「お帰り、外道」
「超お疲れ様でした、鬼畜さん」
「結局、クズはクズだったって訳よ」
「大丈夫だよ、私はそんなおやふねを応援してる」
…………人がアカデミー賞並の演技をこなしてきた後に、この労いの言葉はどうなんだろうか? フレンダに至っては労ってすらいないし。
というわけで、私は警備員の前にやってきた迎えの人(という体で呼びつけた『アイテム』+黒花)と一緒に黒塗りキャンピングカーの中でお色直しをしていた。現在の服装はいつも通りの短い丈のワンピースにシャツ、下にジーンズとパンプスという格好だ。これから派手に一戦やるというのにあんなひらっひらした服なんか着てたら死ねる。
私の視線の先には、キャンピングカーの壁面にかけられた超薄型テレビがある。下部組織からのものと思わしき映像には、繁華街を走っている上条の映像が映っていた。どうやら、既に吹っ切れて御坂のところに向かっているらしい。正史だと一旦常盤台の学生寮に行っていたはずだが……、まあ、このくらいの乖離は許容範囲内か。
「いやーしかし、相変わらずお嬢様の女優っぷりには驚かされますね~。此処まで来ると感情の有無から疑いたくなります~」
「上条くんの動きを誘導する為には、『あの台詞』を言うのが必須だったんだよ。上条くんだってなんだかんだでただの高校生だからね」
私の髪を梳いていた黒花がそんなことを言い出した。……そう。私がわざわざ『実験』に掠るなんていう暴挙に出たのは、完全な白であるせいで却って『なんでこんなに都合よく修羅場を回避できたんだ?』と上条に疑惑を持たれないこと(今回だけで疑われることはないだろうが、今後上条の『原作沿い』をサポートしていくうちに何度も同じことがあったら疑念を抱かれる可能性がある)の他に、疑心暗鬼に陥った上条に『御坂を信じろ』という『行動の芯』になり得るものを提供する為だったのだ。
何の手がかりもなければ、あの直情径行馬鹿は私の予測不可能な行動をとるだろう。まあそれでも『実験を中止に追い込む』というベクトルに行動が向いているのは確実だろうが、結果私が不利になる可能性はかなりある。しかし、『御坂』という行動指針を与えればあの直情以下略馬鹿は『御坂』という存在に基づいた行動をとる。そこからなら常盤台の女子寮に向かう正史の流れに則っても良かったし、今回のように直接御坂に辿り着いても問題なかったのだ。
「親船さん、そこまで他人の心理分析できるんなら私、いらないんじゃないですかね~?」
そういうと、黒花は明らかに私を馬鹿にした調子で笑った。……チッ、黒花め。私が下手に出たら調子に乗りやがって。心理同調経由で私が見た一〇〇三一号のスプラッタ死体の映像を送りつけて黒花にあうあう言わせつつ、麦野達の方に向き直る。
「はい、じゃあ御坂さんの動きは掴めてるかな?」
「当然。どうやら第三位が研究所をボコボコ壊してたのは『実験』の場所が探知できなかったせいだったらしいって訳よ。結局、上が本気で情報を隠してたからなんだろうけど……。どういう理由か知らないけどついさっき情報規制が解除されて、今第三位は再度のハッキング中だから、五分もしたら『実験』が行われる座標を特定できるんじゃないかしらーん」
「なるほど、じゃあ上条くんなら問題なさそうだね」
フレンダの報告に私は軽く頷く。此処でも若干乖離が発生しているようだが……まあ、それについては考えても仕方がない。上条が向かった以上、もう御坂と上条の邂逅は時間の問題。後は適時モニタリングしながら、不測の事態が起きれば下部組織を使うなりして上条の行動を誘導すればいい。
「で、私達はこれからどうするかと言うと……、」
「プチプチと剥離要素潰しだろ? お前も飽きないね」
私が言いかけたところで麦野が口を挟んできた。その通り。一方通行編といえば禁書のアニメ一期の一クール目山場だったはずだし、何より『第二の主人公』一方通行が正史で初登場した事件でもある。前回の御坂と『アイテム』の一戦にも介入しようとした剥離要素が介入しない道理がない以上、警戒は強めなくてはならない。
「にしても、剥離要素も何の目的で第三位がらみの事件に介入しまくってんだろうねぇ。どっかでアレイスターのプランでも傍受してんのか? にしてもあのガキがプランに大きな影響力を持ってるとは思えねぇが……」
「麦野さん、薮蛇かもよ、それ」
「……チッ、分かってるっての。テメェにゃ迷惑かけねえよ」
私が忠告すると、麦野は不承不承といった様子で頷いた。アレイスターのプランには確かに興味がある訳なのだが、かといって此処で下手にプランを逆算してアレイスターに目をつけられても面白くない。ただでさえ私には『襲われた』という動機があるのだから、反逆ととられる行動は即座にアレイスターに悪印象を与えるに違いない、……というのは建前だ。
実際、妹達の有用性程度は木原数多でも知っていたことだから、麦野が調べてもアレイスターにとっては痛くもないんだろうしな。でも、こういうところで釘を打っとかないといつか痛い目見そうな気もするし。そういうレベルで私はがけっぷちなのだ。
「で、今回はどこで超スタンバっておくんですか? おそらく実験場では一方通行と超電磁砲がぶつかり合うと思われますから、下手に近い場所にいると二人の戦闘の余波に巻き込まれかねないと思いますけど」
「正確には一方通行と幻想殺し、だけどね。……んー、とりあえず、操車場の外縁を囲むように待機してればいいんじゃないかな? この間の二人一組で」
「えぇー、結局、そうすると私達のチームはどっちも下位能力者じゃん! 麦野チームは超能力者二人組でズルいわよー!」
私の提案に、フレンダが不服そうな声を上げた。
……フム、私の安全という面で見れば『何言ってんだコイツ』並みの意見だが、今回の目的を考えると的を射ている、か……。前回は『一番重要度の低いポイントの担当だから』という理由で黒花とフレンダを組ませた訳だが、今回に限って言えば重要度はどのチームも均一。
絹旗と滝壺のコンビはこの面子の中でもちょうど中間程度の戦力バランスだから良いとして、いくら私の安全が重要と言っても超能力者が一つに固まっては確かに戦力差に偏りが出る。相手にそれを悟られてフレンダたちから突破されて上条達と剥離要素が邂逅してしまったらもう目も当てられないしな。
「……じゃあ、私と沿受ちゃん、フレンダちゃんと麦野さんで組む。それでいい?」
「……うん、結局それでいいって訳よ!」
私がそう言うと、フレンダは妙に満足げに頷きながらグッと黒花にサムズアップしていた。…………何か示し合わせでもあったのか? まあいい。黒花は『こちら側』だから反逆の可能性はないし、どうせくだらない話だろう。
「……も、目的地に到着しました!」
そんな風に割り振りが決まると、待ち構えていたかのように下部組織の男が上擦った声で到着を告げた。この男、幻想猛獣事件のときに運転やってた男だが、麦野の怪物っぷりがトラウマになったのか最近ずっとこんな感じなのである。私がお嬢の仮面被ってあやそうにも、コイツは私の本性知ってるからか逆にびくびくしてしまうし。……面倒な奴だ、目障りだし別の奴に取り替えてもらおうかな?
「それじゃあ、私たちは超此処で降りますね」
「みんな、武運を祈ってる」
「行ってらっしゃい。……無事に生きて帰ってこれたら今度はプールにでも行きましょ」
「またねー絹旗ちゃん、滝壺ちゃん。あと麦野さん、太っ腹なのはいいけどそれ死亡フラグだよー」
軽く手を振りながら車を降りた絹旗と滝壺に別れを告げつつ、麦野に軽口を叩くと、キャンピングカーも発進して次の下車地点に向かう。……さぁ~って、私も気を引き締めないと、なぁ……。
***
「じゃあ、フレンダちゃんたちも頑張ってね」
「りょーかいって訳よー!! 今度は活躍したらボーナスよこせよーっ!!」
「それは了解しかねる」
まあ、どうせ麦野が全部片付けるんだろうけど。
黒塗りのキャンピングカーを見送った私は、そう言うと足元に割裂空洞を発現させる。現在時刻は――八時二〇分。確か実験開始が八時三〇分だったから、剥離要素がやって来るとしたらもうすぐなはずだ。
「……でも、来ますかね。剥離要素」
傍らの黒花が心配そうに呟くが、それに関しては問題ないだろう。確かに第一位との接触となると危険とみる連中もいるかもしれんが、少なくとも与謝野は来る。
やつらのボス、与謝野は筋金入りの馬鹿らしいからな。自分がAIM干渉系の能力だから一方通行も潰せるとか考えて特攻にしくるだろう。間合いに入る前に『粉塵爆発って知ってるかァ?』とか言われて星になりそうだけど。
「来るよ。相手はそういう奴だからね。だからこそ私はアイツらを殺したいんだし」
「……なんだか嫌な信頼の仕方ですね」
「信頼とか言わないでよ、気持ち悪い」
本当にやめてほしい。気持ち悪いから。いや、普通に考えて命の危険があるって分かりきってる事件に首突っ込んでまでフラグ建てようとしてるんだから、その筋金入りのハーレム願望というか、思想については最早敬意を払っても良いと思っているが……、何というか、普通に、好みの問題で生理的に無理って感じ?
「……随分酷でェ言われ様だなぁ……」
確かに。我ながら取り付く島もない言い様だとは思うけど……、って、んん?
「ッ!!」
私は即座に声のした方向を見てみる。私の見た方向の数十メートル先には、他でもない与謝野菱形が立っていた。与謝野の服装は大きく着崩したワイシャツに黒のズボンと、制服なのか私服なのか分からないものだった。顔も良いので結構様になっているが、如何せんチャラ過ぎである。垣根よりもチャラい。
……というか、黒花。
簡易索敵を怠っていたのか、と責めるようなまなざしで黒花に視線を送ると、黒花はぶんぶんと首を振っていた。……なるほど、与謝野の能力はAIM系の少なくとも大能力はあるしな。超能力は言い過ぎだと思うけど。同系統上位種相手に能力を通用させろ、という方が難しい注文か……。
……あれ? これって何気にマズイ状況じゃないか?与謝野は黒花の能力の上位互換みたいなモノだから心理同調は通用しない。そして、アイツは多才能力者みたいなモノだから私の並行結合と同等もしくはそれ以上な訳で。
か、勝てる要素が全くねえ……。
救いは相手がこれ以上ないほどアホだってところだが、相手の弱さを作戦に組み込むようになったらおしまいだ。それは度外視して考えねば。そうすると、本格的に勝ち目がなくなってくる訳だが……まあ麦野と滝壺の早期召集は確定事項として、それまでどうやってコイツを抑えておこうか?
そもそも、真正面から戦えば確実に異能略奪の餌食になる。コイツが私の能力まで奪えるかは甚だ疑問だが、奪われないと高を括って挑むなどまず有り得ない。うーん、どうしようか……。まあとりあえず麦野には連絡を入れておこう。
『O-M「与謝野と遭遇。滝壺ちゃんを回収してコッチに来てくれない?」』
『M-O「フレンダと絹旗はどうすんだ? 絹旗はともかくフレンダは高位能力者が複数来たら対応しきれないわよ」』
『O-M「麦野さん達が合流次第私と沿受ちゃんは空間移動でフレンダちゃんのところに行く。で、フレンダちゃんは私達が合流次第絹旗ちゃんと合流してもらう」』
『M-O「……了解。私が到着するまで持ちこたえてろよ」』
麦野と通信を終えた私は、改めて与謝野の行動を観察する。与謝野は先ほど(といっても二秒ほど前だが)と全く変わらず、制服なのか私服なのか分からないズボンのポケットに手を突っ込んでいる。二秒もあれば出来ることなど山ほどあるだろうに……いや、表面化していないだけで何かをしているという可能性もあるな。
「…………初めまして、だね。与謝野……菱形、って言うんだっけ」
「……ああ、はじめましてだな、……呼び方はどうしようか。小豆ちゃん? 小豆たん? それともあずにゃんとか?」
「『親船さん』で。変態さん」
……いや、聞いてはいたけど此処まで真性とは思わなかった……。
しかも、私がこう言っても与謝野は勝手に悶えて(喜んで?)るだけで全く応えてないみたいだし……。まあ、完っ全に脈なしの黒花を『嫁一号』呼ばわりしてた時点で分かってはいたが、コイツ相当おめでたい頭してるぞ。
「んじゃ、小豆たんで。ずっとこう呼んでたんでね。今更癖は抜けないみたいだ」
全く話聞いてないし。
「此処にいるってことは、俺がこれから何をしたいかも分かってるんだろ? そこ、退いてくれないかね?」
「無理。あなたにここを譲ったら私、死ぬから」
私の答えに、与謝野は首をひねって疑問符を浮かべる。ああ……、そっか。コイツは私の苦労とか知らないもんな。此処で道を譲ったら与謝野と上条が高確率で邂逅して、その結果状況が最早修正不可能なレベルで歪んで今後の事件で私の安全を保障するものがなくなり、私が死ぬ確率が九〇割くらい増すとか、そんな小難しい裏事情とか気にしなさそうだもんな、コイツ。
「まあいいや。君がどんなこと考えてようが、どうでもいいし。とりあえず、私的に上条君の邪魔をされるのは面倒なんだよね」
「……上条君……!? クソッタレ! 既にフラグ建てられてたってのかよ!!」
食いつくところがおかしい。そして私はまだフラグなど建てられていない。此処、結構シリアスな場面なんだよな? 何で私ツッコミに回ってるんだ……? ……あー、なんか相手してるのがダルくなってきた。これが話術っていう可能性もあるし、ペースを乱されないうちにやってしまおう。
「…………まあ、訂正するのが面倒だからそれでもいいけどさー……」
「なっ!? そん、」
与謝野がそういいかけた瞬間、私の爆弾発言で動揺した奴の足元に火炎放射で生み出した大量の炎を叩き込む。当然、これは相手にダメージを与える為のものではない。炎によって相手の視界を一時的にふさぐのが目的である。
与謝野が完全に燃え上がったのを確認した私は、黒花を掴んで先ほど足元に発現しておいた割裂空洞から空間移動と透視能力の拡散力場を放出、近くのコンテナの物陰に移動した。
コンテナの物陰に隠れて与謝野の様子を確認してみると、やはり与謝野は傷一つ負っていなかった。地上数メートルの位置で息を荒げながら滞空している。前回の戦闘で弱点だった『精神的動揺による能力解除』も多少期待していたのだが、どうやら流石にあの欠陥は克服してきているようだ。成長性のない能力を持つ私としては、相手が成長してくると言うのは面倒くさいことこの上ない。
「クソ! いきなりなんてつれねぇじゃねえか小豆たん!」
言いながら、与謝野は周囲を見渡す。私はとりあえず与謝野が馬鹿正直にコンテナの陰を覗き込んだ時のために前方に割裂空洞を発現させる。これで、アイツが間抜けにもこちらの様子を伺った次の瞬間には火炎放射でミディアムになるという寸法だが……、
「……へっ、甘いな小豆たん! 見えてるぞ!!」
そう言うと、与謝野は空中を蹴るようにしてコンテナ上を飛び、私たちの頭上に現れる。
「お、お嬢様!」
黒花が引きつった声を上げる。……無論、こいつのコレは演技だけどな。表情に緊張感がなさすぎる。……与謝野がこうしてくることくらいは予想済みである。大体、私が透視能力を使っているんだから、多才能力としては上位互換のアイツに同じものが使えない理由がない。ということはつまり、私は自分の策がバレていることを前提に策を練っていたわけだ、が。
ピシュン、と空気が一瞬にして圧縮される音と同時に、私と黒花はその場から空間移動し、また別のコンテナの物陰に移動する。先ほどまで私がいた地面には、小さめの割裂空洞が口を開けていた。与謝野が上から来ることを予想して、あらかじめ設置しておいたのだ。
「……ッ!」
与謝野の表情が凍りつく。私が狙っていることが理解できたのだろう。回避しようにももう遅い。与謝野の全身を、炎と電撃が包み込む。上手く不意をついて狙えたわけだが……まあ、これはおそらく効かないだろう。相手は仮にも多才能力者なのだ。せいぜい強能力程度の攻撃で揺らぐとも思えない。
「無駄だぁ!」
案の定、攻撃は次の瞬間には弾き飛ばされる。当の与謝野はというと、電撃と炎のコンボを食らったのに服が少し焦げている程度のダメージしかない。まったくもう、分かってはいるけど同じ多才能力者としての格の違いを見せられた気分だなぁ……。まあ、多才能力者としての強さが『与謝野>木山>私』なのは分かりきったことなんだけど。と、そんなことを考えていると、
『M-O「もうすぐ到着するわ」』
麦野から念話が入ってきた。……フム、やっとか。おそらくあと一分弱で到着といったところだろうが……、一分弱か。まあそれなら何とかなるか。
「……おい、どうしたんだ? さっきから攻撃の手が止んでるみてぇだけど」
そう言うと、与謝野はさっとあたりを見渡し、それから私に視線を合わせた。一応私と黒花はコンテナの陰に隠れているからあっちからは見えないはずなんだが、さっきと同じように透視能力でも使ってるんだろう。
「全く、びっくりさせやがって。不意打ちで電撃と炎とか、俺じゃなけりゃ死んでるところだったぞ」
呆れたように頭を振ってため息をつく与謝野。まあ、お前じゃなくてもたいていの相手は死なないけどな、私と敵対するような奴らは。
「……知ったこっちゃないっての」
ボソリと呟いた私は即座に黒花を残したまま与謝野から見て右方向のコンテナの裏に転移する。どうやらあっちに私を積極的に倒そうとか、そういう意図はないらしい。まあ、『ハーレム要員』である私を殺すわけにもいかないだろうけど。そこはかとなくプライドが傷つけられる話だが、相手が勝手に手加減してくれるというならそれに甘えない手はない。ちょこちょこ逃げて麦野が到着するまでの時間を稼ぎたいが……、
瞬間、ドン!! とお腹の底が響くような地響きが鳴った。……多分、一方通行が『粉塵爆発って知ってるかァ?』とかやらかした音だろう。
「……ち、もう始まってるみたいだな。んじゃ小豆ちゃん、何も仕掛けて来ないなら俺は行かせてもらうぜ」
……ううむ、そこなんだよなぁ……。コイツの目的は私じゃなくて御坂。立ちふさがるならついでにモノにしちゃおうとか思ってるが、来ないなら来ないでスルーでもいいわけだ。対して私の目的はコイツの足止めだから関わりたくないからといって逃げてしまっては本末転倒、しかしあまり正面衝突しすぎると能力を奪われる……ジレンマだなぁ。
半ばげっそりしつつ、空間移動で与謝野の眼前一五メートルのところに現れる。一五メートルの距離は最早眼前とは言わないかもしれないがそこはそれ。私にとっては非常に不安な距離である。防御策くらいはあるけど。
「……おう、やっと出てきてくれたか小豆たん。もう降参してくれるか? だったらちょっとそこで待っててくれ。これから一方通行潰してく、」
「無理だね」
さっさと向かおうとこっちに歩いてくる与謝野に、私はきっぱり言い切ってみた。余裕そうな表情だった与謝野の顔が、少しだけ硬直する。
「……なん、だと?」
「無理だ、って言ったんだよ。大体、一方通行のベクトル操作を『AIM拡散力場の操作』ごときで打ち破れるわけないじゃん。だって、相手は『この世のありとあらゆるベクトルを操る』能力なんだよ? 君の拡散力場のベクトルを操られてしまえば、そもそも能力なんて効く筈がない」
実際にはこの時点の一方通行は拡散力場のベクトルを操れるわけではないと思うので、こいつにも勝ち目はあるのだろうが……私以上に拡散力場についての知識がない与謝野であれば、このくらいのカマかけにも乗ってくれることだろう。
「何言ってやがる。俺の能力を使えば一方通行だろうと能力を奪えるに決まってるだろ?」
……ふむ。平静を装っているようだが、明らかにプライドが刺激されてますって顔をしてるな。この話題は『当たり』か……。
「それに、仮にも学園都市第一位だよ? 能力を奪うんだか何だか知らないけど、そもそも奪わせてもらえる段階にあるとでも思ってるの?」
「………………、」
私の言葉に、与謝野は黙り込んだ。
何だ、自分に都合のいいことしか聞こえないタイプの奴かと思ったら、割と冷静な見解も出来るんじゃないか。このまま私の言葉で説得して引き返させられるか……? だったら嬉しいんだけど。
「いや、問題ねえよ」
しばし考え込むようなしぐさをしていた与謝野だったが、ふと顔から力を抜くとあっさりそう言い切った。……あー、やっぱり無理だったか。
「第一、俺には異能略奪があるんだ。たかが第一位程度に負けるはずがねえ」
「……いや、明らかに話が噛み合ってな、」
「だーいじょーぶだっつってんだろ! 心配すんなよ。俺は勝つ。勝って絶対戻ってきてみせる。だから安心して待ってろ」
与謝野は主人公が浮かべるみたいな爽やかな笑みで私の言葉をさえぎった。……あるぇー? 何でいつの間に私がコイツの心配をしてることになってるの?
「んー……、面倒くさいなぁ。此処は通せないよ。それ以上踏み込んだら本格的に攻撃開始しちゃうかも」
「構わねえよ」
ザッ、と足を踏み出す与謝野。なんだかんだでこういう動作が様になってるから増長するんだろうなぁ……。
「立ちふさがるっていうんなら、少しだけ大人しくしていてもら、」
与謝野がそう言いかけた瞬間。
地面が爆発した。
爆風に煽られ、私は一気に数メートルほど吹き飛ばされる。与謝野の攻撃にしては強すぎるな……。というか、こんな火力があるなら最初から使っているはずだ。とすると……、
「……チッ、勢い余って飛ばしちまったか。悪りぃな親船」
カツ、と靴がコンテナを叩く硬質な音が響く。
此処からだと見えないが、声からして間違いなく麦野だろう。とすると、おそらく滝壺もいるはずだ。とりあえず彼女たちには与謝野と戦闘を任せるとして。
「……にしても、随分飛ばされちゃったなぁ」
ともかく、物陰に置いてきた黒花と合流しなくては。そこまで吹き飛ばされていないはずだからすぐに見つかると思うんだが、あんまりこのあたりでぶらぶらしてると上条に見つかるかもしれないからな。まあそんなこと万が一にもないだろうけ、
「…………ぁ」
そんなことを考えた瞬間、私の前方で聞きなれた少年の声が聞こえた。顔を上げると、そこには見覚えのあるつんつん頭の高校生の姿が。みんなご存知主人公上条当麻である。
…………うんうんそうそう『万が一にもない』とかね、そんなこと言ったら来るに決まってるって今までの経験上分かってたんだけどなぁあははははは。
……ちょっと待とう。状況を整理しよう。この状況って……、
一、上条の視点では私は普通に表の人間である。
二、上条の視点では私は御坂妹の死体発見騒動で帰ったことになってる為、実験場所は知らない。
三、上条はタイミング的についさっきの麦野のアホが出した盛大な爆音を聞いている。
四、私は位置的に、その爆音と何らかの関係があるようにしか見えない。
五、爆音を辿ったらそこには素敵状態の麦野のクズと明らかに不審人物な与謝野の姿が☆
あっれええええええええええええええええ!? これ、もしかしなくても詰んでね!?!?
2011/10/18 修正
2011/10/23 修正
2012/02/23 修正
2012/04/14 修正
+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。