#045 狩猟結果と新たな仲間
イカダを岸に着けてしばらく待っていると、ガラガラと荷馬車の音が聞えてきたかと思っていると数人の村人がやってた。
その中の1人がセリウスさんの所に歩いて行く。
「黄色の煙を見てきました。獲物を近場まで運んで頂けるとは、助かります。……ところで、獲物は何処にあるのでしょう?」
セリウスさんの周りをキョロキョロと見ているが、そこには何も無いぞ。
「あぁ、獲物はその先に止めてあるイカダに積んである。悪いが、荷馬車が足らん。大至急、用意してもらいたい」
村人が2人、セリウスさんの示す湖の岸辺に向かう。
そして、ガサガサと慌てて戻って来た。目が開いたままだ。相当驚いた様子だったが、村人同士でワイワイとひとしきり話合うと、2人が大急ぎで帰っていった。
「申し訳ありません。余りの獲物の数に驚きました。至急荷馬車を手配してまいりますのでしばらくお待ちください」
「ここまで来れば、一安心だ。慌てる事は無い」
村からの小道から岸辺までの獲物運びを考えて、少し離れた所に周囲の粗朶を集め小さな焚火を始めた。
村人を交えて焚火の周りに座ってお茶を飲む。そして俺はタバコ、セリウスさん達はパイプだ。
日が暮れ始めたので、ジュリーさんが光球を上げて俺達の周囲を照らし出す。
そしてしばらく待つと、ガラガラガラと多数の荷馬車の音が近づいてきた。
「とりあえず、ありったけの荷馬車を持ってきました。それと、これが番号札になりますので、鑑札の番号を記入してください」
セリウスさんは紐が付いた木片を大量に受取った。それに別の村人が渡した矢立見たいな物を使って、鑑札番号を次々に書いていく。
そんなことをしている内に、イカダから獲物が荷馬車に積まれていく。
「ミケラン。頼む」
番号の書かれた木片をセリウスさんはミケランさんに手渡した。
「はいにゃ。ミーアちゃん、一緒に行くにゃ」
ミケランさんはミーアちゃんを連れて荷馬車の方に出かけてった。
「あれは、私達の獲物だと表示した木片よ。村に着くと同時に商人達がセリを始めるの。その落札金額は責任を持ってギルドが管理してくれるわ」
ジュリーさんが教えてくれた。
ハンターがセリに関与せずともギルドが一括して代行してくれるようだ。俺達も場所が場所だからここまでイカダで運んだけど、山の方なら村人がエンヤコラって運んでくれるみたいだ。
あれ、村人が運ぶのは無料じゃないよね。その辺はどうなってるんだろう。
「村人による運搬費用やセリの管理費ってどうなってるんですか?」
セリウスさんに聞いてみる。
「セリによる落札金額の3割は税金のようなものだ。ギルドに1割、運んだ村人に1割そして国庫へ1割が配分される。残りの7割が我々の取分だ。
だから、村人は狩猟期には交替で見張りに立ち、煙を見つけると順番に運搬にやってくる。獲物の量が多ければ村人の取分も多くなるので喜ばれる」
「それだけではないぞ。国庫に入る金額の2割は村に還元される。村の長老達が責任をもって、それを村人に還元するのじゃ。
その金でこの村は冬越しの食料を手に入れる。だから、この狩猟期の20日間は村に最も金が入る時期なのじゃ。商人もその辺に抜かりは無い」
剣姫さんが補足してくれる。中々考えてるな。
そんな所にミーアちゃんが駆けてきた。
「ミケラン姉さんが、札が足りないって言ってた」
ホイってセリウスさんがミーアちゃんに札の束を渡す。それを受取ったミーアちゃんは急いで戻っていった。
それにしても……、ミケランさん。何時の間にか姉さんって呼ばせてんだな。
「おい、もっと人がいるぞ。このグライザムは大物中の大物だ」
岸辺で村人の怒鳴り声が聞える。
「どれ、手伝ってくるか。キャサリン、もう少し札を作っておいてくれ」
そう言ってセリウスさんは村人の運搬を手伝いに出かけた。いそいで俺も後を追う。
最後尾のイカダから6人掛かりで、転がすようにグライザムを荷馬車に積み込む。セリウスさんが持ってきた札を前足にしっかりと結びつけた。
村への小道まで皆でエンヤコラと荷馬車を押して行き、小道からは4人で荷馬車を押して行った。
俺達が休んでいる焚火の所に1人の村人がやってきた。
「獲物は全て積み込みました。村に戻られても大丈夫です」
「ありがとう。それでは、村に帰るぞ!」
セリウスさんの一言で俺達は焚火を消して、光球で足元を照らしながら村に戻っていった。
村の西門に近づくにつれ村の広場で繰り広げられているセリの喧騒が聞えてくる。日もとっぷりと暮れているのに光球が広場に幾つも浮かべられて真昼のような賑わいだ。
西門をくぐったとたん。大きな木の板が目に入った。鑑札の番号と獲物のセリの結果が其処に張り出されている。
俺達の番号にはまだ金額が張りだされていない。セリが終わっていないのか?
少し進むと、杭を打ちそれにロープを張った半円形の急造市場に大勢の商人が集まっている。その中央には荷台に乗せられたリスティンが4頭乗っている。その足には俺達の番号札が下がっていた。
「9じゃ!」……「10でどうだ」
「11!」……「12だ!!」
「12以上はありませんか?……それでは12で19番が落札です」
なんか威勢よく数字が飛び交ってたけど……。何だろう?
「あれは、私達の獲物の内の4頭が銀貨12枚で落札された。ということです」
ジュリーさんが親切に教えてくれた。
4頭で12枚ってことは……、57頭だから、少なくとも銀貨181枚!とんでもない金額だぞ。
他の獲物も、大体1頭銀貨4枚前後で取引されていったが、グライザムが荷馬車にのって現れたとき、会場が一瞬静寂に包まれた。
「50!!」
「そんな額じゃ頭1つにもならんわ。1本じゃ!」
「2本でどうだ!!」……「3本!!これで俺のものじゃな」
「4本。」……「4本と20!!」
「4本と50!!」……「4本と70!!……もういまい!」
「5本!」
「5本以上はありませんか?……それでは5本で21番が落札です。」
なんか分からなくなってきたぞ。1本って何だ?
「あれは、金貨でセリ合っていたんです。金貨5枚でグライザムが落札されたようですね」
金貨5枚って、銀貨500枚ってことだよな。俺達とんでもない金持ちになったぞ。
しばらくして俺達の獲物のセリの結果が出た。何と、72300L。
門の掲示板の所に戻ってみると、俺達の金額が突出している。他のチームは大体、3000Lから5000Lってところだ。
「おいおい、セリウス。何処でそんなに稼いだんだ?」
俺達の所に寄ってきたのはアンドレイさんだった。
「グライトの谷で待ち伏せしていた。リスティンが57それにグライザムはオマケだ」
「57頭だと!……お前達が去年網を張った場所は、4つのチームがいたが、それでも全て合わせて40頭足らずだ。
待てよ。お前らそれをどうやって運んだんだ。あの谷から獲物を運ぶには一旦、山を登る必要がある。そうすると此処に着くのは後3日程必要になるはず……」
「湖にイカダを浮かべて運んだ。……さっき着いたばかりだ」
一瞬、アンドレイさんは驚いたようだったが、直ぐに表情を元に戻した。
「お前の発案ではないな。姫さんか?」
「そんなところだ。そして、今期の山での狩りはこれで終わりだ」
「まぁ、それだけ稼げば十分だろう。だが明日からどうする。まだ狩りは長いぞ」
「近場で、こいつ等に狩りを教えるさ。幸いこの村の周辺はラッピナが豊富だ」
「あまり、狩場を荒らさないでくれよ。じゃあな」
アンドレイさんが去っていくと、俺達を遠巻きにして2人の話を聞いていたハンター達も去っていった。
「昨年以上の獲物の数だ。他のハンターも興味があったのだろう。さて、帰るとするか」
帰って食事を作るのも大変だ。ということで、途中の屋台で串焼き肉と軽く焼いた黒パンをたくさん買い込んだ。
暖炉に火をおこして、お茶を沸かす。
何か、狩りよりもイカダを漕ぐのに疲れたような気がする。
そして、ロフトに上がって、横になる。
ユサユサと体を揺すられる。
「起きて!……起きて!」
この声は……、ミーアちゃんだな。
「おはよう!」
俺は上半身を起して、ミーアちゃんに挨拶すると、早速服を着てロフトを下りる。
ん?何か知らない人が来てるけど・・とりあえず、裏の井戸へ顔を洗いに家を出る。
バシャバシャと顔を洗い、すっきりした表情でリビングに戻る。
「おはよう。遅かったわね。……此処に座って!」
姉貴に言われるままに、姉貴の隣に座る。
対面の席には、ジュリーさんと、見知らぬ中年の紳士だ。誰だろう?
「始めまして。私は、トリスタン・デ・モスレム。そこにいるアルテミアの兄だ」
「アキトです。あのう……ということは?」
「この王国の次期国王よ、アキト。失礼がないようにね」
姉貴に小声で言われてしまった。俺としては姉貴のほうが心配だぞ。
「あのう……、この国の偉い人が俺達の家に来るわけが分からないのですが」
「今朝早く、この村に視察に来てね。早速掲示板を見たのだが、其処に驚くべき数字が書いてあった。
ギルドの者に確認した所、間違いない数字ということだ。直ぐにメンバーを確認して此処にいるというわけだ。
詳細はジュリーからさっき聞いたばかりだが、信じられないような話だった」
そう言って、ジュリーさんがカップに注ぎ足したお茶を、美味しそうに飲んでいる。
でも、そういう話なら妹の剣姫さんに聞くべき……、と考えて剣姫さんを見ると、何時もの位置に3人が座っている。
ん?ミケランさんじゃないよな。
「ここに来たのは、妹に娘を一時託したかったのだが、……気が変わった。ミズキ殿とアキト殿に娘のサーシャを1年預かって欲しい。
意表を付く作戦。使える者を最大限に活用する用兵術。王都にはそれだけの人材はいない。それに少し西がきな臭くなっている。1年で結果は出ると思うのだが……、その間預かって貰えぬか」
娘って……、暖炉を見るとミーアちゃんの隣に、剣姫さんに良く似た少女がペタンと座っている。
「私達はハンターです。何時も此処にいるとは限りませんし、一斉召集には応じなければなりません。その時は王女様の警護が出来なくなります。ですから、そのお話は……」
「もとより承知している。それでもだ。王都で深窓に篭ることなく自然の中たくましく育てたいと思う。怪我をするのも経験の1つだ」
「分かりました。1年お預かりしましょう。でも、期待は無しですよ」
「ありがたい。……少ないが、これは報酬だ」
次期国王は皮袋をドサっとテーブルの上に置いて、姉貴の方に押してきた。
「報酬はいりません。王女様に自分で稼いでもらいます」
姉貴は、そう言って皮袋を押し戻した。
「そうか……。では、貸し1つを作ったことにする」
そして、暖炉のほうに向いた。
「サーシャ……。では、1年間此処で暮らすのだよ。来年の狩猟解禁の時に迎えにくるからね」
ミーアちゃんの隣の女の子が此方を振り向いた。
金髪巻き毛が可愛い西洋人形みたいな女の子だ。歳は、ミーアちゃんと同じ位かな?
「分かったのじゃ。此処で、おとなしく待っているのじゃ……」
ん?……おとなしく?
こういうことを言うということは、お転婆娘と相場がきまっているぞ。
「では、後を頼む」
そう言うと、次期国王は席を立ち、家の扉を開く。
何と、扉の外には立派な騎士が控えていた。騎士達はトリスタンさんを前後に挟んで通りへの石畳を歩いていった。
そんな訳で、俺達の仲間が1人増えたけど、さてどうなることやら。