ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
第三章 親船小豆 その二
02
 待て、落ち着け、冷静になれ。キレたらそこで終わり。思考を放棄したら食いつぶされるのはコッチのほうだ。

 頭に上った血を、咄嗟そう考えることで抑える。この商売(ではないけど)、冷静さを失ったら死ぬからな。こういう手段には事欠かない。
 大体、麦野たち『アイテム』と私は基本的に利害関係でしか結ばれていない関係。もしも私の立場が致命的に悪化していたのならば、麦野は私に忠告だけしてさっさと仕事から下りていたはずだ。万一私が学園都市にとって『悪性』だと判断されたときに、彼女が私の側についていたら、巻き添えで消される可能性があるから。
 この状況で私と行動を共にしている時点で、少なくとも麦野の頭の中には何らかの打開策が存在しているはず。

「ほら、私達、幻想御手(レベルアッパー)事件の鎮圧に動いた垣根を撃退しちゃったじゃない。アレは一応暗部としての正式な仕事だったからね。親船が家の力でその辺をカバーしてくれたから何とかなったけど、それでも不信感は募ってたみたいなのよ。しかもその上、私たちは療養とか親船の護衛を理由に何度か上からの指令を蹴ってるし、私の能力を強化したとかで軍備も強化してる節があるし、暗部からの度重なる攻撃の報復っていう『上』に反逆する動機もあるし、暗部の大抗争を起こしたっていう前科もある。この状況で疑わないほうが不自然だと思わない?」
「じょ、冗談じゃないって訳よ!! どうにかならないの!?」

 フレンダが麦野に掴みかかる勢いで飛びついたが、あっさり頭に右手を当てられソファにたたきつけられた。……多分、フレンダが警戒しているのは私の敵対認定に伴う親船家の地位の悪化だろう。私の巻き添えで親船家が抹殺されてしまえば、フレンダが死んだ時にフレメアを守る保険はなくなってしまう。彼女にとっては最悪の結末だ。
 ……それはさておき、麦野の対応がいよいよ持って余裕綽々だな。これは本当に、麦野自身に策がありそうだぞ。

「で、麦野さん。そういう言い方をするってことは、一応打開策は考えてるんだよね?」
「流石に親船は理解が早くて助かるわ」
「あ、あるんですか? この状況を超打開できる『策』が」

 麦野が私の言葉に頷くと、絹旗は食い気味に麦野に問いかけていた。

「……というより、既に上層部から用意されていた、って感じね」

 そういって、麦野は部屋の電気を消し、持っていた携帯機器のプロジェクタ機能を使って壁に資料を表示させた。
 ……『依頼(めいれい)』、ということだろう。ここらで仕事をこなして、上層部への忠誠心を見せてみろ、でもなければ殺す。つまりそういうことか。そして、そこには私の同行も必須。護衛の仕事をさせるという面から見ても、上層部に私が反逆するつもりがないことを忠誠で示す意味でも。
 勿論、薄汚い暗部の仕事に身を窶すような奇特な趣味を持ち合わせているわけでもないので、積極的に参加するつもりはないが。

「……いやに詳しいね」
「そりゃあ、今まで散々依頼を蹴ってんだからね。向こうも私たちに『はい』と言わせるための工夫を凝らしてんだろうさ」

 資料を一目見て怪訝な表情を浮かべた滝壺に、麦野は涼しい顔で答えた。……それに、私がいる訳だしな。既に依頼で動いている組織を動かす為には、その上司(クライアント)を納得させる必要が出てくるだろうし。

「……どれどれ」

 資料には、『研究施設の情報引継ぎの護衛』と書かれている。読み進めていくと、資料にはこうあった。


 『絶対能力進化(レベル6シフト)計画』の研究施設の破壊に伴い、研究情報をを学園都市の外部組織に引継ぎ、研究を続行する。その際、研究情報の引継ぎの間、情報の伝達を確実なものとする為の護衛として、『アイテム』に活動を依頼したい。


 他にも色々と雑多な条件や報酬などについて書かれていたが、私にとって重要なのはこの文章だ。
 絶対能力進化(レベル6シフト)計画だと? さっき妹達(シスターズ)を前にして絶対関わりあいになりたくないと言ったばかりじゃないか!! どうしてそんな依頼が舞い込んでくる!

『……、ここで「正史」どおりになりますか……。人生ってままなりませんね』

 そんなことを考えていたが、黒花から送られてきた念話に、私は一度不満の思考を中断した。『正史』どおりってどういうことだ? 私の知識にはこんな事件なかったが……、まさか、『とある科学の超電磁砲(レールガン)』か?

『もしかして、漫画の方でこの話あった?』
『はい。確か正史だとこの資料にあるように一基だけじゃなく、二基の研究所の護衛指令っていう形だったはずですけど……』

 ……ほう? 一基だけじゃなく、二基の研究所の護衛命令? じゃあ何でこっちは一基減ったんだ?

『沿受ちゃん、詳しく説明してくれるかな』

 私の念話に、黒花は『はい』と言って応じた。

『確か超電磁砲(レールガン)では、御坂さんが実験関係の研究施設を壊されてしまったから別の研究所に情報を移すとかで、「アイテム」が研究所の護衛に借り出されていたんです。それで、絹旗さんと麦野さんと滝壺さんのチームとフレンダさんに別れてそれぞれの受け持ちの研究所を護衛していたんですけど、フレンダさんの護衛していた研究所に御坂さんがやってきて、フレンダさんと交戦、フレンダさんが負けたところで麦野さんと滝壺さんが救援に向かうも御坂さんに撃退される、という流れだった気がします』
『絹旗ちゃんの動向は?』
『えっと……確か、それ以前に登場してきた「布束砥信(ぬのたばしのぶ)」っていう、妹達(シスターズ)が実験で殺されるのを見てられない研究者さんと一緒にいて、咄嗟の隙を突いて布束さんが妹達(シスターズ)に感情データを入力しようとしたのを絹旗さんに取り押さえられた、って感じの話だったと思います』

 『もう良くは覚えてませんけど、三年も経ってますし』と申し訳なさそうに言う黒花はさておき、私は考える。
 正史では二基、この世界では一基。この乖離は何だ? 黒花の記憶違い……はないだろう。研究所の残基は展開の重要なファクターだ。
 では、御坂が正史よりもハッスルしていた為に正史より余計に研究所を潰してしまったとか。もしくは、他の転生者が独自に研究所を潰していた為に一基少なくなってしまったとか。
 ……どれもないだろう。もしもそうなっていれば、依頼が送られる時期が早くなっていただけで一基になってしまうことなど有り得ない。この街の暗部が、そんなにギリギリになるまで不具合を放置しておくことなど考えられないからだ。

 じゃあ、別の組織がもう一方を担っている、と考えるのはどうだろうか?
 大いに有り得ると思う。元々、『アイテム』というのは索敵、主砲、主砲の護衛、工兵という四人全員が集まって初めて最大の力を発揮する組織だ。それをバラけさせるというのは、上層部としてもあまり得策ではないだろう。私や黒花はそもそも護衛対象だから勘定に入れることは出来ないし。
 ……しかし確証が薄いな。そもそも、正史ではどちらも『アイテム』に任されていた案件が別の組織に分担される理由がない。

 ……駄目だ、これ以上の推理は難しそうだ。そう考え、私はもう一度資料に目を通してみた。そして、ある文章を発見する。


 データの移設作業に際して、布束砥信研究員が割り当てられるので、彼女の護衛にも当たること。尚、彼女は絶対能力進化(レベル6シフト)計画反対派の研究員なので、不意の反逆行動も考慮に入れた上で行動すること。


 ……オーケー、何故仕事が別の組織に分担されたのか、その理由は分からないが、どうやら確定らしい。
 この指令は暗部に送られてくるものだ。とすると、当然その情報源の根幹には滞空回線(アンダーライン)が存在している。となれば、次に御坂が襲うほうの研究所は、既に上層部が把握しているというわけだ。
 その上で布束の護衛に『アイテム』を置くとすると、御坂が行くほうの研究所にはどの組織が割り当てられる? ……幻想御手(レベルアッパー)事件の流れを考えれば、答えはあっという間に出るだろう。
 超能力者(レベル5)相手に護衛任務を遂行できる人物。……それは、同じ超能力者(レベル5)に他ならない。…………要するに、また『スクール』が出動してる可能性が高いってわけだよ、このクソッタレ!!

 さて、危険は判明した。じゃあ、どうやってこいつらを私の望むとおりに誘導するか、だが。私はその『穴』を探すべく、しばらく資料をじぃっと見つめた。

 ……………………、…………、……………………。

 よし、これなら、あるいは。

「……麦野さん」
「何?」
「この資料なんだけどさ。おかしいと思わない? 添付資料によると『絶対能力進化(レベル6シフト)計画』っていうのは『第三位のクローンを利用して一方通行(アクセラレータ)絶対能力(レベル6)にする』っていう計画らしいけど」

 そう言って私は話を切り出した。

「何でこっちの研究所、第三位のクローン――欠陥電気(レディオノイズ)の個体データしか記録されてないの? 普通、こういうのって検体である一方通行(アクセラレータ)の能力の推移も記録されているはずだと思うんだけど」
「え? …………ホントね。その通りだわ」

 私の指摘した矛盾に、麦野は唖然として頷いた。おそらく、その事実に気がついたと同時、私の言わんとしている『可能性』に気付いたのだろう。麦野に次いで頭の回転が速い滝壺も、資料を見て唸っている。まだまだお子ちゃまな絹旗とお調子者のフレンダは理解していないようだが。

『……親船さん、何が言いたいんですか?』

 ……ああ、後この駄目イドも理解してないみたいだな。

「確かに、こういう研究は複数の研究機関で研究項目を分散して(おこな)って、万が一研究施設が破壊されたときの為に備えておくのが常よね」
「破壊?」

 麦野の言葉に、絹旗がクエスチョンマークを浮かべる。

「ええ。おそらくこの護衛依頼は、何者かに研究所が破壊されすぎた為に出されたものよ。……襲撃者の殺害許可まで出てるしね。……恐らく超能力者(レベル5)級の戦力を持つ人間が犯人ね。でもなければ私達が借り出されるはずがない」
「ちょっと待ってよ? 結局、『第三位のクローン』で『超能力者(レベル5)級』って言ったら一人しか思い当たらないんだけど……。アイツそういう感じの実験知ったら絶対妨害に入るだろうし、もしかして私達、アイツと喧嘩しなくちゃいけないって訳?」

 麦野の言葉に、フレンダが問いかける。『まあそうなったとしてもやり切れる自信はあるって訳だけど』とか言ってるが、それでも緊張はするだろう。現に私を除いた全員の表情に緊張が走っている。……私は元々がちがちに緊張しているけどな。

「……まあ、それは特に問題ないんだけど。此処で重要になってくるのは、『研究データが明らかに不足してる』っていう事実。さっきも言ったように、こういう研究では破壊工作に備えて研究項目を分散して行うのが定石なの。ということは、最低でも後一つくらい研究所は残っているはず。それなのに、私たちは一基しか護衛を任されていない」

 対して麦野はフレンダの質問をごく自然にスルーし、話を始める。

「どうして一つしか任されていないのか、それは分からないけど、状況から言って高確率で他方の研究所には別の暗部組織が割り当てられてる」
「……『スクール』ね」

 私の言葉に、麦野が呟くように返した。本当に、この麦野は頭が良くなっていて助かる。此処までくれば、あとは前回と同じ流れで行ける。

「だから、今回も前回と同じように、」
「駄目よ」

 私が話を進めようとしたところで、麦野がそれを遮った。
 ……あ。………………しまった。盲点だった。

「……親船。前回の事件で第三位に情が沸いた、ってことはないわよね。もしくは昼間の『お友達』の知り合いだからとかそういう理由から?」

 麦野が私に詰問するように聞いてくる。自分の立場が悪くなったことに冷静さを欠いたか。……確かに、今のは私らしからぬ失言だった。
 同じ策を二度続けて使うというのも愚策だし、そもそも今回の『護衛』の依頼は前回……幻想御手(レベルアッパー)事件、つまり木山春生の捕縛依頼とは毛色が違う。
 前回においての御坂はあくまで『民間で独自に木山を捕まえる為に動いていた善意の協力者』であり、殺害許可も出ていない人間だった。だからこそ、木山を殺し、それを妨害する御坂までも殺す可能性のあった垣根を妨害することに正当性を与えることが出来たが、今回は違う。
 今回の場合、その御坂が事件の発端であり、殺害許可も出されている『敵対人物』なのだ。ただでさえ立場が悪くなっている私が、下手に上層部の意向に反する行動をとれば、今度こそ終わる。麦野はそう懸念しているのだろう。

「……麦野さんには関係ない話だよ」

 とりあえず御坂を殺すわけにも行かないという本音を出したくない私は、あえて意味ありげに苦い顔をして答える。いらぬ勘違いを麦野にさせるのは面倒なことだが、変に不信感を持たれるよりはこうしておいた方がずっとマシだ。

「親船、」
「でも、分かった。あくまで一番大事なのは私の保身だからね。『このやり方』は諦めるよ」

 煮え切らない私の返答に追い込みをかけようとしたのか、さらに声を上げる麦野に私は被せるようにして言葉を返す。……現状、前回と同じ理屈でアプローチできないなら違う理由を見つけ出せば良い。屁理屈でも詭弁でも構わない。正当性さえあれば、上層部の不興を買うことなどないのだから。

「…………流石は親船。諦めの悪さは天下一品ね」

 麦野の呆れたような、それでいて安堵を浮かべた笑みが印象的だった。





***





 意外だった。
 あの親船が、必要とあれば私達であろうと迷いなく切り捨てるだろう親船が、たかが第三位の保身の為に自らの保身を切り捨てるという行為そのものが。まさか、第三位の命そのものに価値を見出すほどこいつは善人ではないだろう。すると、昼間懇意にしていた男関係だろうか。そうあたりをつけた。
 ……危険だ。あの親船の思考を、ここまで乱す男の存在を、私は純粋に恐怖した。
 そもそも、一人で三沢塾を制圧できるほどの『外部』――おそらく『魔術師』だろう――を相手に、五体満足で生還したほどの男だ。小豆の思考を乱せる人心掌握術の他にも、純粋な戦闘能力を見ても侮れない。
 ――『小豆の護衛』という観点から見たら、必要とあれば殺すことも視野に入れなくてはならない。それほどの危険人物だと判断した。

「……麦野さんには関係ない話だよ」

 私の言葉に、苦虫を噛み潰したような表情で返す親船の言葉に、普段の策謀は感じられない。どうやら、これは私の危惧したとおりで間違いないらしい。こいつは、十中八九あの男――『幻想殺し』に特別な価値、あるいは感情を見出している。それがコイツの目の上のたんこぶでもある『統括理事長』に対するジョーカーとしてなのか、はたまた青臭い感情からの暴走なのか……。
 当然、だからといって自分の『大切なモノ』を見失うほど馬鹿ではないと思っているが、一時的に目的を見失うくらいのことは有り得る。暗部の中で生き抜いてきたとはいえ、コイツは一六の女の子だ。なまじ中途半端に表に浸かっているから、私の思考のそれよりもよっぽど年齢相応な精神構造をしているだろう。その精神を、無理やりその強靭な理性で押さえつけていたとしてもおかしくはない。
 だが、それでも本質は少女であるはずだ。胸に抱いた僅かばかりの恋心に乱され、普段では有り得ない思考に囚われることもある。

 だからこそ、私は『忠言』する。
 コイツならば、私がちょっと叱ってやればすぐに我に返るはずだから。

「親船、」
「でも、分かった。あくまで一番大事なのは私の保身だからね。『このやり方』は諦めるよ」

 ……そう思っていたのだが、どうやら余計な心配だったようだ。どうやら、一時的な動揺でカードの切り方を間違えた程度の揺れだったらしい。少し心配しすぎたか、と自分の今までの内心に苦笑すると同時、私の見込んだとおりの『徹底具合』が崩れていないことに少しだけ安心した。

「…………流石は親船。諦めの悪さは天下一品ね」

 呆れたような私の笑みに、親船は照れを隠すようなバツの悪さで笑みを浮かべ返した。……完全に、我を取り戻したみたいだ。真顔に戻った親船は、驚くほどの早さで『代案』を話していく。

「それじゃあ、こうしよう。絹旗ちゃんと滝壺ちゃんは依頼通り研究所の護衛と布束研究員の監視。沿受ちゃんとフレンダちゃんは研究所周辺の捜査。万が一、御坂さん以外にも敵がいたらマズイからね。剥離要素(エラーポイント)の件もあるし。そして、麦野さんと私は御坂さんの尾行と早期排除。依頼内容から御坂さんが犯人であることは一目瞭然だし、それなら先に潰しておく為に動いたっていうのにも理がある。仮に連中(スクール)が動いて妨害に走ったとしても、同じ依頼による行動なんだから先に接触しておけばこちらが先に潰す権利を得られる。あとは適当に『撃退』しておけば、『護衛』っていう依頼自体は遂行できる。……流石に、超能力者(レベル5)が二人がかりでなら御坂さんも早々に諦めるでしょ?」

 ……なるほど、あくまで『「スクール」が第三位を潰すのを阻止する』んじゃなく、『「スクール」が第三位を致命的に潰す前にこっちで軽く潰す』訳か。
 確かにそれなら『スクール』の仕事を『奪う』ことはあっても『邪魔』をすることにはなりえない。むしろ、今までの遅れを取り戻す為に意欲的に仕事に取り組んだという印象まで与えられる。
 ……無論、表向きには、という但し書きはつくし、上層部からは『女狐め』と思われるかもしれないが、それは上層部の中でもほんの一握り。机の上で政治ゲームに勤しんでいる馬鹿な老人どもには、小豆が必死になって連中に媚を売っているようにしか見えないはずだ。

 当然、拒否する理由もない。私はただ満足げに頷くだけ。他の連中も、そもそも私が親船の提案を拒否したあたりから置いていかれている状態、私が認めた以上、拒否する理由もなかった。





***





 いやはや、今回ばかりは麦野に助けられたかな。まあ、結構金かけて強化してやってるんだし、このくらいの補佐はしてもらわなくちゃ困るところでもあるんだが。

 それはさておき、当面の方針確認は終わった。元々危険度の低い布束対策には絹旗と、それから一応保険として滝壺。『正史どおり』となる御坂と麦野の戦闘は私を加えて勝率をほぼ一〇〇パーセントに引き上げ、高確率で現れるだろう『剥離要素(エラーポイント)』は黒花とフレンダが露払いを行う。
 宙ぶらりんとなるもう一つの暗部組織――これはまあ十中八九『スクール』だろう――がネックになってくるが、これもそこまで心配はいらないはずだ。連中も何も好き好んでこちらと敵対してくるとは思えない。まあ、私のことを狙ってくる可能性もあるが、その場合は私が逃げればいいだけの話だ。
 今回は前回と違って、殿(しんがり)的な意味での戦闘ではない。逃げようと思えば簡単に逃げられる、いわば撤退戦のようなものなのだから。

 作戦会議を終えた私たちは、とりあえず自宅である親船邸に戻っていた。
 既に全員入浴は済ませ、寝間着となって各自ベッドの上でごろごろしている。……黒花だけは、従者(メイド)ということでベッドの脇に立っているが。……ホント、こいつは一体どういう神経してるんだろうとたまに思う。いくら形から入る性質(たち)だとはいえ、こんなにもメイドになりきれるだろうか? 前世で一体何があったというんだ? ここまでなりきって“コスプレ”できる人間などそういないだろうに。
 ……考えるだけ無駄か。ギャグ補正じゃ割り切れないところまで来ている気がするが、まあそういうことで割り切っておこう。

「でさぁでさぁ親船! 昼間の男の子って結局なんだったの?」
「私も超気になります! いつも胡散臭い笑みを浮かべてるか悪そうな笑みを浮かべてるかの親船さんが“あんな顔”するなんて超初めて見ましたし」

 ……目下の問題は、こっちだ。

 昼間の赤面事件、それから先ほどの失策事件は、『アイテム』連中の不興を買ったり、私への不信感を与えることこそなかったものの、やっぱりというか私が上条に惚れている、という厄介な誤解を生み出させてしまった。
 全く、上条のフラグ生成能力というのは恐ろしい。全くそんなそぶりを見せていなくとも、その周囲からこうして既成事実を築き上げていくのだから。

「なんだったの、ってただのクラスメイトだよ」
「ただの、と言う割には中学時代三年間及び高校生になってからもずっと隣の席だったそうですが~」

 さらっと流した私に、黒花がすぐさま畳み掛けてくる。こいつはまた余計なことを…………。私が転生者だということを理解してるなら、下手に上条に触れたくない気持ちも分かっているはずだろうに。

「へぇ~、そぉなんだそぉなんだ。ずうっと隣の席、ねぇ~。結局、それってウ・ン・メ・イって訳なんじゃな~い」

 …………、…………。

「……フレンダちゃん、減給ね」
「なあっ!? ちょ、人が悪いって訳よ親船~~~~っ!!」

 全く、本当に洒落にならないから勘弁して欲しい。こっちは“人”の力のすべてを賭けて上条回避に勤しんでいるというのに、それを全て『運命』なんてふざけた言葉で片付けられてはたまったものじゃない。

「でも、おやふね。何も言おうとしなかったら余計に疑われる一方だよ。好きじゃないならどういう風に想ってるのか、どういう仲なのか、きっちり明確に説明しないと分かり合えるものも分かり合えないよ」

 そんな風に苛々としていたら、滝壺が諭すような調子で声をかけてきた。……うぅむ……。そういう風に言われると確かにその通りのような気もしなくもない。
 ……って違うだろ! 完璧に話術にハメられそうになってたけどこれ単純に『好き』と取れそうなワードを聞き出そうとしてるだけじゃないか! どんな回答だろうと『それって結局好きなんだよね?』って流れに持っていって結局私をからかうだけじゃないか! 滝壺恐るべし……!!

「だぁーかぁーら! 私は上条くんには何も興味なんかないんだって! そもそも男の人にすら興味ない! ふざけるのもいい加減にしてよね!!」

 もういい加減に勘弁して欲しい私は、とりあえず『上条に興味なし』『恋愛にも興味なし』というところだけピックアップして話を切る。はぁ、と息をついて機嫌が悪いアピールをしながらベッドに寝転んだ私は、その後で非常にマズイことを言ったことに気がついた。

「……え、親船さんって超……」
「結局……やっぱりソッチ……?」
「ほらな、私の言った通りだっただろ? ちょっとからかえばすぐ本音出すって」
「…………ご主人様が百合だったんだが何か質問ある? っと」

 あー、……完全にやらかした。っつーかコレ麦野の差し金かよ! 
 っていうか黒花は私の個人情報を携帯で某巨大掲示板に流すんじゃない!! それ洒落にならないから! マジで!!

「そんなおやふねも私は応援してる」
「そんな応援いらないからっ!?」

 結局、私はこの後自身の“百合”疑惑を解くために、三時間ほど時間をかける羽目になった。

 …………三日後に大一番が控えてるっていうのに、私何やってるんだろう……。
・上条さん、不幸にも麦野さんと敵対フラグが立ちました
・黒花はスレを建てる『フリ』をしているだけです。流石に。

2012/04/14 修正


+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。