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#042 狩猟解禁と作戦会議

 村人総出に近い薬草採取が一段落過ぎると、朝晩が少し肌寒く感じるようになってきた。

 それにともない、村のギルドに人が集まり出してきている。今は20名以上のハンターが登録しているそうだ。


 キャサリンさんによると、後1週間もすればこの倍近くになるという。そして、東と西の門の内側にある広場には商人達が獲物を買取る出店や、ハンター達に雑貨を売る出店等でお祭りのような様相になるとの話だが、早く見てみたい気がするな。


 俺達は今日はギルドに行かず、家で作戦を練っている。

 狩猟解禁までは、大型動物の狩りはギルドでの依頼以外は禁止されている。しかし、その解禁日を1週間後に控えた今することは、他のハンターを如何に出し抜いて狩りをするかの作戦が大事ってことだろう。

 でも、山脈が如何に大きく広大であるといっても、獲物がいる場所は限られていると思うのは俺だけなんだろうか?


 「すると、キャサリンさんは、この辺りの岩棚が狙い目って考えてるわけね」

 「そうです。この辺りの平場は他のハンターが大勢やってくるはずですから、獲物もこんな具合にハンターを避けるはずです。

 そうなると、どうしても此処を通るはずですから、待ち伏せすることができます」


 「ふ~ん……。上手くいくかなぁ?」

 「去年は此処でミケランさん達と待ち伏せして大猟でしたよ」


 柳の下のドジョウって感じだな。でも、ポイントは悪くない。

 後は、去年ここで大猟だったという事を今回集まってきたハンターが知らなければ良いんだけどね。

 

 「私は、この辺りが良いんじゃないかな?って思ってるんだけど……」


 姉貴が簡単な地図を指差した場所は、グライトの谷だった。


 「確かに有望な場所ですけど。……カルキュルがいますよ。それに、獲物を谷底から持ち上げるのは重労働です」

 「持ち上げる必要はないわ。湖まで下ろしてイカダで運ぶのよ」


 斬新なアイデアを姉貴が提供する。

 確かに、楽に大量の獲物を運ぶことが出来る。でも、そんなに上手くいくのだろうか?

 「う~ん。……ちょっと魅力的ですね。そういえば去年、ミケランさん達が来年も来るって言ってましたから、彼女達の意見も聞いて決めましょう」


 そんな話をしていた4日後のことだった。

 裏庭で、ミーアちゃん監視の許に釣りをしていたら後から声がした。

 

 「しばらくにゃ。元気だったかにゃ」


 この声は?思わず振返ると、ミケランさんがミーアちゃんの頭をナデナデしていた。


 「しばらくです。ミケランさんもお元気そうで……」


 急いで道具を仕舞うと、3人で連立って家に戻った。

 

 リビングには姉貴とセリウスさん。それに、ジュリーさん?……ということは……。急いで部屋を見渡すと……いた!

 暖炉の前のフカフカカーペットにあるクッションに、ポテって座り込んでいる剣姫の姿を見つけたぞ。

 ゴスロリ姿で座っているのを見ると、お人形みたいに見える。

 姉貴がお茶とお菓子をテーブルに運んでる。それを見た、ミーアちゃんが慌てて手伝いに走っていく。

 俺は、姉貴に促がされてテーブルに着いた。ミケランさんもセリウスさんの隣に座る。


 「久しぶりだな。まさか試練を受けるとは思わなかった。試練に勝つとは予想すらしなかった。その色の濃さ……近年稀に見る品物だ」

 「何故か、持つことになってしまいました。試合相手には理解できない技を使いましたが、カラメルの長老には勝因が直ぐに分ったみたいですけど……」


 「彼らはエルフよりも遥かに長命だ。そして、不思議な技を使い、水のあるところには何らかの関係を持つ。案外この近くにも住んでいるかも知れぬぞ」

 「でも、此処が良く分かりましたね。この家を頂いたのは最近ですよ」


 「姫より聞いた。タグ殲滅の経緯もな。良く無事に帰ったものだ。タグの女王をみたことがある人間等、この国にお前達以外おるまい」

 「セリウスさん達は、当然狩猟目的ですよね。それは何となく分かるんですが。……剣姫さんが来られた目的が、良く分からないんですけど」


 ジュリーさんが小さく笑い出した。


 「内緒ですよ。姫は此処のお祭り騒ぎが大好きなんです。特に屋台の食べ歩きが大好きで……」


 ジュリーさんがヒソヒソと小さな声で俺達に話してくれる。


 「ジュリー。聞こえておるぞ。……良いではないか。王宮は息が詰まる。このように暖炉の前で足を伸ばすなどできぬことじゃ」


 剣姫の来村目的は息抜きと理解した。あれ、でもそれじゃぁ、この別荘を手放さなかった方が良かったような気がするけど。


 「この別荘。……作るには作ったが、広すぎての。お前達に渡せば、我は適当に来客として利用できると思ったのじゃ」


 うわー。凄い自己中心的な考え方だ。さすが、一国の王女だけのことはある。このように他人を利用する事に躊躇しない教育をしっかり施しているとは、……この王国の未来は明るいぞ。


 「それでじゃ、この家には部屋が2つあったはずじゃが、……1部屋を譲って欲しいのじゃ」

 「いいですよ。2つとも空いていますから、どちらでも好きなほうをお使いください」


 姉貴の答えに、「わがままを言ってすみません。」って頭を下げたのはジュリーさんだった。この人も、剣姫さんに苦労してるんだろうなぁ……。


 「あと、1つ空いてますから、セリウスさん達もどうですか?ミケランさんといっしょで良いんですよね」

 「ミズキには分かっておったか。だが、遠慮しておこう。毎年、キャサリンのところに宿を決めておるのだ」


 「ちょっと、残念にゃ。でも、たまにはご馳走して欲しいにゃ」


 ミケランさんが残念そうに言ってるけど。もう、リリックは無いぞ。

 でも、魚は、釣ればいいか。


 俺は席を立って、裏庭に魚を釣りに出かけた。

 ミーアちゃんが傍にいないのがちょっと寂しいけど、それでも夕方までには何とか人数分を釣り上げた。


 暖炉の石の割目に串を刺してミーアちゃんが焼き上げている。それをジッとミケランさんが狙ってる。でも、そ~っと手が出てくるのを剣姫が牽制している。

 そんな光景を微笑ましくジュリーさん達が見ていた。


 「しかし、アキトがいると何処でも魚が食べられるな。ミケランが羨ましがるはずだ」

 「何時でもとはいきませんが、出来るだけご期待に応えたいですね」


 姉貴がそんなことを言ってるけど、釣るのは俺なんだよな。

 そんなことを考えていると、扉がトントンと叩かれる。

 急いで扉を開けると、キャサリンさんがいた。


 「今日は、皆さんおそろいですか?」

 「はい。剣姫さん達も来てます。どうぞ中へ」


 キャサリンさんをテーブルに案内する。かつて知ったる何とやらで、ジュリーさんがお茶のカップを渡した。


 「それでは、皆さんそろったところで、今期の狩猟場所と役割を決めたいと思います」


 姉貴が、作戦会議を宣言する。

 テーブル席の皆が頷いた。ミケランさん達は魚を美味しく焼くのに忙しそうだ。それを監視している剣姫も緊張した表情で2人を見ている。そんなに大事なことなのだろうかと考えてしまう光景だ。

 

 「今期の猟場は、此処、グライトの谷とします」

 「ちょっと、待て。確かそこは……」


 「カルキュルの営巣地です。でも、巣に近づかなければ襲ってこない。と聞いています。それに、これを見てください」


 姉貴は、簡単な地図をテーブルに広げる。


 「ギルド等に集まるハンター達の話では、山裾のこの辺りを中心に狩りを行なう公算が高いと思われます。去年のキャサリンさん達の狩場はこの辺です。

 大勢のハンターに追われた獣達が、このように移動したため、此処に大量に押し寄せてきたと考えてます。

 予想ですが、昨年の狩猟結果を元に此処には大勢のハンターが押しかけるのは確実です。

 そうなると、獣達は此処を避けて、此方に移動するでしょう。移動先となるのはグライトの谷、しかも谷底です」

 

 「ミズキに王国軍の軍師をさせてみたくなったぞ。情報と分析、それに基づく作戦。……正に軍の作戦参謀に相応しいのじゃ」


 暖炉の方から剣姫が賞賛してくれた。でも姉貴に軍なんか任せたら、それこそ、世界征服を狙うんだろうな……。絶対やらせるべきじゃないと思うぞ。

 

 「ミズキの案は俺も認めよう。しかし問題が1つある。獲物を谷底からどうやって運ぶのだ。

 場合によっては数十頭の獲物となる。あの深い谷底から持ち上げるのは困難という他は無い」

 「持ち上げなくても、運ぶ方法はあります。谷をそのまま下り、イカダに獲物を乗せて湖を渡り村の近くで降ろします。谷には立木が沢山あるみたいですから、イカダを組むのは簡単だと考えてますけど」

 

 「見事じゃ。金貨20枚で王国に仕官せぬか?仕官の祝いにこの家の10倍の舘を与えるぞ。もちろんメイド数人は王国で用意するのじゃ!」


 剣姫さん一気に乗り気になってきたぞ。でも、金貨20枚って……20万L!とんでもない高給じゃないか。


 「残念ですが、私達はこのままがいいのです。人ごみは息が切れます」

 「残念じゃ……。しかし、我の友であることは事実。援助を請うこともあるかと思う。その時は支援を願たい」


 姉貴は、当たり前ですって顔をして頷いた。でも、何時俺達は友達になったのか思い出せない……。


 「確かに素晴らしい作戦だ。俺達もこの作戦に加わっていいんだな?」

 「最初から、そのつもりです」


 セリウスさんも姉貴の案に同意した。

 

 「何か、意見のある方はおりますか?……いないようなので、配置について説明します。

 我々の人数は剣姫さん達を含めて8人。前衛はセリウスさん、ミケランさん、アキトに剣姫さんの4人。中衛は私とミーアちゃんの2人。後衛はジュリーさんとキャサリンさんの2人になります。この図を見てください」


 姉貴はもう1枚、紙を取り出した。

 

「これが、谷での配置図になります。たぶん獣達は暴走に近い状態で谷になだれ込んできます。

 ですから、それを止められる人間を2人此処に配置します。ここは、剣姫さんとセリウスさんにお願いします。

 そして、そのバックアップは、ジュリーさんとキャサリンさんにお願いします。

 中衛の私とミーアちゃんは谷の両脇、此処と此処に陣取ります。

 前衛のミケランさんとアキトは、やはり谷の両側に配置しますが、中衛の攻撃開始と同時にこのように谷に下りて後ろから獣達を狩ります。

 獣を誘い込んで、一塊にし、前後から狩りをする……判りましたか?」


 皆、声も出ない。


 「ミズキ……金貨30枚でどうじゃ。やはり無理かのう……」

 「最後に、この作戦は剣姫さんが立案したことにしてください。それが可能と判断したのは、メンバーにセリウスさんがいた事による。……よろしくお願いします」


 「それでは、お前達の功績が無駄になるではないか!」

 「参加者全員で報酬を均等割り。……それで十分です」


 俺も、それでいい。こんな作戦、ちょっと頭を捻れば誰だって思いつくはずだ。あまり有名になっても誰かに妬まれるだけだし、剣姫さんならその辺は元から有名人だから大丈夫だろう。


 「出来たよ!」


 ミーアちゃんの声で、俺達は夕食の準備を始める。やはり、大勢で食べるのは楽しいし、同じ料理でも美味しく感じる。


 

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