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#051 緊急依頼は町へ戻る商人の護衛

 セリウスさんの家は、土台が乾いた事を確認して、村人10人を雇い入れ一気に作り上げた。

 外壁と、屋根まで作り上げれば、後は何とか俺達だけで物になるだろうと思っていたんだけど……。

 それは、かなり甘い考えだという事が少しづつ判ってきた。


 まず、家の中が暗い。窓も作ってはいたが、寒いので閉じてみたら真っ暗になってしまった。

 見かねたジュリーさんが光球を作ってくれたから良かったものの、でないと今期の作業は此処で終わりになってしまうところだった。


 次に板の製作である。製材業がそれ程発達していないこの村では、必要な板は自分で作ることになる。このため、セリウスさんはひたすら丸太から鋸で板を切り出している。


 俺が悩んだのは、暖炉の製作だ。基本的には四角形の箱と長い四角形の煙突を組み合わせればよいと思うのだが……漆喰をそのまま使うのでは強度的に不足する可能性がある。


 ミケランさんが買ってきた本に漆喰にロープの切れ端を混ぜるとの記述があったので、古いロープを5cm程度に切断してその繊維を漆喰に混ぜ合わせて形を作っていく。

 それでも、暖炉内をアーチ状にし、且つ煙突に向かって勾配を作ることは、困難な作業となった。

 煙突は、四角の箱を作ってその外側に石を積み上げる方法で何とか形にすることができた。


 広間の右にある小部屋の床板を張り終えると、早速ベッドを2つ運び入れる。

 部屋の扉はまだ出来ていないから、とりあえずカーテンで代用する。

 窓も外側の板窓はできたが、風が吹き込むので布を今は張っている。

 結構、隙間だらけの家だけど……。いくら火を焚いても一酸化炭素中毒にはならずにすみそうだ。


 出来上がった暖炉で火を焚くと、早速ポットでお茶を沸かす。


 「だいぶ形になってきたな。家造りの残材で薪に困る事はなさそうだ。雪に閉ざされても、広間の床張りは出来る」

 「まだ、台所の方が出来てませんよ」


 「野宿を思えば無くとも可能だ。小部屋が寒ければ、暖炉の前で寝るさ」

  

 ここで、冬を越すのは初めてだけど、そんなに寒いのだろうか?


 「前に、家を持たないハンターは冬を越せないと聞いたんですが、この村の冬はそんなに厳しいのですか?」


 「あぁ……、リオン湖は厚い氷に覆われる。この村も雪で覆われる。町との交通は皆無に近い。

 必要な物は今の内に揃えておいたほうがいい。食料も含めてな」

 

 

 その日、家に帰ると早速姉貴に冬支度の話を切り出した。


 「そうね。人数が多い事だし、早速明日にでもキャサリンさんに相談してみるわ。私達だと分からないものもありそうだし」

 

 姉貴に伝えた後は、暖炉前に陣取る嬢ちゃんずの後で、木を削る。6種類、32個の形をサバイバルナイフで形作る。


 「なにをしておるのじゃ?」

 「これ?……冬の準備さ。楽しみに待ってて」


 アルトさんが興味を示したものは、チェスの駒だ。道場に出入りしていたアレックさんに教えて貰い、一時は姉貴と勝負を競っていたんだけどね。

 冬の閉じ込められたこの広間で何も遊ぶ物が無いのはちょっと寂しいから、俺なりの準備だ。嬢ちゃんずにも教えてあげれば皆で楽しむことができる。


 だいたいの駒は作って、今はナイトを作っているんだけど、この世界に騎士はいないみたいだ。鎧もプレートアーマーには至っていない。王宮の近衛兵士もチェインメイルだとアルトさんから聞いた事がある。

 騎士をどう説明すればいいのか、今から考えておかなければならない。


 姉貴達は静かに編み物をしている。王国の冬にはセーターや手袋、帽子等が必要になるらしい。雑貨屋等の店にも物はあるらしいのだが、やはり自作が一般的だとジュリーさんが話してくれた。


 雪に閉ざされるこの村では、男でも編み物を冬の仕事として行なっているらしい。

『習いますか?』ってジュリーさんが言ってくれたけど、こればかりは辞退しといた。

嬢ちゃんずも一生懸命に編み棒を動かしてるけど、はたしてどんなものが出来上がるのか想像できない。


 やっと、ナイトを4つ削り終えた時には、嬢ちゃんずはもう部屋で就寝中だった。

 暖炉の前に胡坐をかいて、薪を放り込む。寝る前に太い薪を入れておけば朝まで火が消える事はない。

 

 次の朝、井戸の冷たい水で顔を洗い、ふとアクトラス山脈を望むと峰々が白く覆われていた。吐く息も白く、いよいよ冬の季節がやってきたことを実感した。

 

 朝食の野菜スープで体を温める。

 野菜類は冬前に大量購入して魔法の袋に入れておくのだそうだ。袋に入れることで何時でも新鮮に食べられるとジュリーさんが説明してくれた。

 

 そんな時、扉を叩く音がした。急いで姉貴が扉を開けると、キャサリンさんがいた。

 走ってきたのか、息づかいが此処まで聞える。


 「アキトさん。大至急ギルドまで来てください。一斉召集ではありませんが、何かあったみたいです」


 俺は、スプーンをテーブルに戻すと、マントを羽織って直ぐに家を飛び出した。

 通りには人影はない。ひたすら走ってギルドに飛び込む。


 「来てくれたか。商人がガトルに襲われた。村と町を結ぶ道の安全を確保する必要がでてきた」


 俺がギルドに入ると、セリウスさんと数人のハンターが待っていた。

 セリウスさんの説明では、通商ルートの道は人の通りも多く、通常はガトルが襲うことはないそうだ。だが、荷馬車4台、商人10人の商隊が襲われたとなると、ガトルの群れは大きく村や町にさらなる被害が発生することも予想されると状況を説明してくれた。

 

 「そこで、ギルドからの緊急依頼となる。依頼内容は、怪我をした商人の護衛とガトルの群れを追い払う事だ」


 「アキトのところは何人出せる?」

 「たぶん……全員が参加すると思います。」

 

 「では、アキトに町に戻る商人の護衛を担当してもらう。残りはガトルの群れを追うことにする」

 「ちょっと待て、若造達で商人の護衛ができるのか?」


 「問題ない。アキトは赤3つでマケトマムのガトル襲撃に参加している。黒レベルの働きをしたそうだ」

 

 マケトマムのガトル襲撃を聞いて異議を唱えたハンターは引き下がった。

 経験があれば問題ないと判断したのだろう。


 「では、アキト達は直ぐに出発の準備をしろ。ギルドで商人を待たせておく」


 セリウスさんはそう言うと他のハンター達とガトル追跡の相談を始めた。

 早速、家に戻ると姉貴達に顛末を報告する。


 「すると、我等で商人を町まで護衛すれば良いのじゃな?」

 「そう言っていた。とりあえず全員参加でいいんだよね」


 皆一斉に頷いた。


 これで、買い物が出来るとか、退屈がまぎれるとか、美味しい物が食べられるなんて、色々言っているのが気になるけど……。


 でも、準備は直ぐに終わった。一気に町まで馬車を走らせる訳だし、野宿をすることもないからだ。万が一を考慮してもマントと毛布で何とかなる。携帯食料と水筒に水を入れれば普段の服装に武器を持てばそれでOK。


 俺達6人がギルドを訪れたのは、俺がギルドを出てから1時間程度だ。

 ギルドの外には3台の荷馬車が止まっており、中には4人の商人が俺達を待っていた。

 1人の老人が俺達に近づいてきた。


 「貴方が、セリウスさんの言っていたアキトさんですか。私はヘリオスと言うこの商隊を率いる1人です。早速ですが御同行をお願いします」

 「アキトです。銀1人、黒3人、赤2人で同行します」

 

 俺の言葉に老人は『おぉ…』と驚きの声を上げた。誰が銀かは告げなかったが、ウソは言っていない。勝手に解釈してくれるだろう。

 

 早速外の荷馬車に乗り込む。俺が前で嬢ちゃんずが真中、後は姉貴とジュリーさんが乗る。

 笛が、ピーっと3度鳴ると、後ろを確認せずに俺の乗った荷馬車が動き出す。

 

 「後続は大丈夫なんですか?」

 「笛が3度。……3台目の荷馬車の準備が出来たということじゃ。問題はありません」


 御者席で手綱を握るヘリオスさんに聞いてみたら、そんな答えが返ってきた。

 状況を笛で知らせあっているみたいだ。

 

 村の東の門を抜け、アクトラス山脈を抜ける峠の街道を目指す。

 山の裾を大きく回り込むように進む小道を馬車はガタガタと進んでいく。


 「この辺りじゃ。ガトルの群れが現れたのは、いきなり数十匹のガトルに取り囲まれたのじゃ」


 見ると、1台の荷馬車が道の横に転倒したままだ。骨だけになった馬が近くに2匹斃れている。

 辺りは林だけど、遠くまで見通せるように下草が刈ってあるわけではない。体高が低いガトルならば隠れる事ができるのは容易だろう。だが、数十匹が気配を消して隠れる事が出来るのだろうか……。非常に強力なボスに率いられた群れなのだろうか。


 あと少しで街道に出られる所まで来た時だ。

 ドォン!っという音がしたので、慌てて御者台から身を乗り出し馬車の後方を見ると、真中の馬車から【メル】の火の玉が林に向かって飛んでいく。

 

 ドォン!……着弾点からガトルが飛び出る。

 それに呼応したように次々とガトルが藪の中から姿を現した。

 この道は荷馬車が1台通れるだけの横幅でしかない。馬を急がせてもたかが知れている。


 「止めてください!」

 荷馬車が止まると同時に、採取鎌を置いて俺は前に走り出した。

 たちまち、ガトルが俺を追いかけてくる。

 

 数十m程距離を開けると、追いかけてきたガトルの群れに刀を抜いて飛び込んでいく。

 最初の1匹をすれ違いざまに刀を振り上げて斬りつけると、振り下ろす動作で次のガトルを斬りつける。体を回しながら寄ってきたガトルを横薙ぎにして、次々とガトルを倒していった。

 

 此処からでは見えないが、最後尾には姉貴がいるから同じようにガトルを殲滅しているはずだ。

 チラっと見たアルトさんは、剣姫の姿をとって軽快な動きでガトルを狩っている。右手に俺のグルカナイフ、左手にはクナイを持ち、まるで舞っているようだ。

 アルトさんに遠くから吠え立てているガトルが突然斃れるのは、ミーアちゃんにちがいない。

 荷馬車の右側にガトルがいないのは、ジュリーさんが牽制しているからだろう。


 俺が数匹のガトルを倒すと群れは散っていった。

 素早く荷馬車をひと回りして全員の無事を確認する。

 全員怪我もなく、俺達で20匹近くガトルを倒したようだ。素早くキバを回収して、再び荷馬車を走らせる。


 「いやぁ、見事じゃて。お子さんを連れてきた時には驚いたがの、まさか剣姫様がご一緒とは、皆に自慢できますわい」


 ヘリオスさんは上機嫌だ。俺達のハンターとしての技量は思った以上に高いと評価したのだろう。

 

 しかし、俺は少し気になる点がある。今までのガトルは逃げる事はあっても、退くことは無かった。群れを統率しているものがいる。

 そして、今回の襲撃では群れの統率者を葬ることは出来なかった。

 

 

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