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#415 衝突まぢか

 


 一夜が明けると、サラブの町から数百m程離れた場所に新たな砦が出来ていた。

 最初の砦と同じように板で柵を作ったような景観だが、板塀を作ったのは西と北の方角だけのようだ。

 やはり、最初の砦の炎上で相当の資材を消失してしまったのかもしれない。

 

 明け方、ディーの行った偵察では、獣の大半を失ったようだ。バリスタは10台程残っているようだが、それを運ぶ荷車は見当たらなかったと言っていた。

 そして、新しい砦の西に大きな井戸を掘り始めている。

 水脈があるか微妙な所だが、塩分濃度の低い水は得られるだろう。

 そして、陸揚げした資材の殆どを焼失したらしい。黒焦げの木箱が多数、焼けた砦跡に転がっているそうだ。その箱を開けて中を確認する兵隊が大勢いたと言っていた。

 

 「とりあえず脅威の程度は低くなりました。それでも3千近い兵がおります。今後の作戦は?」

 「問題は、食料だ。昨夜の攻撃でかなり焼失したらしい。それが無くなる寸前、たぶん今夜には全軍が襲ってくるぞ。

 現在、林の石塀に展開している部隊は丘の上に移動だ。この丘への道を守る事になる。この岬は坂の上になるから、少人数で何とかなる。アルトさんの部隊から回して貰おう。」


 「我等から攻めずに防戦で良いですね。」

 「あぁ、その方が被害が少ない。例の石も使ってみたらどうだ。」

 俺の提案にナリスが笑いを浮かべる。

 「では、少しずつ部隊を移動します。」

 そう言ってナリスはテラスを去って行った。

 

 東は何とかなりそうだ。問題は西の大部隊だよな。

 ディーの偵察では攻撃軍を2つに編成しているそうだ。

 その意図は、砦の攻略と北への進軍という事で理解できるが、北に向かったら少し面倒な事になりそうだ。

 とりあえず、作戦本部に連絡すると、北への進軍が始まったら連絡するようにと、指示があっただけだ。

 これも、想定内という事か?…だとしたら、それを迎え撃つのはどの部隊になるんだろ。

 少なくとも、王都の民兵では対応できないと思うけどね。

 

 「しかし、攻めて来ませんね。いささか拍子抜けです。」

 俺の座るテーブルに来て、パイプを取り出したのはデリスさんだ。

 「まあ、あれだけの大軍勢だからね。命令系統の確認だけでも大変だと思うよ。あの船火事でだいぶ予定が狂ってる筈だ。」

 

 「とりあえずは兵の半分を休ませています。偵察隊は領地境界の石塀まで2隊前進させて観測させていますから、事態の急変には対処出来るでしょう。

 明け方、潜水艇が港にやってきましたよ。食料と水、それに機雷を積んで出航しました。小さな船ですが、港を離れて潜り始めた時には肝を冷やしましたよ。」


 「海軍の戦力差は大きいですからね。見つからないようにするのが肝心です。」

 そう言いながら、俺もタバコに火を点ける。


 作戦本部から潜水艇への補給依頼の連絡があってボルスさんに頼んどいたけど、船は浮かぶ物という固定観念があったようだ。

 しかし、出航した潜水艇はどこに出かけたのだろう。カリストの軍船相手なら結構な距離だぞ。


 「戻ってきたぞ。ついでに兵を30程率いてきた。ナリスも坂道の西に50程配置しておるから、この人員で何とかなるじゃろう。」

 アルトさんはそう言うと、俺の隣に腰を下ろす。大鎧を着ているから、座ってた方が楽だと思うけどね。

 リビングから出てきた侍女にお茶を貰って、状況の変化を待つ。

 

 「しかし、退屈でたまらん。カリストは楽しそうじゃが…、ここは待つばかりじゃ。」

 相変わらずだな。八つ当たりされても困るし、ここは1つ適当に攻撃してみるか。


 「ディー、敵の集結はこの2箇所なんだな?」

 「そうです。この陣形を見ますと、後続の約1万は真っ直ぐ北を目指すのではないかと推定します。」

 ひょっとして、この別同部隊は単に北を目指すのではなく、俺達の後ろに回ろうとしているのか?

 もしそうなら…俺達の後方には障害があまり無い。別働隊の最初の侵攻は空堀と柵で苦労するだろうが部隊の損耗には繋がらない。

 敵が進軍に苦労している間に、援軍を呼び寄せる手を考えておいたほうが良いのかもしれないぞ。

 一番簡単な手は、北に部隊が存在すると思わせる事だな。

 これは、アルトさんの退屈しのぎに丁度良いかも知れない。


 「アルトさん。ちょっと北から突いてくれないかな。作戦は…。」

 地図に身を乗り出しながら、アルトさんは真剣な眼差しで聞いていた。

 

 「最初の空堀から無反動砲で攻撃するのじゃな。距離的には十分じゃが、2撃で良いのか?」

 「それで良い。…もし、空堀に向かってくるようなら、投石具で爆裂球を投げてこの抜け道で帰還してくれ。」

 「北に向かったと思わせる訳じゃな。了解じゃ。」

 そう言って席を立つと、ボルスさんのところへ言って何事か話をしている。たぶん無反動砲の持ち出しを話してるに違いない。

 ボルスさんが頷くと、たちまちテラスから走って行った。


 「手前ではなく奥を叩くんですか?」

 俺の所にボルスさんがやって来て質問してきた。

 「あぁ、ちょっと西の部隊が2つに分かれてるのが気になってね。奥の部隊が北上して東に進むと俺達は挟撃される。北に部隊が布陣しているように思わせたい。…それに、意外とアルトさんは気が短いからね。」

 「気分転換を兼ねている訳ですか。敵には迷惑な話ですな。」


 ボルスさんがそう言いながら、テーブルの用意された駄菓子を摘む。

 お茶と一緒に持って来てくれたらしい。思わず俺もつられて食べてみたが、せんべいのような塩味の薄いクッキーって感じだな。


 6km程西の方で行なわれる攻撃だが、はたしてここで診ることが出来るかな…。

 フィールドスコープを覗いていた兵隊に西の奥を注意してみてくれと、とりあえず頼んでおく。

 

 「やはり、今夜でしょうか?」

 「ボルスさんもそう思いますか。…上陸して2日目ですからね。櫂を漕ぐ兵士も十分休めたでしょう。東は少し早まりましたが、陽動と見るべきです。とは言え、西の部隊と連携されると面倒ですから、少し後ろに下げました。

 敵は戦をするのに20M(3km)以上歩かねばなりません。我々はそれをのんびり待つ事になります。」

 「西も似たようなものです。果樹園の石塀から敷地境界の石囲いまでの距離は10M。敵はそこから4M以上離れて砦を作っています。」

 

 ボルスさんがテーブルの席に座ると、俺の見ていた地図を覗き込んだ。

 「確かに、この2つが気になりますね。アルト様の攻撃が上手く行くと良いのですが…。」

 「ここから、エントラムズの作戦本部までは正規軍が移動すると5日は掛かる。約千M(150km)位だと思う。もし、西の奥にいる敵が北上したら、ここまでどれ位で来ると思う?」

 「そうですね。丘を上って、空堀と柵を越えてくるとすれば、早くて4時間。遅くとも6時間で我等の背面を突く事が出来ます。」


 そう言って侍女が運んできたお茶を受取る。

 俺も、軽く侍女に頷く事で礼を告げる。


 「その4時間を5時間にさせたい。正規軍は5日掛かるが、亀兵隊なら5時間で十分だ。疲れた兵士が俺達の背後に回ろうとも、撃退出来るだろう。」

 「それが、アルト様の任務ですか。…たった2檄で敵を欺くという事ですか。」

 「上手く行けば、北上は諦める。もし、北上しても進撃速度は遅くなる。」


 2人で黙ってお茶を飲んでいると、フィールドスコープを覗いていた兵隊がこっちを見て大声を出した。

 「敵陣の奥で火災が発生した模様です。敵の一角で炎が上がっています。」


 立ち上がると西側のテラスに急ぐ。そして、双眼鏡を覗くと確かに火災が発生している。そして、双眼鏡の視野に弾ける火炎が見えた。

 アルトさんの攻撃だな。この後、丘を上って攻撃してくる部隊に、たっぷりと爆裂球を浴びせて帰ってくる筈だ。

 さて、敵はどう出るかな?


 「アキト様。ちょっといらしてください。…どうも敵が混乱しているように見えるんですが。」

 あれ位の攻撃で混乱するのか?

 そんな事を思いながら席を立って、フィールドスコープを覗いてみると…、確かに混乱してる。というか大騒ぎになってるぞ。

 何故だ?あれ位で大騒ぎするような軍隊では、他国を侵略するなど論外だと思うんだが…。

 そして、その原因が判った。大型の獣が暴れだしたらしい。ゾウとサイを見たとアルトさんが言っていたから、たぶんそれだろう。

 ゾウが暴走したら手が付けられないと聞いた事がある。ましてやサイがその辺を駆け回ったら止める手立て等、考えもつかない。

 瓢箪からコマって奴かな…。


前の部隊も見といてくれ、と指示を出してテーブルに戻る。

 「2檄で混乱とは、ちゃんと統率がとれてるんですかね。」

 「いや、統率等吹き飛んでる筈だ。大型獣がさっきの攻撃で暴走したらしい。」

 

 「我等を襲わせる獣に自らが襲われていると…。」

 「そんな形だな。野生の獣だ。扱い難いだろうし、そんな大型の獣を操る経験も獣使いと言えども余り持ち合わせていなかったんだろう。」


 「海岸の西奥で爆裂球が多数炸裂しました。間をおいて再度炸裂しています。」

 観測している兵士が俺達に大声で知らせてくれた。

 

 「アルト様…ですよね。」

 「逃げる前に投石具で投げたんだろうな。300個は投げられたろう。かなりの損害が出ていると思う。」

 さて、アルトさんが帰ってくるのが楽しみだな。

               ・

               ・


 「無反動砲8門を敵のど真ん中に発射したのじゃ。火炎弾は面白いように周りに火を点けるのう。2檄目を少し離れた所に撃ったのじゃが、サイとゾウに火炎が飛んだのじゃ。その後は、狂ったように辺りを駆け回っておったぞ。

 確かに、あの獣は危険じゃ。見ているだけでいったい何人の兵隊が潰され、跳ね飛ばされたか判らん。

 1匹は東に向かい、2匹が西に走っていった。

 とても取り押さえる事など出来ぬようであったが、我等を迎え撃とうと兵隊が丘を上がり始めたので、爆裂球を2度投げて北に走ったぞ。丘からだいぶ離れたところでこっちに帰ってきたから、敵には気付かれなかったと思うぞ。」


 そう言いながら、アルトさんは美味しそうにサレパルを食べている。

 やはり、獣の暴走だった。

 東に向かった獣が何かは判らないけど、殺すしか手は無かったろう。

 どうやって殺したかは判らないが、無反動砲の攻撃よりも、獣の暴走で亡くなった兵隊の方が多いと思う。

 西に向かったゾウ達はもう脅威にはならない。食料の草も無いから、サンドワームの餌になるか飢死にするだけだ。

 

 しかし、ゾウとサイは草食獣だ。力はあるが臆病だというのは本当のようだ。たぶん火炎弾の火を浴びたんだろうけど、それで暴走したというなら、それ程脅威とは言えないんじゃないか?

 ちょっとしたアイデアで無効化出来る様な気がしないでもない。

 まだ、昼過ぎだ。今夜は忙しくなりそうだな。

 

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