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#071 事前準備と協力者

 次の日の朝早く、すっかり雪の消えた山道を俺達は歩いている。

 俺は後を振り返ると、溜息をついた。

 何でこんなメンバーなんだかなぁ…


 俺の担いだ大きな籠には、蓋のついた木桶が入っている。これは、獲ったラビを入れるものだけど、直ぐ隣を歩くミケランさんはお弁当が入っているらしい小さな籠を背負っている。そしてその後のアルトさんは不機嫌そうな顔で付いてくる。

 まぁ、ここまではいい。でも、その後の2人、ミーアちゃんとサーシャちゃんは…1人づつミケランさんの双子を背負っている。

 何か近所の山に遠足っていう雰囲気なんだよな。著しくやる気が削がれるけど、姉貴達に「沢山獲ってくるよ。」って言った手前、10匹位は最低でも欲しいところだ。こんなメンバーで獲れるんだろうか?…少し心配になってきた。


 「もうこの辺のラビは出ちゃったにゃ。もう少し先に行かないとダメにゃ。」

 ミケランさんが近くのテルピの根元にある穴を棒で突付きながら言った。


 嬢ちゃんずとテルピ採取をしてから大分経つので村近くのテルピはもう芽吹いている。

 山に分け入って、まだ蕾の芽を探さねばならないが、根元の穴のラビはもう出てしまったようだ。

 

 森を抜け、潅木が山の上のほうまで続いている場所に来た。

 周囲が開けていることを確認して、少し大きめの潅木の傍で昼食にする。

 ここだと、冷たい風も来ないし、陽だまりは暖かだ。

 早速焚火を作ってスープを作る。アルトさんが黒パンサンドを炙り始めた。

 ミケランさんはミーアちゃん達から双子を受取り自分のマントを下に引いてサッサとオムツを交換している。

 皆にスープを配った後で、更にスープを煮込んで具を柔らかくする。双子はもう歯が生えているけどまだまだ固いものはダメなようだ。


 ここから山頂に向かって疎らに生えている潅木にテルピが混じって生えている。もう少し探して見つからない時には、別な手段を考えねばならないようだ。


 昼食後は、全員が広い範囲に散らばってテルピの根元を探ることにした。

 しばらくして、ミーアちゃんが大声を上げる。

 「ここにいるよ!…早く来て!!」

 早速ミーアちゃんの所に皆が集まる。といっても、アルトさんとミケランさんは双子を背負っているのでゆっくり歩いてきた。


 「どれどれ…うん、間違いない。」

 アルトさんが棒で探りを入れて確かめる。前かがみになってそんな事をするから、背中のミクちゃんが落っこちそうになってるけど、ミクちゃんは嬉しそうにミャーミャー言っている。


 俺は背中から籠を下ろすと、中からバケツ位の桶を取り出した。

 「よし、桶の蓋を開けて横に転がしておけ。ミーア、サーシャとも用意は良いな。出てきたら桶の中に転がすのじゃ。」

 

 嬢ちゃんずはアルトさんの指示で穴の中を棒で突付き始めた。やがて、シャーシャーと威嚇しながらラビボールが穴から出てくる。

 そこを巧みに棒で突付きながら桶の中に誘導して、最後に桶を立てると木の蓋を被せる。

 アルトさんが俺を見るので、慌てて桶を紐で縛りラビ達が蓋を開けられないようにした。


 「面白かったにゃ。これで、餌は手に入れたから、後は畑の穴掘りにゃ。」

 ミケランさんの言葉に頷くと俺達は山道を下り村への帰途についた。


 村に着くと、ミケランさんの家で双子を返して我が家に向かう。

 籠を扉の近くに置いて家に入ると誰もいない。

 姉貴達はセリウスさん達と畑の穴掘りに出かけたんだが、結構たいへんみたいだ。でも、夕方には帰ってくるだろう。

 暖炉の残り火を掻きたてて粗朶を放り込み、燃え上がった処で薪を積んでいく。

 早速、嬢ちゃんずが暖炉の前でスゴロクを始めた。

 

 井戸から水を汲んできて、皆のボルトを研ぎなおす。イネガルの硬い毛皮とぶ厚い表皮を貫通せねばならない。子供のイネガルは姉貴のクロスボーで射殺出来たが、成獣も同じように出来るとは限らない。少しでも貫通力を上げるためには鏃の鋭さが必要だ。


 辺りが暗くなり始めた頃に、姉貴達は帰ってきた。

 疲れた表情でテーブルについた姉貴とジュリーさんにお茶を出してあげる。


 「どうでした?…こっちは何とか出来ましたけど。」

 「村の人が頑張ってくれて何とか作りあげましたよ。…でもあの溝の構造は初めて見る形です。単に溝を掘るのではなく、楔形に仕上げるとは…でも、あれだと、一旦溝に嵌れば身動きが出来ませんから理想的ですね。」

 「アキトも頑張ったみたいだね。いよいよ明日から始められるわよ。それでね、さっきギルドで解散したんだけど、今回の件で協力したいってハンターが出てきたの。セリウスさんは彼らなら問題ないって言うんでOKしたんだけど、アキトがいない時に決めちゃってごめんなさい。」

 

 姉貴は俺に頭を下げた。そういえば、俺達「ヨイマチ」のリーダーって俺だったような気がするぞ。まぁ、セリウスさんがそう言うなら俺がいてもOKする。

 

 「良いんじゃないかな。俺達だってまだイネガルの成獣とは戦ってないし、どれ位の強さかは分かっていない。戦力はあればあるほど助かると思うよ。」

 「ありがと。」姉貴はそう言うと、ジュリーさんと一緒に夕食を作り始めた。

                ・

                ・


 次の朝早く簡単に朝食を済ませると早速ギルドに皆で出かける。

 まだ朝晩は冷え込むので基本は冬支度だ。そして、扉の近くに置いておいた籠を背負って通りを歩いて行く。

 途中で姉貴とジュリーさんが宿屋に立ち寄る。皆のお弁当を購入するようだ。俺と嬢ちゃんずは先を急ぐ。


 ギルドの扉を開くと、セリウスさん達と一緒に3人のハンターがいる。どこかで見たことがある人達だと思って、近づくとその背中の大きな剣で思い出した。


 「今回は一緒にやらせてくれ。イネガルの群れでは俺達でも手に余る。それを受けたお前達の仕事を真近で見てみたいのだ。もちろんお前達の采配には従う。」

 「ありがとうございます。戦力は多いほど助かります。」

 

 互いに手を握ると狩猟解禁の時を思い出した。確か、アンドレイさんだ。

 「私はカルミアにゃ。猫族だけど弓を使うにゃ。」

猫族の女の人って言葉遣いは皆こうなのだろうかと考えながらも握手をする。

 「私は、ジャラムといいます。風と水の魔法で援護出来ますよ。」


アンドレイさん達と俺達が自己紹介をしていると姉貴達がギルドに現れた。

姉貴はホールを見渡すと俺達が全員いる事を確認する。


 「皆揃ってますね。お弁当も手に入れたんで、出発しま~す!」

 ギルドを出て俺達一行はぞろぞろと通りを歩いて行く。

 何といっても総勢12名。セリウスさんが担いでいる籠の中に入った双子を入れると14名になる。ちょっとした軍隊みたいに見えなくもない。

 通りの途中にある三叉路を南に折れて、小さな門を出ると畑が広がっている。南に続く道をトコトコと歩いて行く。

 

 先頭を歩く姉貴は能天気に嬢ちゃんずと一緒に「ずいずいずっころばし…」って歌いながら歩いているけど、あの曲では少し歩きづらい気もする。

 アルトさんが「これは何の歌じゃ?」って聞いた時に、「戦闘時の士気を高める歌です。」なんて言うもんだから、ずっと歌い続けている。

 嬢ちゃんずの士気は上がっているようだけど、後の8名はそんなことは無いようだ。アンドレイさん達はあきれ顔をしている。


 「セリウスよ。お前の仲間を悪く言うつもりはないが…いつもこうなのか?」

 「まぁ、似たようなものだが、お前の心配は無用だ。人狼でさえ倒している。」

 背中の籠から外を見ている双子を見てげんなりしていたアンドレイさんは、セリウスさんの最後の言葉に唖然とした。


 「本当にやったのか?」

 「あぁ、魔法と爆裂球での足止め、4方向からの矢、そして俺とミケランの一撃、止めは後にいるアキトが刺した。」

 「やる時はやるのか…でも普段はあれか。」

 それにしても…って言う目で姉貴達を見ている。


 農道の十字路を西に折れて進む。直ぐに数本の立木と岩それに畑の向こうに広がる森が見えてきた。

 更に近づくと、杭で作った柵や深い溝も見えてきた。遠くには篝火用の薪も積まれている。なるほど姉貴が遅く帰ってきたわけだ。結構な作業量になったのだろう。


 立木の傍は岩と数mの距離がありちょっとした休憩所のようだ。真中に焚火の跡があるのでここで野宿も出来そうだ。

 岩も手ごろな大きさだ、2m位の高さの2つの岩が寄り添っているように立っている。4人位は余裕で登れそうだ。これなら、ジュリーさん達が魔法攻撃する場所として申し分ない。


 早速、焚火を作ると少し早いが昼食を準備する。ポットにお湯を沸かし、ミケランさんは小さな鍋でパン粥を造り始めた。

 

 黒パンサンドの食事を終えて、お茶を飲みながらのんびりとパイプを煙らせながらアンドレイさんはセリウスさんと話をしている。


 「しかし、こんな大それた準備をお前達は何時もしているのか?」

 「昔からは、考えられぬか…俺もそうだ。だが、俺はアキト達と幾つか仕事をして分かった事が1つある。狩りや討伐は戦いの前に終わっているのだ。

 作戦と準備がいかに大事か良く分かった。戦いは確認行為でしかないのでは、と思うときがある。」

 

 「それ程の戦上手なのか。流石は剣姫と言うだけのことはある。」

 「いや、今までの全ての作戦は、岩の上で辺りを見ているミズキの考えだ。昨年の狩猟解禁一日であれだけの獲物もそうだし、人狼討伐もそうだ。敵の戦力を分析し此方の適正に応じて実に良く人を配置する。そして、その配置に敵をおびき寄せれば勝てない訳が無い。」

 ヒューっとアンドレイさんが口笛を吹く。

 

 「そしてもう1人。そこにいるアキトは、見たことも無いほど大きな灰色ガトルと組討して仕留め、グライザムを殺す力を持っている。」

 アンドレイさんが俺を見ているけど、俺は苦笑いを浮かべながらタバコを取り出して焚火で火を点ける。


 そんなところに姉貴が岩から下りてやってきた。

 「休んでる所をすみませんが、ここと、ここに地雷を仕掛けてくれませんか。」

 「地雷とは?」

 「お前は知らなかったな。爆裂球を利用した仕掛けだ。俺達の作業を見れば納得するだろう。お前も来い!」


 俺達は姉貴の指示する場所、森の近くと柵の近くに爆裂球を仕掛けに出かけた。

 杭を低く打って紐で爆裂球を縛り、別な杭に結んだ紐に起爆用の紐を結びつける。

 

 「なるほど、相手がこの紐を足に引っ掛けると爆発するのだな。」

 「そうだ。簡単な仕掛けだが極めて効果的だ。」

 

 そして、帰ってくると、岩の手前50mくらいの場所に穴が掘ってある。そして俺が籠に入れて運んできた木桶が置かれていた。

 餌をここに仕掛けたわけだ。たぶん中のラビはウニョウニョと蠢いているに違いない。


 「さて、準備完了ですね。…最終配置を発表します。」

 夕食には少し早い時間。皆でお茶を飲んでいると姉貴が立ち上がって俺達に告げた。


 「岩の上には、私、ジュリーさん、キャサリンさん、ジャラムさんの4人です。立木の上には、森に近い立木に、ミーアちゃんとカルミアさん。岩に近い立木にアルトさんとサーシャちゃんです。岩の前はアキト、セリウスさん、アンドレイさんの3人です。ミケランさんはキャサリンさん達の手前の岩の上です。万が一にも岩から落ちた場合は救助してあげてください。後は、ミクちゃんとミトちゃんですが籠に入れてミーアちゃんに託します。籠毎枝に吊るして幹に縛っておけば落ちる事はありません。…さて、質問はありますか?」


 質問等無い。後はイネガルを狩るだけだ。

 早速夕食を取る。イネガルの活動は夜だ。その前に自分達の配置場所に着く必要がある。

 食事が終わると、嬢ちゃんずは早速立木に上りはじめる。張り出した枝にロープを張り落ちないように自分の腰のベルトに縛っておく。ミーアちゃんの隣にはたっぷり食事を与えた双子を籠に入れて持ち上げてある。たぶん直ぐに眠るだろう。枝先にはカルミアさんがしっかりと腰を落ち着けた。

 

 姉貴達は岩の上に移動して森を睨んでいる。

 俺達は岩の前で小さな焚火を作りパイプとタバコを楽しんでいる。

 森を出れば、直ぐに地雷でイネガルの接近を検知できる。

 まだ夜の始まり、さてイネガルがラビの匂いで此方に来るのは後どのぐらいだろうか。

  

 

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