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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

28 世界会議準備と遺跡調査篇(続)

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28-12 模型製作

 また通常進行に戻ります。 これからもよろしくお願いいたします。
 配下に指示を出し終えた仁。

「本当なら、ラインハルトにも相談しておきたかったんだがな」
 ここ一両日、父ヴォルフガング・ランドル伯爵の元で、上半期の領地運営について報告をしに行っているらしい。
「この前相談しておけば、よかった」
 とエルザが言っているが、モノレールの仕様を決めることで頭がいっぱいだった上、迎賓館の案もまだ出ていなかったのだから仕方がない。
「ラインハルトの手が空いたら相談するよ」
「ん、それがいいと思う」

 残るは模型製作である。
 これこそが仁の真骨頂というべき作業だ。
魔法工学師マギクラフト・マイスター』となる以前からの趣味であり、特技でもあった。
 ただし、一つだけ大きな問題が。
「……モーターライズは無理だな……」

 モーターライズとは、プラモデルなど模型を、モーターで動くようにすること。飾っておくだけのディスプレイモデルとは一線を画す。
 昭和後期、バブル景気前くらいまでは、プラモデルといえばモーターで動くものが主であったが、仁が生まれ育った時代では、既にそういった模型は衰退を始めていたのである。
 だが、仁は、たとえ細部の造形が劣っていたとしても、モーターで動く模型の方が好きであった。

 仁が蓬莱島で楽しむだけなら、ゴーレムエンジンでも力場発生器フォースジェネレーターでも使えばいいのだが、公の場に出すものはそうもいかない。
「まあ、手で動かせる、くらいまでかな」
 ある程度の妥協は仕方ない。遊ぶためのものではないのだから。
「大きさは……まあ、畳一枚分くらいでいいか」
 仁の記憶では、畳一枚……90センチかける180センチ、あるいは3尺かける6尺、という、『ベニヤ板』の大きさが一つの規格になっていた。
 そこで、今回も90センチかける180センチの板を用意する。ベニヤではなく、一枚板でもなく、『接合(ジョイント)』で作り上げた集成材だ。
「お父さま、一枚板では駄目なのですか?」
 助手をしてくれている礼子からの質問。
「幅1メートルくらいの板なら作れるだけの木材はストックしてありますが」
 亜熱帯にある蓬莱島は植物の生育もよく、島の北側には針葉樹林、北東側には広葉樹林が広がっており、巨木も多い。
「ああ、今回は木目を気にするわけじゃないし、集成材の方が狂いが出なくていいからな」

 一枚板は、その木目の美しさを愛でる意味合いもあり、テーブルの天板やタンスの鏡板などに使われるが、その反面、湿度変化により、反りを生じたりすることがある。
 ベニヤ板や集成材はその狂いが小さいのである。

「お父さま、わかりました」
「さて、板が準備できたから、次はレイアウトだな」

 最も簡単なのは一文字であろうか。レールが真っ直ぐ延びており、模型車両はその上を行ったり来たりする。
 エンドレスも簡単だ。要は一繋がりになった円だが、円である必要はなく楕円でもいいし、立体交差させれば8の字でもいい。
 但しこれらは、レールに電流を流す上での注意事項を反映するための分類でもあるから、今の仁にはあまり関係ないのだが。

「デモ用だから、一文字とエンドレスの両方を載せておくか」
 発泡スチロール系の素材はないので、木を使う。バルサに似た軽い木材を使って、高架軌道を作っていく仁。
 一文字は往復、イメージは王都と港を結ぶ線だ。
 そしてエンドレスは環状線、街々を巡る線である。
 板だけだと味気ないので、おが屑を糊で固めて地面とし、薄い板を着色して石畳を模したりする。
 乗ってきた仁は建物も薄い板で作り始め、ディオラマ化させていった。

 求肥の方が一段落したので様子を見に来たエルザが、初めて見るディオラマに目を丸くした。
「……面白い」
 そしてそれ以上に、楽しげな仁の顔に見とれてしまう。
(ジン兄、楽しそう。今までで、一番)
 モノ作りをしているときの仁はいつも真剣で、そのくせ楽しそうな雰囲気を纏っているが、今は表情も緩んでいた。
 真剣なのに楽しそう、という、見たことのない表情に、まだまだ仁を理解し切れていない、とエルザは思ったのである。
 だが、そろそろ夕食の時間。
「お父さま、そろそろ夕食の時間ですよ」
 仁があまり楽しそうなので、エルザとしては声を掛けづらかったのだが、代わって礼子が言ってくれた。
「ああ、もうそんな時間か。よし、夕食後にもう少しだ」
 手を洗い、うがいをして食堂に赴く仁。エルザも後に続いた。

「ジン兄、とっても楽しそうだった」
 夕食後にお茶を飲みながら、エルザは仁に告げた。
「そ、そうか?」
「ん。やっぱりああいうものを作るのが好きなんだなあ、と、思った」
「かもな」
 仁もそれは否定できない。
「実用性のないものって、なんというか、完全に趣味だからというか、義務じゃないので責任が発生しないからというか……」
 うまく言えないけど、楽しい、と仁は結んだ。
「……なんとなく、わかる、かも」
 同じ作業でも仕事と趣味ではやる側の心持ちが違う、ということであろうか。
 趣味を仕事にするな、という人もいるくらいである。

 そういった議論にも区切りをつけ、仁は模型試作を再開した。
 今度はエルザも手伝う気であるが、仁は一人で黙々と進めてしまう。
 少々寂しい気もするが、楽しそうな仁の顔を見ると、何も言えないエルザであった。
 そして1時間。
「できた」
 ディオラマ風デモ用モノレールの模型が完成した。
「すごい」
 手放しでエルザは称賛した。
 最早、モノレールのデモ用模型というより、モノレールがディオラマの一部に見える。
「久しぶりに模型を作ったらちょっとムキになった」
 少し照れたように頭を掻く仁を、エルザは微笑んで見つめた。
「ジン兄の子供っぽいところ、発見」

*   *   *

「うん、わりと美味い」
 夜食代わりに試作求肥入りのみつ豆を味わった仁は、80点、と評した。
「軟らかさが足りないな……あと何が必要なんだろう?」
「難しい」
 仁とエルザが首を捻っていると、そこへペリドリーダーが、別の試作求肥を持って来た。
「ご主人様、こちらもお試し下さい」
「どれどれ……うん、こっちの方が美味いな」
「そう? ……あ、ほんと」
「水飴を混ぜてみたのです」
「水飴か……」
 大麦の麦芽ともち米から水飴を作る試みは成功しているので、それを使ったそうだ。
 ペリドの発想は、最早一流の菓子・料理職人並みである。
「後は配合比を変えていろいろやってみます」
「うん、楽しみにしているよ」
「はい、お任せ下さい」
 これで、美味いみつ豆も饗することができそうだ。仁は嬉しくなった。

 気が付けばもう午後10時を回った。
「歯を磨いて寝るか」
「ん」
 充実した一日だった、と言って、仁は満足そうに背伸びをした。
 空には月……ユニーが輝いていた。
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