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#049 セリウスさんの決意

 嬢ちゃんずと暖炉前の領土を争って約1週間程が過ぎた頃、ジュリーさんが王都から帰還した。行きは商人の馬車を、帰りは馬を利用したとのこと。その行動力には感心した。


 そしてテーブルに座る俺達が見守る中、ジュリーさんは30cm程の細長い包みを取り出した。布に包まれたそれを開けると、中には木箱が入っている。

 小箱を開くと、蒼い宝石で飾られた短剣が収められていた。


 「これか……。魔道具なのだな?」


 アルトさんが恐る恐る手を伸ばしてそれを掴む。


 「はい。大神官様が魔道具として祝福を与えました。解呪魔法が少しの魔法力で行使出来るとのことです」


 ジュリーさんが魅入られたように短剣を見つめるアルトさんに答える。

 

 左手で鞘を掴み、右手で短剣の柄を掴む。そしてゆっくりと短剣を抜く。 短剣の刃から光りの波紋が眩しく広がり辺りを包む。

 そして、その光りの波紋が収まると、妙齢の美女が其処に現れた。

 

 皆一応に息を呑む。


 「お姉ちゃん綺麗……!」


 アルトさんが微笑みながらミーアちゃんの頭を撫でる。


 「どうですか?……異常はありませんか?」

 「あぁ……問題ない。なるほど、魔力を全て行使する必要もないようだ。これで、本来の戦いが出来よう」


 この状態で、戦いかよ!って思いは、俺の心に仕舞っておこう。


 「でも、短剣を持っては、長剣が使えなくなりますね」


 姉貴も心配してるけど、ちょっと観点が違うんじゃないのかな?


 「いや、これでいい。我本来の戦い方は、片手剣じゃ。……アキト。御主の片手剣を貸してみよ!」


 これって、片手剣なのかな?って思いながらも背中のグルカナイフをアルトさんに手渡した。

 変わった形じゃな?って言いながらも、暖炉の前でクルクルと剣舞を披露する。

ヒュンヒュンと空気を斬る音に驚いて、ミーアちゃんとサーシャちゃんはテーブルの下にいち早く避難してた。


 「重さ、バランス共に申し分ないな。……アキト、しばらくこれは預かる」


 エッ!って驚いても、もはや手遅れ。俺のバイト3ヶ月分が……。

 アルトさんの後から、ごめんなさいってジュリーさんが頭を下げている。 まあ、しょうがないか、刀もあるし。

 

 「ガッカリするでない。お詫びに我が使っていた物を授けよう。金貨20枚はくだらないぞ」

 「いえ、それはいりません。それ程の業物でもありませんし。……良かったら使ってください」


 そう応えるしかないじゃないか。

 姉貴もにこにこしながら俺たちの遣り取りを見てる。姉貴もアルトさんに上げるのは問題ないと思ってるみたいだ。


 「姉さま、私も剣が欲しいのじゃ!」


 サーシャちゃんのおねだり攻撃が始まったぞ。

 さて、どうする?アルトさん。


 「フム……。王宮から取り寄せるか?」

 「それには、およびません。これを持参しました」 


 ジュリーさんは足元に会った包みをテーブルに乗せて広げる。

 そこには2振りの片手剣があった。

 装飾はあるが華美ではない。アルトさんがその内の1振りを鞘から抜いてみた。


 「忘れておった。……この双剣は我が使っていた物ではないか?」

 「はい。あれ以来長剣でしたから。魔道具をトリスタン様にお見せしたら、これを渡されました」


 「確かに、王都で一番のドワーフが鍛えし業物。……だが、アキトの片手剣と比べるとな……」

 「ですから……」


 ジュリーさんは、アルトさんが鞘に戻した片手剣を、サーシャちゃんとミーアちゃんの前に置いた。


 「サーシャよ。その剣は我がハンターとして銀を得た時に、お前の父から頂いた物だ。

 ハンターであれば良き装備を持つのは当然。それをお前に譲るとしよう。ミーアもそれを使ってくれ」


 早速、ジュリーさんと姉貴で嬢ちゃんずの背中に片手剣を背負わせる。

 剣の重さでベルトがずれないように、腰ベルトとうまく合体させなければならないが、一度調整しとけば後は簡単に装着できるはずだ。


 「アキト。出来れば木剣を3本と、身長程の木の人形を作って欲しいのだが……」

 「直ぐには出来ませんが、宜しいですか?」


 「サーシャ達に片手剣の使い方を教える。早いにこしたことはないが……、まぁ、型から教えるとしよう。お前達、付いて来い!」

 

 ミーアちゃん達はアルトさんに連れられて庭に出かけたようだ。


 「これで、ミーアちゃんに片手剣を教えて貰えるね。アキトも私も教え方は下手だしね」


 だからと言ってアルトさんが上手いとは限らないぞ。


 「アルト様は王宮の近衛隊長から直々に指導を受けています。たぶん、大丈夫だと思いますよ」


 ジュリーさんが俺の懸念を少し取り除いてくれたけど、ジュリーさんも(たぶん)なんだよな。


 「ところで、木材のあてはあるの?」  

 「あるさ。こないだのイカダがまだあるはずだ。あれを使おうと思う」

 

 という事で、俺はイカダを回収しに出かけた。場合によっては村人に手伝って貰いなさいって姉貴が銀貨を1枚わたしてくれた。人手の相場がわからないけど、足りなければ、俺だって少しは持っている。50Lだけどね。


 西門にある臨時のギルド出張所に向かって歩いていくと、セリウスさん達に出会った。  

 どうやら、俺達に話があるらしい。

 俺にも関係ありそうなので、一旦家に帰ることにした。


 家の扉を開けると、テーブルには姉貴とジュリーさんがお茶を飲んでいた。

 セリウスさん達をテーブルに座らせて、俺も姉貴の隣に座る。

 

 「実は……、言いにくい事なんだが、そのう……」

 「春に赤ちゃんが生まれるにゃ!」


 じれったいセリウスさんを待ちきれずミケランさんの発した一言は、俺達に衝撃を与えた。

 姉貴は、カップを落とすし、ジュリーさんは硬直してる。俺だってお茶を噴き出したぞ!


 「まぁ、そんな訳だ。それで相談なんだが、家を建てるのを手伝って欲しい。場所は、キャサリンの隣だ。

 俺達猫族の寿命は人間に比べて短い。そろそろ居場所を固める事にしようと思う。幸い、この村には高レベルのハンターはいない。

 ギルド長とも相談して了承を得ている。それに、この村の村長はギルド長だ。開墾すれば畑も作れると言ってくれた」


 「先ず、おめでとうございます。手伝いは大丈夫ですよ。……でも、私達もこの村に厄介になろうと考えてました。急にハンターが増えて大丈夫でしょうか?」


 再起動した姉貴は、依頼書の奪い合いになることを恐れたようだ。

 

 「それは問題ない。この村の依頼書の多くは町に流れて、処理されないままになるものが多い。それがなくなるとギルド側は喜んでいる」

 「それで、どんな家を作るんですか?」


 「キャサリンの家と同じように丸太で組み上げる。それで、この間のイカダの木材を貰いたいのだが、いいだろうか?」

 「大丈夫です。使ってください。でも、足りますか?」


 「足りない分は村人を雇って切り出すことにする。たぶん、それ程必要としないはずだ」

 

 ということで、明日から家造り……、ログハウス製作の手伝いだ。ちょっと面白そうだし、端材を貰ってアルトさん所望の木の人形も作れるだろう。

 

 次の話題は、さて生まれてくるのはどっちかな?ってことになる。女性にこの話題をさせるのは非常に危険性が高い。だって、自説を曲げないんだもの。姉貴とジュリーさんで言い争っている。

 本人達の希望はセリウスさんが男の子でミケランさんが女の子だ。


 「もう!絶対男の子です。……では調べてみますね」

 「まて!わかるのか?」


 「はい。来春生まれるなら魂は定着しています。その波動を見れば、決着が付きますよ。」

 「具体的にはどうするにゃ」


 「ミケランさんのお腹に手をあてればいいのです。魔法ではありませんから母子に影響はありません」

 「見て欲しいにゃ!」


 それでは……、って、ジュリーさんがミケランさんのお腹を撫でる。

 それを、ゴクンってつばを飲み込みながら俺達は見ていた。


 「これは……」

 「「女の子ね(にゃ)」」


 「「男だよな!」」

 「双子です。それも男女の……」


 う~ん、一応セリウスさんの願いも、ミケランさんの願いも叶ったようだし、良いことなんだよな。でも、俺と姉貴意外は複雑な表情をしているぞ。


 「此処に住めてよかったにゃ。猫族の部落だと大変にゃ……」

 「あぁ……。だが、これで故郷には帰れんぞ。良いんだな?」

 「大丈夫にゃ。此処が故郷にゃ」

 

 「では、アキト。明日、キャサリンの家の前に来てくれ。出来れば斧を持ってきて欲しい」


 セリウスさんはそう言ってミケランさんと帰って行った。


 「どういうことなんですか?」

 「猫族の因習なの。……双子はいいのよ。でもね、男女の双子は魔に魅入られるって言われて……、片方が捨てられるの」


 「それって!」

 「たぶん、ミーアちゃんもそうっだったと思うわ。そして拾われたんでしょうね。でも今は家族がいるから心配ないでしょ。」

  

 どんな世界にも風習はあるんだよな。しかもそれが生死に関わるものとなると……、すこし気の毒になってきた。

 でも、故郷に帰らなくともハンターならば十分に子供を育てる事が可能だ。風習は猫族の故郷限定みたいだし、ここで生活するには全く支障はないはずだ。

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