私は考えた。
そもそも、私はド素人である。ならば、そんなド素人である私が自分の力で複数の敵をどうにかしようなどと考えるのがまず間違いなのである。餅は餅屋、戦闘は戦闘に精通したプロフェッショナル。今まで自分が直接狙われることが多かったから特殊な戦闘要員を雇うという経験はなかったが、よくよく考えてみれば今回の場合はそれほど切迫した状況じゃないから専用の人材を雇ってもいいのである。……つまり、学園都市の暗部に力を借りよう、と思い立ったのだ。
「というわけで、能力者の、それも結構な力量の護衛を頼めたらなーと」
「フム……。で、なんでそれを私に?」
方針を決めた後は簡単だった。仕事を終え、定時に帰宅してきたお祖母ちゃんをにっこり笑顔で出迎え、変な笑顔を浮かべたまま追跡、耐えかねてお祖母ちゃんが『何か話があるんですか?』と問いかけたところで新たな護衛をつけることを要求してみた。
何でそんな回りくどいことをするのか? ……特に意味はない。お祖母ちゃんとのコミュニケーションの一環である。
「いや、私の近くでこういうことを頼めそうな人、最中お祖母ちゃんしかいなくて……。迷惑だった? ならいいんだけど、」
「そんなことはありません。ほかならぬ小豆ちゃんのお願いですから、しっかりお祖母ちゃんに任せてください?」
返ってきたのは、あっさりとした了承の言葉だった。
……お祖母ちゃん、ごめんなさい。
「ありがと!」
私は心の中で呟きながら、お祖母ちゃんに抱きつく。
……能力者で護衛(しかも殺したり殺されたりする)と言えば、とてもではないが表の人間に頼めるような仕事ではない。ただの要人警護なら民間軍事企業があるが、私が求めているのは能力者の護衛。十中八九、暗部の仕事だ。
お祖母ちゃんも一時期はそういったグレーな領域を行き来していたらしいが、今は違う。最近は講演会の演説などの仕事を頻繁に請け負っているようだし、暗殺依頼の噂なども聞かないから至って平穏なお祖母ちゃんである。私は、そんなおばあちゃんの平穏を自分の都合のために壊そうとしているのだ。なまじ自分も愛している平穏を壊しかねない『お願い』をすることに、罪悪感を感じないわけがない。
「あ、出来れば私と同い年くらいの女の子だったらいいな。そんな都合が良いのがあるかも分からないけど」
「お、女の子……。分かりました。一応見ておきますが、期待はしないで下さいね?」
抱きつかれて少し嬉しそうなお祖母ちゃんから離れつつ言った私に、呆れ顔の言葉が返ってきた。
いるんだけどな、女の子だけの暗部集団。この時期だったら浜面もいないし、『アイテム』が該当するだろう。前世で彼女達の活躍を見てきた+この世界での事前知識で彼女達の性格や行動パターンは把握しているし、同性ということで彼女達の警戒心も通常より薄れるだろうから、色々と楽になるはずだ。……泊り込みが前提の任務だからな。男だらけの暗部組織だったり、大人がいたりするとモチベーションにも関わるだろう。というか、『スクール』『メンバー』『ブロック』には構成員の中に学園都市に反旗を翻そうとしている人間が多数潜んでる(『スクール』と『ブロック』は構成員全員がそうだし、『メンバー』に至っては途中で一人魔術師と入れ替わる)わけだし、そんな危険因子を護衛にできるはずもない。『グループ』はこの時点では結成されていないし。
何より、戦闘能力の高さが魅力的である。超能力者第四位『原子崩し』を持つ麦野沈利、暗闇の五月計画によって一方通行の演算パターンを組み込まれた大能力の『窒素装甲』を持つ絹旗最愛。大能力『能力追跡』の持ち主にして『八人目』の超能力者候補の滝壺理后、もう一人のフレンダに関しては弱小能力者の可能性もあるが、それにしても彼女達と一緒に暗部で活動している以上それなりの力量はあるはずだ。浜面もそんなことを言っていたし。
尤も、『グループ』『スクール』『アイテム』『メンバー』『ブロック』の暗部大抗争でフレンダは真っ二つ、麦野はターミネーター、滝壺は再起不能と『アイテム』はボロボロになる予定のようだから期間限定の護衛という感じになるが、それまでに剥離要素を全滅させれば問題はない。
何せ超能力者が一人に高レベルの大能力者が二人だ。向こうが転生者補正ということで、私のように非公式の超能力者を擁している可能性を考慮したとしても、空間支配の男が強能力程度であそこまで増長していたのを見る限り、組織内で大能力者や超能力者はいない、もしくは極少数と見て良いだろう。
これで、一応は磐石かな。向こうの戦力が分からないから安心はできないが、向こうに能力開発が行える転生者がいて、主力級は全員超能力者とかそんな超展開でも起こらない限り問題はないだろう。大体、その可能性にしてもそんなことが起こってるんなら滞空回線から隠し切れないだろうから既に学園都市が動いているだろうし。何より、ほんの十数年前まで平和な日本で暮らしていた人間が、暗部の、殺すか殺されるかの世界で生きてきた人間相手に太刀打ちできるはずがない。経験者である私が言うんだから間違いない。
あとはそうだな……。この機会に、暗部組織とパイプを作っておくのも手か。後ろ暗いところがあるのが公にバレると私の立場上厄介だが、それを考慮しても戦力のアテがあるというのはオイシイ。
***
「はい、はい。よろしくお願いします」
その後。最低限女の子の部屋と呼べる装飾を整えただけの自室にて、私は窓の外の暗闇を眺めながら余所行きの声色で電話に向かって話していた。手には、学園都市謹製のハイテク携帯電話(スマートフォンタイプ)。勿論、私が暗部と接触をとっていることがバレては色々と問題なので(法的に、という意味ではなく、暗部の方から難癖をつけられる可能性がある)、傍受・盗聴対策はばっちりだ。
『んじゃー、明日アイツらを向かわせるから。それでよろしい? お嬢様』
「はい。それで」
電話相手は、『アイテム』への依頼を斡旋している『電話の女』と呼ばれる女性だ。私のことをお嬢様と呼んだりいちいち喧嘩を売ってくる態度は憎たらしいが、依頼料や護衛に際する行動の権限など、こちらの決めたい条項はきっちりと説明してくれるあたりはやはり『この仕事』で食っているだけはあるな、と思う。
彼女曰く、『アイテム』のメンバーとは明日、顔合わせをする必要があるとか。護衛をするにあたって、依頼人の為人や行動パターンを把握しておきたいらしい。私としては、上手くすれば四人と友好的な関係を築けるチャンスでもあるわけだから願ったり叶ったりなイベントである。
ちなみに集合場所は此処、親船邸の前。そこから諜報対策の為に家の中に入って、そこで打ち合わせをする予定だ。
『……集合場所、当日いきなり変更になっても怒らないでね?』
「……どういうことですか?」
最後に、『電話の女』がそんなことを言い出したので、私は思わず首を傾げてしまう。……『アイテム』って、いきなり集合場所が変わるほどアクティヴな動きをしている集団だったか?
そんな疑問を感じた私だったが、その疑問は翌日氷解することとなる。
***
「あなたが超今回の依頼人でしょうか?」
「……ええ、はい」
翌日、七月二一日。私は、開口一番にパーカーを着た中学生くらいの茶髪ボブカットな少女、絹旗の質問を受けていた。少し呆れながら、私は溜息混じりに頷いた。
雲ひとつない晴天。天気“予知”によると気温は三五・六度になるらしいが、私を含めたその場にいる五人は汗一つ流していない。それもそのはず。私達は現在、冷房がガンガンに効いている第七学区のとあるファミレスにて対面しているのだから。ちなみに私達がいるのは四人がけのテーブル席で、私が通路側に置かれた椅子に座り、そこから見て右奥から麦野、フレンダ、左奥から滝壺、絹旗という順に座っている。
各々麦野は鮭弁のゴミを入れたビニール袋を指で弄っているわ、フレンダはサバ缶の中身をフォークで弄っているわ、滝壺は目を開けながら寝てるわと散々な有様である。唯一こちらに意識を向けた絹旗でさえ何かクソつまらなそうな映画雑誌とか見ているし。
で、本来なら親船邸の前で集合だったこの打ち合わせがファミレス集合ファミレス開始に変更されているのは、事前に流した情報と違う場所で打ち合わせをすることで剥離要素の目を誤魔化す為という建前と、彼女達が普段溜まっている涼しくて快適な場所から動きたくないという我が儘にこちらが折れたという裏事情がある。
……集合場所と言い、私が敬語を使っているというのに向こうは自然体なことと言い、通路側の席に座らせたり、どっちが依頼主なのか分かったものじゃないな。……まあ良いけど。良いけど。
「私があなたがたに護衛を依頼した親船小豆です。あなた方は?」
そう言って一瞥すると、各々好き勝手していた彼女達も流石に作業を中断し、こちらの方を向いた。
ちなみに、『あなた方は?』と聞いてはいるが、これは一応の通過儀礼のようなもの。彼女達の素性は既に資料でも確認しているし、そもそも私は並行結合の並行世界観測による原作知識の取得で彼女達の情報はある程度知っている。
「親船……」
金髪に高校の制服のようなブレザーとミニスカートを身に纏った少女、フレンダが私の名前を聞いてボソリと呟く。彼女も依頼人が『親船』の孫娘であるということは知っていたはずだが、それでも口に出してしまうくらい親船のネームバリューは凄いのだろうか?
それとも、それ以外に何か親船という要素に思い入れがあるとか……? ……駄目だな。フレンダについては何も分からない。確か漫画版の超電磁砲ではフレンダ達『アイテム』が登場していたらしいが、私が見ていたのは禁書のアニメ一期と超電磁砲のアニメ、それから原作の既刊二二巻のみだ。その他の……特典SSやらは全く知らない。ゲームやその他の雑誌企画とかもしらないな。まあ特典SSはあくまで特典だし、超電磁砲にしても外伝だからそこまで重要な情報はないだろうが……。
「フレンダ」
「うっ」
そんなことを考えていると、フレンダの呟きが私に対する失礼にあたると考えたのか、麦野が軽く諌めた。少し息を詰まらせたフレンダは、気まずそうに頭を下げる。私は手を振って気にしていないことをあらわした。
「……私は麦野沈利。能力は超能力第四位、『原子崩し』よ」
話が済んだところで、肩に長い茶髪の一部をかけた高校生くらいの少女(といっても、外見年齢は大人といっても相違ないが)、麦野がそう宣言した。『言った』、ではなく『宣言した』なのは、それがそう呼んでしまえるほどに堂々としていたからである。……流石第四位。
「絹旗最愛です。能力は『窒素装甲』、大能力者です」
「……滝壺理后。能力は『能力追跡』、大能力者。よろしくね」
「フレンダ=セイヴェルンよ。『無能力者』だけど、結局爆発物の取り扱いなら誰にも負けない自信はあるって訳よ!」
続いて、三人が矢継ぎ早に自己紹介をする。……絹旗と滝壺の能力に関しては原作を読んでいた私も知っていたが、フレンダが無能力者だったというのは初耳だ。彼女の言う『爆発物の取り扱い』で暗部の連中と渡り歩いていたのだろうか? だとしたらそれはそれで凄いと思うが。
……ああ、あと『セイヴェルン』というファーストネームも初耳だったな。
「ご紹介どうも。私は親船小豆。親船最中の孫娘です。能力は『割裂空洞』。強度は一です」
「あら、私たちは暗部だから隠さなくてもいいのよ?」
私のいつもやる自己紹介に、麦野が少しだけ微笑んで返してきた。……ただし目は笑っていない。
隠す? 隠すって……私の本当の能力を? 確かに私の本当の能力は『並行結合』だが……麦野の口ぶりからすると、もしかして私の能力って暗部の間じゃ意外と有名だったりする……のか?
「周囲に監視の目はないから惚けなくても良いわよ、裏第四位さん?」
麦野の口調はまだ穏やかだが、目の輝きは既に猛禽のように鋭く、そして鈍い光を放っている。
というか、裏第四位ってどういう意味だろうか? 私の能力は超能力判定を受けてはいるものの、それは能力複製による擬似多才能力者化や能力を打ち消せる能力相殺あってのもので、本来の超能力判定の基準である『軍隊の一個師団に匹敵する』レベルを満たしているわけではない。しかも安全上その情報すら公式のものではないから、私は超能力者でありながら序列にはいないのだ。……というと、何だかそこはかとなく陳腐な響きがするわけだけど、残念ながら事実である。
「ああもう、いつまで惚けてんだこのビビリが。いいから名乗っちまえっつってんだよ! 『能力は超能力序列裏第四位、並行結合です』ってよォ!」
と、そんなことを考えているとついに麦野が立ち上がって吼えた。
……ふぁ、ファミレスで堂々と機密を怒鳴るなよ……。いや、盗聴とかはされないように準備した上で怒鳴ってるのだろうが、それでもだ。
しかし、回答を遅らせたのが間違いだったか? しかし、何でコイツはこんなにムキになっているのだろうか。裏第四位って言葉も何か棘があったし……。……いや、それよりまずフォローか。此処で友好関係どころか嫌悪されてしまってはお話にならない。
「す、すみません……。はい、そうです。麦野さんが言ったとおり、です。はい。……でも、裏第四位ってどういう意味ですか? 私は、実質超能力者なだけで、序列にはいませんが」
「テメェ……、」
「麦野、そこまでよ。結局、どうやら彼女本気でどういう意味か分かってないみたいだし」
激昂しかけた麦野を寸でのところで抑えたのは、フレンダだった。……初日からこれって、これから本当に先が思いやられるな……。その上怖い。原子崩しの攻撃なんて私の能力じゃ抑えきれないし、ここで使われたら間違いなく即死だ。麦野もプロだからそんな戯けた真似はしないだろうとは思うけど。……いや、やっぱり今の状態を見る限りだと不安だ。
「私が説明するね。おやふねも分かってるとおり、三年前までおやふねは学園都市の暗部に狙われていた。それは、おやふねの能力が学園都市にとって不利益を齎すと統括理事会が判断したから。ここまでは把握してるよね?」
キレた麦野を宥めているフレンダをよそに、依然マイペースな滝壺が私に状況説明を始めた。渡りに船と、私はとりあえず首肯する。
ちなみに滝壺の説明に注釈しておくと、私が学園都市――すなわちプランに不利益を齎すと判断したのは統括理事会ではなく、統括理事長……即ちアレイスター=クロウリーだ。何故なら統括理事会でそういう議決が出ようものなら、私の祖母である最中お祖母ちゃんが黙っていないからだ。お祖母ちゃんはそういう機会の為にいろいろと役員同士で細かい条約を結んでいたようだし、お祖母ちゃんもあの襲撃は知らないみたいだったし……。まあそれはともかく。それらがパーになるということは、統括理事会の権限が及ばない存在――アレイスターによって、私の抹殺指令が下されたということになる。これについては、アレイスターからも言質はとってあるしな。
「その時に、あなたが超能力者という情報も一緒に暗部に流れたの。序列も一緒にね。そこに記されていた序列は、第四位だった」
なるほど、それが裏第四位の『第四位』に繋がる訳か。とすると、『裏』の意味はおそらく……、
「もちろん、ここに書かれていた序列は公式ではないもの。本来おやふねはあの騒動で暗殺されるはずだった人物だし、暗殺されなかった今も安全の為に超能力者である事実を隠しているから、公式に明かすことは出来ない。だから、『表は』第四位はむぎのってことになってるけど『裏は』おやふねが第四位。だから『裏第四位』」
滝壺の説明が終るなり、麦野の不機嫌そうな舌打ちが盛大に響く。
……なるほど、それなら麦野が私に食って掛かったのも納得が行く。裏では自分を凌ぐ能力者が表で飄々として自分達を雇っている訳だし。麦野は自分の能力にかなり執着しているような面があるようだから、私のそう言った態度が我慢ならなかったのだろう。
まあ、先ほども言った通り超能力者の序列に強さはあまり関係ないんだがな。序列の決定基準は『学園都市にとってどれだけ重要か』、だし。
私が『裏では第四位』という位置づけなのも、アレイスターのプランにとってそこが適当だったからだろう。一方通行は第一候補、未元物質はスペアプラン、超電磁砲は第一候補に使う無数の歯車の一つ。
アレイスターにとって重要なのは、おそらくそこまでだろう。何せ、実質第四位らしい私などさっさと殺されそうになったくらいだ。御坂……超電磁砲が三位なのは、おそらく量産型の妹達の有用性からだろう。アレが全世界に散らばることで魔術師を潰すという作戦は、土御門の予想ではアレイスターの計画の肝になっているわけだし。
そもそも、普通に結標あたりにも殺されかねない私が超能力者という時点で、私の説の正しさを証明してるようなものだ。私が超能力者なのも、能力複製や能力相殺関連が理由だと思っている。
閑話休題。
「なるほど。それで……。すみません。私は『そちら』に関しては疎いもので」
「馬鹿な、惚けてんじゃねェぞ! 六年も暗部から逃げ切った上に未だに『そっち』にいておいて『疎い』はねェだ、」
「疎い、もので」
私の言葉で麦野がまたヒートアップし始めたので、今度は途中で抑える。流石に何度も声を荒げてもらっては困る。いくらなんでもそれだけ叫んでしまえば盗聴対策など意味がないだろう。
「……ごめんなさい、熱くなりすぎたわ」
ちょっと言葉にプレッシャーを乗せると、麦野も自分の行動を省みる気になったのか、一つ溜息を吐いて矛を収めてくれた。やっぱり、すぐに感情を切り替えられるのはプロたる所以か。これで激情家なところがなければ言う事無しなんだが……、それは高望みしすぎか。
「では、資料は読んでると思いますが改めて事情を説明しますね」
本格的に話を聞く体勢になった四人を一瞥して、私はカバンから紙の束を取り出す。暗部の人員を護衛として雇うにあたって、あの日の出来事――空間支配の男に襲われた一件を詳しく纏めたものだ。勿論、空間支配の男のお陰で滞空回線による情報は潰せているから、都合の悪いところはボカして捏造していたりするのだが。私にとってはかなり少ないリスクで今後片付けなくてはいけない問題を教えてくれたわけだし、あの男は本当に有難い存在だった。
「昨日、私は『空間支配』と名乗る『空力使い』の少年に襲撃されました。彼の言うことには、学園都市――統括理事会の『プラン』を利用し、自分たちが富を築こうと画策しているらしかったです。そのために、統括理事会の一員、親船最中の孫娘である私を仲間に引き入れ、理事会の動きをけん制する狙いがあったようです。ほかにも色々訳のわからないことを口走っていましたが……とりあえず統括理事長のことを敵視しているようでもありました」
「統括理事長? 何でまたそんな超命知らずな真似を?」
軽く捏造した説明をしておくと、絹旗が怪訝な声をあげた。実際には、ヤツはアレイスターを敵視してなんかいない。ただまあ、アレイスターにとっては邪魔者だろうし敵視しているということにしておけば私が剥離要素を叩き潰す時の言い訳にも使えるだろう。それに、これでアレイスターと剥離要素が潰し合ってくれるのなら万々歳。その隙に乗じて私は自分の地位を磐石にさせてもらおう。
「さあ、私にもよく分かりませんが……。そもそも、彼らがどこから来たのかさえ私には分かりませんし。ただ、統括理事長を敵に回すなんてことはそう簡単に出来るものではないでしょう。何らかの策があるのかもしれません」
奴らにとっては、アレイスターと渡り歩ける『根拠』は原作知識なんだろうがな。……だが、私は残念ながらそうは思えない。確かに、アレイスターは『プラン』の邪魔にならない行動をしている分には彼らに寛容だろう。しかし、あまりにも『プラン』の邪魔にならない行動を取りすぎるというのも問題だ。それは『プラン』の内容を知っているのをアレイスターに教えるということ、つまり彼らが『プラン』の全貌を暴いているという疑念を覚えさせるきっかけにしかならないからだ。
……小学校時代、散々アレイスターに痛い目を見せられている私としては、最早そんな組織は沈みかけどころか完全に溶け切っている元泥舟にしか見えない。
「策、ねえ……。この資料を見る限り、構成員の大部分は『暗部』ではないらしいけど。何これ、『研究所所属の能力者』? 結局、脳実験のやりすぎで頭パンクしちゃったって訳?」
フレンダが適当そうな調子で頬杖を突きながら呟く。
……本当に適当そうだなぁ……。まあ、研究所所属の能力者っていうのは偶然だろう。私は別に研究とか関係なくいきなり転生したわけだし。……いや、あるいはあの転生者が自分の能力を開発する為に自ら研究所に所属したという可能性もある。
「だとしたら、能力にも何らかの細工があると見た方がよさそうだけど……、……この報告を見る限り、通常の能力者とは違った『異常な使用方法』で能力を行使しているところ以外は普通だからね。……此処に連中の秘密があると見るべきかしら? まあ、それについては下部組織に調べさせるわ。話を聞く限りだとコイツら、情報統制についてはそこまで厳格じゃないようだし」
フレンダの適当な言葉に、麦野が被せるように返す。……うわ、わざわざ『剥離要素の身元に関して不審な点はない』と思わせる形で報告書を作ったっていうのにそれでも感づいてくるか。……これは、捕まったら尋問っていう流れになりそうだ。そうならないように方向を制御する手段を考えておかねば。
「んじゃ結局、今日のところは下部組織の愚図共に任せる以外は進展ナシってこと?」
「超そうみたいですね」
気の抜けた会話で話を締めくくろうとしたのはフレンダと絹旗だ。私も、伝えないと彼女たちが死んでしまうような重大な情報は持ってないので今日はここまでである。
「そうね。あとは……親船、その『空間支配』は味方に関して何か情報を漏らしていた?」
と、ここで終わると思いきや、麦野が最後の確認を取りにきた。私もまじめに記憶をあさって、話してもいいことを吟味してみたが……うん、ないな。どうせ『空間支配』の仲間は転生者だから、私の命の安全のために一人残らず消えてもらう予定だし。
たとえば『相手は「滞空回線」の存在を知っていて、気流操作を駆使して滞空回線を破壊して、盗聴を防いでいたよー』なんて言ってみよう。すると、麦野たちは「あんだーらいんってなんぞや。誰か一人生け捕りにして尋問しよう」と言うに決まっている。生け捕りでは、他にも『話されては困ること』を話される可能性だってある。
「……ん~、特にありませんね」
「オーケー。それじゃ顔合わせ兼打ち合わせはこれで終了ってことにするけど」
「超異議なしです」
「結局、異議なしね」
「……異議なし……」
よし、何だかんだで麦野達との仲にも亀裂を入れずに済んだ。
とりあえずの打ち合わせは終わったから、後は剥離要素は全員皆殺しという指示に説得力を持たせたり、彼女達の住む部屋の話をしたり……、
「じゃ、これから互いの親睦を深める為に、ショッピングでもしましょっかぁ」
「えっ?」
とかなんとか考えてぼけーっとしていたら、麦野が頬を引き裂くように口元を緩めて微笑んだ。
目は、笑ってなかった。
2012/04/14 改訂
2012/05/08 修正
+注意+
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