表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
84/541

#083 トリフィルとトリファド

 ザッザッ…と緩やかな斜面の下草を蹴飛ばすようにトリフィルに近づくと、20m位手前で1匹のトリフィルの全部の目玉がクイって、俺を睨む。

 数個の目玉はカタツムリの目玉のように触手の先について個別に動いているんだけど、気持ちのいいものではない。


 俺を見つけたトリフィルが体の下にある短い触手を動かしながらゆっくりと俺に近づいてくる。幸いにも残りの2匹は俺に気付いていないようだ。


 20m位の距離を取って少しづつ後ろに下がっていく。

 こいつ等の移動速度はかなり遅い。獲物を見つけた後でも、俺が歩く位の速度でしか移動できないみたいだ。

 少しづつ…少しづつ後ろに下がる。

 そして、最初の位置から150m位移動させる。もう、姉貴達の場所まで30mを切っている。

 後ろを素早く振り返り、姉貴に頷くと姉貴が頷きかえしてきた。

 その場に立ち止まり、背中のグルカを抜いて構える。ザザザっとスロットが長剣を構えて俺の右側に陣取った。


 トリフィルと俺達の距離が10mを切った時、いきなり長い触手が俺に向かって槍のように伸ばされる。槍というよりは矢に近い位の速度だが、【アクセル】での身体機能強化は動体視力にまで及ぶ。その軌道を見定めて片足を軸に体を横にして避ける、そして左手を一旋して触手を切断する。


 更に俺に向かってくる触手を次々と切断する。チラっと、スロットを見ると彼も長剣を巧みに使って触手を切断している。

 そして、俺の傍を火球が飛んでいく。それはトリフィルの上部に蠢く触手に当り、ドン!っという炸裂音を伴って引き千切った。

 次々に火球が放たれる。姉貴とネビアが【メル】を連発しているようだ。


 上部の触手を粗方片付けると、足止めに下部の触手を攻撃する。グルカを刀に代えて1本づつ確実に切断する。


 攻撃手段と移動手段を奪われたトリフィルは安全ではあるのだが、上部の口を開閉しているし、ずん胴の動体を揺すっているので、あまり気持ちの良いものではない。

 姉貴とネビアは近寄りもしないので、俺とスロットで素早くトリフィルの胴体から生えている実を採取した。

 実は梅の実位の大きさで熟しているのか赤く色づいている。


 俺達が実の採取を完了すると、姉貴が近づいてきてトリフィルの口に爆裂球を投入れた。

 ドォン!と音がして、トリフィルの動きは鈍くなった。でも短い触手はまだ動いているところを見ると生命力は強いようだ。

 すると今度は火球が連続して口の中に飛び込んでいく。

 ドン!ドン!とトリフィルの内部で爆発音が響くと口から煙を上げて燃え上がった。

 以外と燃えやすいのかも知れない。


 残りの2匹も同じように1匹づつ誘き出して退治する。

 最後の1匹を【メル】で松明にした後はすっかり辺りが暗くなっていた。


 「アルトさんの言葉もあることだし、少し場所を移動して野宿するわよ。」

 ここは全員、姉貴の言葉に従う。

 確かに焼いたとはいえ、何かまだ動きそうだし、あの姿を早く忘れたい。こんな場所で野宿したら、夢にトリフィルが出てきそうだ。


 一旦、沼の近くに出たときには真っ暗闇だった。姉貴の【シャイン】で照明球を飛ばしてその光を頼りに山道を歩いて行く。

 沼を迂回して、少し森に近づいたところで野宿場所を探し始める。


 幸いにも大木を見つけたので、その根本に薪を集めて焚火を焚く。

 更に周囲から薪を集めて焚火の傍に戻った時だった。


 スルスルと枝が動き焚火の傍にいる3人を掻き寄せようとしている。

 直ぐにグルカを抜くと枝に向かって投げる。

 グルカはクルクルと回転しながら枝を両断して幹に突き刺さった。

 グオォォー!という声が大木の上部から聞こえてきた。

 焚火から慌てて3人が飛び退く。

 姉貴が光球を数個作って辺りを照らし出す。すると…


 そこには、大木に擬態したトリファドが大きな口を開けて立っていた。

 大木の高さは5m程、胴回りは直径1.5mはある。5本の根のような足で立ち、口から少し上の辺りより5本の枝のような手を出している。丁寧に葉っぱも付いている。手の1本は半分以下に切断されていて、俺のグルカが口の真下に突き立っている。


 姉貴は手で合図を送り、2人を後ろの方に下がらせた。

 俺は【アクセル】を俺と姉貴にかけると、更に【ブースト】を自分にかける。そして刀を抜いて姉貴の前に立った。


 パシュ!っと音がしてトリファドの目の1つにボルトが突き刺さる。トリファドは体を回転させると別の目で俺達を睨みつけた。

 ヒュン!と風を切る音がして枝が振り下ろされる。音と同時に下がったから良かったものの、直撃したら飛ばされそうな勢いだった。


 パシュ!っとボルトがまたもトリファドの目に突き刺さる。

 すると、頭上から沢山の目がトリフィルの目のように触手の先について出現した。


 火球が飛んで、触手の目に当たる。

 ドン!と火球が炸裂してもトリフィルのように千切れることはない。


 ヒュン!と枝が俺に向かってくる。飛び退きざまに枝を斬る。

 残りの枝を誘いかけながら斬り刻んでいくと、触手の先の目玉が消えて、槍の穂先のように変化した。


 今度は槍が何本も襲ってくる。体を捻り、前に跳び、後に下がる…その度に刀で触手を斬って行く。

 結構忙しいけど、トリファドの動きが段々と分かってきた。

 どうやら、一度に操れる触手は多くても4本までのようだ。そして、その長さは10mを超えることはない。


 スロットが触手の1本を牽制してくれるのと、動体視力の向上したおかげで,何とか触手の直撃を避けることが出来る。

 触手の槍を潜り抜け、地面を移動するための短く太い触手を斬り飛ばす。

 

 槍状の触手も足の触手も、両断されるとしばらくはバタバタと蠢いて、やがて動かなくなる。

 新たに出てくる触手を切り払っていると、触手の太さが細くなってきていることに気が着いた。

 辺りに散らばる触手と比べると、確かに細くなってきている。それに俺を狙って一度に襲ってくる槍も何時の間にか2本になった。


 そういえば、アルトさんが【ヒュール】が使えれば簡単みたいな事を言っていたが、切り払っていればいつかは終わりが来る。って事のような気がする。


 そんな時、ドオォン!っと、トリファドの口の中で爆発音がした。

 振り返ると姉貴がクロスボーを構えている。グレネードを発射したみたいだ。

 トリファドは口から煙を出している。そして、触手のワナワナした動きが少し低下しているようにも見える。


 俺は、触手を切り払いながら素早く近づくと、残りの足となる触手を切断した。これで、もう動きまわる事は出来ないはずだ。

 

 更に2発目のグレネードがトリファドの口に飛び込んだ。

 ドオォン!っと音がして、触手の動きは目に見えて落ちてきた。

 

 グレネードは火の魔法とは異なるようだ。それなりに威力がある。

 それならと、右サスペンダーのマジックテープを外して、ストラップからパイナップルを取り出す。

 左手でレバーを包み込むようにパイナップルを握ると、丸い安全ピンを指をかけて引き抜く。小走りに触手をかいくぐり、モクモクと煙を出しているトリファドの口にポイって投げ込んだ。そして、飛び込むように後ろに退く。


 ドガァーン!

 トリフィドの上部が吹飛んだ…。


 ポトン!っと2mほど先に光るものが落ちてきた。

 何だろうと、落ちてきたものを探すと、100円玉位の魔石だった。ありがたく頂戴して、改めてトリファドを見る。

 

 半分から上が吹き飛んでいる。傍に俺のグルカが転がっていたので回収しておく。

 トリファドの体はどう見ても木の幹としか思えない。

 上のほうで蠢いていた触手は何処かへ飛んで行ったようだ。口も目も、何処にもない。

 かろうじて、足元の太い触手がこれがトリファドだったと教えてくれる。


 「危なかったわね~。どうやって倒していいか解らなかったわ。」

 「姉さんがグレネードで攻撃してくれなかったら、パイナップルを使う事は思いもよらなかったよ。」


 姉貴がテヘヘ…って頭を掻いている。そんな姿はミーアちゃんがすると可愛いけど、姉貴はもう止めた方がいいよ。と言おうとしたが止めておいた。


 「倒したのですか?」

 「もう、安全ですの?」

 避難していたスロットとネビアがやってきた。


 「あぁ、倒したさ。…スロット、さっきはありがとう。俺1人では触手4本は少し辛かった。怪我も無いのはスロットのおかげだ。」


 「そんなことはないですよ~。」って頭を掻く格好は様になってるぞ。

でも、「こら!心配させないで…」ってポカリと頭を叩かれてるところはどっかで見た記憶があるぞ。


 「さて、物騒な場所は止めといた方がいいよね。もうちょっと先に行って野宿しましょう。」

 姉貴の言葉に全員が頷くと、空を飛んでる光球を分散して俺達を照らすようにすると、森の小道まで歩いていった。


 結局、昨日嬢ちゃんずとお茶を飲んだ場所まで歩いてしまった。まぁ、ここは比較的安全ではあるけどね。

 早速、薪を探して小さな焚火を焚く。ポットに水を入れて火に掛けると、鍋を取出して4人分のスープを作る。

 ビスケットのような黒パンを少し焼いてスープに漬けながら食べる。

 余り、美味しいとはいえないけど、大立ち回りをした後だから、誰も残すものはいない。


 お茶を飲みながらタバコを吸う。姉貴とネビアは食事の後始末をした後に直ぐに眠りについた。

 もう夜も遅い。どちらかというと夏だから、もう直ぐ夜明けになるはずだ。

 それまでは、スロットと話でもして番をしようと思う。


 朝方に姉貴達と交替して俺達は眠りに着いた。そして姉貴に起こされたのは、だいぶ太陽が高くなってからだった。

 村の西門に着くまでに、2組のハンターに合った。片手を上げて互いの無事を祈る。

 今年は結構ハンターが集まってる。ってシャロンさんが言っていた。昨年は依頼をこなすハンターがいないって嘆いてたもんな。


 でも、少し変な話だ。キャサリンさんもこの村にはハンターが余りいないって言っていた。それは、長くこの村に住んでいたキャサリンさんが感じた言葉だと思う。でも、今年はそうではない…原因は何なんだろう。


 そんな事を考えながら歩いていると何時の間にかギルドに到着していた。

 早速、シャロンさんにトリフィルの実を袋からシャロンさんが用意した籠に落としていく。

 

 「申し訳ないけど…トリフィルの実を5個分けて欲しいんだ。」

 「ええ、構いませんよ。どうぞ取ってください。」

 

 ネビアの了解を得て、5個の実を貰うとバッグに入れた。その時、バッグに入れた魔石を思い出した。

 「これも、換金してください。」

 「魔石ですね。…この色だと、倒したのはトリファドですか…」

 「トリフィルの実は1個3Lになります。52個ですから…156Lですね。それと魔石は銀貨2枚です。」

 全部で356Lになる。4人で分けると、1人89Lになる。まぁまぁの金額だ。


 「今回はありがとうございました。また、機会があればご一緒させてください。」

 「ギルドで合えば一緒に依頼をしましょう。でも、2人で依頼を受ける時は採取系にしておいた方がいいわよ。」


 2日で4日の宿代となったのだから、かなりの成果だ。採取だけでなく討伐もしているのだからレベルも上がっているかもしれない。

 次にあったらレベルの確認をするように言ってみよう。

 

 ここで、スロットとネビアと分かれて俺と姉貴は家路を急いだ。

 

 「ただいま。」と扉を開ける。

 家には、昼近くになるのに何故か全員が揃っていた。

 珍しく嬢ちゃんずもスゴロクをせずにテーブルに着いている。

 ちょっと異様な雰囲気に俺と姉貴は思わず息を呑んだ。


 「どうじゃった。御主達の成果は?」

 俺と姉貴が席に着くと同時にアルトさんの確認があった。


 「トリフィル3匹から、50個以上実が取れましたよ。…これはジュリーさんへのお土産です。」

 俺はそう言うと、ジュリーさんに5個の実を渡した。

 

 「そうではない。変わった事は無かったか?」

 あぁ!っと姉貴は手を叩いた。

 「トリファドがいましたよ。」

 「やはりいたか…」

 「でも、倒しましたよ。」

 「っ!…ちょっと待て。確かあの時、我は逃げろと言ったはずじゃ。何故に逃げぬ。そもそもお前達は【フュール】を持っておらぬ。だから……倒したと言ったな?」

 俺と姉貴はウンウンと首を縦に振る。

 

 「詳しく話してみよ。」

 渋々話しを始めた。皆がジッと俺達を見つめる。

              ・

              ・

 「そうか。それでは逃げる事も出来ぬじゃろう。しかし、内側から炸裂させたのか。フム…強力な爆裂球を作れば意外と討伐は低レベルでも可能なのかも知れぬ。」

 「姫様。話が逸れてますよ。」

 

 「そうじゃった。アキト、実は我の方もコルキュルだけでは無かったのじゃ。本来あのような場所にはおらぬダームの幼生がおった。」

 「幼生と言えど魔物には変わらん。強力な血液毒を持っておることから、遠方より十数本のボルトを打ち込んで何とか倒したが、一歩間違えておれば我等がおぞましい死を遂げるところじゃった。」


 要するに何かがおかしいということか?

 何時もとは違う魔物、それが姿を見せるようになってきた。

 魔物の持つ魔石は依頼の報酬よりも高額だ。だからハンターが集まってきているのかもしれない。

 ここは、キャサリンさんやセリウスさんの意見も聞いたほうが良さそうだ。

 早速、ミーアちゃんが2人に連絡しに出かけた。

 今夜、この異変が何かを話合うために。

 

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ