#055 ガトルの巣穴と罠作り
出かける前に装備の点検。しばらく帰れないから、もう一度バッグの中を確認する。
防寒対策として革のマントを羽織る。俺は装備の上からマントを羽織ったけど、姉貴や嬢ちゃんずはマントの上にクロスボーを背負ってる。杖代わりの採取鎌は今日はお役ご免だ。少しでも荷物は少ないほうがいい。
そんな事をしていると、扉を軽く叩く音がした。
扉を開けると、案の定セリウスさん達だ。俺達も家を出て、セリウスさんに続いて通りを歩く。
「キャサリンは来てくれた。ギルドにハンター募集を依頼したのだが、はたして受けてくれるものがいるかどうか……」
「俺達だけで9人ですよ。それに、頼むとしても依頼人がいないじゃないですか」
「多いに越した事はない。依頼はギルドがする。『街道周辺のガトルとガトルを統率する者の排除』で報酬は銀貨2枚。ガトルの牙は退冶した者の取分となる」
うわーって言う感じのうたい文句だ。何処にも人狼の言葉は入っていない。それで、報酬は成功した場合でも400L程度……まるでサギみたいな勧誘だぞ。
「まぁ、真相を知っているハンターは多くない。赤ならば止めさせるが、黒なら少しは役に立つ」
アルトさんも凄い事を言ってる。まぁ、一応王族に入るんだから仕方がないのかも知れないけど。
そんな事を言いながらギルドの扉を開けると……いた!
俺より少し年上な印象の男が2人。20歳位かな。とすれば、黒レベルにはなってるはずだ。
「セリウスさんですね。アレクとセイムです。黒2つですが、ガトル討伐の仲間に加えて頂きたい」
「レベルに問題はない。それで、得意な武器は?」
「私が長剣で、セイムが弓を使います」
「魔法持ちなのか?それと爆裂球は使えるな?」
「魔法は持っていません。爆裂球は何時も数個は持っています」
「なら、問題ない。付いてこい」
俺達は新たに2名を加え、総勢11名で村の東門を出た。
先ずはガトルの群れを探す事から始める。
商人の護衛の時にガトルの襲撃を受けた場所まで来ると、セリウスさんが立止まった。
「人数も多い。2つに分かれてガトルを捜索する。アレク達は俺と来い。キャサリンとミケランもだ。後は、アキトと一緒だ。これを渡しておく」
セリウスさんは俺に木で作った小さな笛をくれた。
「何か有れば、2回続けて吹け。それを続けるんだ。ミケランと俺が聞き分けられる。俺が吹けばミーアが聞き取れる」
犬笛の一種なんだろうか? でも、セリウスさん達は猫族だよな。
セリウスさん達はアクトラス山脈を街道方向に捜索する。俺達は村の方向だ。
山に分け入ると、木立が鬱蒼と茂る森になる。200m程進む毎に立止まって周囲を確認していく。
そんな事を十数回繰り返した時だ、サーシャちゃんが何かを見つけたようだ。
「あの繁みの向うで何かが動いたの!」
俺に小声で教えてくれた。こっちを見てる姉貴に頷いて、確認方向を指差す。
姉貴が双眼鏡で確認してる。ミーアちゃんも海賊望遠鏡で見てる。
……と、姉貴が低い姿勢で俺のところに這ってきた。
「ガトルだわ。でも数が思ったより少ない感じね。……どうする?」
俺も姉貴から双眼鏡を借りて確認する。数頭のガトルだ。確かに少なすぎる。
「一旦、セリウスさんと合流する。ここから、横に歩けば近づけるはずだ」
姉貴は俺に頷くと、ゆっくりとこの場を離れていく。他の連中もゆっくりと後を追う。
100m程離れると、また周辺を監視しながら街道方向に進んでいく。
そんな感じに進んでいると、右手奥のほうに岩山が見えてきた。そして、その岩山に岩が重なったような穴が見えた。
姿勢を低くして、姉貴が双眼鏡で監視する。
「どうやら、あの穴がガトルの棲家みたいだよ」
双眼鏡を借りて覗くと数匹のガトルが穴を出入りしている。そして、穴を少し離れた所には大型の獣の骨が積まれている。
「離れるぞ!」
俺は小声でそう言うと、皆を少しづつ後に下がらせた。
アルトさんが俺に近づいてきた。
「あそこにいたのか?」
「あぁ、奴等の棲家だ。先に見つけたガトルは狩りをしているところだと思う。此処を中心に周辺の獣を狩っているんだと思う」
「そうか……。では、セリウス達との合流を急ぐぞ」
そうは言っても、この辺はガトルの縄張りだ。同じように途中で周辺を監視しながら進んでいく。
「この辺なら、笛を吹いてもいいんじゃないかな」
姉貴の言葉に頷いて、セリウスさんに貰った小さな笛を吹く。
ピィー……ピィー……2度吹いて、しばらく休み、また笛を2度吹く。 数回繰り返したところで、街道の方向に進んでいった。
「笛が聞えた!」
ミーアちゃんが耳を立てる。キョロキョロと首を回して方向を探っている。
「あっちの方向から聞える!」
俺達はミーアちゃんの示す方向に走り出した。
やがて、遠くに長身のセリウスさんの姿を見つけることができた。後ろには、ミケランさん達4人が付いて来ている。
「何か有ったか? 笛の音がしたので急いできたのだが」
キャサリンさんはハァハァって息をしている。相当急いできたようだ。
「どうやら、棲家を見つけたようです。それで急いで呼んだんですけど」
「まぁ、座れ。先ほど周囲を見回したが、ここは安全なようだ。一息いれようじゃないか」
そんな訳で、皆で車座になって座ると、俺達が見つけた岩穴の話をセリウスさん達に話した。
「まず、あそこがガトルの群れの巣窟とみて間違いないじゃろう。次は、統率するものが何かじゃが、巣穴の外に一箇所になって獣の骨が捨ててあったそうじゃ。ガトルはそんなことはせぬ。……やはり、人狼とみるべきじゃろうな」
アルトさんの言葉にアレクさんとセイムさんは顔を見合わせる。
「そんな話は聞いていませんよ。人狼なんて、そんな馬鹿な!」
「ガトルだけなら銀貨2枚は多すぎる。それに、人狼と確定ができなかったのだ。だが、人狼を倒したなら、その場にいた者は等しく尊敬を受けるだろう。それに、別途褒賞もあるだろう。此処にいる剣姫とサーシャ王女が証人になる」
なんか、逃げ道を塞いだというか、やんわりと出口を閉じたというか……。セリウスさんは政治家向きだな。
それに、嬢ちゃんずがジッと見てるし、小さな子を置いて逃げるわけにはいかないよな。
「分かりました。貴方達に従いましょう。それで、作戦はあるんでしょうね」
「有るには有るが……」
「場所と準備がいるんです」
セリウスさんの言葉を奪って姉貴が続けた。
地面の落ち葉をどけて、木の枝で簡単な図を描く。
「こんな感じで皆さんを配置します。問題は、この配置に適した場所とガトルをおびき寄せる餌ですね。最後囮はアキトがやりますから、アレクさんとセイムさんはアキトの後で爆裂球を投げる役になります」
アレクさんはジッと絵を見ていたが、ふと、何かを思い出したようだ。
「これによく似た場所を知っていますよ。此処より少し下になりますが、大岩の前に大きな木が何本か生えてます」
「後で、其処に行くとして、餌か……此処に来る途中でキャナルを何匹か見かけたが、あれで代用するか」
「キャナル狩りなら得意ですよ。後で、私が行きます」
セイムさんが身を乗り出す。
「では、アレク。その岩場に案内してくれ」
アレクさんを先頭に20分程歩くと、その場所に出た。
大きな岩だ。平屋の家位ある。そしてその回りには太い枝を横に伸ばした立木がたくさんある。理想的な場所だ。
「お前達は準備をしろ。俺とミケランそれにセイムで餌を獲って来る」
「はい。でも、此処に近づく時は笛を吹いてください。でないと罠に掛かりますよ」
「わかった。いくぞ!」
セリウスさん達は森の奥に姿を消した。
「では、配置を説明します。その前に襲撃点を決めますよ」
姉貴は皆を集めて説明を開始した。
先ず、襲撃点を設定する。岩の上にアレクさんに登ってもらい、爆裂球を狙って投げられる距離を確認する。
投げられた爆裂球は岩の前方30m位の場所に落ちた。
「此処に人狼が立った時に攻撃を開始します!」
姉貴は、爆裂球が落ちた場所に立った。そして、自分の時計を見ながら配置を決めていく。6時の位置は俺が岩を背にして囮になる。
姉貴とアルトさんは、短針が10時と2時の位置にある立木に登る。
ミーアちゃんとサーシャちゃんは8時と4時の位置だ。ここにはキャサリンさんとジュリーさんが一緒に登る。
最後に俺の後の岩の上には5時と7時の位置になるようにアレクさんとセイムさんに登って貰う。
「皆、分かったかな。自分の持ち場に何か印を付けておいてね」
そして、俺達をもう一度集めた。
「次に、辺りに罠をしかけます。やり方は、爆裂球を木に結んで、爆裂球の紐をこの紐に結んで長くして、離れた木に縛り付けます。地面から1D位の所に紐が張るようにしてくださいね。あと、爆裂球を仕掛けた木には目印を付けてください」
そう言って爆裂球を30個程バックから取出した。紐も束で同じようにバックから出す。
数個づつポケット等に詰め込んで罠を仕掛けに行く。ただ、時計の0時方向には仕掛けない。この方向だけ空けておくのだ。
俺達は自分の持っていた爆裂球も合わせて、何重にもなる地雷原を作り上げた。
「笛が鳴ってるよ!」
ミーアちゃんが教えてくれる。音の方向を腕を伸ばして教えてくれた。
姉貴が急いで0時の方向に走っていくと、セリウスさんに両手を振ってこちらに来るように合図した。
大きな獣をセリウスさんが担ぎ、小さな獣をミケランさんとセイムさんが両手に持っている。
「此処以外から入ると、爆裂球が作動します。足元に注意して此方に来てください」
姉貴の説明でセリウスさん達はゆっくりと俺達の方に歩いてきた。姉貴の指示する場所に獲物を置くと、いよいよ最終仕上げに入る。
でも、その前に食事を取ることにした。
腹が減っては戦も出来ないからな。