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#417 石壁の西と東

 


 バリスタを載せた装甲車が勢い良く石塀に迫る。

 港から部隊を移動させて4部隊16門の無反動砲で対処しても、装甲車の数が多いし移動する事で散開している。

 どうにか半数と言う所で、装甲車のバリスタが爆裂球を付けたボルトを石塀に発射する。

 一発程度でどうなる事もないが、20発も同じ所に打ち込まれると問題だ。しかも、石塀の西の門に集中していた。


 「西の北門破られました。現在修理中。…荷の南門。亀裂多数。再度の攻撃で全壊しそうです。」

 通信兵が叫ぶように報告してくる。

 だが、救援を求めない所をみると、応急措置の目処が立っているのだろう。戦闘工兵が両方の門に2分隊程張り付いているのも心強い。

 

 アルトさんは亀兵隊を100人程引き連れて、丘から敵の側面を4門の無反動砲で攻撃を繰返している。

 10台程対空用クロスボーも持参したようだから、相手側にはそれなりの部隊がいるように思えるだろう。

 

 敵の本隊は石垣を超えて石塀の中間近くまで進軍してきた。

 その部隊に向けて7門の大砲が榴弾と火炎弾を交互に発射している。

 

 「何故、一斉に攻撃しないんですかね?」

 「獣がいるからだ。今接近すれば逆に襲われる。」

 「しかし、何時までものんびり進んでいる訳ではない。後1射で、門の扉が両方とも破壊される。獣がなだれ込むのに呼応して、向かって来るだろう。」

 サライが俺に聞いてきた。

 ジッと西を睨んでいると、南門の近くで続けざまに炸裂光が輝く。


 「南門。全壊です。応急修理開始。…北門の修理完了。」

 双眼鏡に映る装甲車の数はもう後数台だ。

 装甲車からボルトが発射された次の瞬間、最後の装甲車も炎に包まれる。

 そのボルトは最初に大型獣が破壊した城壁の破壊の程度を更に深刻なものにした。


 「サライ。テラスは任せる。俺はボルスさんの加勢だ。」

サライの返事も聞かずに地図をバッグに詰め込んで、ショットガンを肩に果樹園へと急ぐ。

 修道院と果樹園には今の所大きな被害は無い。

 石垣伝いに、西の石垣の北角に出ると、無反動砲の部隊が土盛りの上で石塀より敵軍を狙っていた。


 ディーを訊ねると、大型獣とバリスタのボルトで大きく破損した石垣近くにいるらしい。

 確か、北門を過ぎた所だったな。


 俺の歩く横を丸太を担いだ屯田兵が数人駆け抜ける。

 補修用の資材が足りないのか?

 自然に俺は駆け出すと、彼等の後を追った。


 「丸太が足りん。もっと運ぶんだ!」

 10人程の戦闘工兵が崩れる寸前の石塀を補強している。

 その中にディーの姿を見つけた。

 崩れた石の穴から身を乗り出して果樹園に入り込もうとするガトルや、スカルタを銛で刺している。


 たしかにこの状態なら槍が良いよな。

 俺も担いでいたショットガンに銃剣を差して、ディーを手伝う事にした。

 数匹を倒してところで、ディーが声を掛けてきた。


 「マスター、敵の大軍が近付いています。後、400。」

 「あぁ、判っている。それで俺もやってきた。…距離、200で集束爆裂球を使え。ところで、何個あるんだ?」

 「ボルスさんに爆裂球を提供して貰いましたから、6個あります。」

 バッグの大きな袋から、集束爆裂球を取出しながら答えてくれた。


 「全部使っても良い。そして、あの穴からレールガンを撃てるか?」

 「可能ですが、レールガンならこの場所よりも門の補修場所に出来た穴の方が効果的です。殆んど水平に発射出来ます。」

 「なら、斜めに3撃だ。だいぶ間引ける。」


 ディーは俺の話を聞くと石塀の隅に集束爆裂球を置いて北門に向かって行った。

 急いで丸太の横木を上って石塀の上に顔を出して、西を見る。


 3条の小さな光線が西に向かって走る。

 あの光線に沿って、直径4mの範囲の者は衝撃波で引き裂かれる。その効果が2km先まで続くのだ。

 そんな俺の足元では、次々と丸太が運ばれて、崩れかけた石塀を兵隊達が補強していた。

 

 「アキト様でしたか。もう直ぐ、大軍が押し寄せます。急ぎテラスに戻ってください。」

 分隊長が俺を見とがめて言った。


 「上はサライに任せてある。俺もここで向かえ討つよ。」

 「では、あの柵をお任せします。民兵が50人で後ろの柵を守っています。そこを抜かれると、後は修道院まで障害はありません。」


 石塀から30m程離れた場所から果樹が一列に並んでいる。その一番石塀に近い果樹を使って、地上60cmと1.2mの所をロープで結んでいる。

 所々に杭を打って補強しているけど、かなり心細いぞ。

 

 「戦闘工兵の盾を20枚集めろ!…民兵がいるなら防護設備をまともにしなければ戦えん!」

 数人が南北に走って行くと、たちまち大型の盾が集まる。

 その盾をロープの柵の後ろに並べていく。

 これで、民兵も安心して支援出来るだろう。


 そんな作業をしているとディオンさんが4人の魔道師を連れて南から石塀伝いに小走りにやってきた。

 俺達を纏めて【アクセラ】を掛けていく。

 去り際に、「無理はしないように!」とだけ、俺達に告げていく。

 

 「しかし、アキトとは縁があるな。俺達、民兵は兵を乗り越えた敵兵が相手だそうだが、そんなんで大丈夫なのか?」

 どっかで聞いた声だと思ったら、デクトスさんだった。


 「まぁ、戦争は本来兵隊の仕事です。ですから、ボルスさんも可能な限り後に下がらせたんだと思いますよ。その辺は心意気を汲んでやってください。」

 そう言いながら、デクトスさんが取り出したパイプに火を点けた。ついでに俺も一服を始める。


 「だが、アキトの所には盾が無い。そこに押し寄せて来るぞ。」

 「その方が都合がいいです。そして、デクトスさん達も、目の前の敵でなく離れた敵を狙えます。」

 

 「まぁ、そうだが…。死ぬんじゃねぇぞ。お前ぇがいねぇと海釣りが詰まらん!」

 「そうですね。今度は負けませんよ!」

 そう言ったとたん、背中をドン!っと叩かれた。


 石塀に接近して作られた足場に何時の間にかディーが戻っている。

 そして、片手に持っていた集束爆裂球の太いロープをブンブンと振りまして、石塀の向うに投擲した。


 ドオォーン!っト言う炸裂音が一瞬の眩い光の後に聞えてくる。

 そして、ウオオォォー…と言う蛮声が壁の向うから段々と大きくなって聞えてくる。

 

 次の集束爆裂球をディーに渡すと、ディーはそれを振り回して再度投擲する。

 次々と手渡して、それをディーが投擲していった。


 「ディー。先程と同じようにレールガンを2撃して戻って来い。」

 ディーは足場から飛び降りると北に向かった。


 ショットガンを手に持つと、ポンプアクションで更にもう1発弾丸を装填する。

 石塀に沿って作られた足場には大勢の屯田兵や戦闘工兵が上っている。

 そして、投石具に爆裂球をセットした。

 振り回して、一斉に投擲する。


 一瞬、石塀に遮られた西の空が明るく光り、それに続いて炸裂音がしばらく続く。

 「隠れろ。矢が来るぞ!」

 石塀の上の兵隊の叫びに民兵達が盾の影に隠れる。俺は石塀に身を寄せた。

 目の前の盾にトントンと軽い音を立てて矢が突き刺さる。

 

 「まだ出るな!次が来る。」

 敵は2段以上に弓隊を配置して続けざまに矢を射掛けているようだ。

 とは言え、敵は徒歩兵。矢筒の矢が無くなればそれ以上撃つ事は出来なくなる。


 「だいぶ、外の獣が減ってきました。」

 何時の間にか戻って来て、石の間から身を乗り出して来るガトルを相手に銛で突付いていたディーが報告してくる。


 さっきの矢は俺達より石塀の周りの獣を狙ったのか?

 そして、石塀の向うの蛮声がさっきよりも大きくなり、地鳴りに似た足音が響いてきた。


 ガチャ!っと音を立てて無数の梯子が石塀に立ち始める。

 同時に足場にいた兵隊が下に降りて、半数が槍や長剣を持つ。

 梯子を上ってきた敵兵に、味方が放つボルトが刺さって梯子を転げ落ちる光景があちこちで始まった。


 「ディー。こちらに降りた敵兵を殺せ。俺は上ってくる敵兵を撃つ。」

 そう言うと、壁を補強した丸太に銛を突き立てると、長剣とブーメランを持って民兵の前に下がって石塀を見ている。


 味方の撃つボルトの合間を縫って、ショットガンを発射する。

 5発撃ったところで石塀を背にしてポケットの弾丸を装填し、また撃ち始める。


 ガルパスに乗った亀兵隊が駆けて来た。

 「ここでしたか。…作戦本部から連絡です。北に布陣した屯田兵と民兵1,500人が移動します。移動先はあの丘の上。援軍ですよ。!」

 「了解した。ボルスさんにも伝えてくれ。それと東はどうなった?」

 俺の質問に発光式信号器を取り出すと岬のテラスに向かって通信を始めた。


 「変化は無いようです。ナリスさんが屯田兵50をこちらに送ったと言っています。」

 「あぁ、ありがとう。俺はここにいるから何かあれば連絡頼む。」

 「直ぐに通信兵を送ります。…では!」


 そう言ってガルパスで帰って行ったが、数本の矢が刺さってるけど大丈夫なのか?

 とは言え、朗報だ。

 これで、北から敵を押す事が出来る。

 

 「もうすぐ、ボルトが無くなります!」

 「予備のボルトは?」

 「先程、配布しました。全員、残りは数本です。」


 「これを使え!」

 民兵達がボルトの束を投げてきた。

 「助かる!」

 兵達がボルトの束を受取って数人で分配する。

 「集積所に取りに行かせたのか?」

 「5人向かわせてます。」


 この状態でボルトが無くなればと思うとゾッとするぞ。

 戦闘工兵達は何時の間にか弓を使い始めた。確かに矢はそこら辺に沢山生えてるからな。

  

 手持ちの弾が全て無くなると、一旦後ろに下がって、ショットガンを袋に入れる。そしてたっぷりとマグナム弾をポケットに詰め込んだ。


 「一旦下がって、投石具を使え!」

 20人程の屯田兵が爆裂球を石壁の向うに投げる。

 爆裂球の炸裂に合わせて、次の爆裂球を石壁すれすれに手で投げる。

 梯子が折れて、石壁を乗り越えようとする敵兵が少なくなったが、直ぐに新たな梯子が掛かる。


 「続けろ!」

 今度はさっきより人数が多い。その間の敵兵はデクトスさん達が頑張っている。飛び下りてくる敵兵はディーと戦闘工兵が倒している。


 先程よりも大きく広がって爆裂球が炸裂して、その後に石塀に立て掛けた梯子を狙った爆裂球が炸裂する。

 

 「通信兵です。爆裂球を持ってきました。」

 小型通信機をたすき掛けにした若い戦闘工兵が革袋を担いでやって来た。

 民兵が革袋を受取って、屯田兵達に急いで配る。


 「通信兵。全体の状況を確認しろ!それと補給所に連絡。ボルトと爆裂球を石壁にいる民兵に配れ。以上だ!」

 通信兵は、民兵のいる盾の影に隠れると早速仕事を始めた。


 敵が動き出してもう5時間以上が過ぎている。

 後、2時間も過ぎれば夜が明ける。

 夜明けの砂浜はさぞや凄惨な風景が広がっていると思うが、今は石塀を越える敵兵を1人でも多く倒さねばならない。

 

 たてつづけに投げる爆裂球で少し敵兵の攻撃が弱まってきた。石塀に掛けられた梯子も減ってきたように見える。

 そして、次の爆裂球で梯子を破壊すると、新たに掛けられる梯子は周囲に数箇所になった。

 

 「爆裂球、使い果たしました!」

 「今、補給所から運んできます!」

 屯田兵の悲痛な声に通信兵が答えた。


 「東は敵兵の姿が見えないと言っています。砦を北に回った敵兵は、無反動砲とアルト様の部隊に押し返されたそうです。石塀の向うは石垣まで敵兵で溢れていると言っています。」

 俺に怒鳴るように報告してきた。

 

 まだまだ先が長いな。

 この石塀を境に、西はタグの群れのように敵兵が溢れているのか…。


 「ディー、気化爆弾を使う。石塀の西300mで炸裂させろ。」

 「了解です。」


 ディーが軽く答えると、イオン噴流を残して石塀の向うに滑るように空を駆ける。

 そして、ディーが石塀を越えて戻って来た瞬間、石塀の向うに紅蓮の炎が上がる。

 敵兵の群れの中にポッカリと直径200m程の穴が開いた筈だ。

 

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