「学園都市の園~は~遊園地~の園~♪」
夏の空に、私の適当な歌声が響き渡る。
七月二〇日。夏らしい雲ひとつない快晴の下を、私は上機嫌で闊歩していた。最大の懸念事項である上条との接点は、昨日解決した。つまり、私は晴れて文句なしの平穏を手にしたのである。
暗殺未遂だって早々起こるものでもないし、私の力を以ってすればある程度の勢力相手ならどうにかできるから命の危険におびえる心配もない。後は適当にプラン的に正史で起こることが確定しているイベント――絶対能力進化計画とか――から離れてお祖母ちゃんの助力を受けてそれなりのポジションでのんびりしていれば、後は上条が勝手にアレイスターを殴って改心させるなり無力化させるなりしてくれるはずなので私に降りかかる危険はゼロだと言える。
……いや、実際にはアレイスターが倒された後に学園都市の治安は少なからず不安定になるだろうから、そのときに私が狙われる危険性もあるな。まあ、その程度の危険なら今までにも何度かあったので心配はいらないだろうが。
薄緑色の、丈の短いワンピースの上に同系色の小さめのシャツ、下はデニムレギンスと茶色い革のパンプスという出で立ちの私は、そんなことを考えながら極限まで表情を緩めていた。
こうしているうちも周囲には護衛の連中が隠れているので私の命が脅かされることはない。そういう要素から来る余裕だ。
しかし、それは同時に油断している、とも言う。
そんな風に、油断していたのが間違いだったのだと思う。……というか、そもそも私だけが『特別』っていう考え自体、間違ってるしね……。
***
「親船小豆と見受ける」
公園でそのあたりのクレープ屋台で買ったクレープを食べていた私に、ガタイの良い男が突然声をかけてきた。
男の背丈は一七〇センチほど。白いワイシャツの上に紺色のブレザー、そして黒のズボンという出で立ち――つまるところ、学生服を着ている。顔つきや服装から察するに高校生程度、といったところだろうか。しかし、佇まいは高校生と考えるにはあまりにも大人び『すぎて』いる。……暗部の人間だろうか?
ちなみに、私に対してこんな風に堅苦しい口調で近づいてくるのは大抵がお祖母ちゃんの関係者か暗殺者である。容姿から符合するところもあるし、おそらくこの場合は後者の『暗殺者』の類である線の方が濃いだろう。
はぁ……。こないだの暗殺未遂を乗り越えたからもうしばらくは暗殺もないだろうと思っていたが、どうやら楽観しすぎたようだ。
夏休みなんだから、暗殺者も休めばいいのに……。白昼堂々襲ってくるとか、もう暗殺者の鑑過ぎて泣けてくるぞ。
「……何者かな? 目的は私の命?」
だが、コイツが本職の暗殺者であるという可能性はないと私は踏んでいる。
まず、私の周囲には何人もの護衛がいる。彼らの装備には短距離狙撃銃が配備されているのだが、にも拘らず即座に射殺されないところを見るとコイツは何らかの銃撃対策を練っているのだろう。だが、それにしたって暗殺にしては計画性がなさすぎる。そもそも暗殺が目的なのであれば、『護衛に暗殺を妨害されないように』対策を練るのではなく『護衛に暗殺を悟られないように』対策を練らなくては意味がない。一瞬で暗殺を終らせないと、予期せぬ事態のせいでそもそも暗殺自体がポシャってしまう可能性だってあるからだ。このことから、少なくとも彼が私を暗殺しようとしている、という可能性は排除される。
次に、私を即座に昏倒させていないところから私に対してはあまり積極的に攻撃を仕掛けてはいけないと考えているのも間違いない。また、佇まいから暗部特有の『警戒心』のようなものが感じられないので、彼が暗部の人間という可能性も排除。大方、暗部の誰かに雇われたチンピラ能力者が私を捕まえようとしている、といったところだろうか。にしてはチンピラ特有の動作の粗雑さなどが感じられないのが奇妙なところではあるが……まあ、そのくらいは誤差として有り得る範囲内である。
……この程度なら、私でも立ち回れるか……?
「――!!」
小さく息を呑んで、私は自分の背後に空間の裂け目、割裂空洞を発生させる。同時に、いくつかの動作を行ってこれから行われるだろう戦闘行動に備えようとしたが――、
「待て! 俺はあなたに危害を加えるつもりはない! あなたの『同郷』の徒だ!」
男の言動に、私は一瞬虚を突かれた。
……『危害を加えるつもりはない』……これ自体に信用する価値はない。護衛の銃撃対策を行っている時点で銃撃されることに心当たりがあるのは間違いないし、そんな人間が『危害を加えるつもりがない』などと言って信用できるほどアマちゃんだったら私は今頃墓の下だ。
だから、私が興味を示したのはその後『同郷の徒』という発言。
同郷……それはそうだろう。私は学園都市で生まれた人間だし、コイツもまた日本で生まれた人間だろう。東洋人っぽい顔立ちだし。だから同郷というのは当然である。そんな当然な理屈を並べ立てるわけがないし、『同郷』というのは何かの隠語、と考えるのが適当なのだが……、
……うん? 待てよ? 困ったことに、非常に困ったことにコイツの言う『同郷』に物凄い心当たりがあるぞ?
同郷っていうのは、同じ地方の出身、っていう意味がある。だが、コイツの言う『同郷』っていうのは本来の意味である可能性は少ない。何らかの隠語だと考えるのが適当。なら、その隠語は何を意味している? ……思い当たる節としては、一つ。
私と同じような『特別』を持っている、という可能性。
……つまり、前世の知識を所持している、ということだ。
そう、確かにこれなら、チンピラじみた行為を行っているのに動作にそれら特有の『粗雑さ』がないことにも説明がつく。
……だが、だとするとマズイことになってきたぞ……。
『同郷』、つまりコイツは、私と同じように『此処とは違う世界で生まれ、そして死に、この世界に転生してきた』……という身の上を持つ人間なのだろう。もしもコイツが前の世界で『とある魔術の禁書目録』を読んでいたのであれば正史の歴史に登場していない私と言う存在に着目し、連鎖的に私が転生者であるということにも気付けるだろう。
そこまでは、まあ割りと簡単に思い至ることができた。
だが、此処で一つ問題が出てくる。
それを、『この場で口にしてしまう』、というところだ。
この街には、滞空回線というアレイスター直通のナノマシンによる偵察機械が散布されている。アレはこの街のいたるところに存在し、ほぼ全ての情報を感知、アレイスターに送っている。その情報は主に学園都市の上層部で共有されている為、お祖母ちゃんのように上層部に所属する人間のプライベートなところには滞空回線は回っていないが、こうした公園などには悉く撒かれているだろう。
そして、私は一度アレイスターに命を狙われている。『あの』アレイスターが殺し損ねた人間のことをノーマークで放置している可能性はない。つまり、この会話は十中八九アレイスターに筒抜け、ということである。
アレイスターならコイツのこの言葉から『私やコイツにはこの学園都市に来る以前の「何か」があった』と察することだって可能だろう。
そして、時間さえあれば私が前世で『とある魔術の禁書目録』の読者で、アレイスターのプランについて沿革を知っている程度の知識を持つということがバレてしまう。
あの襲撃の折に聞いたアレイスターが私に暗部組織をけしかけた動機というのは、『私と言う存在がプランを運営する上で邪魔なイレギュラーになりかねないから』というものだった。それを回避する為に今まで極力上条という人間の人格に影響を与えないようにしてきた。
『イレギュラーになりかねない』というだけであの有様なのだ。この上、プランについての重要な情報を知っているとなれば最早アレイスターに私を生かしておく理由など存在しない。今度こそ本気で私を殺しに来るだろう。『アイテム』『スクール』『メンバー』『ブロック』総動員で殺しに来るとかそのくらいのレベルで。
「『割裂空洞』、か……。底知れぬ能力だな。俺の『空力使い』と違って珍しい」
あームカつくなあ! なんでお前はそんなに余裕なんだ? 今お前は絶賛アレイスターに殺される原因を作成中なんだぞ? そうでなくとも初対面の癖に私に突撃するなんていう大間抜けをやらかしてるんだから、いつか絶対に殺されるんだぞ? なのにどうしてそんなに余裕でいられるんだ? 馬鹿なの? アホなの? 危機管理能力ないの? 死ぬの? ……ああ、だから死ぬのか。
……いや、案外コイツはアレイスターと協力関係にあるという可能性も……、ないか。もしアレイスターと面識があるくせにこんなことをするようなら、迅速に始末されて然る後に同じような要素を持ってる可能性のある私も始末されてるだろうし。
「まさかあの親船の家に生まれた者がいるとは思わなかったが。あなたに頼みがある。聞いてくれないか?」
……頼み? 何だろうか。まあ、もう回避不可能な死の可能性が襲ってくることは確定事項だから別にいいし、聞く気もないけどな。
……さて、この確実に死が襲ってくる状況、どうやって切り抜けようか。一番分かりやすいのは学園都市から逃げることだが……出来るか? ……、各暗部組織に偽の情報を流すことで暗部の大抗争を早めに起こして、一方通行の絶対能力進化計画の中止やらと併発させることでその機会に乗じて逃げる、とか? ……いや、一方通行の騒動は確かに普通の研究員からしたら寝耳に水な情報だが、アレイスターにとっては計算づくだったはず。それに、早ければ今日の夜にでも襲撃は起こる。それまでに実験を中止させて、さらに暗部組織に信じさせることの出来るレベルの裏情報を用意するというのも難しい。この作戦は現実的ではない……か。
いや、待てよ? 私を本当に殺そうとするなら、暗部の中でも最高戦力を用意してくるはずだ。となると、超能力者の起用はほぼ確定だといえる。とするならば、『アイテム』と『グループ』に関しては少なくともこちらに来ることは分かっている。それなら、その二つの組織にまつわる情報をピンポイントに錯乱させることが出来れば、私に対する襲撃組織全体の連携に大きなダメージを与え、そこから逃走の隙が出来るんじゃないだろうか?
相当難しい注文だが……やらなければどちらにせよ死ぬ、か。
「俺は、他の何人かと『原作の改変』を目的としたグループを組んでいる。『原作』の事件の流れはアレイスターのプランに則ったものだから、そのプランの進行によって利益が出るような動きをすれば億万長者も夢ではない。原作において重役である親船最中の肉親であり、上条とも近しい位置にいる貴方が仲間になればその可能性はさらに高まることになる。どうだ? 俺達と組まないか?」
と、私がそんな風に生きる為の策を練っている間に、コイツはついに『原作』という言葉を口にしてしまった。
……これで、アレイスターが私の素性に気付くまでの時間がおよそ三時間くらい短縮されてしまったことだろう。……襲撃の時間が早まる、か? ヤバいな、情報操作が間に合うだろうか……。
……、
あ、そうだ!!
今この段階で、第七学区には上条たちがいる! 今は七月二〇日の昼ごろ……つまり、上条は補習。インデックスはまだ神裂に背中を斬られて重傷を負う前だ。この状態から禁書目録争奪戦に介入する、というのはどうだろうか。……確かに、メインプランに干渉するということはアレイスターの逆鱗に触れるということかもしれない。
しかし、こうは考えられないだろうか? メインプランゆえに、アレイスターは上条に影響を及ぼす可能性のある手段をとることができない。
つまりは、上条を人質にするのだ。私に対して暗部の襲撃を使えば、上条は得意のヒーロー力で私の危機を察するだろう。奴のそういう方面の鼻のよさは中学時代にイヤと言うほど分かっている。禁書目録争奪戦に介入する、つまり上条の近くにいる状態で襲撃というカードを使えば、それは上条を巻き込むのと同義。そして、暗部の騒動に上条を突っ込ませるのはアレイスターとしても本意ではないはずだ。なら、禁書目録争奪戦に介入するという名目で上条と一緒に小萌先生宅に寝泊りすれば、少なくともその間は襲撃はなくなるということになる。
その後は、適当に護衛を使って自作自演をすることで暗部に狙われている旨を説明することでイギリス清教に匿ってもらうというのはどうだろうか。禁書目録争奪戦の間にステイル・神裂と交友を深めて、尚且つインデックスを助けた恩をチラつかせれば匿ってもらえる可能性は格段に高まるはずだ。
イギリス清教なら、科学サイドとも同盟を結んでいるから私の身柄が粗末に扱われることもないだろうし、ローラも切れ者だから私が隠れた超能力者という情報を見せて交渉すれば護衛についてもどうにかできるだろう。っていうか、どうにかしてみせる。みせないと死ぬ。
……よし、イケるか。即時展開が可能だし、この禁書目録争奪戦は確か今日から五日間ほど続いたはずだ。つまり、暗部からの襲撃がない執行猶予が五日間も用意されているということ。その間に計画の細部を詰めることでより成功を確実なものにすることもできる。
「……親船小豆? どうした?」
「……何を言ってるのか分からないけど、アレイスターの『プラン』を利用して成功したいと考えているんだね?」
さて、男が何か言っていたが、そんなことは私にとってはもうどうでもいいことだ。正直コイツの言葉だって思考の片手間でよく覚えていないし。……学園都市で最中お祖母ちゃんと一緒に暮らせなくなってしまったのは……確かに残念だけど、永遠の別れというわけではないし、どうせ上条がアレイスターを殴って改心なり無力化なりさせるだろうからそれまでの辛抱だ。
ローラはおそらくラスボスだろうアレイスターよりも先に上条に殴り飛ばされて改心するだろうから、イギリス清教での完全なる安全はさらに早く確保できるし。
「私が最中お祖母ちゃんの孫だから言ってるの? 呆れた人だね……。プランに便乗? 馬鹿馬鹿しい! 私は『学園都市統括理事会』親船最中の孫娘! 自分の目的の為に他者を蹴落とす利己主義者とはお付き合いしたくないね!」
「そうか……」
とりあえず、聞いていたうろ覚えのないようにプラスして何言われてても当たり障りのないような建前を付け加えておく。
どうせアレイスターにとっては噴飯モノな弁解だろうし、正直こんな台詞を考えることに頭を使いたくはない。それよりも先ほどの計画の細かいところを詰めていかなくては。五日間とはいえ時間は有限だ。考える時間は一秒でも長いほうが良い。ひらめきは一瞬で訪れるからな。
男は、そんな私の上辺を見て軽く鼻を鳴らして笑い、幼い子供を諭すような目でこちらを見てきた。
「ところで気が立っているようだな。俺がこんなところでいきなり重要機密を喋ったからか? 安心してほしい。ここで話した内容が漏れる事はない。滞空回線は爆風でやられてしまうほど脆いのだろう?」
――なん、……だと?
男が右手を掲げ、その拳を握り締めた。同時に、私は呼吸が苦しくなる。
……なんだ? 何をされた? ……クソ、抜かった。これで即死攻撃でなかったから良かったものを、もしも相手に殺意があったら私は死んでいるところだった。どうやら少し平和ボケしていたようだ。反省せねば。
「……何、を……?」
「話を聞いていなかったのか? 俺の能力は空力使い。触れたものから空気を噴出させる『空力使い』だが、その対象の大きさには概ね制限がない。制限があるのは、空気を一度に吹き出させることの出来る量、だ。当然、この地面だって対象にすることが出来る。『妨害気流』を知っているだろう? 原理はそれとさして変わらない。ただ、気流を絶え間なく発動することで能力範囲内に局地的な低気圧を生み出し、内部にいる人間の運動能力を低下、なおかつ射程限界に強力な下降気流が起こるように計算して風力を調整することで、空気の壁を生み出す。ちなみに、『滞空回線』はこの気流に全て乗せて、例外なく地面にたたきつけて破壊した。いわばこの空間は俺の独壇場。人呼んで『空間支配』だ」
男はそう得意げに説明すると、勝ち誇ったような笑みを浮かべて蹲った私を見下ろす。
なるほど、先ほどから一向に護衛がこの男に攻撃しないのは、この妨害気流もどきの為か。
「婚后とやらは触れたところから空気を噴出させていたが、そんな派手な真似をせずとも、こういう風に話を伸ばして時間を稼げば、無類の力を誇るのだ。当然、呼吸のための酸素がなくなるのだから反射だろうと無駄だ。強能力で一方通行を倒しうる術を持つのは俺くらいのものだろうな」
男はそこまで言うと、勝ち誇ったような笑みを向けてきた。なるほど、確かに私は低能力の空間移動能力者。相手からしてみれば、私にこの状況から巻き返すような手札はない。
……だが、私もまた浮かび上がってくる笑みを抑えるのに苦労していた。
……ああ、本当に良かった。
此処まで長いこと魔術サイド行きを考えていたが、実際のところ一方で魔術サイド行きは出来るだけ避けたい選択でもあったのだ。
学園都市に残って複数の超能力者+暗部組織の編成部隊を相手にするよりは遥かにマシな状況ではあるが、正史においての主な事件が魔術サイドであることからも分かるように、魔術サイドの政治状況は箱庭の学園都市と比べて極めて不安定である。まだ殺し合いのサイクルが暗部内で収まっている学園都市のほうが(自分に降りかかる危険の予測が簡単だから)安全だ。
加えて、『科学サイドの超能力者? しゃらくせえ! ぶっ殺すぜ!』という過激派による襲撃がないとも言い切れない(というかむしろそういう人間の方が多いだろう)。
ローラだって、私のことを保護するとは完全には言い切れない。体の良い駒として使い潰される可能性も否定できないし、学園都市との無用な争いを避けるためにアレイスターから『こっちにそれを寄越せ』といわれたら条件次第で渡してしまう可能性だってある。むしろその可能性が高い。まあ、その場合でも一応学園都市からは出られるから、この街の中で生存確率の低い鬼ごっこを続けるよりはマシだったんだが。
……何より、コイツと同じように『自分の利益の為に原作を利用する』という考えを持った転生者がイギリス清教に集まっている可能性もある。イギリス清教は『原作』では上条の味方として描写されていたからな。私は魔術を学ぶのがどれほど難しいかは分からないが、『原作』の描写を見る限りやり方さえわかれば素人でもできるコンピュータプログラムのような印象だった。才能で優劣が決まり、アレイスターという絶対者によって命を管理される科学サイドよりも、魔術サイドの方が有利と見る人間がいてもおかしくはない。……ただでさえ魔術サイドは不安定なんだ。転生者にかき乱された盤に自分と言う駒を置きたいと思うほど私は勇気ある人間ではない。
しかし、その悲壮な計画はコイツの行動によって前提が潰れた。
妨害気流の原理を応用した気流操作による、滞空回線の排除。どうやら、私が思っているよりはまだコイツも用心深かったようだ。
……まあ、『親船』という学園都市の重要人物で、尚且つ上条のクラスメイトという正史には存在しなかったイレギュラーを見て『こいつ、絶対ヤバいから関わり合いにならないようにしよう』じゃなくて『コイツを使って上条とのパイプを作ろう』となってしまうところがそもそも、この街の闇と戦った経験のある私からしたら認識不足といわざるを得ないのだが。
それでも銃撃対策といい滞空回線対策といい、一応『闇』に襲われて痛い目を見ていない人間にしては用心深い部類には入るだろう。まあ、プランを利用しようと言うくらいなのだから、最低限このくらい賢くないとやってられないだろうけど。
ともかく、これでアレイスターに私が『原作知識』を持っていると悟られる可能性はなくなった。わざわざ滞空回線を破壊したというところから疑念を抱かれるかもしれないが、そこについては『私の護衛からの銃撃を逃れる為の妨害気流がたまたま滞空回線潰しにも役立った』という理屈で説明がつく。空間支配も、話を聞く限り滞空回線対策に特化したスキルというわけではなさそうだしな。
「さあ、もう勝ち目がないことは分かったろう? おとなしく俺に従えば、痛い目は見せない。約束しよう」
空間支配と名乗っていた男は、そう言って私に対して勝ち誇った笑みを浮かべた。
私はうずくまっていて、相手は立ち踏ん反り返っているのだから、勝ち誇っても当然だが……やはり『裏』の人間ではないな。『裏』の人間なら、懐に拳銃を隠し持っていてもおかしくないこの状況で無防備な姿を晒したりはしないし。転生者と言う話なのだから、おそらく原作が始まるこの時期までずっと表の世界で潜伏していたのだろう。そこまで野心を保っていられる精神力には頭が下がるが……生憎と、私も此処で『はいそうですか』と従うわけには行かない。
とは言っても、普通に考えて『割裂空洞』しか持たない“ということになっている”私に残された選択は降参しかない。となると“このままだと”一旦こいつに従ってみるしかないのだが……。
(冗談だろう。表面上でも従ってみろ。私のことだ、きっと何か不幸な偶然が重なって本当に反逆したことになるぞ)
主にアレイスターの陰謀で。
かといって、こいつの『空間支配』がある限り、無策で食い下がっても痛い目を見るだけだろう。命が懸かっているのだからある程度痛い目見ても気にしないが、割りに合わなすぎる。
……どうやら、出し惜しみはできないようだな。どうやら『空間支配』とやらで人払いはしているようだし……護衛には相応のことは知られている。こいつの長話のおかげでなんとか下準備も終わったし…………。
――やるか。
+注意+
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