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#096 カラメル族

 山村の夏の終わりの夜の宴。人数は少ないけど、料理は充実している。

 ダリオンさん自ら仕留めたリスティンの大振りな肉は、塩と胡椒で味付けされただけであったが、全員に美味いと賞賛されて本人も満足そうである。

 サーシャちゃんが一生懸命火加減を調節して作った串焼きを頬張って、クオークさんは親指を彼女に上げて美味しさをアピールしている。

 俺は、今度こそは食べるぞ!と意気込んではいたものの…覚えているのは、黒リックの香草焼きまでだ。

 ダリオンさんとセリウスさんに交互に酒を注がれ、姉貴の歌う童謡を皆が聞いている内に椅子ごとひっくり返ったみたいだ。


 いつの間にか寝ていたベッドから起きだすと、頭の中と外の痛みを感じる。

 頭の中が痛いのは、たぶん急性アルコール中毒によるものだろう…。毒耐性でも、これは防げないのだろうか。少し疑問に思う。

 そして、頭の外が痛いのは、何処かにぶつけた後遺症らしい。コブは治ってるみたいだけど、痛みは直ぐには引かないようだ。

 ロフトの窓から見える空はだいぶ暗い。姉貴は隣でぐっすりと眠っている。

 

 「…ムニャ、ムニャ…もう食べられないよ…。」

 お腹一杯食べたのか、寝言を言ってるけど、俺のお腹はグーって鳴いてるぞ!

 ザックの中を家捜しすると、アルファ米が出てきた。チタンコッヘルに適当に入れると装備ベルトのバッグから乾燥野菜と姉貴から随分と前に貰ったビーフジャーキーを千切って入れる。

 落とさないように気を付けてリビングに下りると、暖炉に2本の薪を入れ、その間に小さな火を焚いた。

 薪にコッヘルを載せると、タバコを取出し暖炉の傍で一服を楽しむ。此処だと、煙が暖炉の煙突に吸い込まれるから、今の所皆の顰蹙を買わずにいる。…まぁ、時間の問題のような気もするけどね。


 コトコトとコッヘルの蓋が音を立てるのがヤケに大きく聞えるけど、とりあえず無視しよう。木のスプーンを持って暖炉の前で、ジッと待つこと約1時間。どうにか、リゾットに似たものが出来上がった。

 フーフーと息を吹きかけながら食べ始めると、体の痛みが少しづつ取れてくる。

 全て、食べ終えるとコッヘルを洗いに外に出る。

 満天の星空だ。

 今夜は2つの月も出ていない。…前の世界にいた時に見上げた星空なんて比べ物にならないくらいの星が輝いている。

 銀河もハッキリとその流れを確認できるが、俺が知っている星座は何処にも無い。

 星座の形が変わるのは相当の年月が必要だと聞いたことがある。やはり、前の世界の未来ではなく、ここは異世界なのだろうか?


 コッヘルを洗って家に入ると、さっさとロフトに上ってベッドに入る。

 眠ろうとしたが、中々眠くならない。さっきまで動いていたから仕方が無いか…。

 それでも、目を閉じてしばらくすると段々と意識が低下してくるのが分かる。

              ・

              ・


 蒼い水球のような惑星…。

 それでも、小さな群島が、あちらこちらに点在している。

 島の周辺には何処までも続くさんご礁と、色鮮やかな大小の魚の群れが見える。

 そして、さんご礁が尽きると、其処は紺碧の海…。大型の魚と海獣が小魚を追って回遊する。

 

 海獣を狩るのは…カラメル人だ。

 数人がチームを作り、追う者、狩る者に分かれて海獣を獲る。

 そして、獲れた海獣をタトルーンに積み込んで深海に移動する。


 深海に広がる大都市。それはドームで高い水圧に耐えている。

 光も届かぬ深海で人工の灯を灯し、数十万人を越えるカラメルの民が営みを育んでいるようだ。

 深海のドーム都市は、数万人規模の衛星都市を持っており、ドーム都市はいたるところに作られている。


 そして、惑星の遥か上空にも都市が作られていた。

 水の惑星の持つ1つの月。そのラグランジュポイントに作られた2つの巨大な人工の月。

 表面の金属体の内側は故郷の水で満たされている。

 静止軌道までの軌道エレベーターと、フェリーロケットによる移動手段で、カラメル人は容易に人工の月と水の惑星を行き来している。


 それは、高度に発達した文明のなせる技であり、カラメル人の未来は希望に満ちていた。

 卓越した冶金、科学、化学、薬学、医学、そして数学とそれらを統合化した総合科学技術。

 繁栄は続き、カラメル人はさらなる遠方の星々にその版図を広げようとした。


 その時、それは現れた。

 遥か彼方より来たりし災厄の星…遊星の訪れである。

 それは、大洋の中で2匹の盲目の亀がぶつかる程の低い確率ではあるが、衝突はカラメルの発達した科学力により容易に知ることができたが、それを回避する技術までは未成熟であった。

 

 衝突までの残された時間…。

 それまでにどれだけの仲間を助ける事ができるのか。

 ラグランジュポイントの衛星に急造の推進システムを作り上げて、遥か彼方への旅に出る。

 2つの衛星を航宙船と化して旅立たせ、次の船を造りあげる。

 残された時間は砂時計のように流れさり、それでも数十の船を造りあげた。


 船は次々と故郷を離れ、数年を過ぎると互いの船の交信すら不可能になる。

 まだ、残っているであろう同胞は必死に船を造り星を離れようとするが、昼でも、遊星の輝く姿が見えるようになってきた。


 最後の船の旅立ちは、若者のみが乗船する。

 老人は故郷に残り、若者に希望を託す。

 その船が住み慣れた惑星を旅立って1日後…惑星は遊星の直撃を受ける。

 自分達の住んでいた星の破片が超高速の弾丸となって、最後の船に襲い掛かる。


 外部装甲を破損し、推進器の暴走まで引起した船を、乗り組んだカラメルの若者は必死で修理をする。

 それらが、一段落した後で、彼らに判ったことは、船の方向を変える推進器の燃料が残りわずかであること。そして、新たな惑星への移民の機会は1度のみであることだった。


 それでも、かれらは前に進む。

 2度と仲間に合う事は無いであろう。

 この航宙船に乗るカラメル人1万人が、カラメル族の全てと覚悟を固める。

 

 カラメル人の寿命は長い。2千年を生きる者とて存在する。

 旅をする中、カラメル人達は銀河に流れる不思議な流れを体感する。

 その体感を自ら利用する物として捉えるのにカラメルの長寿命は役にたった。

 カラメル達はそれをエーテル流と呼び、その力を昇華する。


 カラメル人の半数が新たな命と入れ替わった時、船の前方遥か彼方に蒼い惑星を見つけた。

 接近する100年を蒼い惑星の観測に費やし、50年をかけて船の進行方向を調整して、減速を行なう。


 かつて住んでいた惑星に似た惑星は、表面の三分の二が水で覆われていた。

 そして、その水中にも地上にも、カラメルの敵となりうる者はいなかった。


 新たな惑星に軌道をあわせ、ゆっくりと船を着陸させる。

 最終的な水面衝突時の落下速度は秒速1mを割っていた。

 そして、衝撃波も津波も生じることなく、船は大洋の深海へと沈んでいく。


 大洋から大洋へ、そして大湖へ…。タトルーンの群れが深海より調査に赴く。

 そこで、見つけたのは原始的な文明を営むカラメル族と少し似た種族。

 しかし、彼らは短命だった。

 自分達の接触が彼らの文明に影響を与える事が無いように、カラメルは水の中に生活の場を築く。

 将来は、彼らも深海に挑むであろう。その時こそ本格的な接触を保てばよい。

 それまでは、水の中に我等がいることを知る程度でよい。

 

 そう考えていた時である。

 彼らは、文明の遺物を見つけた。

 それは、湖底の水中トンネルの奥にあった。

 厳重に封印された小さなカプセル。

 1人のカラメル人がそれをつまみ上げ…落としてしまった。

 

 その時は何も起こらなかった。

 100年後、種族が増えた。

 500年後、種族間の大きな戦いが起こった。

 そして、現在に至る。


 あの時のカプセルは何だったのか。我等、カラメルの科学でさえもそれは分からない。

 カプセルの表面に刻まれた記号は『DNA改編NM』。

 そして、600年後の戦いの収束とともに、種族の変化は沈静化した。

 我等の不始末で発生した事象ではあるが、発生した種族を我等が刈り取るのは傲慢というものだろう。

 その種族が互いに情報を交換し文明を発達させていることから、これ以上の干渉はすべきではない。

 我等カラメル族は、深海に居を構え、各地の大湖、大洋に分遣隊を派遣して、彼らの文明を見守ろう。

               ・

               ・


 「うう~ぅむ…。」

 「何をうなされてるの?」

 

 ガバッって布団を跳ね除けてベッドから上半身を起こす。

 何かリアルな夢を見ていたような…。うん?…夢ではなく追体験かな。カラメルの歴史の一端を見たようだ。

 夢ならば、急速に内容が不明確になるのだが、これはかえって鮮明になる。

 カラメル族がこの世界に移住してきた経緯が分かったのだ。


 さっきから、俺を姉貴が不思議そうな目で見ている。

 「うなされてたか…。姉貴が貰ったキューブのせいかも知れないけど、カラメルの住んでた惑星が破壊されて、この世界に移住した経緯を、カラメル人の目を通して見てしまった。」


 「そうなんだ…。それは、悲しい話なの?それとも…。」

 「悲しくは…あるな。でも、前向きでもあるよ。それと、サルとの関わりも少しはあるみたいだ。」

 「後で、詳しく聞くわ。…皆起きてるわよ。アキトもサッサと起きること!」


 皆が起きてると聞いて慌てて衣服を着て、ロフトを下りる。

 リビングには皆が揃ってお茶を飲んでいた。

 皆に「おはよう。」って挨拶もそこそこに井戸に行って顔を洗う。ゴシゴシとタオルで顔を拭くと、テーブルの俺の席に着く。

 早速、ジュリーさんが黒パンサンドとお茶を出してくれる。


 「あの程度で倒れるとは情けない…。」

 アルトさんが俺を見ずに呟くのが胸に響く。

 

 「姫様。アキトさんはそもそもお酒に弱いようです。あまり進めるのも…。」

 ジュリーさんがクスクスと笑いながらアルトさんを嗜めるのも、同じように胸に響くぞ…


 「それでも、僕は嬉しく思いますよ。僕も弱いと言われてますからね。少し安心できます。」

 ガーンっという感じだ。要するに、クオークさんより弱いということになる。

 別に、酒に強いからといって、ギルドのレベルが上がるわけではない。

 俺は俺だし、良いじゃないか酒に弱いくらい…。


 「ところで、今日の予定は?」

 「明日は王都に帰りますから、今日はのんびりです。お2人に訪ねたい事もありますし…。」

 

 「アン姫は、どうなされます?」

 「私は、昨年の狩猟期のお話をお聞きしたいですわ。狩猟期のイベント始まって以来の獲物を捕らえた方法をお聞きしたいです。」


 「それを聞くと、アキト達を王宮に連れて行きたくなるぞ。我がかつて、ミズキの話を聞かされた時、金貨30枚と舘とメイドを添えて王宮に迎えようとしたがダメじゃった。」

 アルトさんが俯きながら呟いた。


 「それ程のことなのですか?」

 「そうじゃ。それがアキト達のやり方じゃ。…我は聞いただけで心が躍ったぞ。」

 「詳しく、お聞かせください…。」

 

 そして、アルトさんが去年の様子を話し始める。アン姫とサーシャちゃんが熱心に聴いている。

 時折、「それは、凄い!」とか「何と!」なんて声が聞えてくる。

 何時の間にかミーアちゃんがアルトさんの隣に座っている。

 話がミーアちゃんの活躍する所にはいると、目を細めてはにかんでる所が可愛いぞ。

 

 「此処ではアルトさん達の邪魔でしょうから、私達は外のテーブルに行きましょうか?」

 姉貴の言葉で、俺とクオークさんは席を立ち庭に出かける。

 後から、ジュリーさんが「後で、お茶をお持ちします。」って言ってるけど、ジュリーさんって色々と大変だよな。


 

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