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#411 準備完了

 


 アトレイムの王都からやって来たハンターは、予想を超えて40人も来てくれた。

 レベルは黒4つを筆頭に赤8つまでだから心強い。何より、弓を使える者が半数もいるし、魔道師も11人いるのだ。長剣のみと言っている者さえ【アクセル】位は使う事ができる。それに、魔道師の1人が【サフロナ】を使えるのもありがたい限りだ。


 「俺達についてはそんなところだ。とりあえず丘の上に天幕を張っている。」

 「丘の方は屯田兵100人と民兵が100人。それに亀兵隊が30人程度ですから大変ありがたいです。丘の上の陣は指揮を屯田兵の中隊長に任せていますから、何かあれば相談してください。」

 「了解だ。…しかし、その若さで虹色真珠とは恐れ入る。しかも銀6つと言うじゃないか。若い指揮官だとは聞いていたが、安心したよ、」

 グラハムさんはそう言うと侍女が出してくれたお茶を飲んだ。


 壮年にはまだ間があるハンターだ。一緒に来た、ネコ族のエクサスさん、ハーフエルフのメルディナさんの3人でチームを組んでいるらしい。そしてこの3人が王都からのハンター達の面倒を見てくれる。

 

 ディーとアルトさんがリビングに入ってきて俺の隣に座る。

 直ぐに侍女がお茶を運んで、グラハムさん達のカップにも追加して行った。

 

 「アトレイムのハンター達じゃな。遠路ご苦労じゃ。…かなりの激戦になるぞ。その旨、伝えおくが良い。」

 いきなりな話だけど、まぁ嘘ではない。もう少し言い方はあるんじゃないかと思うけどね。

 アルトさんの言葉に3人が驚いたようだ。だが、背中の特徴のある片手剣にエクサスさんが気が付いた。

 「その若さで、亀を操るのか?…亀兵隊は精鋭と聞いているが、このような年端も行かぬ娘がまだ沢山いるのか?」

 その言葉に、メルディナさんまで頷いている。


 「彼女はモスレム国王の妹、アルトさんですよ。剣姫と言った方が分かりやすいかもしれません。」

 俺の言葉にお茶を飲んでいたグラハムさんが吃驚してお茶を吐き出しそうになっている。無理して飲み込んだから、咳き込み始めたぞ。

 「剣姫様のお噂は聞き及んでおります。まさか、この地においでとは…。」

 「まぁ、それは良い。…さっきの話じゃが、亀兵隊は精鋭じゃ。我が鍛えた強襲部隊をこの地に集めておる。そして、もう1つの戦闘工兵はアキトが鍛えた部隊じゃ。テーバイ独立戦、カナトール開放戦とも経験した者達が多数おる。その働きは、戦を楽しみにしておくが良い。」


 「先程、アキトと剣姫様が言いましたね。ひょっとして、テーバイ戦でスマトルの軍勢5千を前に1人で奮闘したと言うアキト様ですか?」

 「そんなに多くはないし、俺1人でもないよ。囮になって敵を近付けたところを周囲の亀兵隊や屯田兵達が攻撃して対処したんだ。」

 メルディナさんの疑問に真相を話しておく。そうしないと話はドンドン大きくなるからね。

 「しかし、大軍を前に立った事は事実。我等が総指揮官として十分に満足できる。」

 グラハムさんの言葉に2人が頷く。


 「それで、毎晩この場で状況の説明をしています。グラハムさんもハンターを代表すると言う立場で出席出来ませんか?」

 「それは、構わないが…良いのか?」

 「問題ありません。結構色んな人が来てますよ。」

 なら、出席させて貰うと俺に告げると、3人のハンターは出て行った。

 

 「40人か…。まだ十分とは言えぬが、これで我慢する事になりそうじゃのう。」

 「陽動部隊が北に向けて進む事を想定して屯田兵の残りの部隊が民兵と一緒です。北に向かう部隊が少なければこちらを応援してくれるでしょう。」

               ・

               ・


 スマトル軍の威力偵察が終了して3ヶ月が過ぎようとしている。

 当初の想定ではとっくに動いている筈なんだが、まだ軍船が出航した連絡は入ってこない。

 屯田兵達は閑にあかせて新たな柵や空堀を作ったり、爆裂球から身を守る避難所なんかを作っていた。

 船大工達は水桶を沢山作ってくれたし、ハンター達も急造の矢を作っていたようだ。

 そして昨日、クロスボーとボルト等を満載した荷車が到着した。

 何とかクロスボーが民兵に行き渡り、ちょっと安心出来る。

 

 そんなある日、リビングでアルトさん達とのんびり地図を眺めていると、突然通信兵がリビングに飛び込んできた。

 「作戦本部より連絡です。スマトルの軍船が出航を開始しました。1030時点で沖合い60M(9km)程の所で集結中とのことです。」

 「いよいよじゃな。だいぶ待たされた気がするぞ。」


 通信兵の言葉を聞いたアルトさんが呟いた。

 「後3日と言うところだろうな。直ぐには来ないと思うよ。」

 「大部隊じゃからな。とは言え、100人の漕ぐ軍船じゃ。明後日には臨戦態勢にせねばなるまい。」

 

 さて、どれだけの軍船がこちらに来るかだな。そして、ゾウとサイを持って来るかも気になるところだ。

 「引き続き、本部の連絡を待っていてくれ。その内、敵の状況を連絡してくる筈だ。」

 俺の傍に立っていた通信兵にそう伝えると、直ぐに別荘の一室に走って行く。


 「やはり全ての軍船が一斉に動いたと思うか?」

 「その可能性は高いね。だいぶ商船を作ったみたいだから、常に両大陸の間を補給船が運航すると思う。それが意味するものは大量の軍勢だ。」

 

 「となれば、輸送船の積荷をどこで陸揚げするのじゃ?…カリストは砂浜で遠浅。そして砦の港は小型の商船が1隻入れるだけじゃ。」

 それは…、どうするんだろう。沖で小船に乗せて陸揚げするのでは多大な労力が必要になる。小船一艘に積める荷物だってたかが知れている。

 俺なら、どうする…。

 

 「何か分かったのか?」

 「あぁ、可能性を考えてみた。奴等、砂浜に港を作る心算だ。強襲用軍船を解体して、沖に向けて1M程度の桟橋を作れば、強襲用軍船なら岸辺に近づける。桟橋は解体して出来た板を砂に打ち込み、その中に砂を入れていけば立派な桟橋だ。」


 「その方法なら工期は3日も必要としないでしょう。でもそれを何処に作るのでしょうか?」

 ディーの質問は、砦からの距離だな。町の方はどう見ても、町に近い場所になる。だが、そこはテラスの上に置く大砲の攻撃範囲だぞ。町から離れた場所だと環礁を作る岩場が邪魔をすることになる。

 そして西は2km以上離れた場所になるだろう。

 亀兵隊の奇襲を避けようとすれば更に離れた場所になる。


 「上陸部隊も中々苦労しそうだな。」

 そう言いながら、おおよその場所を地図に示す。

 「なるほど、苦労しそうじゃな。」

 アルトさんも行った事がある場所だ。水が無い場所で、夏を迎えるのは大変だ。

               ・

               ・


 その夜。主だった者達が別荘のリビングに集まる。

 既に、敵の軍船出発は皆知っているようで、俺の言葉をじっと待っている。


 「いよいよ敵が動いた。やはり予想の通り軍船を3つに分けて対岸を目指している。潮流に乗れば明後日の夕方には沖合いに多数の軍船が浮ぶ筈だ。

 俺達は当初の予定通りに行動する。

 明日は漁に出られる筈だ。その後は何時になるか判らない。獲れるだけ獲ってくれ。

 戦闘工兵は大砲の使い方は分かってるな。無反動砲を4人に持たせて5人1組の班を5つ作れ。3つは砦、丘に1つ、そして別荘に1つだ。別荘の班は敵の情勢に合わせて機動攻撃を行う。

 大砲は7台。砦に4台。テラスに3台だ。テラスに10人、砦に15人の大砲要員を戦闘工兵から出せ。そして、別荘に5人。残った45人は砦で屯田兵の援護だ。

 アルトさんは強襲部隊を率いて砦の北で待機してくれ。

 屯田兵は、1中隊を丘の陣に、残りに4中隊は砦の防壁に。

 民兵の100人は丘の陣、200人は砦だ。

 ハンターは全員、丘に行ってくれ。

 通信兵の配置はこのまま。但し、小型通信機を持った1人は常に俺と一緒だ。

 テラスの監視兵は原隊復帰。大砲の10人をこれに換える。

 配置は以上だが、質問はあるか?」


 「王都から来た、魔道師達は砦の防御で宜しいのでしょうか?」

 「そうしてくれ。ハンター達の魔道師が丘を担当してくれる筈だ。」

 

 「では、現場の指揮だが、現状で良いと思う。砦をボルスさん。丘はサライだ。全体は俺が取る。連絡は別荘の通信兵を通じて行なう。砦内や丘の周辺との通信は発光式通信器を使用すれば良い。先ずは明日に通信の確認を行い、兵全員に非常食を2食分支給。水筒に水は敵が見えてからでも間に合うが、水樽は明日中に準備して置けよ。」


 「ボルトはどれ位支給しますか?」

 「そうだな…。確かボルトケースは12本か。その内2本は爆裂球付きだから、2回戦分で良いだろう。予備のボルトは近場に準備して置けよ。それと、爆裂球は定数を待たせる事だ。これも、予備を現場指揮所の近くに置いておくんだ。矢も同じ考えで良い。」

 

 1人24発分。砦の守備兵は650人だから1万5千本を越える。とりあえず、それで最初の襲撃は要撃出来るだろう。

 「対空クロスボーとバリスタは屯田兵に任せる。敵の半数が上陸してから軍船を狙う。大蝙蝠が集団で来るはずだ。囮の焚火と隠れる場所はちゃんと準備しておけよ。」

 

 「それは、亀兵隊からきつく言われています。対空クロスボー要員意外は隠れる場所がありますし、そこから押し寄せる敵兵を攻撃も出来ます。」

 

 テーバイ戦の様子を教えていたようだ。

 今回もあんな感じでは困るからな。

 「だいたい以上だが、聞きたい事があれば答えるぞ。」

 

 「敵は人間だけか?」

 「いや、獣が混じる筈だ。場合によっては半数が獣となる可能性もある。テーバイ戦ではガトルや鎧ガトル、スカルタが投入された。今回は南の大陸奥地に住む大型の獣が投入される可能性が高い。ゾウとサイだ。…こんな形の奴だが、この獣の大きさは隣に描いてある人大きさで分かると思う。

 どちらも草食で大喰らいだから頭数は多くない筈だ。そして、無視して構わん。これは無反動砲を使って戦闘工兵が狩る。

 無駄矢を使うな。まったくこいつ等には矢やボルトは無力だ。」


 怖気づく奴はいないようだ。後は海を埋め尽くすような軍船を見て驚か無ければ良い。部下は指揮官を見ている。憮然と敵を見詰めていれば安心してくれるだろう。

 それは俺にも言える事だけどね。テーバイ戦の軍船の数を見ていなければ吃驚したかも知れないけど、1度見ていればそれなりに構えていられる。


 次の日。のんびりとテラスから東の町を見る。

 まるで暴風の後のように土台だけ残して家が無くなっている。そして、漁に出ない漁師達が井戸を破壊していた。

 愛着のある井戸だろうが敵に利用されると不味い。ここは涙を飲んで貰おう。

 そして、道を辿って目を向けると数台の荷車が水樽を運んでいる。朝からはこんでいるから結構な数の水樽が丘の上の陣に運ばれた筈だ。

 明日からは砦から運ばねばならないのが面倒だけれど、少なくとも俺達は水を得ることが出来る。


 西に目を向けると、1隻の武装商船が港に入って補給を受けている。沖にいる2隻と共に今日中に補給を受けて遥か西に一時避難するそうだ。

 海軍は遥か遠くのテーバイ王国の女王が指揮しているから、ここより西に避難すると言っても別荘の無線機が届く範囲になる。


 双眼鏡で石塀を見ると要所要所に丸太が石塀に立て掛けてある。20本程が並んでいる所を見ると、あれが避難場所らしい。あれなら上空から投下される爆裂球を防御出来るだろう。そして石垣の隙間から向かってくる敵兵に攻撃を仕掛けるようだ。

 俺達の準備は出来たが他の連中はどうしてるかな?

 

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