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#093 やはり、こういう展開に

 「…本当に、この文字が読めるのですか…。」

 クオークさんが紙片から顔を上げて姉貴に問うた。


 「はい。この文字は私達が日常的に使っていた文字です。でも、貴方達が使っている文字も根源は同じです。いいですか…」

 そう言って姉貴は白紙を出して、五十音を書いていく。そして書き終えると隣に此方の文字で、その言葉を書き出す。


 「此方で使っている文字は、私達のローマ字と言う文字形式に似ています。これで、この平仮名の部分は読めるでしょう。」

 

 クオークさんは姉貴の書いた一覧表を見ながら紙片の文字を確認する。

 「読めます…。確かに読めます。でも、この字はこの表にはありません。この字も、そしてこれもです。」

 

 「私達の言葉は非常に複雑な文字で表現されます。最初の表は平仮名ですが、此方は片仮名です。これは漢字、そしてこれは英語といって言語体系が異なります。」

 「もし、写本をお見せしたらそれを読んでいただけますか?」


 「発音が出来ても何の事か解らないものもあります。それで良ければいいですよ。」

 

 それでも、クオークさんには嬉しいことだろう。少しは書かれている内容が理解できるのだから…。

 それは俺達にとっても都合がいい。少しはこの世界の謎が解ける気がする。


 そんな話を前置きにして、姉貴とクオークさんはチェスを始めた。

 俺は、みんなのお茶を入れ替えると、杖の装飾を彫り始める。


 「う~ん…、参りました。これでも王都のチェス大会で優勝したんですが上には上がいるんですね。」

 「いえいえ、ご謙遜を…。ジュリーさんより遥かに手強いですよ。もう一度どうですか?」

 「やりましょう!」


 俺の横で静かな戦いが始まった。

 一通り彫刻を終えると、杖を硬く縛った糸を切る。パカって2つに割れた杖に、用意した刃物を差込んで目立たぬように目釘を打つ。彫刻の模様に綺麗に隠れた。

 銀貨を潰して作った小さな鍔を付けて、鞘に収める。

 最後に杖の先に黄色い魔石を接着剤と金具で固定すれば出来上がりだ。


 見た目には魔道師の持つ杖だが、中に20cmの薄い刃物が仕込んである。

 魔道師は武器を持たないけれど、持っていた方がリスクは小さくなると思う。魔法の詠唱をしている時に敵に飛び込まれては、なす術がない。

 最後に、杖に防水塗料を万遍なく塗って暖炉の脇に立て掛けておく。

 

 トントンと扉が叩かれ2人の女性が入ってきた。

 あれ?…ジュリーさんが2人いるぞ。

 

 2人がテーブルまで歩いてきた。

 クオークさんが何も言わないところをみると顔見知りらしいのだが…。


 「私の妹のマハーラです。近衛の副官をしております。」

 「マハーラです。姉がお世話になっております。」

 そう言って、マハーラさんが頭を下げる。

 

 ひょっとして双子なのか?…似すぎてるぞ。違いが分らん。服でどちらかを判断する外なさそうだ。

 ジュリーさんは魔道師です。っていうような長い裾のワンピースだけど、マハーラさんは皮鎧だ。そしてその鎧の表面には、確かにスラバの皮が張ってある。

 スラバの皮は近衛兵が着けているって聞いたけど、こんな風に鎧を飾るんだ。

 でも、ダリオンさんは着けていなっかた。何か理由があるのだろうか?


 「アキトさん。西門で皆さんが待っていますよ。セリウスさんが装備を整えて来て欲しいそうです。」

 「分りました。」と返事をして、早速装備ベルトを着けて家を出る。

 

 装備をして来いって言ってたけど、狩にでも出かけるのだろうか?

 初期装備に採取鎌を持ってきたから大型を狙わなければ何とかなるとは思うんだけど…。


 「こっちにゃ!」

 西門前でミケランさんが手を振っている。

 急いで駆け寄ると、「皆で訓練にゃ。」って言われた。スタスタと歩いて行くミケランさんの後を着いて行くと…。スラバの皮に装飾された革鎧の一団が群れている。

 

 ミケランさんに付いてその中に入っていくと、どうやら弓の練習というか、デモンストレーションをアルトさんに見せているようだ。


 「来たか。こっちだ。」

 セリウスさんは隣の折畳み椅子を指差した。でも、そこはダリオンさんとセリウスさんの真ん中だぞ。ちょっと違和感がありすぎる。

 

 「そこで、見ておれ。クオークの嫁の腕も直ぐに判る。」

 嬢ちゃんずとアン姫もセリウスさんの向こう側に座っている。

 

 ちょっと場違いな思いに囚われながらも用意された席に着く。

 何人かの弓兵の試射は終わったみたいだ。

 試射が終わった弓兵が的から矢を引き抜いて後ろに下がる。

 どうやら、女性の弓兵らしい。下がった弓兵も、新たに進み出て俺達に頭を下げて位置に着いた弓兵も女性だった。


 的は西門の丸太で作った塀に打ち付けられた直径1m位の円形で同心円が3つ的に描かれており、中心は黒く染められている。中心の直径は30cm位だろう。

 それを50m位の距離から放つようだ。


 弓兵の持つ弓を見ると、いわゆる西洋弓だ。弓兵の身長より50cm程度短い。

 最初の矢をつがえると弦を引き絞る。自分の顎の下まで引き絞って、シュタ!っと放つ。

 矢は的の右上に突き刺さった。

 

 続いて次の矢を放つ。…合計6本の矢を放ち全て的に命中するが、残念な事に中心を捕らえたものは1本も無かった。

 

 「どうだ。…中々のものだろう。」

 「ウム。しかし的当てなら、とんでもない者が控えているぞ。」

 ダリオンさんが自慢げにセリウスさんに話してるけど、セリウスさんは嬢ちゃんずの腕を知ってるからか、お茶を濁してる。


 「次は、我が放ってみましょう。」

 この声は…アン姫だった。弓を手に静々と位置に着くと同時に最初の矢を放った。

 シュタ!っと弦の放つ音が聞こえると同時に的に矢が突き立つ。


 「ほう…。戦乙女というだけのことはある。直ぐにでも弓兵を率いて貰いたいものだ。」

 的に次々と命中する矢はかなりの収束率だ。6本放って2本が中心を捕らえている。


 「なるほど、クオークの嫁にふさわしい限りじゃ。明日のラッピナ狩が楽しみに思うぞ。だがの…その腕ではラッピナは無理じゃ。近衛よ。我が用意した的に替えよ。」


 1人の兵が的に向かって走る。

 そして、的を力を込めて取外すと、改めて的を打ち付けた。

 その的を見て、近衛兵が浮き足立つ。ダリオンさんも椅子から思わず立ち上がっている。


 直径が15cmの黒く塗られた丸い的。それがアルトさんの用意した的だった。

 

 「姫様。いくらなんでもあの的に当てるのは無理というもの。アン姫様に恥をお掛けになるおつもりですか?」

 「そんなつもりは微塵もない。明日のラッピナ狩ではこの距離で、あの的を射抜く技量がいるのじゃ。まぁ、練習のつもりでやってみるが良い。」

 

 ダリオンさんの諌める声にもアルトさんは動じない。

 その話を聞くと、出来なければ連れて行かないという風に捉えたのか、アン姫が弓を構える。


 3本の矢を持つと続けざまに矢を放つ。

 凄く早い連射の矢はそれでも収束率が良く、的に当てることは出来なかったが、かなり近接して塀に突き刺さっている。


 「ほぉ~。中々の腕じゃ。明日は1匹は捉える事が出来よう。では、我らの技量をみせようか。ミーア、サーシャ準備せよ。」

 「1匹ですか。でもあの的は小さすぎます。当てることなど…」

 「言うってくれる。我らは日頃よりあの的を使っておる。我に出来ぬ事を他に求めぬ。」


 アン姫の位置にアルトさんが着くと、左右にミーアちゃんとサーシャちゃんが数mの距離を置いて位置に着く。

 クロスボーの弦を引いてトリガーに連動したフックに掛けると、立て膝になり、クロスボーにボルトをセットする。そして、安全装置を外して的を狙う。

 

 「テッ!」

 アルトさんの指示で3本のボルトがシュタッ!、シュタッ!…っと放たれる。

 そして、ボルトは50m先の小さな的に3本とも命中した。


 「そんなバカな!!」

 ダリオンさんの叫びがこの場を代表した言葉だろう。他には驚きのあまり声も出ない。

 そんな中、アルトさんは次のボルトをセットする。


 「ミーアからじゃ。…テッ!」

 シュタッ!っと放たれたボルトが、的に当たる。続いてアルトさん、そしてサーシャちゃんの放ったボルトが次々と的に当たる。


 「どうじゃ。昼にラッピナを狩るということはこのような技量を持つということじゃ。」

 


 アン姫を始めとした弓兵は、唖然とした顔で声すらでない。

 「姫様、何処でその弓を手に入れたのですか?…もし、我が弓兵がそれを持ったならば…。」

 「そこまでじゃ。我もそう思うたときもある。じゃが、アキトはこの武器を持った100人と弓を持った100人が対峙して戦った結果を書物で読んだ事があるそうだ。」

 「ダリオン。どちらが勝利を手にしたと思う?」

アルトさんが自分のクロスボーと弓兵の持つ弓を左右の手に持って問う。


 「それは勿論、その命中率に優れた風変わりな弓の方でしょう。」

 「勝ったのは弓を持つ部隊であったそうだ。ダリオン明日の夜の宴までの宿題じゃ。よく考えよ。」

 

 アルトさんの言葉に皆は首を傾げる。普段使っている弓の優位性をあまり自覚していないようだ。

 

 場が白み掛けた時、セリウスさんが俺を向く。

 「さて、次はアキトの番だ。虹色真珠を手にしたのが赤6つだと誰も信じなくてな。すまんが数人相手にしてくれ…。」


 やはり…嫌な予感はしてたんだ。

 困った顔をしながら装備ベルトを外す。

 「そう、嫌な顔をするな。兵達の訓練だと思えばよい。」

 セリウスさんの言葉に頷いて、近衛兵が取り囲む中程に歩き出す。


 「彼のレベルは今幾つだ?」

 「確か、黒5つだったと思うが…」

 「黒7と、黒9をぶつける。彼に防げるか?」

 「俺はアキトと対峙して勝てる気がしない。魔道師は連れているな。直ぐに準備しておいたほうがいい。」

 

 「それ程には見えぬが…。」

 「アキトは赤4つでスラバとタグを倒し、赤6つで虹色真珠を得た。そして、此処だけの話じゃが赤6つでタグの女王を倒している。…ダリオン。何故お前が行かん?」

  

 「鳥肌が治まらぬ。俺達、トラ族と比べて遥かに劣る体格だ。そして、仕草も隙だらけ…だが、俺の本能というか、奥深くで警鐘が鳴り続けているのだ。」

 「それが、何なのか知りたいということか…。」


 「そうだ。後で彼には謝罪するが、今は彼の技を見てみたい。」

 「よく見ておくことじゃ。一瞬で終わるぞ。」

              ・

              ・

 俺の前に1人の男が進んできた。

 「最初は私がお相手します。」


 海兵隊でも通用しそうな男が俺の前に立つ。

 2m程の距離を取り、対峙しながら少しづつ周りこむように互いの位置を入れ替える。

 

 突然、男が拳を繰り出す。しかも繰り出した腕と同じ足を同時に踏み出す。

 『瞬歩』がこの世界にあるとは思わなかったが、俺の世界と同じ技だ。体重の乗った状態で繰り出される剛拳は容易に分厚い板を打ち破るだろう…。

 

 しかし、右足を軸に左足を後にずらすように体を捻れば、俺の胸板スレスレに男の拳が通りすぎる。

 そして、左手で男の手首を掴んで下方に捻り、右手で肩を突き上げればドン!っと男が地面に背中から打ち下ろされる。

              ・

              ・

 「見たか?」

 「見たが…何故、彼は投げられたのだ。彼の体も触っていないのだぞ。」

 「あれがアキトの技らしい。グレイを知っておるな。奴もアキトに挑んで一瞬に投げ飛ばされたらしい。その理由を尋ねたところ、アキトの故郷に伝わる武術だそうだ。相手が強ければ強いほど投げるのは容易らしい。」


 「もう1つあるぞ。あやつの技は防御において発動する。よって、攻撃は出来ぬはずじゃ。その時、また変わった技を使ったとグレイに聞いたぞ。」

 「俺が行く。黒7つであれでは、黒9つも変わるまい。」

              ・

              ・

 次に俺の前に現れたのは、ダリオンさんだった。

 プロレスラー等彼の前には小学生に見えるだろう。とんでもない威圧感で体がチクチクするように感じる。

 これに比べれば、グライザムの前に立った方が遥かにマシに思える。

 ダリオンさんが呼吸をする度に大きくなるような錯覚を覚える…。

 いや、錯覚ではない。闘志が彼を中心に渦を巻くように俺には見える。

 

 目を半眼に閉じ、真言を呟く、「臨兵闘者 皆陣列在前」。そして気を一気に丹田に集める。

 静かに目を開けると、アクトラス山脈よりリオン湖を渡り俺に続く気の流れが見える。

 その気の流れを俺は貪欲に取り込む。

 そして、俺の前には闘志で気の流れを乱すダリオンさんがいた。

              ・

              ・

 「間に合うたようじゃの…。」

 「リオンの長老か…。何ようじゃ?」

 「気の高まりを感じての。もしやと思い来てみれば、中々のものよ。だが、惜しむらくは勝負は既についておる。」

 

 「まだ、手合わせもしておらぬぞ。」

 「じゃが、力の差が歴然じゃ。トラ殿は自らの力全てを次の一撃に込めておる。対してあの青年はこの世界と一体…。まだ、修行が足りぬゆえ、この世界の一部を取り込んでおると言った方が良いかの。その位の力がある。その2つがぶつかった場合はどうなる?」


 「力の弱い方が弾かれる…。」

 「そうじゃ。あの青年がカラメルの試練を受けた時も、それが起きたそうじゃ。それもあって、ワシが見に来たわけじゃよ…ホォホォホォ…」

              ・

              ・

 俺が座っていた付近に強い気の流れがある。

 この流れには覚えがあるぞ…確かカラメルの長老の気の使い方だ。

 ジリジリとダリオンさんとの距離を微妙に取りながら周りこむと視野の端にカラメルの長老の姿が見えた。


 それは俺に一瞬の隙を作ったようだ。

 ダリオンさんの丸太のような腕が俺の顔スレスレを通り抜ける。

 左手でその腕を跳ね上げ、半回転して背中に肘うちを放つが、そこにはダリオンさんの背中は無かった。

 俺の跳ね上げた力を利用して後転、そして俺の目の前に立つ。


 慌てて飛びのこうとした体が、ダリウスさんの両手で引き戻される。

 その力を利用して小さく掌底を彼の右胸に放った。


 俺と、ダリオンさんの動きが止まる……


 セリウスさんとアルトさんが駆けて来る。

 セリウスさんが、ガッチリと掴んでいたダリオンさんの腕を、俺の体からもぎ取るようにして外すとダリオンさんを地面に寝かせる。


 ガクっと膝を着き倒れる俺を慌ててアルトさんが抱きとめるが、体重差で押しつぶされそうになっている。それをアン姫が助けてくれた。


 地面に寝かされ身動きも出来ない俺の視野に、ヒョコヒョコと此方にやってくる長老の姿が見える。

 長老は俺の隣に座ると、一気に気を高め、それを練る。そしてそれを誰かに放った。


 「これで、大丈夫じゃ。此方の若者は疲れておるだけじゃ。一晩休めば元通りじゃて。フォフォフォ…。」

 「長老殿。ダリオンは何故倒れたのだ。そして、アキトは何故動けん?」


 「この若者は集めた気を一気にトラ殿に放った…その結果、心臓が止まったのじゃ。そして、この若者に気が残らなくなった。気力を無くしたのじゃよ。立っておられるわけがない。」

 「命を刈り取ったという事じゃな。」

 「それ程の事ではないが、そうも言えるじゃろう。」

 「恐ろしい技ですね。ひょっとして魔物の技では…。」


 「いや。魔法よりも遥かに高度で洗練された技じゃよ。今はこのような使い方が出来るだけじゃが、応用の範囲は広い。この若者の姉は魔法と気の力を融合させておるよ。あのような使い方があるとはワシも知らなんだ。」

 「ミズキがそのような…いや、分からん。知る必要はあるじゃろう。」


 何か、俺の周りで話しているようだが、眠い。

 そして俺はそのまま眠りに落ちていった。


 

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