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第一章 親船小豆 その一
03
 俺がこの世界――『とある魔術の禁書目録(インデックス)』の世界で目覚めたのは、今から三年前。この肉体が一五歳の頃だった。
 自分の置かれている状況が理解できずに戸惑ったが……直前の記憶――トラックが目の前に迫ってくる光景――から、自分が死んでこの身体に『憑依』したということは理解できた。この世界が創作物の世界であるということも、『学園都市』や『超能力』などの特徴的なワードからすぐに理解することが出来た。
 最初こそこの肉体のもともとの持ち主に対する申し訳なさや、いきなり起きた環境の変化に戸惑ったりしたが、意外とすぐに馴染む事は出来た。自分が死ぬよりはマシだと思えば罪悪感も幾分か和らいだし、何より俺の他に似たような境遇でこの世界に憑依転生した人間が何人かいたからだ。自分と似たような境遇……憑依転生した人間が居るというのは、『見ず知らずの誰かの魂を消してしまった』という加害者意識、それから『知らない世界にいきなり飛ばされてしまった』という被害者意識の両方を軽減させてくれたようだ。
 そして、その何人かの転生者の頂点に立っていたのが、与謝野菱形よさのひしがた
 能力略奪(スキルインターセプト)という、能力を奪い自分のものにする能力を持つコイツは、原作に登場する、いわゆる『主要キャラ』を粗方堕とすと豪語しており、正直付き合いたくはないと思ったのだが、俺自身同じ世界出身の人物に飢えていたことなどもあって、しばらくコイツを中心とした組織に籍を置くことにした。
 組織の中には結構な人数の転生者がいた。俺が会ったのは五人だが、与謝野曰くこれよりももっと多いらしい。
 そして、その中には『原作知識を利用し、プランに便乗する形で利益を挙げる』という考えを持った人間がいた。
 ……正直に言おう、目から鱗が落ちる思いだった。
 俺が読んでいた一七巻――上条とインデックスがイギリスのクーデターに巻き込まれるあたり――までを振り返ってみても、アレイスターのプランに何か歪みがあるようには思えない。ならば、そのプランによって生まれる影響を利益に組み込めるような行動をすれば、必然的にノーリスクで利益を手にすることが出来る、というわけだ。
 此処に転生してきて特にやりたいと思えるようなこともなかった俺が、初めて生き甲斐だと思えるようなモノを見つけた瞬間だった。
 前世ではうだつの上がらないサラリーマンだった俺だが、この世界では超能力という特別な力がある。それを利用すれば確かに、特別な地位に立つことだって可能になる――そう、すんなりと……のちのち考えてみると不思議なくらいすんなりと思った。

 その後は、能力開発だ。
 転生した当初で既に強能力者(レベル3)空力使い(エアロハンド)だった俺だが、原作に介入するのであれば大能力者(レベル4)の上位くらいの能力は欲しい。
 ただし、これは大変だった。
 俺は元々普通の学生で、転生当初に混乱してしまっていたこともあり、俺は無断で寮を抜け出していたのだ。能力開発は主に学校で行うものだから、一度寮に戻らなくては開発を受けることは出来ない。だが、寮に戻れば何故無断で寮を抜け出したのか問い詰められるだろう。その過程で俺が転生者であることがバレてしまえば、色々な精密検査を受けることになる。その結果、俺という人格が『バグ』だと判断され、消し去られてしまう可能性もある。さすがに拾った命、そんなことで潰してしまうのは嫌だった。
 そういうわけで、俺は開発によって能力を伸ばすことは諦め、今ある能力を最大限応用することにした。
 禁書世界の超能力は実生活で活用される機会が少なく、ゆえに応用方法などはメジャーな能力になればなるほどマニュアルどおりの運用法しかない傾向があるようだが……現実で禁書(インデックス)を読んでいた俺からすれば、この空力使い(エアロハンド)も中々応用性のある能力だ。物は試しと、色々と試してみたところ、やはり俺の考えたとおり、様々な応用ができた。

 俺が自分の能力の象徴としているこのスキル、『空間支配(ライジングゾーン)』も、その応用の一つ。地面に触れ、じわじわと効果範囲を広げることで空気噴射の射程距離を広げ、ごく小範囲での上昇気流を発生させることで局地的な低気圧空間を形成するのがこのスキルの原理だ。
 最大射程は大体二〇メートル、かつ境界面にて強烈な下降気流が発生するように風向きを調整してみたところ、同じ組織の電撃使い(エレクトロマスター)系能力者をして『空気中の微細な塵レベルでの空気洗浄が行われてる』とまで言わしめるほどの結果を出せた。確か一五巻で登場していた滞空回線(アンダーライン)は少なくとも破壊されるだろう。
 能力が完成するまでに時間がかかるのがネックだが、完成してしまえば風向きを調整することで気圧ゼロの空間――絶対真空を生み出すことも可能な能力だ。これで強能力《レベル3》だというのだから、本当に応用と言うのは大事なものだと思う。

 こうして俺が原作に介入できる力を手に入れた時には、既にこの世界に転生してから二年の歳月が流れていた。そして、当時中学三年生だった上条当麻の動向を調べようとして……俺は驚愕した。
 親船小豆。そんな名前の少女が、上条と二人で歩きながら帰路に就いているではないか。苗字に聞き覚えがあったので調べてみたが、『あの』統括理事会の一人、親船最中の孫娘らしい。それほど親しげにしていたわけではなく、帰り道が違うのか校門を出てすぐに別方向に別れてしまったが、それでもそんな重要人物が上条の近くにいて、原作で何の説明がないはずもない。おそらく、彼女は原作にいない存在だと思われる。『同郷』、そんな言葉が脳裏を()ぎった。同郷の好と言って彼女と友好関係を築き、上条との架け橋になってもらえば……ごく自然な形で、プランに介入することが出来る。俺はそう考えた。

 のだが。
 やはり現実はそう上手くはいかないらしい。彼女は、俺が思っていた以上に用心深い性格だった。

「私が最中お祖母ちゃんの孫だから言ってるの? 呆れた人だね……。プランに便乗? 馬鹿馬鹿しい! 私は『学園都市統括理事会』親船最中の孫娘! 自分の目的の為に他者を蹴落とす利己主義者とはお付き合いしたくないね!」

 俺の胸ほどしかない背丈の少女は、凛とした調子でそう言って俺の提案を切り捨て、キッとこちらを睨みつけてきた。
 ……随分と嫌われたものだ、と心の中で自嘲する。まさか、ここまで全否定されるとは思わなかった。普段の親船小豆はあまり相手に強く物を言うタイプではないと調査の結果分かっていたし、あっても消極的否定だと思っていたのだ。

「そうか……。ところで気が立っているようだな。俺がこんなところでいきなり重要機密を喋ったからか? 安心してほしい。ここで話した内容が漏れる事はない。滞空回線(アンダーライン)は爆風でやられてしまうほど脆いのだろう?」

 しかし、俺は冷静に返した。まあ、彼女のこの『真面目なフリ』は十中八九演技だろう。
 彼女が転生者なのは間違いない。にも拘らず上条とインデックスが遭遇するこの時期に彼と行動を共にしていないということは、原作に干渉するつもりがないということ。彼女が発言通りの、気丈で正義感に溢れる人物なら、まず最初に切り捨てる選択肢だと思う。
 とすると、彼女が怒っているようにも見えるほど強大な敵意を剥き出しにしているのは、単なるポーズとしてではなく、こちらの不手際に対する憤りが無意識に現れている……といったところだろうか。

 やはり、最初に思い当たるのは滞空回線(アンダーライン)の存在だった。
 原作介入……いや、正確には『原作に巻き込まれること』を忌避しているのなら、『原作』などという統括理事会を刺激する内容は確実にタブーであり、絶対に口にしてはいけない内容だと考えているのだろう。それならば、これほどの敵意も納得が行く。

「……!」

 思ったとおり、その言葉を口にすると、親船小豆はほんの一瞬ではあるが表情を一瞬驚愕の色に染めた。
 同時に、彼女の呼吸が乱れ、身体の力が抜けるように地面に膝を突いた。暑さか、それとも息苦しさからか、彼女の額には大粒の汗が浮かび上がっていた。
 ……どうやら、やっと空間支配(ライジングゾーン)が効いてきたようだ。……驚愕したのはこの為だったか?

「……何、を……?」
「話を聞いていなかったのか? 俺の能力は空力使い(エアロハンド)。触れたものから空気を噴出させる『空力使い(エアロハンド)』だが、その対象の大きさに制限はない。制限があるのは、空気を一度に吹き出させることの出来る量、だ。当然、この地面だって対象にすることが出来る」

 親船小豆は、何が起こったのか理解できないと言ったような表情で問いかけてきたが、俺がそれに答えると悔しそうに拳を握り締めていた。
 ……万策尽きた、というところだな。それでも命乞いをしないところは、好感が持てるが。……プランを悪用する、というと世界を混乱させかねないように聞こえるかもしれないが、一概にそうとは言えない、というところを説明してやれば、彼女もいつかは協力してくれるようになるだろう。
 なに、まだ『原作』が本格的に動き出すまでは時間がある。根気良く話していけばいい。

「『妨害気流(ウィンドディフェンス)』を知っているだろう? 原理はそれとさして変わらない。ただ、気流を絶え間なく発動することで能力範囲内に局地的な低気圧を生み出し、内部にいる人間の運動能力を低下、なおかつ射程限界に強力な下降気流が起こるように計算して風力を調整することで、空気の壁を生み出す。ちなみに、『滞空回線(アンダーライン)』はこの気流に全て乗せて、例外なく地面にたたきつけて破壊した。いわばこの空間は俺の独壇場。人呼んで『空間支配(ライジングゾーン)』だ」

 親船小豆は俯いていて、その表情をうかがうことはできないが、俺は構わず能力の説明を続ける。彼女も、自分が敗北した能力くらいは完全に知りたいだろうし、な。それに、万に一つも勝ち目がないと分かれば無駄な抵抗は辞めるだろう。

「婚后とやらは触れたところから空気を噴出させていたが、そんな派手な真似をせずとも、こういう風に話を伸ばして時間を稼げば、無類の力を誇るのだ。当然、呼吸のための酸素がなくなるのだから反射だろうと無駄だ。強能力(レベル3)一方通行(アクセラレータ)を倒しうる術を持つのは俺くらいのものだろうな」

 一方通行(アクセラレータ)も、妹達(シスターズ)の電気分解によるオゾン攻撃(正確にはオゾンの生成による酸素不足だが)は喰らっていたようだった。つまり、普段反射していない『空気』というベクトルの攻撃ならば、彼を倒せる可能性さえある。と、これは関係のない話だが。

 空間支配(ライジングゾーン)が完成した以上、彼女の持つ能力――調査によると、割裂空洞(ダークホール)という低能力(レベル1)空間移動(テレポート)系能力だったか――では勝ち目がない。それを教える為に、能力の説明をして戦意を削ぐ。
 彼女は賢く正義感もあるようだが、所詮少女だ。彼女の聡明さならば空間支配(ライジングゾーン)による低気圧攻撃の応用で真空による爆断攻撃を行える可能性は考えるだろうし、そんな悲惨な大怪我を負うリスクは極力避けようと考えるはずだ。
 これで、堕ちたか、――そう考えて彼女の表情を覗き込んだ俺は、次の瞬間即座にそこから飛び退いた。

 刹那、今まで俺の居た空間が抉れた。余波なのか、俺の立っていた部分の地面が、まるでそこだけ切り取ったかのように綺麗に、そして不自然に抉りぬかれていた。

 ゆらり、とそんな擬音がつきそうな様子で、親船小豆が緩慢な動作で立ち上がる。俺は、そんな姿をじっと見つめることしか出来なかった。
 その顔に表情はなく、その瞳に光はない。今までのけなげで弱弱しい虚勢なんて嘘だったかのように消えうせていた。
 まるで、幽鬼。
 そんな言葉が、俺の脳裏を過ぎった。しかし、理解できないのは空間を抉った彼女の能力だ。
 ……確か、調査では彼女の能力は一一次元上の座標連結を捻じ曲げることで空間に空白を生み出し、それによって空間に亀裂を生み出す能力だったはず。応用で、物質を消し去ることも可能なのか……? いや、だとしても、それならば最初から使っているはずだ。

「馬鹿な……! 何だ、その能力は。確かに書庫(バンク)には『割裂空洞(ダークホール)』と、」
「私は親船の人間だぞ? 何故その情報が『秘匿された結果』だという可能性を考えなかったんだ?」

 思わず慌てたような声が出たところで、親船小豆はにたり、と凄絶で残酷な笑みを浮かべて俺の言葉を遮った。口調も、最早今までのどこか平和ボケした友好的なモノではなく、彼女の本性だろう感情のない口調へと変貌していた。
 ……純粋に、恐怖を感じた。原作に関わりたくないだけだと? 違う。コイツは既に、原作を利用する気でいたんだ。その上で、『商売敵』になるだろう俺を消し去ろうと考えている。
 俺は確信した。コイツは『統括理事会ナンバーワンの善人の孫娘』などという、チャチな人間(キャラ)じゃない。もっと何かおぞましい……そう、学園都市の『裏』に君臨するような、そんな『人間』だ。

「くっ……!? 一体何を……」
「さあな? お前に教えるつもりはない。ただ、お前自慢の『空間支配(ライジングゾーン)』とやらはそんなに万能なモノでもないようだったみたいだぞ? その程度で一方通行(アクセラレータ)を倒せる術を持つなんて、お笑いだな」

 そこまで言うと、親船小豆は俺に興味をなくしたような調子で背中を見せた。……我知らず緊張していた身体が、一気に弛緩するのを自覚した。……だが、分かっているのか? この状況で俺に背中を見せることが何を意味しているのかを。
 空間支配(ライジングゾーン)の能力下であれば、ほんの一瞬だけでも限りなく〇気圧に近い状態を再現することは難しくない。〇気圧を生み出すことで、物体の内圧によって自ずから爆裂裁断させる俺の切り札――真空爆断(アブソリュートゼロ)
 勿論、精密な気流操作が必要なので動くものに対する命中率は五〇%程度だが……あの程度の単調な動きであればあてる自信はある。ここからだと狙いが定めづらいから、最悪殺してしまう可能性もあるが……、いや、此処で逃がすよりは殺してしまった方がマシかもしれない。
 それに、確実に殺すと決まったわけじゃない。肩口ではなく、腕の部分を狙えば、多少目算がズレたとしても致命傷は与えずに済む……!

「喰らえ……真空爆断(アブソリュートゼロ)を――!」
「……ふうん、絶対真空(アブソリュートゼロ)、か」

 グッ、と拳を握り締め、それに連動するように彼女の右肩あたりの気圧を〇にするよう意識したが……上手くいかない。もう一度能力を行使するが、彼女の周りの気圧を下げようと気流を操作する段階で、能力が霧散してしまう。……いや、それだけじゃない。空間支配(ライジングゾーン)自体の維持が……難しくなっている……!?

「馬鹿な、どういう……!?」
「最後に一つ、良いことを教えてやる」

 親船小豆は静かにそう言うと、少しだけこちらを振り返った。その表情に、先ほどのような凄絶な笑みなど欠片もない。俺が今さっきまで抱いていた『純粋な少女』そのものの表情が、そこにあった。

「話を伸ばして時間稼ぎしていたのは、あなただけじゃなかったんだよ?」

 は?





***





 『それは一体どう言う意味だ?』……と言うことは叶わなかった。そう、永遠に。
 ……と言ったところだろうか。私が再度踵を返した直後、背後で何かが爆散するような水っぽい音が響いたし。正直、後ろを振り向きたいとは思えない音だったかな。まあ、音で空間支配(ライジングゾーン)の男の頭が撃ち抜かれたのは確認できたし、振り返る必要もないんだけど。
 そして、頭部破壊が確認できれば問題はない。
 学園都市では人は死んでも情報源になりかねないからな。垣根だって確かに一方通行(アクセラレータ)が『虐殺』したとかなのに脳みそを回収されて冷蔵庫……もとい能力を吐き出す為だけの機械に成り下がったと言うし。
 同様に、コイツの脳も残ってさえいれば知恵を吐き出す為の機械と化しただろう。そうなれば、並行世界からの転生、ひいては“原作知識”がアレイスターに露呈することを意味し、それは私の確定的な死亡を決定付ける。それだけは絶対に避けなくてはならない。

 ……善良な一般市民的にはそれ以前に人間が惨殺されたことに心を痛めるべきだと思うが、そんな甘ったれたことを言ってたら死ぬような境遇だし、私。というかもう、ちょっと前の暗部の抗争とかなんとかでそんな良識は失われてしまった気がする。
 良心と冷徹さに上手く折り合いをつけないと手に入れられないなんて、学園都市での平穏というのは取得難易度が高いなぁ。

 さて、先ほど空間支配(ライジングゾーン)を打ち消した手段だが、此処で私の能力を詳しく説明しようと思う。
 最初に説明した『割裂空洞(ダークホール)』という能力、あれはダミーだ。
 公式には、私は『空間移動(テレポート)系統低能力(レベル1)、能力詳細名「割裂空洞(ダークホール)」』ということになっている。『空間移動(テレポート)は能力の種類から大別して学校からつけられた名前、『割裂空洞(ダークホール)』は能力が一般の空間移動(テレポート)系からあまりにもかけ離れているので別名をつけてくれと研究者から依頼されてつけた名前だ。ネーミングセンスがないのは気にしてはいけない。命名した当時は小学一年生だったんだし。いや、当時から私は精神年齢的には大人だったけど。いや、それにしても今名づけるんだったら時空断裂とかそんなカッコいい名前を……、……あんまり変わらないか……。
 ともかく。この強度(レベル)判定は一一次元座標を演算することで空間に亀裂を入れることは出来ても、肝心の空間移動(テレポート)が出来ないが故の判断な訳なんだけど……、実は、この評価は大間違い。

 私の本当の能力は『空間移動テレポート系統超能力(レベル5)、能力詳細名「並行結合(シンクロニズム)」』、だ。
 世界と言うのは全部で一一個の次元で構成されていて、その一一次元のスケールで世界に亀裂を入れることで一一次元の壁を超え、並行世界と接続するところまでが割裂空洞(ダークホール)
 そして、この割裂空洞(ダークホール)には私にもどう言う原理なのかは分からないのだが『AIM拡散力場を記憶する』という性質があって、この性質で記録した拡散力場を私の発する拡散力場に上書きすることで、任意の拡散力場……つまり能力を扱うのが、『並行結合(シンクロニズム)』。
 単なる空間移動(テレポート)能力からは明らかに逸脱してしまっているが、このあたりは超能力(レベル5)ならよくあることだろう。たとえば麦野の原子崩し《メルトダウナー》だって、電子を操る能力だがその『操る』方向性が普通とは違うせいで有り触れた電撃使い(エレクトロマスター)とはまったく別の能力になっているし。
 ちなみに、一一次元の世界の外面から並行世界を逆算することで、断片的ながらも並行世界の様子を観測することが出来たりもする。この並行世界と言うのはいわゆる『原作』……つまり私や他の転生者がいない正史の世界で、原作知識を思い出したり記憶したりするのに役立たせてもらっている。

 つまり、早い話が『穴から何でも出せる多才能力(マルチスキル)』というわけだ。多重能力デュアルスキルでないところがミソである。
 理論上、発火能力(パイロキネシス)から一方通行アクセラレータまであらゆる能力を使えるという、ある意味どころかあらゆる意味でトンデモチートな能力なのだが、やはり自分で拡散力場を発するのではなく他所から拡散力場を引っ張り込んでいるからか、精精異能力(レベル2)から強能力(レベル3)程度の威力までしか出力することが出来ず、しかも現物を記録してそれを転写する、という無駄な二工程が挟まっているからか演算が煩雑で、発動までにちょっと時間がかかってしまうとか、拡散力場を放出しても一方通行(アクセラレータ)のような演算が複雑な能力に関しては能力使用まで演算が追いつかなかったり安全面に不安があるから使えなかったり(尤も、空間移動(テレポート)は系統が似ているから使えるが)、未元物質(ダークマター)やら削板の能力やらといった演算してるのかすら不可思議な意味不明能力は使えない、とそこまで実用面では強くない微妙なものである。
 私はこれを、『能力複製(AIMトレース)』と呼んでいる。尤もこの名称はあんまり使わないけどな。

 ちなみに、先ほど地面を抉ったのはこの『能力複製(AIMトレース)』で発動した削岩能力(ロックブレイク)によるもので、空間そのものを抉る能力なんてものの余波とかそんな強いものではない。ただ、相手にはそう勘違いさせるように仕向けたのでそういう風に見えたことだろうが。
 この削岩能力(ロックブレイク)というのは鉱石の分子を演算で解析し、適切な力をかけることで分解するというもの。
 通常、異能力(レベル2)程度の強度(レベル)ではあそこまで精密な分解の座標指定はできないが、私の場合は一一次元演算による座標指定のスキルがあるから、それを応用してあそこまで精密な座標指定を可能とすることができた。
 ちなみにアニメ版超電磁砲(レールガン)で出てきた表層融解(フラックスコート)はこの削岩能力(ロックブレイク)の亜種である。

 さらに、この能力は面白いもので、記録した拡散力場を元に逆位相の拡散力場を計算することで、その理論値を求めることが出来、尚且つそれを放出することで流石に完全ではないが能力の効き目や威力を弱めたりすることも出来る。先ほど『空間支配(ライジングゾーン)』の能力が弱まったり不発になったりしたのは、この逆位相の拡散力場の所為だ。
 私はコレを仮に、『能力相殺(AIMキャンセル)』と名付けた。

 先ほども言ったが、『並行世界』というのは『とある魔術の禁書目録(インデックス)』の原作世界――いわゆる正史だ。正史の時期を把握するのにも使わせてもらっている。情報収集の点から見るとこれ以上ないほど有益な能力だ。
 ……が、アレイスターの周辺を覗いて原作の不明点を知ろうとしても何故か霞がかかったように見えなかったりする。……アレイスターのことだから、異なる次元からの偵察も魔術か何かで無効化しているのだろうか?
 とすると、並行世界の存在もアレイスターは認識してる……、つまり、『原作世界』を知っている? ……え、縁起でもないな。だとしたら異分子たる私は即座に抹殺されてるはず。おそらく、偶発的に私の能力を無効化する何かがあるのだろう。

 さて、ここまで見ると何だかんだで超能力(レベル5)に相応しいトンデモチート能力じゃないかという諸兄の声が聞こえてくるようだが、そうではない。
 『能力複製(AIMトレース)』だって最大で強能力(レベル3)程度だし、『割裂空洞(ダークホール)』から数メートル程度が射程限界で、それ以上は大した威力を持たせることも出来ない。

 『能力相殺(AIMキャンセル)』も、相手の拡散力場の系統を正しく見抜いてそれを記録した拡散力場の中から選び出し、さらに選んだ拡散力場を逆算して理論値を求め、求めた拡散力場を私の拡散力場に上書きして能力を放出する、という面倒くさい工程があるからその場で集中して演算しなくてはならないため、激しい運動を伴う戦闘中じゃまずもって使えないという取り回しづらい能力なのだ。

 そもそも、それを扱う使用者たる私がド素人というのが最大の問題である。
 もちろん、自分の命を狙う人間は確実に殺すつもり、と言う点では素人ではないと自負しているが、これまでの戦闘による経験を鑑みても、私の戦闘的な能力は下の下、ド素人といって相違ない。性格的にも戦闘的にもド素人な現在の上条でも倒せるお手軽レベルだ。
 現に、今回だって敵の『空間支配(ライジングゾーン)』を『能力相殺(AIMキャンセル)』で解除して護衛(ボディガード)に消させただけで、私一人だったら間違いなく消されていたか、誘拐されてあいつの仲間らしいやつら(精神感応(テレパス)の一人や二人くらいいるだろう)に捕まって洗脳されたり、最悪用が済んだら慰み者に……うっ、自分で言ってて吐き気がしてきた。

 ……ん? 今私はなんて考えた?

 『捕まって洗脳されたり、最悪用が済んだら慰み者に』……いや、その前だ。『あいつの仲間らしいやつら』。

 そう! あいつは『グループを組んでいる』と言っていなかったか!? それも、あいつの口ぶりからして、おそらく全員転生者……。しかも、全員原作乖離を起こして自分らが甘い汁を啜ろうとしているときたもんだ。
 正史から歴史を剥離させる要素、エラーポイント……クソ、洒落で言っていたことが真実になってしまうとはな。

 正直に言って、奴ら――これからは『剥離要素(エラーポイント)』と呼ぼう――の危険度はそこまで高くはないだろう。
 少なくとも原作が開始する前にアレイスターのプランを壊してやろうなどと考えるほど無鉄砲ではないようだし、滞空回線(アンダーライン)を破壊しようと考えるあたりアレイスターに原作知識がバレることの危険性を十分理解していると思う。
 だが、奴らが抱えている『知識』は問題だ。
 原作知識。それが露見するだけならまだ良いが、奴らは私が『同類』だと思ってしまっている。そうなると、当然アレイスターは私の行動を疑うわけで、今まで原作知識を使って動いたことはないにしても、微かな行動の痕跡などから私が転生者であるということに気付かれてしまうかもしれない。というか、十中八九気付かれる。
 ……これは、とてもじゃないが勘弁したい未来だ。
 奴らが何を考えてるかとか、プランを利用するなんてどれほど命知らずで思慮が浅い集団なんだとか、そんなことは最早関係ない。
 プランを利用しようと動けば、当然アレイスターは奴らを不審に思うだろう。そして、ちょっと殺して脳の中身を覗こうとか思うかもしれない。それで奴らが捕まらないのならそれでも良いが(むしろ潰し合わせたいが)、生憎奴らの一員である空間支配(ライジングゾーン)の男は私相手にこんなにあっさりと殺されてしまった。コイツが明らかに下っ端だとしても、精精強くて暗部組織レベル。それでアレイスターを出し抜くなど到底不可能だ。

 そして、くどいようだが連中の脳を見られれば待っているのは私の破滅。 つまり、この時点で私は『襲い掛かってきた追っ手を、脳味噌が粉々になった死体にして撃退しなくてはならず、しかもその残党に至るまで完全に殺し尽くさないといけない』という残酷かつ異常な難易度のミッションを与えられたに等しい状態に陥れられたことになる。

 さて、問題です。この状況で私はどうしたらいいでしょう?
 一、こちとら超能力者(レベル5)じゃ! 迎え撃ってやるわ! → 身の程を弁えましょう。死にます。
 二、大丈夫、私親船の人間だし。襲撃とかマジありえないし。 → 今回の時点で瓦解している前提です。死にます。
 三、か、上条を頼ってみよう! → 敵を殺させてくれない、フラグが立つ、そもそも時期的に無理の三重苦。死にます。
 …………こ、これは…………!! まさしく八方塞じゃないか……。

 ヤバい、相当ヤバいぞ……。相手は複数。私の能力じゃ勝てる道理はない。かといって諦めて思考放棄など論外も論外……。
 超能力(レベル5)並行結合(シンクロニズム)と言ったって、要は劣化版多才能力(マルチスキル)でしかない訳で、使える能力もそれほど強いわけじゃない。私一人で、この空間支配(ライジングゾーン)レベルの能力者を一気に相手取るのは、あまりにも荷が重過ぎる。
 …………どうしようもないな。何か、策は…………、

 ………………………………ん? 待てよ? これなら、あるいは……。
2012/04/18 改訂


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