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#437 地下への扉が開いた

 


 「それでは行って来ます。」

 「頼むぞ。」

 俺の言葉にディーは頷いて、戦闘工兵を5人乗せたイオンクラフトは南に向かって飛んで行った。


 「近場に水場が無いのは不便じゃな。」

 「そうですね。まぁ、ここに砦を作る訳ではありませんから、仕方がありません。」

 アテーナイ様の言葉に頷いて、皆のいる焚火に戻った。

 

 穴はだいぶ深くなった。もうすぐ6mになるだろう。後残り2mなのだが、俺達の持ってきた水樽10個の内、8個が空になってしまった。

 急遽、水を手に入れるためにディー達が出掛ける事になったのだ。ついでに薪を取って来い、と言っといたから3日後には荷台を満載して帰って来るだろう。

 

 問題は、ディーがいないと広域の監視が出来ない事だ。帰ってくるまでは穴掘りよりも監視に重点を置かねばならない。

 前に運んできた丸太を使って、お立ち台の高さを増しているから、お立ち台の上からなら周囲4kmは十分に見通す事が出来る。だが、それは昼間の話で、夜になればトラ族やネコ族の視力に頼らねばならない。


 「まぁ、予想よりも生き物の姿が見えぬ。あまり心配はいらぬ、と思うがのう。」

 「それでも、この地はレイガル族、サル達の勢力範囲であることは確かです。まだ春先なのでそれ程動きがないだけかも知れません。」

 

 焚火を囲む俺達の話題は敵の話だ。

 確かに予想とは異なる。とっくにどちらかから襲撃を受けてもよさそうなものだが、その姿さえもまだ見ることはない。

 「相手の規模は判らぬが、それ程多くの部隊で襲撃を行なうとは考えられぬ。掘り出した土で土塀を構築しているから、数十人程であるならどちらが来襲しても大丈夫だ。だが相手がそれより多いと問題だな。」


 「レイガル族以外にも原始人がいますよ。まぁ、狩人の総数は50人程度でしょうけど…。」

 「そうね。でも原始人はあの武器でマンモスを狩るのよ。油断は出来ないわ。」

 姉貴も、ちょっと違和感を感じているようだ。

 俺は、アテーナイ様がパイプを取り出したのを見てジッポーで火を点けてあげた。ついでに自分のタバコにも火を点ける。


 「出るとすればそろそろという事ですか…。ディーさん達が出掛けている時だと面倒ですね。」

 ジュリーさんの口調は面倒と言うより、早く来いと言っているように感じるぞ。それでも、ポットを持って俺達にお茶を継ぎ足してくれる表情は穏やかなんだよな。


 そんな話をしている所にリムちゃんが走って来た。

 「南東から何かがやってきます。距離20M(3km)です。」

 「何だと!」

 セリウスさんがダリオンさんと一緒に駆け出して行った。

 

 「南東という事はサルどもかのう?」

 「その公算が高いですね。…エイオス、穴掘りを一時中止して戦闘準備だ。」

 「了解です。」

 エイオスが立ち上がって走って行く。


 「私達の準備は良いのですか?」

 「距離が離れてます。戦闘工兵の準備だけを早めておけば遅れを取る事は無いでしょう。」

 「婿殿の言う通りじゃ。早くに準備をしても疲れるだけ、戦闘工兵達も戦の準備が出来れば焚火で暖を取らせるが良い。」

 そう言いながらアテーナイ様はのんびりとお茶を飲んでいる。


 少し経つと嬢ちゃん達がぞろぞろと焚火にやって来た。

 「セリウスに場所を取られてしもうた。2人も上ると我等の場所が無い。」

 プクっと顔を膨らませて焚火の傍に皆が腰を下ろす。

 そんな仕草に、顔をほころばせながらジュリーさんが4人にお茶のカップを渡した。

 

 「アルトさんの見た限りでは、やはりサルなの?」

 「いや、望遠鏡でも良く見えなかった。サルとも他の者とも判らぬが、近付いている事だけは確かじゃ。」


 「戦闘工兵の準備は完了です。屯田兵用クロスボーに15本のボルトを装備させました。槍は南東の盾に全員分を並べてあります。…とりあええず、焚火で暖を取れと言っておきました。」

 エイオスが準備完了を俺達に告げる。

 

 「ご苦労さん。アルトさんの話だとまだまだ遠いようだ。しばらくはそのままで良いと思う。」

 「やはり、偵察部隊でしょうか?」

 「我も、その考えに賛成じゃ。10名前後では偵察じゃろう。我等と戦を使用とは思わぬ筈じゃ。」


 エイオスの言葉にアルトさんが答えていたが、それだとその後に大きな部隊が来る事にならないか?

 そこにダリオンさんが慌てて駆け込んで来た。


 「やばい事になってきたぞ。北から、もう1部隊が南に移動している。」

 その言葉に姉貴が俺を見る。 確認して来いって事だな。

 「姉さん、フィールドスコープを持ってたね。貸して!」

 

 姉貴がバッグから取り出したフィールドスコープを手に、お立ち台に向かって歩き出した。

 お立ち台は簡単な梯子で上に上るようだ。上ってみると盾を2段に重ねた足場の上面に盾を横に1枚乗せている。

 なるほど、セリウスさんとダリオンさんが上がったら嬢ちゃん達の居場所が無くなるな。


 「変化はありますか?」

 「依然として近寄って来るだけだ。そして北からもやって来ている。」


 2つの部隊にフィールドスコープの焦点を合わせる。

 20倍の視野に写ったものは、サルとリザル族に似た異形の戦士だ。

 

 南東から北西に向かって移動しているサル達はゴリラに似た姿をしている。

 北からやって来るのはレイガル族なのだろうリザル族の戦士に似ているが牛の角のような物が頭から前方に向かって飛び出している。粗末な皮を身に纏って、持っているのは棍棒だな。

 どうやら、春が来たので領地の偵察を行なっているのだろう。だがこのままだと1時間程で両者が交差するぞ。そしてその前に俺達の砦を見る事になる。


 「セリウスさん。ここは嬢ちゃん達に任せておいた方が良いですよ。」

 「あぁ、そうだな。替わってくれと伝えてくれ。」

 セリウスさんに頷くと、お立ち台を下りて焚火に向かった。


 「状況はこんなです。」

 そう言って、焚火の傍に薪を1本使って簡単な絵を描く。

 北から来るのはレイガル族。確かにリザル族以上の体形だが武器は棍棒だ。

 南東から来るのはゴリラに似たサルの一団。このままだと1時間程で両者が、この砦近くで出会う事になる。


 「確かサル達も棍棒を使ってたわね。レイガル族が皮を着て、サルは例の砂鎧だから…、戦いが発生したらちょっと見物したい気分よね。」

 「まぁ、それは我も同じ考えじゃが、そうなるとこの砦が両陣営に知れれてしまうの。」

 

 「こっちの部隊が、陣形を展開したぞ。縦隊から横隊になっていた。」

 嬢ちゃん達のお立ち台を譲ってセリウスさんが帰ってきた。

 「サル達よりも知能が高そうね。サルを発見したんだわ。そしてこの砦もね。砦に手を出さずにサルを攻撃しようとするのは、ある程度の作戦能力があると考えても良いわ。」

 

 「なぜ、砦に手を出さないのでしょうか?」

 「城を攻めるには3倍から5倍の兵力って言うでしょう。こっちの勢力が判らないから攻めないのよ。サルなら襲ってくるかもしれないわ。」

 「フム。厄介な相手じゃな。さすがコンロンの末裔と言う訳なのじゃろうが…。」


 「始まったら、彼等の戦を見せて貰いましょう。念のために、砦の南西と南北に戦闘工兵を3人ずつ配置しておけば安心出来るわ。」

 「部隊を展開させたのならそろそろ始まるじゃろう。エイオス、ミズキの指示を頼むぞ。我等は東に参ろう。」


 俺達は焚火を離れると東に歩いて行く。

 盾越しに戦闘を見るため、セリウスさんとダリオンさんが薪の束を両手に持ってきた。姉貴達に足場にするように言っている。

 

 両者の戦いは砦の東数百mの場所になりそうだ。

 双眼鏡で互いの戦士の表情までが見て取れる。

 100m程の距離に達した所で互いの部隊が一旦停止した。


 そして、両者が一斉に互いの部隊に向かって走り出す。

 鈍い打撃音が此処まで聞こえてくる。

 棍棒で互いに打ち合い、倒れた者を足で踏みつけている。


 「原始的な戦じゃのう…。じゃが、レイガル族はサルの頭に棍棒を振るわぬ。あれが飾りじゃと知っているようじゃな。」

 「そして、サル達は素早く動きながら棍棒を振るっています。体力的にはレイガル族が上という事でしょう。」

 時間にして10分も掛からずに戦闘は終了した。

 勝ったのはレイガル族だ。倒れたサル達に止めの一撃を1匹ずつ与えている。場違いな場所を叩いているように見えるのは、逃げ出した頭の寄生体を葬っているんだと思う。


 「やはり、凄い連中だ。あのサルをいとも簡単に殺してしまった。もっとも無傷とは行かなかったようだがな。」

 数人が足を引き摺り、何人かは肩を支えられている。

 そして、来た方向へと去って行った。


 監視を嬢ちゃん達に任せて、焚火の元に戻ると、直ぐに対策を考え始める。

 「サルの棍棒をレイガル族は弾いていたように見えた。かなり頑丈な皮膚のように思える。」 

 「素早さもかなりのものです。【アクセラ】のみでは遅れを取るかも知れません。」

 「問題は、あの皮膚をボルトが貫けるかじゃな…。たしか、1人が倒されておったのう。ダリオン、戦闘工兵を連れてクロスボーの試射をしておけ。貫けるなら我等の勝利じゃな。だめなら、爆裂球付きのボルトしか対処の方法が無くなるぞ。」


 ダリオンさんがアテーナイ様に頭を下げると焚火を離れて行った。

 まぁ、ボルトが刺さらないという事は無いだろう。俺としてはサルの方が問題だと思うぞ。

               ・

               ・


 俺達は穴掘りを一時中断して周囲の警戒をしている。

 深くなった穴での作業は体力の消耗が激しい。そんな時に襲撃されたら対応が出来ないからだ。

 そして、3日目の夕方。砦にイオンクラフトが帰って来た。


 ディーに周囲の警戒を任せて、穴掘りを5人交代で戦闘工兵達が再開する。後もう少しだ。

 即応部隊は姉貴達が対応してくれるから、俺やセリウスさんも交代で穴掘りに参加する。

 2日程経った時、カチンとスコップの刃先に硬い物体が当たった。穴の底を硬い物体に沿って掘り進める。

 たぶんこの物体が、秘密実験施設の天井を覆うコンクリートなのだろう。

 

 いよいよ天井に穴を開ける段になって、ディーが俺達に注意を与える。


 「宜しいですか、全員この装備を着てください。そして、なるべく穴から離れていてください。

 レールガンで穴が開いたら、私が中をサーベイします。いじょうがない場合は連絡しますから、装備を外すのはその後です。」


 俺達全員が紙製の白い防護服を着込んで、頭には防護服と一体になった紙製のヘルメットが付いている。その全面は薄いビニルのような素材で作られているから周囲を見ることが出来る。そしてヘルメットの横にはフィルターが付いていた。


 ディーが俺達の装備を1人ずつ確認すると、自分も装備を着込んで上空に飛び上がる。

 羽やレールガンは防護服から露出しているがどうにもならないようだ。


 俺達が穴から遠ざかった事を確認すると、穴の中心目掛けて上空200m程の所からレールガンを撃ち込んだ。

 鈍い音と軽い地響きが俺達に伝わる。


 ディーが空から下りて来ると、放射線測定器を手に穴の中に下りて行く。

 直ぐに出てくると、俺の前にやって来た。


 「初撃で50cm程の貫通口が開きました。内部の放射線量はバックグランドレベルです。もうしばらくは防護服を着装していてください。」


 そう言うと再び穴の上空に飛立ってレールガンでコンクリートに穴を開ける作業を開始した。

 20分程すると、再び地上に下りて放射線測定器を持って穴を下りて行く。

 しばらく中で汚染の有無を確認しているようだ。


 やがて俺の元にやって来たディーは嬉しそうに告げた。

 「内部への侵入口を開きました。侵入口内部は会議室のような場所です。その部屋と部屋から通路の放射線量及び放射能に異常はありません。もう、防護服を脱いでも大丈夫です。」


 ようやくこの服を脱げるのか…。紙製だが通気性が無いから、寒い土地なのに暑く感じる。

 ホッとした表情で俺が服を脱ぎ始めると周りの者も俺に倣う。

 

 「どうやら、異常が無いようじゃのう。」

 「これから探索ですか?」

 

 「探索は明日の早朝から始めます。俺と姉貴、それにディーの3人で行ってきます。その間の砦の指揮はアテーナイ様にお願いします。」

 「うむ。任されたぞ。少し不穏な雰囲気ではあるが、砦には戦闘工兵15人にアルト達もいるのじゃ早々遅れを取る事もあるまい。」

 

 俺としては、嬢ちゃん達やエイオス達が準備してきた物が心配だ。エイオス達は爆裂球投射器は持って来ている筈だし。無反動砲も持って来たに違いない。

 ミーアちゃんは多連装砲を持って来てるだろうし、まさかとは思うがリムちゃん、カチューシャを持ってきて無いだろうな。

 サーシャちゃんが、やはりこれじゃ!なんて言いながら特大袋から大砲を持ち出す光景が脳裏にありありと浮んできた。

 最初は一番過激に見えたアルトさんがこの頃は一番大人しく見える。これって、教育を間違えた訳じゃないよな。

 

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