――青空を目指して、急な坂道を息を切らしながら駆け登る。
家からは10分くらい、坂道のてっぺんに着くと、そこから自分の住んでいる町が見える。見上げれば青空、見下ろせば私の町。私は、この場所から見える景色が一番好きだった。
「ハァ、ハァ。」
ここで聞こえて来るのは、気持ち良い風の音と私の呼吸。自分の世界を独り占めできた。
「ハァ、ハァ、遅れて……、ゴメン……。」
やがて一人の人間が、私の世界に入り込む。
鈍くてどんくさくて、運動音痴だけど………格好いい。
私の初めての彼氏。 私の世界に入って良い、唯一の人間―――
始めて彼と出会ったのは、いつの事だったか。
あぁそぅだあれは確か私がまだ高一のころ………
――キーンコーンカーンコーン――
文字にすると凄いマヌケなチャイムが、今日の授業の終わりを告げる。
「はるな〜今日どっかに寄ってく?」
私がカバンに教科書を詰め込んでいると、親友の楠木 秋葉が、声をかけて来た。
もう帰り仕度をすましたのか。これだから、学校に教科書を持って来ない不良生徒は!!
「ゴメン秋葉、私今日行くトコ有るから。」
秋葉への軽い憤りを抑えつつ、私は応えた。
「えぇ〜?また?春奈ってば、月曜はいっつも断るよねぇ〜。なんで?」
もちろん、あの場所に行くのデスヨ……。
と言いかけて止める。あの場所は、私以外に誰にも教える気は無い。そんな、神聖な場所なのだ。
「ぅ〜ん、ちょっとね。ホントにゴメン!明日は何処にでも付き合うから!!」
「ふ〜ん、まぁ良いか。明日付き合ってくれるなら。ただ、もし男ができたなら、ちゃんと教えなさいょ?」
さすが秋葉、深く突っ込んで来ない。そんな所が、親友でいられる理由だ。
「ホントゴメンね。じゃぁバィバィ。」
「ぐっどばぁ〜い。」
こうして私は、学校を後にする。
―さぁ、走ろう。あの場所へ――
――青空を目指して、急な坂道を息を切らしながら駆け登る。
学校からは15分くらい、坂道のてっぺんに着くと、そこから自分の住んでいる町が見える。見上げれば青空、見下ろせば私の町。私は、この場所から見える景色が一番好きだった。
「ハァ、ハァ。」
ここで聞こえて来るのは、気持ち良い風の音と私の呼吸。自分の世界を独り占めできた。「スゥ………ハァ……スゥ……ハァ……。」
少し深めに深呼吸をしてみる。うん、やっぱりここは綺麗でいい。こうして深呼吸をすると、いい気分になれる。この街と同化した気分だ。
――しばらくの間、街との同化を楽しんでいた。何度も繰り返す深呼吸。感じているのは風。
何と無く横に目をやる。すると何もいないハズのその場所がガサゴソと動いているではないか。怪しいと思い、しばらくそこを睨んでいると、突然、声が聞こえて来た。
「あッ………、ぁの………ぇえと………。」なんと其所には人がいた。凄く弱々しい声。まだソイツは姿を私に見せていないが、声から察するに男らしい。澄んだ、テノールの声。その声だけは嫌いじゃないょ。だがストーキングはいけないなぁ、お兄さん。
「ぁのッ……ぇえと……これはですね………何と言ったら良いか……つまり……。」
オイオイお兄さん。言い訳かい?見苦しいょ。
そんな言い訳がましいストーかー野郎に、私は言ってやった。
「アンタが何をしてたかは別にして、まず顔位見せたらどうなの?」
相手が弱々しいので強気に出る私。
すると、その場所から一人の男が出てきた。その声に見合う綺麗な顔の男。………ヤバい。その声にその顔は反則だ……。惚れそう。
自分でも訳の分からない興奮を抑えつつ、私は続けた。
「さぁ、教えて貰おうじゃない。どうして貴方はそんな所に隠れていたの?」
………
……………
……………………
しばらく、だいぶしばらくの間沈黙が続いた。
「う〜ん、何か喋ってくれないと何も解らないよ。」
もう一度、今度は優しく言って見る。すると
「………ぁの、………榊 春奈さんですよね………。」
……何か質問に答えてくれない。それどころか、逆に質問された。しかし私の本名を言って来たので、とりあえずは私が先に質問に答える事にした。
「………そうだけど?」
すると弱々しい美少年は、こう言った。
「……ぁの、……僕………。僕、柳 謙一と言います。……榊 春奈さん、僕と付き合って下さい。」
………
………………?
アレ?
アノコハイマナントイッタノ?
………どうしよう。ストーカーの美少年に突然告白されちゃった。こんな経験今まで無いよ………。てゆ〜か、今人生で初めて異性に告白されたよ。
私は混乱しつつも、どうにか言葉を捻り出した。
「……ぇ〜ッと、謙一君、だっけ?まず聞きたいんだけどさ、貴方はどうして私を知ってるの?」
「えッ?………僕、春奈さんと同じ学校ですよ……」
しまッッッたぁぁぁ!!まさか同じ学校だったとゎ……。謙一君、記憶力の無い女でゴメンね………。
「同じ一年生なので……。実は廊下ですれ違った事が何度もあります。」
「へッ、へぇ。ゴメン憶えてないや。」
「いえ、いいんです。僕だって最初はそんなに気にかけていた訳じゃありませんから。」
ホッとした。どうやら彼は見た目以上に優しいみたいだ。結構いいかも………。
「で、でもさぁ、なんで私の事が好きになったの?」
「………良く、憶えてません。ただ気が付いたらもう好きだったんだと思います。」
「ふぅん、有難うね。」
「それで、今日学校で春奈さんに告白しようと思ったのですが……春奈さん、すぐに教室を出ていったじゃないですか。僕、急いで追いかけたんですけど、こんな所まで来てしまって。」
彼は私にもその音が聞こえる位大きく深呼吸をして、
「榊 春奈さん、僕と付き合って下さい。」
と言った。
………
……………
……………………
しばらくの間、また二人に沈黙が流れた。
私は悩んだ。彼の事は良く知らないし、理由は何にせよ後をつけて来たのは許せない。しかし、彼自身には好感がもてる。彼の声、顔、物腰。全てタイプだ。
………
……………
……………………
――何だ。もう私に答えは出ているじゃないか。
私は彼に最後の質問をする。
「……ねぇ、……この場所ってどう思う?」
「はぃ?………そうですね…………。凄く気持ち良い所だと思います。風と………街と同化したみたいです。」
決まった。もう決定だ。
「………私ね、男の子と付き合うの初めてなんだ。だから色んな事知らないと思うけど、それで良かったら……。」
「えぇ!?、それって………オーケーって事ですか?」
「そうよ、だから………」
―――よろしくね、私の最初のヒト―――
こうして私達は彼氏と彼女になったのだ
――――あれから五年。見上げれば青空、見下ろせば私の町のこの場所は、彼とのデートスポットだ。週に一回、月曜になると彼とこの場所に来る。
「春奈、オマエ足速過ぎ!」
彼は私に敬語じゃなくなった。目元は少し老けたし、足も私より遅いけど、私の自慢の彼氏。
来年、結婚します。
最初のヒトと…… |