりずっと早く済んじゃったわ。ありがとね」
「いや、なに」
「本館にいらっしゃいな。美味しいお茶を御馳走するわ」
「そうだな、まだ話したいこともあるし」
 ビーナからのお誘いを、仁は受けることにした。

「あなた、少し休憩なさいませんか? ジンも誘いましたので、お茶にいたしましょう」
 執務室を覗き込みながら声を掛けるビーナ。
「ああ、ちょうど切りが良いところだからそうするよ」
 クズマ伯爵もそう答えて腰を上げたのであった。

 エゲレア王国のお茶といえばテエエである。
「うん、これは美味い」
「そう? よかった」
 ビーナが手ずから淹れてくれたお茶。彼女も伯爵夫人としていろいろと教育を受けてきたことがわかる。
 仕草一つ取っても洗練されているのだ。褒められるため、ではなく、クズマ伯爵の夫人として相応しいように、という想いが成したものだろう、と仁は感じていた。

「さて、今日の用件だけど、この後……明日あたり時間を取れるかな? できれば丸1日」
「私は大丈夫だけど、主人は……」
「いや、重要な案件なら無理にでも時間を取るが? 緊急の仕事は入っていないから」
 それを聞いた仁は内容を話すことにした。
「世界会議に先だって、俺の領地に一度来てもらえないかと思ってさ」
「明日ですって!? ええ、是非にでも」
「うむ、そういうことなら万障繰り合わせて伺うよ!」
 まさかそんなすぐにとは思わなかったようで、いつもは落ち着いているクズマ伯爵までも腰を浮かしかけてそう言った。仁は笑って説明する。
「それじゃあ、明日の朝、8時に迎えに来るよ」
「わかったわ。楽しみに待ってる」
「承知した。何か準備していくものはあるかな?」
 特に必要なものはないから、と仁は告げて立ち上がった。
 伯爵夫妻は玄関まで仁と礼子を送っていく。
「それじゃあ、また明日」
「うむ、お待ちしている」
「ジン、またね」

*   *   *

「と、いうわけさ」
 一旦蓬莱島に戻った仁は、再度転移して、今はラインハルトと話をしている。
「なるほど、ビーナとルイスもファミリー入りさせたいんだな」
「そういうことさ」
「確かに、エゲレア王国のメンバーはいなかったから、いいんじゃないか? あの2人なら信用できるしな」
 ラインハルトも賛成してくれた。
「まずは明日、崑崙島に連れて行って、機会を捉えて蓬莱島へ……というつもりなんだが」
「そうだな。今は少し手が空くから、僕も付き合おう。久しぶりにルイスに会いたいし」
 ラインハルトが外交官としてブルーランドを訪れて以来、クズマ伯爵とは友人同士なのだ。
「あとは、都合のつくファミリーメンバーが蓬莱島に来てくれるといいと思うよ」
 ラインハルトからの助言に、仁も頷いた。
「ああ、そうだよな。よし、この後、打診して回るとするか。ああ、あと、それからこの機会に話しておこう……」
 仁は、世界会議の話と、迎賓館……『翡翠館』と『五常閣』の話をした。
「ふむ、ジン、首脳陣を招いた際、護衛と使用人の想定が少なすぎる。いくら崑崙島が安全だといっても、知らない者は信じ切れないだろう」
「ああ、そうなるか」
「だから、『コンロン2』も使ってでも、護衛や使用人も招かないと揉めるかもしれないぞ」
 ラインハルトの忠告は有り難かった。
「わかった。幸い、翡翠館の収容人数には余裕があるから可能だと思う」
 老君たちの心配りに感謝したい仁であった。

*   *   *

 そして、6月23日。
 午前8時より前にクズマ伯爵邸を馬車で訪れた仁は、用意万端調えたビーナとクズマ伯爵に出迎えられた。
「は、早いな」
 と仁が言えば、
「もう楽しみで楽しみで、じっとしていられなかったわ!」
 とビーナ。クズマ伯爵はそんな彼女の隣で静かに微笑んでいた。
「よし、では行こうか!」
「さあ、どうぞ」
 礼子が馬車の扉を開けた。
「仁の馬車って、乗るの初めてよね」
「ほう、思ったより普通なんだな」
 それぞれの感想を口にしながら乗り込む2人。
「ああ、最初に作ったのがあのゴーレム園遊会(パーティー)の後だったからな」
 そして扉を閉めると、馬車は走りだした。今回の御者はスチュワードだ。
「お、おお? 何だ、この快適さは! ほとんど揺れが感じられない!」
 仁の馬車といえども、揺れない、ということはないのだが、普通の馬車の揺れ方に慣れていれば、このような感想も無理からぬこと。
「見た目は普通の馬車、でも中身は特別製さ」
 ゴーレム馬が牽き、ゴーレムが御者を務めている時点で普通ではないという突っ込みは入らなかった。

 そのまま走ること10分で、馬車は森の中へ。馬車1台がやっとという小径が付いており、やがて小さな広場で馬車は止まった。
「ここからは歩き……というか、馬で行く」
「おお、ゴーレム馬が」
 馬車を牽いてきたゴーレム馬の他に、仁専用の『コマ』と、もう1頭のゴーレム馬がそこに用意されていた。
「あっ……」
 前回で経験していたにもかかわらず、乗馬用ズボンを穿いてこなかったビーナ。
「大丈夫、私が支えるから」
 クズマ伯爵は乗馬は得意なので、洗練された動作でひらりと飛び乗る。そしてビーナに向かって手を差し出した。
「さあ、ビーナ」
「は、はい」
 クズマ伯爵に引き上げられたビーナは、伯爵の前に横向きになって座った。
 仁の前には礼子が乗っている。
「さあ、行こう」
 仁が先に立って、更に森の奥へ。
 ゆっくり歩くこと10分ほどで、森奥にある大岩に着いた。
 その麓に転移門(ワープゲート)が隠されているのだ。
 今は、仁と仁の認めたものだけが解除できる障壁(バリア)に守られており、『しんかい』も経由するので、万が一にも部外者に利用されることはない。
 更に、転移門(ワープゲート)は仁の魔力パターンにのみ反応するのでセキュリティは十分だ。

 仁はビーナに手を差し出そうとして思い直し、引っ込めた。
 伯爵とビーナは礼子に任せ、先に立って転移門(ワープゲート)に足を踏み入れる。
 今回は、余計な混乱を招かないように、直接移動するよう調整しておいたので、出た先は崑崙島である。

「ほう……ここが……」
 館地下の転移門(ワープゲート)室に出たクズマ伯爵は予想どおりの反応を見せる。ビーナは2度目であるが、やはりきょろきょろしていた。
「さあ、上へ行こう」
 仁に促され、2人は階段を登った。そして玄関ホールを経て、一旦外へ。
「うわあ」
「おお!」
 仁はこういう時のセリフを口にした。
「ようこそ、崑崙島へ」
 いつもお読みいただきありがとうございます。

 20151127 修正
(旧)「崑崙島に!? 行きたいわ!」
「うむ、そういうことなら万障繰り合わせて伺うよ!」
 いつもは落ち着いているクズマ伯爵までも腰を浮かしかけてそう言った。
(新)「明日ですって!? ええ、是非にでも」
「うむ、そういうことなら万障繰り合わせて伺うよ!」
 まさかそんなすぐにとは思わなかったようで、いつもは落ち着いているクズマ伯爵までも腰を浮かしかけてそう言った。

 前日に招待の話はしているので、そんなすぐにとは思わなかった、という表現を付け加えました。

 20160424 修正
(旧)クズマ伯爵は、少年の頃からラインハルトと友人同士だったのだ。
(新)ラインハルトが外交官としてブルーランドを訪れて以来、クズマ伯爵とは友人同士なのだ。
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